第534堀:仕事仕事仕事
仕事仕事仕事
Side:ユキ
お昼に、偶発的に遭遇してルナと会話したことによって、ウィードでの用事が終わった俺は、バイデの方へ戻っていた。
「……本来はウィードの方が自宅なんだけどな」
仕事場に戻るという発想でいいのだろうか?
とりあえず、今のところ、嫁さんたちも生活拠点は俺と一緒にバイデに移してきた。
ウィードで仕事がある嫁さんたちは、バイデからウィードの自宅に戻ってそこからドッペルに乗り換えという面倒な作業をこなしている。
本来であれば防備が堅いウィードに戻るのが正しいのだが、ミリーたち妊婦がいるので、ゲートを使った移動がためらわれるのだ。
しかし、それももうすぐ終わるだろう。
ミリーは今月が予定日だし、トーリ、リエル、カヤは来月。
召喚騒動から、まだ俺たちは半月ぐらいだからな。
長い間いるような感じがするが実はそうでもない。
それなら、ミリーたちの子供はすでに生まれているからな。
「今度こそ、落ち着いて嫁さんたちの出産に立ち会うために、すべての仕事は始末したいんだけどなー」
「ん。ミリーたちの子供が生まれるときは付き添う。仕事は片づける」
「そうですわね。私もそうしたいですわ」
そんなことを言うが、現実はそうもいかない。
わざわざウィードからバイデに戻ってきたのは、仕事が山積みだからだ。
お昼時も終わって、再び仕事場は動き出し、経済活動が始まる。
それは、バイデを司る領主も同じである。
特に交易都市であるバイデの行政はかなり忙しい。
幾多の商人たちの納税や、販売許可から、店舗開店の許可、問題の解決など、これをそつなくこなして、商人たち相手に信頼を勝ち得ていたキャサリンの領主としての才能は凄まじいものがあると言っていいだろう。
まあ、そんな信頼や今までの体制を知らない俺たちが口を出しても混乱するだけなので、そういうところは全部まとめてキャサリンに押し付けている。
じゃあ、何が俺の仕事かというと……。
「ジョージン殿、お待たせしました」
「いえいえ。こちらも今来たばかりです」
「しかし、バイデの方の尋問までしてもらって申し訳ない」
「なんの、こちらにとっても利益のある話ですからね」
そう、ジョージンは一昨日の襲撃騒動の主犯である叡智の集の連中に色々尋問をして調べてくれているのだ。
今回の事件ではリラ王国が影に見え隠れしているからな、当事者であった帝国のジョージンを主軸に取り調べをしてもらっているわけだ。
タイキ君たちはカミシロ公爵の所で待機中。
「で、取り調べの結果はどうでしたか」
「あんまり芳しくありませんな。まあ、予想通りといいますか、やはり使い捨て、下っ端のようですな。肝心な部分は何もしりませぬ」
「では、泳がせる方がいいですか」
「ですな。幸い、カミシロ公爵の襲撃も無事に防ぎましたし、こっちの連中にはクレイとかいう奴の剣を放って、王都で裁いてもらうと言ったら顔が青ざめましたからな。あれですな。もみ消せるかと思えば、どっちも失敗しているから言い訳もできないと思ったのでしょうな」
「なんというかお粗末ですね」
「まあ、キャリー姫様から聞いた限り、武闘派の細かいことを考えない連中の仕業ですからな。頭を押さえればどうにでもなると思ったのでしょう。バイデでは姫様にカグラ殿の誘拐、公爵領では公爵の暗殺。どっちかが成功すれば、あとはどうにでもできますからな。身分の低いものの証言など当てにされないと思ったのでしょう」
まあ、よくある話だよな。
バイデの姫さんとカグラの誘拐に成功すればそのまま魔物の配備が一気に進むだろうし、公爵を排除すれば、公爵家を自分たちの側に引き込こめると。
「公爵の方に、クレイとかいう、カグラ殿の婚約者を送ったことから、確実に仕留めたかったのですな。王に直接話ができる人物は邪魔でしかありませんからな。それが失敗したのですから、まあわかりやすい動揺をしておりましたな。だから、逃がせば本命の所へ逃げ込んでくれるでしょう」
そらそうか。
これで、一気にハイデンの王宮内の勢力図が塗り替わる可能性があるわけだ。
