落とし穴94堀:知らないのか? 物理は無効だ
知らないのか? 物理は無効だ
Side:セラリア
晩御飯に呼んだルナをいきなり簀巻きに縛り上げたと思ったら、なかなか面白いことになっているじゃない。
この前の夏に夫たちが作ったお化け屋敷が大改装されて、学校をもとにさらに大きくなっていた。
更に、ルナ曰く。
『日本の幽霊妖怪をかき集めてきた』
というじゃない。
日本特有の魔物ともいうべきものを見るいい機会だ。
しかも、安全面は確保されていて、恐怖による気絶か、事故による負傷ぐらいしか戦線離脱しないので、これでクリアできない方が可笑しいんじゃないかしら?
前に、心霊特集とかで不気味な姿の幽霊とかは見たけど、別に害がないなら問題ないじゃない。
ルナの言う通り、一種のアミューズメントよ。
なぜか夫たちは顔をしかめているけど。
まあ、夫の言うように、バジリスクのような目を合わせたら石化するとかは困るけど、そういうのは居ないんだから、気軽にやって、楽しめばいいのよ。
日本の魔物の協力も得られればウィードの更なる増強もできそうだし、ルナの勝手な行動もそこまで咎めなくてもいいんじゃないかしら?
そもそも、上級神なんだし、これは神の恩寵とかいうものじゃない?
とりあえず、そこはいいとして、今はこの廃校の探索、肝試しをしようということになった。
時間が経たないという特典付きだし、ここ数か月は忙しかったからこういう娯楽は欲しい。
なので、私たちは特に反対することなく、この肝試しに参加することになった。
「じゃ、一番に入るのは……」
「私たちが行くわ」
「おー、セラリアとエリス、ラッツね。まあ、あのメンバーなら安定ね。じゃ、あの玄関から入って。ドアを閉じたら開始よ。頑張って。うひゃひゃひゃ……」
きっと私たちが怖がるのが楽しみなのだろうが、たかが怖いだけで気絶するわけないわよ。
まあ、ルナの楽しみを否定する気もないので言葉にはしないが、期待には応えられそうにないわね。
「行くわよ。2人とも」
「はい」
「いつでもいいですよー」
エリスとラッツに声をかけて、私たちは廃校のドアを開け、中に入る。
中は廃校というだけあって、ウィードにある学校と違い、放置されてかなりの時間が経っているとわかるほど荒れていた。
玄関は蜘蛛の巣が張り、床は埃で白くなっている。
観葉植物だったものは枯れて茶色でしおれて倒れている。
「人がいなくなって随分経っているような感じね」
「ええ。汚いですね」
「これは、改善の余地ありですかね? 肝試しの後はお風呂必須とか面倒……でもないか? これを利用して、お風呂を併設すればそこで儲かるのでは?」
「ラッツ。今はそういう商売関係はなしよ」
「おお、すみません。まずはこの学校からの脱出でしたね」
「じゃ、どこからいく?」
エリスはお仕事モードが抜けたのか敬語ではなく家での砕けた話し方になる。
夫相手には未だに敬語に近いから、ちょっと夫は難しそうな顔をしてるわよね。
エリスの長所でもあり短所でもある感じよね。
ラッツは敬語がデフォルトみたいで、間延びした感じだからラッツ独特の喋り方なのよね。
あれはあれでかわいらしい感じがするから、私もなにか考えるべきかしら?
