第545堀:関係ない そう関係ない
関係ない そう関係ない
Side:ユキ
ヴィリアとスタシア殿下の手合わせは激しさを増していく。
「「……」」
互いに無言で武器を打ち込んでは躱し、防ぎ、斬り返していく。
しかし、決定的な差がある。
それは武器だ。
ヴィリアの武器は槍、スタシア殿下の武器は剣だ。
レンジが違う。
まあ有効範囲、槍だと穂先、剣は刃が付いている部分が致命傷となるので、どっちがどっちというのは腕によるが。
基本的に槍と剣では、槍の方が有利と言われる。
先ほども言ったように槍の方がレンジ、攻撃範囲が広いからだ。
日本では三倍段といわれて、相手の段の3倍の技量がなければ剣で槍に勝つことは難しいと言われている。
それだけ、攻撃範囲が広いというのは大事だったのだ。
それを現状互角に打ち合っているということは、スタシア殿下の剣技がヴィリアの槍術の腕をはるかに上回っているからできる芸当ということだ。
ヴィリアも全力は出してはいないが、身体強化はスタシア殿下と同じぐらいで挑むと、やはり今までの鍛錬や経験の差が出ているというわけだ。
ヴィリアはウィードに来てから槍を学び始めたから、せいぜい2、3年だし当然といえば当然だが、それでもチートと言っていい環境で育てているヴィリアと互角で打ち合うのはものすごい腕前だろう。
が、その打ち合いも永遠に続くわけもなく、お互い隙を狙って急所に打ち込む寸止めで止まる。
ヴィリアは背を見せながら、槍を逆手にもちスタシア殿下の首へ鎌のように押し付け、スタシア殿下はそうやって背中を見せたヴィリアの頭に剣を振り下ろす直前で止まっている。
まあ、見事な相打ちである。
狙ってやったなこれは。
どっちが勝っても角がたつしな。
「「「……」」」
しかし、それを見ていたジョージや使者たちはなぜかポカーンとしている。
そっちが提案してきたんだから、何かコメントを貰わないと、やめって言いづらいんだけど。
そんなことを考えていると、ヴィリアとスタシア殿下の方は互いに満足したのか、武器を引いて、礼をし、握手をしていた。
「物凄い腕前でした。スタシア殿下。槍を持ってここまで迫られ互角に戦われては私の完敗です」
「いえ。ヴィリア殿は魔術を使ってはいなかった。実戦であれば負けていたのは私でしょう。しかも、ヴィリア殿はまだ若い、まだまだ伸びることでしょう。これからが楽しみです」
「ありがとうございます。同じ女性であり騎士でもあるスタシア殿下にそういっていただけて、嬉しいです。これでお兄様を守って見せます」
ヴィリアはスタシア殿下の言葉を嬉しそうに受け入れ、俺の護衛として頑張ると張り切っている。
うーん、ヴィリアとかドレッサ、ヒイロを今回の事件をきっかけに護衛にしたんだけど、俺としては微妙なんだよな。
ほら、引き取った子供みたいなもんだし、学校の先生と生徒の関係でもあるし、なんというか、俺、地球だと変態野郎!! って非難されそうじゃね?
