落とし穴95堀:繰り返される悲劇
繰り返される悲劇
Side:コメット
私たちは本日、どこぞの駄目神が勝手に魔改造した、リアルお化け屋敷に体験モニターとして入ったはずなのだけど……。
「きぉつけぇ!! 所属と氏名、階級を答えよ!!」
『はっ!! 大日本帝国陸軍!! ソロモン諸島方面第17軍6師団歩兵第13連隊第4小隊所属!! 山本五郎伍長であります!!』
なにやら、お化け屋敷に相応しくない状況になっていた。
「あのー、タイゾウさん? ちょっと厳しいのでは?」
「そのようなことはありません。誉れ高き日本軍の兵士が、まさか人々を怖がらせ糧を得ようなどと、あってはならないことです。山本伍長!! そうだな!!」
『はっ!! そのようなことは決していたしません!! 大尉殿!!』
「指揮官不在の緊急事態につき、私が臨時の指揮を執る!!」
『はっ!!』
とまあ、なぜかタイゾウさんは廃校に出てきた旧日本軍の兵士の霊を手なずけているし……。
「花子ちゃん。何して遊ぶ?」
「なにして遊ぶのです?」
『えーっと……、サッカー、やってみたいな……』
「運動場は使えないから、体育館にいこう」
「ごーなのです!!」
『あ、ちょ、ちょっと、まって……』
ちびっこ2人は花子とかいう、おかっぱの女の子の霊を連れて遊びに行ってしまうし……。
「……お前ら、この場所で静かに暮らしたいなら、あの駄目神でなく、俺と交渉した方がいいと思わないか?」
『ガクガク……!!』
「あのー、ユキさん。流石に人体模型とか骨格標本が可哀想なんですけど……」
「じゃ、タイキ君が責任もってルナのお遊びに付き合うか? ここでは時間が経たないとはいえ、精神的疲労は避けられないが?」
「よし。お前ら消滅したくなかったら俺たちに逆らうんじゃねーよ? おい、そこの首つり男子学生、こっち見ろや!! このお札わかるか? 酒呑童子様自作のお札だ? 燃え尽きて極楽に行きたいか? ああ?」
『ひぃぃぃ、すみません!!』
ユキ君とタイキ君に至っては、お化けや妖怪たちを脅していた。
これではどちらが肝試しに来たのかわかりゃしない。
「……いったいどうしてこうなったんでしょうね」
横で同じ惨状を見るザーギスが呟く。
「いや、いつものルナさんがやっちゃったのが原因だろうね」
そう原因はどう考えても、あの女神さま。
「……間接的な原因は女王陛下たちにありそうですが」
「まあ、そうだけど。やっぱり手落ちはルナさんだろう?」
「そうですね……はぁ」
ザーギスが同意を示して、深いため息を吐く。
そして、あの時のことを思い出す。
なぜ、このようなことになった、原因を……。
それは、一番最初に廃校へ肝試しに入ったセラリアたちが帰ってきたのがきっかけだった。
まあ、私たちからすれば、入ってすぐに出てきたのだが、その状態がすごかった。
本当にすごかった。
たった今「お化けなんて退治してやるわ!!」と豪語していたセラリアとその言葉を苦笑いして聞いていたエリス、ラッツが、物凄い状態で出てきたのだ。
まず目を引いたのがその恰好。
セラリアやエリス、ラッツはウィードのトップとその重臣であり、身だしなみには常に気を遣う。
これは戦闘でも変わらず、イフ大陸での戦闘も、服の乱れ一つ無くこなしていたのだけど、出てきた彼女たちは髪はぼさぼさ、シャツは出てる、おへそが見えてるはの無残な姿。
更に、顔は鬼気迫る表情で、息を荒げて、肩で息をしていた。
あ、だけど、恰好ってだけで傷などは一切なかったよ。
そこはちゃんとルナさんは約束を守ったらしい。
まあ、それだけで終われば、お化け屋敷で驚いたんだー。ってことで終わったんだけど、セラリアたちが戻ってきた直後に、廃校から爆音が響いた。
ドンガラガラガッシャーン!!
