第544堀:我が国の基礎戦術
我が国の基礎戦術
Side:ユキ
さてさて、滞りなく、ウィードフィンダール会談は進み。
あとは止めの一発、ウィード訪問を残すのみとなっている。
まあ、その前に、後詰できたさらに数万の兵士を地下に案内しているんだが。
「いやー、外が雨でもここだと濡れる心配がないですからね」
「……本当に、地面の中に空がある」
「どういう技術だ?」
「いや、魔術であろう。ウィードの方々はみな凄腕の魔術師と聞く」
「ここまでの事ができるのか? あの汎用性の高い道具といい、ウィードにはくれぐれも失礼の無いようにと言っていた陛下の言葉の意味が分かったわ」
こんな感じで、使者一同ポカーンとしつつも、冷静に情報分析をし始めるぐらいには優秀らしい。
ここまでの国が安易に戦争なんか起こすわけないから、よっぽどハイデン内部のリラ王国残党は好き勝手やっているんだろうな。
しかしだ、ダンジョン内部でこれだしな。
ゲート技術とか見た暁にはどうなることやら。
今後の驚きようとか通常通りの説明で納得してもらえないだろうなーとか考えていると、ジョージンがこちらに合流してきた。
「ジョージ殿下、スタシア殿下、後詰の軍の移動終わりました」
「ご苦労。ジョージン」
「では、さっそくテントの設営を。雨風にさらされないとはいえ、流石に草の上に寝かせるわけにはいきません」
そういって、スタシア殿下がキビキビと伝令を飛ばして先発軍と同じようにてきぱきとテントを設営する後詰の軍。
しっかり将軍はやっていると、人望もそれなりにあり。
うん。
本当に扱いづらいなこの人。
問題はあのバケツヘルメットだけか。
そんなスタシア殿下の指示を見ていると、ジョージ殿下に話しかける護衛の騎士が何人かいる。
「……ふむ。道理ではあるが、それを体感するとかなりきついものがあるぞ? いいのか?」
「承知の上です」
「わかっているとは思うがくれぐれも……」
「はっ。間違ってもウィードの方々を害することは御座いません。技術力、魔術力ともに群を抜いているのは私にも理解できます。ですが、ここの兵士の力を測るように陛下から言われております故」
「父上、陛下からか……。わかった。仕事でもあるなら私が止める理由もない。話してみよう」
「ありがとうございます」
話を終えたのか、ジョージ殿下は護衛の騎士を伴ってこちらにくる。
「ユキ様。少しお願いしたいことがございまして」
「お願いですか?」
「はい。この騎士たちは後詰で到着した者たちでありまして、一度、ユキ様の騎士と手合わせをできればと思いまして」
ジョージ殿下は申し訳なさそうに言っている。
まあ、わざわざ相手をしてくれってことだしな。
しかし、後詰の軍はこっちの実力はしらないし、さっきの話から察するに調べてこいという勅命もあるみたいだから、ここで断ると横の騎士さんがこまるわけか。
「まあ、軽い手合わせという感じでいいなら構いませんよ。この後ウィードへの訪問も控えていますし」
「それで構いません。いいなお前たち」
「「「はい」」」
「ということだ。ヴィリア。相手を頼む」
「はい」
「「「え」」」
ヴィリアを呼ぶと驚きの色が隠せない騎士の皆さま方。
当然だよなー。手合わせを願ったんだから、同じ騎士とか、筋骨隆々な兵士を想像するよな。
だが、残念ながらそういう部下は俺の下にはいない。
タイキ君とかエオイドがギリギリ該当するけど、タイキ君はランクスの王なので俺の騎士というわけではない。エオイドも未だ修行中の身でウィード所属ではなくランサー所属だ。
しかも、この2人はアマンダと一緒に公爵の屋敷で待機中でこの場にいないので対応させることはできない。
ということで、今ついてきている、リーア、サマンサ、ヴィリア、ドレッサ、ヒイロの誰かになるわけだが、リーア、サマンサはフィンダールの使者の案内役なので除外。
残るはヴィリア、ドレッサ、ヒイロだが、ヒイロはまず除外。小さすぎるし、相手が侮辱と受け取る可能性が高い。
となると、ヴィリアとドレッサなのだが、こういう礼儀的な手合わせだし、ヴィリアのほうが礼儀正しいし、実力が上で冷静だからヴィリア一択。
ドレッサはいまだに煽られるとすぐに噴火するからな。
とはいえ、見た目は美少女と言った感じで戦闘するようには見えないよな。
槍はもっているけど、あれだ。
俺の横を飾る見た目護衛みたいに見られていたんだろうな。