前回のノゴーシュの問題の時に俺たちの秘密を知ったから引き込むことになったけど、そのあとすぐに側近として取り立てることになったからな。
十分な経験というのはあれだが、クアルとかのように近衛兵とかの職を経て俺の側近にきたならともかく、俺の事件に巻き込こまれて、仕方なくというか容赦なく護衛にするしかなかった。
人手が足らないから仕方ないんだが、俺としてはどうも微妙な感じがぬぐえない。
子供が危険な目にというと、アスリンやフィーリアも当てはまるのだが、あの2人は最初からそれを織り込み済みだったしな。
俺の良心がじくじく痛むのだ。
この一件が終わったら、なにかヴィリアたちが喜ぶことをしてあげないとな。
そんなことを考えていると、ヴィリアとスタシア殿下がこちらに歩いてきていた。
「お兄様、残念ながら相打ちとなりました」
「ユキ様。素晴らしい護衛をお持ちですね」
「2人とも素晴らしい技量でした。しかし、使者の方たちは固まったままなんですが、どうしたらいいんですかね?」
「え?」
「……なるほど。ヴィリア殿がここまで動けるとは思っていなかったのでしょう。少々お待ちください」
ああ、ヴィリアの予想外の技量に驚いているわけか。
まあ、あれだけ魔術が使えれば後方で魔術を撃つのがお仕事で、前衛に立つとは思わないよな。
「お前たち!! 実力を見たいと言っておきながら、何を呆けている!! ヴィリア殿の実力に不服だったのか!!」
「「「い、いえ!!」」」
なんかビシバシとやっているな。
そんなことをしているスタシア殿下に代わり、ジョージ殿下がこちらに来る。
「いや、申し訳ない。あまりにも凄い打ち合いだったもので」
「いえいえ。しかし、スタシア殿下も相当訓練されたのですね」
「ええ。女の身で騎士になるというのはこちらでは相当な努力が必要ですから。王女だからと言って、コネで入れるようなものではありません。だからこそ、あのヘルメットの鉄面皮でも未だ表立った文句はないのですが」
それだけ積み重ねをしているということか。
スタシア殿下はこの男尊女卑の価値観の中でかなり頑張っているんだろうな。
だが、ちょっと疑問がある。
「ジョージ殿下。スタシア殿下のヘルメットはわかりますが、なぜ鎧が男性物なのですか? あれでは見た目が女性とは思いませんが?」
「ああ、あれも事件以降ああなったのです。自分が女とみられたから、敵が強硬に出たと言って、男物の鎧をつけて見た目は男のようにしているのです」
「なるほど……」
確かに、あからさまに女騎士だとわかれば侮る人はいるだろうな。
日本の警察でも婦警さんだとなめてかかるやつはいるし、こっちならなおさらだろう。
「しかし、スタシア殿下は四六時中あの格好ですが、鎧を脱いでいることはあるのですか?」
「私は見たことがありませんが、一応、私室で鎧の手入れの時は脱ぐそうです。流石に汗や埃などで汚れますからね。身を清めることはするようです」
そりゃそうか。
お姫様が体を綺麗にしないで、ずっと鎧をつけたままというのはあり得ないか。
「ヘルメットの方も、一応食事の時は外すのですが……。今回は身内、国内ではありませんからね。正直どうなるかわかりません。その時は申し訳ありません」
「いえいえ、気にしないでください。ですが、鎧は食事の時も?」
「鎧は食事の時もつけたままですね。ああ、籠手や手袋は外しますが」
「徹底していますね」
「ええ。それだけ姉上にとってあの事件は傷なのでしょう」
妹を見捨てて逃げて、助けに行ったら助けられず。
ああなっても仕方がないか……。
いや、あれだけで済んでいるだけましか?
ま、俺には関係のない話か。
「では、ジョージ殿。ウィードへ移動を開始したいと思いますので、使者の皆様をまとめてもらえますか?」
「わかりました」
とまあ、ヴィリアの働きによりフィンダールの皆々様は大人しくウィードへと移動を開始することになった。
「しかし、ヴィリア殿。そちらのお2人も同じような腕前で?」
「あ、はい。ドレッサはスタシア殿下と同じように剣。そちらの小さい狼人族のヒイロはちょっと変ですが、タワーシールドをメインとした杖術で戦います」
「スタシア殿下、同じ得物だし機会があれば手合わせしたいわ」
「ヒイロもー」
「こら!! 2人とももっと言葉遣いを!!」
「はは、気にしないでください。私から手合わせはお願いしたいぐらいですから。しかし、ドレッサ殿はともかく、精霊の巫女……ではなく、狼人族でしたか、ヒイロ殿はそんなに小さい体でよくタワーシールドを持てますね」
スタシア殿下の言葉に同意するように、使者の人や護衛の騎士が頷く。
「ヒイロは……、あ、ごめんなさい。わ、わたしは……」
「ヒイロ殿。話しやすい言葉でかまいませんよ。幼子といっては失礼ですが、未だ成長途中であり多くを学んでいるヒイロ殿が完璧になるのはまだまだ後の事、それを理解しておらず不敬などという輩が私の国から出るようなら、……私がその愚か者を斬ります」