廃校内部をかき回したような大爆音。
みんな驚いて肩をすくめ、廃校を見上げる。
それと同時に、一緒にいたルナも大声を上げる。
「ああーーー!? セラリア、あんたたち何やってるのよーーー!?」
何やら、コール画面のようなものを見て騒いでいる。
いや、あれはそこ掘れわんわんか。
しかし、怒鳴られたセラリアたちはルナにいいさわやかな笑顔で……。
「何って、襲ってきた奴らを退治するために、廃校内部の使えるものすべて使ったわよ」
「それでかー!? 備品のほとんどが損壊しているーーー!? 程度ってものを考えなさいよ!?」
なるほど。
だからセラリアたちが戻ってきた瞬間に、時間停止中にぶっ壊したはずの物の時間が進んで一気に壊れて爆音が学校中に響いたわけだ。
リアルポルターガイストってやつだね。
「す、すみません。あまりにも緊急事態だったので」
「え、ええ。マジで殺されるとおもいましたので、抵抗させてもらいましたよ」
「ルナが悪いわよ。備品を壊してはいけないなんてルールはなかったんだし」
「ふつー、お化け屋敷で物こわすかー!! 遊園地出入り禁止よ!!」
ああ、なるほど。
セラリアたちというか私たち、アロウリト人の感覚からすれば、娯楽というものの認識がほぼ皆無なわけだ。
だから、全力で暴れた。
いや、これは地球でも言えることか、ホラーなど驚かす類のものを提供する際は、あらかじめ注意事項を伝えるし、不意な混乱が起こらないためにも、一方通行などの措置が取られている。
お化け屋敷などは基本一本道であり、配置物との距離は置かれ、参加者が無暗に触ることはないように配慮されている。
そうしなければ、エキストラ、つまりお化け役で仕事をしている人たちの危険もあるからだ。
ルナは本格的なーと言って作ったはいいが、そういうところを配慮してなかったわけだ。
学校を全探索とか、そりゃー、ルールをしっかりしてないと、日本人でもああなる。
しかも、脱出条件がカギを見つけるかギブアップ宣言だけだから。
一応、動けなくなったら、お化けたちが助けるとか言ってるけど、そりゃ逆効果。
いやー、予習復習って大事だね。日本の勉強しててよかったよ。
何が役に立つかわからないね。
そんなことを考えていると、ユキ君がルナさんに話しかける。
「なあ。ルナ」
「なによ!? いま修繕でクソ忙しんだけど!! あー、モップがほぼ全損!? 新品入れるわけにもいかないし、中古品のモップって逆に仕入れるの大変なのよ!?」
「そりゃそうだろうが、そこはいいとして、お化け共にエキストラの仕事はどう伝えているんだ?」
「仕事? 脅かすしかないでしょう? 何言ってるのよ?」
「……程度とか制限は決めてないのか?」
「殺さない、危害を加えないって決めてるじゃない」
「それだけか!? せめて巡回ルート決めて、お化けたちの出現範囲を設定して、安全地帯の設置とかしろよ!! ずっと追いかけられたら、誰でもパ二くるわ!!」
「あー、そういわればそうね。セラリアたちが暴れて、落ち着かせようと、多人数で押し寄せたけど駄目だったって連絡がきてるわ」
「逆効果だ。それは」
攻撃が一切通じない、お化けが集団でこちらに迫ってきたら、誰だって死ぬ気で逃げて暴れるわ。
私だってそうする。
「ふむー。改善の余地ありかー。はぁー」
「とりあえず。名簿をよこせ。面談するから。一応俺の敷地だからな」
「あんたに素直に渡すのは癪にさわるのよねー」
「お前なー……」
ルナさんらしいというか、頼むからおとなしく渡して、ユキ君も流石にキレると思うよ?
が、そんなことは無視して、ルナさんは何かを思いついたのか笑顔になる。
「よし!! もうどうせ備品は壊れているし、このまま面談にしましょう!!」
「は? 今からこっちに呼び出すのか? 時間がないぞ?」
「何を言ってるのよ。中で面談すれば時間は経たない。そして、内情視察もできる。エキストラ指導も、至れりつくせり!! まあ、ユキが捕縛する必要があるけどね」
「はぁ!? 鬼ごっこなんてしないぞ!?」
「そりゃー雇用主として認められたいのなら、それぐらいできないとねー!! まあ、温情として、みんなまとめて送ってあげるわよ。あ、流石にセラリアたちは外しておくわ。さらに壊されたらいやだし、ああ、ランダム転移にしてあげるわ」
「ちょ、おまっ!?」
はい!?
みんなまとめて!?
それって……。
「じゃ、存分に楽しんできなさいな」
ということで、私たちはまとめて、廃校へと飛ばされて、チームを組んでいたザーギスと一緒に探索して、たどり着いたらこの始末だった。
運がいいのか悪いのか、私たちはお化けに遭遇せず、他のチームにお化けが行ったようで、全員が全員、臨時の部下にされてるか、友達になったり、脅されてたりしていた。
「ねえ。ユキ君」
「ああ、コメットにザーギス。無事だったか。そっちは何かでたか?」
「いや、幸いこっちはなにも出ませんでしたよ」
「うん。しかし、なんで君たちはお化けを怖がっていないんだい?」
「いや、仕事だしな。怖がる娯楽を楽しみに来たわけじゃない。しかも、こっちに危害は加えないって制限付きだ。ならさっさと捕まえて、話した方がいいだろう?」
……あー、なるほど。
ユキ君らしい考え方だ。
いや、当然か。
逃げればルナさんの思うつぼだし。
こうやって、捕縛して、脅した方が楽か。
「話はわかったよ。で、お話はできそうなのかい? その、人体模型君や骨格標本君は喋れそうにないけど? というか、ゴーレムかい?」
「ゴーレムとは違うかな? 骸骨はそのままこっちのがいこつ系のアンデッドにちかいだろうが、人体模型は……えーと、お前材料が本物のタイプか?」
ユキ君がそう人体模型君に聞くと、首を縦にガクガク振って肯定する。
「じゃ、こっちもアンデッド系だな。まあ、中身をそのまま剥製にしたようなタイプだ。元があるから魂の名残があって動くタイプだ」
「へー。ヒフィーが作ってた魔剣使い、魔術使いのアンデッド系かー。しかし、この人体模型君はそこまで強そうに見えないね?」
「いや、こいつがどうかはわからんが、人ひとりぐらいは軽々と持ちあげて、素手で殺すぐらいの力はあるって噂だぞ。それで、足りない臓器を集めるっていうのが定番だな」
「ほほう。そういう逸話なんだね。で、人体模型君はそういう臓器を集めるのかい?」
私がそう聞くと、人体模型君は首を横に振って、黒板へ歩いてチョークで書き込む。
『女神様から加護を貰っているのでそういうのは不要です。前は、ただ校内を歩き回るだけでした。僕自身、死後、僕の体を有効利用してくれといったので。特に人に害をなそうという考えはありません』
「はぁー。君は死後もそうやって、人の役に立つことを選んだのか」
『こうやって、異世界とはいえ、普通に人と話せるとは思いませんでしたが』
……あれ? なんかこの人体模型君よりも私って志小さくね?