ここで叡智の集のトップに話を通さないわけがない。
「よし、今夜あたりから警備を緩くするか」
「ですな」
そういって、一息つく。
お互いコーヒーを飲んでのんびり。
これでようやく落ち着いたかな、と思っているとジョージン殿の話は終わってなかったようで再び口を開く。
「そういえば、バイデで行われる会談の準備はどうですかな?」
「あれは、キャサリンに任せているので、今から状況を確認しようと思っているところですよ。なにせあと2、3日もすれば到着しますからね」
帝国としては大事な話し合いだから、ジョージン殿が気になるのも当然か。
「そうですか、時にユキ様。今回起こったバイデ、カミシロ公爵襲撃の件を帝国側に話すのは私に任せてくれませぬか? ジョージ殿下、スタシア殿下共に、リラ王国の件を話して冷静でいられるか正直わからぬのです」
ああ、そういう話か。
まあ、妹を殺された相手が出てきたとかなると、フィンダールVSハイデンの戦争勃発になりかねないしな。
そうなると、俺の仕事がマッハで増えるから勘弁。
仲裁しようにも、両国潰そうにも面倒だし、それに乗じて叡智の集も動き出すだろうし、面倒なこと極まりない。
「トラブルが起こるのは回避したいので、そこはジョージン殿にお任せします」
「はっ、ありがとうございます。そして、もう一つお願いしたいことがございますが……」
「なんですか?」
「リラ王国の件を話すことになれば、キャリー姫様も交えた方が、話し合いとしては落ち着くと思うのです」
「当事者だったし、仲はよさそうなこといってたし、いいんじゃないですか?」
特に問題があるとは思えないので許可する。
どうせ、ゲート使って、カミシロ公爵の屋敷から引っ張ってくるだけだし。
手間はさほどかからん。
「ご快諾いただけて何よりです。それで、バイデの会談が終わったあとは、良ければ帝国から連れてきた大臣たちも含めてウィードに案内していただけませんか? そうでもしなければ、ウィードのことを信用できる人はなかなかいないでしょう」
「あー、そうかー」
確かに、結局はウィードに力ありというのを知っているのは、矛を交えた現場のジョージ殿下とジョージン、そして、仲間?側だったキャリーとカグラぐらいのものだ。
それらを知らない人から見れば、やっぱり変な集団だよな。
「ウィードが必要以上に警戒されるのを避けたいというお考えはよくわかります。しかし、現場におられたキャリー姫様ですら、ウィードの力についてはカグラの説明でも半信半疑の様子でして、昨日の早朝、私の所まで話を聞きに来た次第なのです」
ですよねー。
俺、お前より超凄いんだぜ!! とか言っても誰も信じないだろうし、その言葉を信ずるにたる証拠が必要なわけだ。
「ま、ゲートですぐに行き来できるってことが、まず発想にないだろうからなー」
「はい。ですので、毎回とはいいません。今回に限り、問題がないと判断していただけるなら、ジョージ殿下、スタシア殿下、キャリー姫様、カミシロ公爵閣下、そして我が帝国の大臣たちをウィードへ案内していただけないでしょうか?」
「それがウィードの為でもあるなー」
いずれ案内するつもりではいたけど、今回が渡りに船って所か。
「今回の会議は、ある意味、ウィードとフィンダール帝国だけでなく、フィンダール帝国とハイデン王国の極秘会議にもなる可能性があるので、開催地は他国であったというのが望ましいという意味もあるのです」
関係険悪国と会議する時の基本だよな。
どっちの国でも互いに身の危険が付きまとうから、ならば別の国で会議をしてしまえばいいじゃないかという発想。
席を用意する国は名誉ではあれ、その会議が無事終了するまでの色々な手配をしないといけないから、非常に面倒なんだけどな。
今回は元々、ウィードとフィンダール帝国の融和会議だし、それをもとに、フィンダール帝国がハイデン王国と会談をするって話だからな。
いや、それを言ったらバイデもすでに実質ウィードの領地なんだけど、まあ、ジョージンの言う通り、ウィードを見せて喧嘩するなよと脅しをかける意味もあるよな。