「驚きかもしれませんが、彼女たちは一応ウィードでそれなりの訓練をしていますので、正規兵と遜色はありません」
「ユキ様の言う通り、彼女たちは強いぞ。決して侮辱しているわけではない。私が保証しよう」
ジョージ殿下もそういってフォローをする。
「そ、そうなのですか。いえ、失礼いたしました。では、あちらの方でかまいませんか?」
「構いません」
そういって、騎士の人とヴィリアが俺たちから離れて、試合のし易い広さがある丘に陣取る。
「では、私が審判を務めよう。試合は二回に分ける。まずは魔術ありの戦闘。次は純粋に体術と武術だけの魔術なしの勝負。両者ともよろしいか?」
「はい」
「わかりました」
「よろしい。では、魔術ありの試合を始めるが、その前にヴィリア殿」
「はい? なんでしょうかジョージ殿下?」
「攻撃魔術だけでなく、翻弄してもらいたい。これは魔術の多彩さを見るのではなく、ウィードの実力を見たいというのもあるのだ。本来の戦い方をしてもらいたい」
「え? ですが、それだと……」
「いえ。ジョージ殿下の言う通り。試合の戦いではなく、実戦を想定した魔術の使用をお願いいたします。次にはちゃんと試合のような魔術なしの勝負もありますから」
「そういうのであれば。全力でやらせてもらいます」
ジョージ殿下はともかく、あの騎士はよくわかっていないよな。
まあ、それをわからせるためのこの手合わせなんだろうが……。
「では、両者とも離れて……。よし、では、はじめ!!」
そう言って、ジョージ殿下が振り上げた腕を振り下ろす。
が、次の瞬間、騎士が眼前から姿を消す。
ドザッ!!
「ガッ!?」
そしてあたりに響く妙な音と、騎士さんと思わしき声。
「「「???」」」
その様子を見ていた使者も騎士も意味が分からないといったようすだが、俺たちウィードのメンバーとアレを実際食らったジョージ殿下は特に慌ててはいない。
その代わりといってはなんだが、仕掛けたヴィリアが追撃していいのかどうしたものかと悩んでいる。
それを察したのかジョージ殿下が口を開く。
「ヴィリア殿。遠慮は無用です。そこからの追撃をお願いします」
「え、でも……」
「恐らくはその追撃で降参するでしょうから」
「……わかりました」
そんな話をして、ヴィリアは即座に周りに炎の球を複数浮かべて、騎士さんがいたところへ炎の球をどんどん撃ち込んでいく。
不思議なことにその炎の球は地面にぶつかって弾けることなく、地面に吸い込まれてから、遅れて爆発音が響いてく。
「まいった!! 降参だ!!」
「それまで!!」
ジョージ殿下の言う通り、炎の球を撃ち込んだ直後騎士の降参の声を上げて試合は終わりを告げる。
「いったい何があったのだ?」
「不思議ならば、皆こちらに来るといい」
ジョージ殿下が許可をだして、使者や護衛騎士の皆さんが試合をしていた丘の上に移動する。
「これは、落とし穴?」
「仕掛けた? いや、しかし最初は普通に立っていたではないか」
そう。
ヴィリアがとった実戦の戦術。
すなわち、平安京エ○リアンの術。
落とし穴最強戦法である。
魔術による、即席の落とし穴を作りそれに敵を嵌める。
そのあと追撃をしてもいいし逃げてもいい、万能戦法である。
「ヴィリア殿。一旦騎士を引き上げてくれないか?」
「はい」
そういわれて、すぐに魔術で地面を押し上げ、落とし穴からエレベーターのように騎士が上がってくる。
「おおっ!?」
「その様子だと怪我はなさそうだな」
「あっ、はっ!! 落とし穴に落ちた際に少し転んだぐらいで、炎の球は壁に当たるだけで、土だらけではありますが、怪我はありません!!」
「そうか、なら引き続き、ヴィリア殿が何をしたかよく見せてもらおう。ヴィリア殿。一気に複数落とし穴を作ることはできますか?」
「はい」
そう請われて、一瞬で目の前の草原にポコポコと落とし穴を十個近く作る。
「次に横に大きい溝のようなものを」
「はい」
幅10メートルはありそうな落とし穴をジョージ殿下の要請でささっと作るヴィリア。
「「「……」」」
そしてそれを見て沈黙する使者や騎士の方々。
「戻してくれて大丈夫です」
「はあ? わかりました」
とりあえずヴィリアは言われるままに落とし穴をささっともとに戻す。
落とし穴を掘っているわけではなく、沈下させているだけなので、上に地面を引き戻せばしっかり草原がそのまま残っているので、地面が露出するようなことはない。
しかし、ヴィリアはあれだけの大穴を作れるか、もっと本格的な工作技術でも教えるか?