そういって、スタシア殿下はバケツヘルメットの表情がわからない状態で振り返り、剣を鳴らす。
マジで脅しているよ、この人。
いや、ウィードと事を構えないためにも必要な措置だろうが、そのバケツヘルムを被ってのその行動は怖いって。
見ろよ。使者や護衛の人たちどころか、迫力におされてジョージ殿下も一緒に頷いている。
唯一苦笑いしているのがジョージンだけだ。
「えっと、じゃ、普通に話すね。ヒイロは見ての通り小さいから、体重が軽いんだー。だから、重さを増やすために……」
「なるほど。タワーシールドをもって体重を増やしているんですね」
「うん。魔術で身体能力強化して持ってるんだ。これで、お兄を守れる。でも……」
なぜか、自信満々に説明したのに最後に少しシュンとなるヒイロ。
「なにか問題でも?」
「えーと、お兄はあんまりヒイロたちが戦うのは好きじゃないみたい。だからヒイロは少し悩んでる。お兄の気持ちはわかる。私たちを大事にしてくれているから戦わせたくない。でも、ヒイロはお兄の為に頑張りたい。側で守りたい。けど、お兄は困った顔をする」
……ヒイロも俺の気持ちはわかっているのか。
分からないわけないか。
それなりに一緒にいるんだし、子供はよく遊びよく学べと、面倒は大人に任せろって。
「……なるほど。なかなか難しい問題ですね。ヒイロ殿たちを戦わせたくないユキ様のお気持ちも、役に立ちたいというヒイロ殿の気持ちもよくわかる。私も女の身で騎士になるのはかなり父上や母上、弟や妹を心配させましたし、私を鍛えてくれたジョージン殿は私の皆を守れる力が欲しいという気持ちを汲んで厳しく鍛えてくれました。幸い才能があったのか、最後には皆の支持を得て、私はこうやって将軍の職を預かっています。それに後悔は……ありません」
ちょっと、ためらったな。
妹の件だろうな。
「ヒイロ殿は結局のところ、自分がどうしたいかというところに尽きるものだと私は思います」
「ヒイロがどうしたいか?」
「そうです。ユキ様の意見もわかります。ヒイロ殿のような子供はいかに才があるとはいえ、健やかに成長するべきだとも思いますが、それは押し付けるようなものではありません。現にユキ様の心配を知っていながらそうやって、ユキ様の護衛として立っているのです。それはヒイロ殿がやりたいと思ったからでは?」
「……うん。ヒイロやヴィリお姉、ドレお姉もお兄の役に立ちたかったから、こうやって一緒にいる。勉強もちゃんと頑張っている」
「……私は今のヒイロ殿でいいと思います。驕ったりせず勤勉でよくユキ様の護衛を務めていると思います。大事なのは、自分で選んだ道ならば、私のように弱くならないように、悲劇が起こっても引きずらずに、前を向いて生きることだと思います」
「……スタシアさま。うん、ヒイロ頑張るよ。でも、スタシアさまは弱くないと思うよ」
「……私は、未だにこの兜を取れずにいます。顔を見せない使者などありえません。私は臆病者なのです」
「そうかなー? でも、ジョージさまも他の皆もスタシアさまをそんな風に思ってないよー?」
「……それはおそらく同情なのでしょう」
「じゃ、ヒイロと一緒に頑張ろう。人はいつでも成長できるってお兄はいってるから、臆病を治せばいいんだよ」
「はは、そうですね。それができるといいですね」
「じゃ、ウィードについたらヒイロが訓練場に案内してあげる」
「それは楽しみです。ヒイロ殿たちのような強者を育て上げる場所は興味があります」
何やら、2人とも仲良くなったのか、手をつないで歩いている。
それを見ていたヴィリアやドレッサ、フィンダールの使者、護衛たちも何も言わずにそれを聞いていた。
「なかなか、雰囲気はよさそうですね。ユキさん」
「そうだな。ヒイロが思ったよりもファインプレーだった」
「おかげで、ピリピリしていたフィンダールの他の方々も穏やかになっていますね。スタシア殿下が心中を吐露してくれたおかげですわね」
そんな風にリーア、サマンサと話していると、横にいたジョージとジョージンが驚いた顔をして、こうつぶやいた。
「姉上が笑った……よな?」
「……ええ。短くはありましたが、笑い声でしたな」
「久々だ。いつ以来だ?」
「……もうかれこれ7年は」
「……そうか、確かに妹とああやっていたな」
そんなことを小耳に挟んで俺は嫌な予感がしてきた。
いや、落ち着け。
フラグを立てたのはヒイロであって俺ではない。
つまり、ヒイロとスタシア殿下が義理の姉妹の契りというオチなわけだ。
俺は関係ない。
そう、これからさらにキャリー姫との感動の再会があるんだし、俺への影響はない!!
はずだ!!
事細かにスタシア殿下との出会いを書いているここ最近。
皆はどうなるかわかるかな?
あ、いやフィンダールとの話し合いの記録だからね?