と、私もラッツのことは言えないわね。
今はどこに向かうか……。
「とりあえず……、鍵がありそうな場所。職員室じゃないかしら?」
「なるほど。職員室ならありそうね」
「じゃ、職員室にいきましょー」
そういうことで、足を進めると、玄関の行き当たりの壁の掲示板に地図が貼り付けてあった。
「一つ一つ部屋を確認する手間が省けたわね」
「まあ、学校ですから。こういう案内の地図は要りますよねー」
「えーっと、職員室は一階のここから右側すぐの部屋ね」
「近いわね」
「いや、どこの学校もそんなもんでしょう。来客を迎えるのは先生たちなんですから、近くに職員室がないと対応できませんよ」
「でも、鍵はこんなに近くにおいてそうにありませんね」
エリスの言う通り、肝試しのクリア条件である玄関の鍵がこんな近くにあるわけがない。
となると無駄骨になるわけなんだけど……。
「とりあえず、職員室を確認してみましょう。なにかヒントぐらいは置いてあるでしょう。肝試しなんだし、脱出を前提に作ったんだから」
「それもそうですねー」
「丁寧に、地図もすぐ目の前にあったんだし、ありそうね」
ということで、予定の変更なくすぐ右隣の職員室へと足を進める。
「というか、部屋の前に札が出てるわね」
ドアの上に「職員室」と書かれたプレートが飛び出ていた。
「あれですね。庁舎や学校と同じですねー」
「ユキさんの所の建造物だから、こういうわかりやすい作りは一緒なんだと思うわ」
「几帳面よね。わかりやすくてありがたいけど……」
そういって、私は一旦足を止める。
「どうしたんですか?」
「なにかあったの?」
「いえ、学校って言うのは、ウィードで経験してるけど、なんというか、こう人がいないのは寂しいというか、不気味ね」
私の見た先には、誰一人いない廊下が奥へと続いているだけ。
私が知っている学校とは全くちがう。
子供たちの声が響いていたり、授業の声も聞こえてこない。
だれもいない。
廃校なのだから当然なのだけれど、私の知っている学校とかけ離れていて、その違和感が不気味に思えてくる。
「そうですね。夜間も夜間でウィードの学校は大人が勉強しにきますからねー」
「確かに、ここまで誰もいない学校というのは、セラリアの言う通り、寂しく、不気味に感じるわね」
そう話す声が廊下に響いて飲み込まれていく。
……誰かの騒音にかき消されることもない、この廃校には私たちだけしかいないということがひしひしと伝わってくる。
「でも、お化けとか妖怪がいるはずなのに、何も気配を感じないわね」
私はそう言いながら職員室のスライドドアを開けると、そこには……。
『……』
ドアのすぐ前に髪を振り乱した女性が立っていた。
前髪の隙間からわずかに覗いた精気のない瞳と目が合う。
その瞬間、ぞわりと全身の毛が逆立ち、咄嗟にドアから飛び退く。
「え? 一体どうしたんですか?」
「なにかいたの?」
「……ドアのすぐ向こうに人が」
「誰もいませんよ?」
「気配も感じないですし、気のせいじゃない?」
2人はそういって、半端に開いたドアを今度は完全に開き、中を見ているがどうやら誰もいないらしく、首を傾げている。
「……そうね。気のせい、よね」
「まあ、お兄さんの故郷の幽霊とか妖怪なら、私たちが気配を感じ取れるかはわかりませんけど」
「別に驚かすだけで、害はないから、あんまり気にしなくていいんじゃない?」
「……とりあえず、何かないか探しましょう」
そう。
エリスの言う通り、驚かすだけのはず。
ルナもそう言っていた。
だけど、あの目はなんとかいうか、身の危険を感じた。
いや、落ち着こう。
あれは気のせい。
今は、脱出のための何かヒントを探すのが先。
ほとんどの机の上は綺麗に片付けられていて、たまにわざと置いて行ったのか、教科書が置いてあるだけだ。
「机の上にはめぼしいものはないわね。じゃ、次は机の中か」
そういって、引き出しに手を伸ばす。
特に変哲もない引き出し。
細長い、筆記用具、書類や小物を入れるのがせいぜいの引き出しを開けると……。
『……』
先ほどドアの前に立っていた髪を振り乱した女性の首がなぜか入っていて、しっかりと私を見つめていた。
バンッ!!
咄嗟に引き出しを閉める。
「どうしたんですか?」
「なにかあったの?」
同じ室内にいるのだから、私が引き出しを思いっきり閉めた音は、ラッツとエリスに聞こえていて、集まってくる。
「……さっきドアで見た女の首がこの引き出しの中に」
「はい?」
「え? でも、セラリアが手をかけている引き出しは人の首が入るようなサイズじゃないけど?」
エリスの言う通り、確かに私が明けた引き出しは底が10cmそこらで、首など到底入るようなものではない。
だけど、私は見たとしか言いようがない。
「うーん。セラリアが嘘を言ってるようには見えませんね」
「とりあえず、また開けてみない? セラリアだけに見えてるってこともあるし、その女性がなにかヒントの為にやっているかもしれないわ」
「……その可能性はあるわね」
調べないといけないのは変わりないし、深呼吸をしたあと再び引き出しを開ける。
「……首は入っていませんね」
「……そうね」
2人の反応の通り、意を決して開けた引き出しの中には当然首は入っていなかった。
やっぱり私の気のせい?