そんなことを考えていると、ジョージ殿下が使者や騎士たちに説明を始める。
「いいか。これを大規模にやられて、私たちの軍は一気にこの地下に閉じ込められた。これが実戦だ。丁寧に魔術や矢の撃ち合いに応じてもらえると思うな。これは卑怯ではない。戦いを速やかに終わらせるための見事な方法だと言っていいだろう」
「確かに」
「しかし、このような地面を操る魔術があるとは……」
そう使者さんたちがざわざわと話していると、スタシア殿下は指示を終えたのかこちらに戻ってきていた。
「見事なものですね。この魔術を応用した戦術があれば、いくら数を揃えようと意味がない。いや、むしろ大軍であればあるほど狙いを定められやすく不利になるわけですね」
「はい。その通りです。姉上」
「土の魔術で堀や壁を作ることはやっていましたが、即席で穴を大量に作り進軍を阻むというのは考えたことが無かったですね。まあ、このような大規模な芸当ができる魔力がある魔術師など一握り程度ですが」
「これは予算を組んで、専門の土魔術部隊を設立してはどうでしょう? そうすれば落とし穴に落ちた自軍の救出としても使えるはずです」
「ふむ。そうだな。帰ったら陛下に進言してみよう」
すぐに戦い方の有用性を理解できるスタシア殿下すげー。
まあ、本人が言っての通り、それなりの魔力がある魔術師がいるからこそできる戦法。
地球じゃ、穴掘りを自分でしないといけないからまず無理。
爆弾とかで大穴空けるとかはできるが、それなら敵の軍に撃ち込んだ方がいいしな。
そんなことを考えていると、なぜかスタシア殿下が腰の剣を引き抜く。
「姉上? 何を?」
「まだそちらのヴィリア殿との手合わせは終わっていないのでしょう? 次は魔術なしの勝負と聞きます。同じ女である私が出た方がいいでしょう」
「そう、ですね。同じ女性の方がやりやすいでしょう」
「ええ!? お、王女殿下がお相手ですか!? お兄様!?」
暗に、男が魔術なしのヴィリアに負けると色々まずいだろうと言っているのだろう。
それをジョージ殿下も察したのか、すぐに許可をだす。
ヴィリアは逆に驚いている。
仕方がない、奥の手を使ってヴィリアを落ち着かせるか。
「ヴィリア、大丈夫だ」
「で、でも……」
「ヴィリアもよくやっているだろう? セラリアとの稽古。あんな感じでいい」
うちの女王陛下はバトルジャンキーなんで、趣味でヴィリアやヒイロとか学校に顔をだしては百人組手みたいなのやってるんだよな。
なぜか、評判なのが不思議でたまらん。
学校の生徒たちはマゾなのか?
「え? で、でも……」
「ヴィリア殿、遠慮はいらない。幸い訓練用の武器だから、大けがをする心配も少ないだろう。安心して試合を楽しもう。身分など気にせず、来てもらっていい。いや、身に付けた技術を全力で披露することが私、スタシアにとっての最大限の礼儀だと思ってくれ」
「そういうのであれば……」
スタシア殿下の言葉に思うことがあったのか、いや、セラリアと同じセリフな気がする。
『いい。戦いの場に置いて身分などなにも役に立たないわ。あるのはただ己の身に付けた技術だけよ。全力できなさい』
何を言ってんだよ。と思っていたが、ヴィリアが集中し始めたから、特訓の成果ありなのか?
なんかすげーセラリアに言いたくない。
喜んで今後指導をしていきそうだ。
そんなことを考えていると、スタシア殿下はヴィリアから発せられる本気の度合いをみて、剣を構える。
ヘルメットで表情はわからないのに、全身から出てくる威圧感は半端ない。
この人本当に中身王女様か?
ジョージ殿下もその気迫にあてられて、少し退いているが、今更中止とも言えず……。
「……では、お互い全力を尽くすように。はじめっ!!」
そういった瞬間、ヴィリアもスタシア殿下も一瞬でお互いに近づいて、壮絶な打ち合いが始まった。
「ねえ、ユキ。なんか熱苦しいんだけど」
「じゃ、お前止めて来いよ」
「え、いやよ。ヴィリアに絶対怒られるわ」
でしょうな。
そのあと、さらにセラリアからのお説教もつきそうだ。
シンプルイズベスト
ダンジョン戦術は落とし穴に始まり落とし穴に終わる
というか、落とし穴ほど単純かつ効果的な戦法はない