フィンダール帝国、ハイデン王国にとってもこの秘密会談はありがたいだろうな。
まともに話ができる機会というのは、険悪国相手だとなかなかないからな。
「となると、キャリー姫さんとカミシロ公爵は先にウィードに案内する必要があるか」
帝国の使節団が来たら、そっちにかかりきになる。先に案内しておかないと、物理的に人手が足りない。
「……無理を言いまして申し訳ない」
ジョージン殿は俺がこれからまた仕事地獄になるのを申し訳なく思っているのか、非常に申し訳なさそうな顔をして、頭を下げている。
「と言っても、時間もあまりないか」
さっきも言ったようにもう2、3日で帝国のお偉いさんたちがバイデに到着する。
つまり、その前にハイデンのメンバーをウィードに案内しておく必要がある。
「公爵の所の叡智の集もバイデに移動するから、そのついでにキャリー姫さんとカミシロ公爵にはウィードへ来てもらおう。案内は、カミシロ公爵領で顔を合わせている、ヴィリアとドレッサかなー」
タイキ君とルースはバイデで警備の役目があるし、元々、ランクス王国から派遣って形だしな。
未知の大陸の他国と友好が結べるかもという餌できてるから、ウィードに戻すわけにはいかない。
「それならば、バイデに帝国が到着するまでの間、私もウィードをしる先達として、カミシロ公爵のサポートという形で同行いたしましょうか?」
「ああ、それだとありがたい。となると、カグラもキャリー姫さんのサポートにつけるべきですかね」
「それがよいでしょう。いくら同性とは言え、ヴィリア殿やドレッサ殿はユキ様の直臣でありますからな、今までの経緯があり、ウィードをその目で見た後は委縮するのは目に見えておりますからな。カグラ殿がいればそれも多少は緩和されるでしょう」
親父さんにはジョージンがつくとは言え、カグラは娘だからな。親父さんの話し相手も兼ねるだろうし、あいつもあいつで大変だな。
「さて、決まったなら急がないと、時間がない。今日中にもう移動してもらおう」
「いいのですか? すでにもうすぐ夕方ですぞ?」
「遅らせてもあまり変わらんから、今からやりましょう。ジョージン殿は先に公爵の所にもどって、ウィードへ案内する旨を伝えてください。断るとは思いませんから」
「それはそうでしょうな。で、ユキ様は?」
「こっちは、ウィードのメンバーに連絡を入れて受け入れ準備を整えます。案内がそちらに行くと思いますから案内の人に従ってください。こっちは、キャサリンにあって歓迎準備の確認もありますから、そっちに合流するのは、本日中は無理そうです」
「……私から提案しておいてなんですが、ご無理はあまりなされないように」
「倒れないようには調整してますから、なんとかなりますよ」
そういって、俺とジョージンは分かれて行動を始める。
関係各所に連絡をしながら、キャサリンへ歓迎準備の確認。あー忙しい。
そんな感じで、クリーナ、サマンサも一緒に連絡を忙しくしていると、不意に思い出したように、クリーナが呟く。
「そういえば、ユキ」
「なんだ?」
「カグラに貸したパーカー返してもらった?」
「いや、まだだな」
そんな余裕がなかったからな。
あれから怒涛だったし。
「となると、拙いかもしれませんわね」
「ん。これは拙い」
「何がだよ?」
「ユキ様の香りに包まれているのです、勘違いするかもしれません」
「ん。ユキを好きになってしまう」
「そんなことがあるか」
なんだそのチョロインは。
パーカー貸しただけでそうなるかよ。
「いえ、裸にさせられてそれをかばってもらいましたし……」
「普通、そのさりげない優しさはくるものがある」
「んなアホな」
あのクソ忙しい状況でそんなことになるかよ。
……なるわけないよな?
そんな一抹の不安を抱えつつも、忙しさに追われて忘れるのであった。
そして、ウィードを知らないお姫様の案内と、帝国との会談準備でまだまだ忙しく。
マジでカグラに気を使っている余裕もなし。
いやだよね、仕事が忙しすぎるって。