でも、あんな女性は見たこともないし……。
「ん? これ鍵じゃないですか?」
そういってラッツは引き出しの隅に鈍く光る鍵を取り出す。
幸いになんの鍵かを示す名札キーホルダーもついている。
「図書室の鍵ね。ここに行けということかしら? うーん。でもこうヒントが出てくると、やっぱりセラリアだけに見えている何かがいるってことかしら?」
「……私だけ狙い撃ちってこと?」
「理由はわかりませんけど、まあセラリアが見たのが本当ならそうでしょうねー」
「あれじゃない? 私たちのチームじゃリーダーだし、リーダーにヒントを与えているんじゃない?」
「ありそうですねー。でも、セラリアだけじゃ私たちは肝試しになってませんよ?」
「まだ最初だし、まずはセラリアってことじゃない? あとから私たちもあるかも」
「なるほどー。その時を楽しみにしましょう」
楽しそうな2人には悪いけど言わせてもらいましょう。
「……2人とも、あんまり心臓にいいものではないわよ? 不意打ち窮まりないから」
本当に心臓によくない。
襲ってくるなら退治するだけだが、ただ現れるだけというのがここまでくるものだとは思わなかった。
しかも、他の人には見えないんじゃ、私が一人で騒いでいるだけ。
……やってくれるじゃない。
次はぶっ飛ばして、捕獲してあげるわ。
私は自分が狙い撃ちされているということに関して、恐怖と同時にイライラも募らせていて、武器の確保に走ることにした。
とりあえず、職員室の隅にある掃除道具箱にあるであろうほうきかモップを確保しよう。
「セラリアなにを?」
「とりあえず武器よ。今度私の前に出てきたらぶっ飛ばしてやるわ。そのあと尋問よ」
「あはは、相手は脅かしてるだけなんだし、穏便に……」
エリスの穏便には却下。
武器がないと安心できないし、相手を捕まえて尋問すればクリアは早いはずだから、問題なし。
そう決めて、私は掃除道具箱を勢いよく開ける。
ドサッ。 ゴロゴロ……。
そんな音と立てて、掃除道具箱から、何かが出てきて倒れた。
いや、先ほどみた女性だった。
私はとっさに飛び退き、女性の方は倒れた瞬間に首と胴が分かれたようで、後ろにいたラッツとエリスの方へ首が転がっていき。
「ちょっ!? く、首が!? 首が!?」
「落ち着いてください。ラッツただの首で……」
そこでエリスの言葉は止まり、私も啞然としていた。
だって、その首が空中に浮き始めたのだ。
「セラリア後ろ後ろ!!」
「後ろ?」
ラッツに言われて後ろを見ると、首を無くした胴体も立ち上がって、私に向かって進んできていた。
「デュラハンの一種?」
「エリスはなんでそんなに冷静なんですか!?」
エリスは冷静みたいだけど、ラッツと私は心の余裕がなくなってきている。
まずは、こっちに向かってくる体の方をどうにか躱して、掃除道具箱からモップを確保する。
「ほら、セラリアがモップを確保したし。もう終わりでしょう?」
「ああ、なるほど。セラリアファイトー!!」
「ええ。やってやるわよ!! さっきからよくも私を脅かしてくれたわね!!」
武器を確保したのだから、ここからは私の番よ!!
モップを振り上げ……。
「あれ?」
振り下ろしたのだが、いつものような威力はない。
そうだ。強度の魔力やスキル封印がされているから、いつもの力は出ない。
が、今まで鍛錬してきたのだから、それでもそれなりの鋭さをもって、首なしの胴体にモップが炸裂……することなく、通り過ぎる。
「え!? うそ!?」
距離を見誤った?
そんな馬鹿な。
即席の獲物とは言え、間合いを見誤るなんてありえない。
ええい、もう一度やればいいのよ、もう一度!!
しかし何度も振るが当たることはなく、首なし胴体はこちらに何事もなかったかのように近づいてくる。
「ぎゃー!? エリス、首!? 首がー!?」
「な、なんで、本が当たらないの!? 透過してる!? なんで!?」
ラッツとエリスも机にあった教科書の背や丸めて武器にして首と対峙しているのだが、当たっても通り抜けて効果を成さない。
つまり、現状退治のしようがない。
命の危険がないとはいえ、あんな恨めしい顔を見せられるとそうも言ってられない。
……くそー。ここで取るべき手段は一つ。
「2人とも、鍵は取ったんだし、脱出するわよ!!」
「え? あ、はいっ!!」
「そ、そうですね!! 相手をする必要はないんですから!!」
これが、私たちと女性霊との攻防の始まりであった……。
なにもできぬ恐怖を味わうといい。
それがジャポンクオリティー