だって、死んで終わりって思ってたし、ヒフィーに操られていた時も、これはこれで楽って思ってたし……。
なんか、悲しくなってきた。考えるのはよそう。
と、違う違う。
今は面談も兼ねているはずだ。その判断をしないと。
「ユキ君。この人体模型君は大丈夫だと思うけど」
「ああ、俺もそう思う。しかし、あと何人いるんだ? 探すだけでも一苦労しそうだな……」
そうユキ君はぼやいているけど、私はそうは思わなかった。
だって……。
「ユキ君。タイゾウさんの所」
「タイゾウさん?」
そういってユキ君が視線を向けた先には……。
「現時刻を持って当廃校は我らウィードの指揮下に置かれる。住人の安全確保のためにも、全員との面談が必要不可欠である。よって、当廃校の一員であり、日本兵として規律のある山本伍長に任務を与えたい!!」
『はっ!! 何なりと!!』
「まず。野戦任官として、山本伍長の階級を准尉とする」
『はっ!! ありがとうございます!!』
「山本准尉にはこれから、この廃校にいる住人を全員集めてきてもらいたい。先ほども言っての通りそれがここの住人の安全にもつながるからだ。山本准尉の双肩にここの住人の未来が掛かっているといっていいだろう。早急に住人を集めてきたまえ」
『はっ!! 直ちに住人を集めてきてます!!』
なんて感じで、すでにタイゾウさんが部下として引き入れ事態の収束に走り始めていた。
「日本兵までいるのかよ……」
「確か、ソロモン方面軍とか言ってたね」
「……あちゃー。ルナの奴、二次大戦での激戦区から引っ張ってきたな。こりゃ、彼の希望とかしっかり聞かないとな」
「なんでまた? 彼もルナさんが連れてきた幽霊だろう?」
「彼の場合はおそらくは徴兵だからな。お国の為に、祖国を離れて異国の地で……ソロモン方面なら病死か餓死、運がよくて戦死だ。成仏できるならそっちの方がいいだろう? わざわざ、異世界でさらにこき使う気にはなれんよ」
「……そうだね」
「あと、タイゾウさんも心がいたいだろうさ。自分よりも若い兵士がいまだに幽霊で存在しているとかな」
確かに走り去っていく日本兵を見つめるタイゾウさんの表情も複雑な顔をしている。
「はぁー。しかし、これで掌握の準備は整ったわけだ。いちいちルナのリクエストに応えてやるつもりはないと。でも、この後の報告書とか、ここの運用とかでまた仕事かー……」
……頑張れユキ君。
私にはそれしか言えない!!
こうして、希望者はこのままウィードに住み着き、兵士になったり、お化け屋敷のリアルエキストラとして働くことになり。
そのほかはルナさんの手によって、成仏することになった。
『……あのー、タイキ君かな? 僕は成仏したいんだけど……』
「お前、このままあの世にいっても自殺だし、川原で石積だぞ? せめてこっちで善行積んでからにしない? 幸い幽霊のままでも、計算とかできるだろう?」
『あ、うん。でも、いじめで自殺した俺なんかが……』
「その程度の学力でも手を借りたいからな。ま、馬車馬のごとく働いてもらおうか。もっと世の中知ってからあの世に行け。ついでに、異世界だけど、もっと楽しんで生きてみろよ」
『あはは、死んでるけどね……。ありがとう』
なんかタイキ君の方も、しっかりと勧誘しているみたいだ。
まあー、結果的には人材増えてよかった的な?
ユキ君の後始末が大変なのはいつもの通りってことで。
繰り返されるもんだよ悲劇ってのはさ。
本日ホラー最終回 おつきあいありがとうございました
とまあ、最終的にはギャグにしかならず、誰かの仕事が増えるということはには変わりありません。
こうして、幽霊共の世話も加わるわけです。
ですが、この戦力はあくまでも内部戦力になるので、外に打って出ることはありません。
ウィードの中で色々やると……。まあ、わかるよね?




