第532堀:相変わらずの彼と彼女
相変わらずの彼と彼女
Side:ユキ
さて、溜まりに溜まった仕事もあと一つである程度は落ち着くと思う。
残るのは訪問関係とかで、本人が到着しないとどうしようもないからだ。
「だが、その一つが問題なんだよな」
そう、最後の一つが超問題なのである。
最初から聞かなければいけないことだったのだが、あえて避けていた。
どうせくだらない情報が出てきて、俺たちが更なる仕事に忙殺される羽目になるのは見えているからだ。
だが、放置していても問題になることはわかりきっているので、結局いつかは聞かないといけないジレンマ、矛盾。
そんな心中でいても、足は動きウィードの居住区を進み、目的地の場所へと近づいていく。
しかし、不意に空を見上げてみれば日も高く、時計を見ると昼近く。
こんな時分に行っても飯を集られるだけで、俺が調理か驕る羽目になるので疲れが倍増するのは目に見えている。
なので、踵を返す。
「ん? ユキ、急にどうしたの?」
「そちらは目的地とは別方向ですが? 何か急な連絡でも?」
護衛についてきているクリーナとサマンサが首を傾げている。
何も言ってないのにわかるわけもないよな。
「気が付けばそろそろ昼だ。ザーギスたちの所で思ったより時間を食ったらしい。先にお昼にしよう。今あっちに顔を出しても食事中だったり、外出中だったりしたら二度手間だし、向こうに悪いからな」
「ん。そういわれるとそう。今の時間帯は外すべき」
「そうですわね。では、一旦昼食ですわね。今日はどこにいたしますか?」
「そうだなー。とりあえず、商業区にいこう」
「ん。それがいい。新しいお店ができているかもしれない」
「確かに、新しいお店などは見てみたいですわね」
そういうことで、俺たちは一旦居住区から離れて、商業区へと向かう。
俺たち家族はいつも一緒にご飯を食べているイメージがあるが、実はそうでもない。
最初のころは一緒に三食ご飯を食べていたが、ウィードが発展してきて、嫁さんたちも各々の仕事場ができてからは、基本的にお昼は各々で好きに食べるようになっている。
集まって食べるにも、誰かが準備しないといけないし、お昼の準備となると常時家にいるキルエとサーサリの負担が大きい上に、今では子供の面倒もあるので、最近はキルエとサーサリですら、家での昼食はスーパーのお弁当などで済ませているぐらいである。
まあ、手を抜いているようにみえて、実のところ、ウィードの日常や発展具合に加え、問題が起きていないかを知るための大事なお昼となっている。
こうやって、いろいろな場所に足を延ばすことは、その場所を直で見ることになるからだ。
まあ、クリーナが言ったように、新しいお店などを探して楽しむという一面もなくもない。
というか、今回に限っては俺があれに集られるのが嫌だったからなのだが。
そんなことを考えているうちに、居住区から商業区へのゲートをくぐり、大通りへとでる。
「と、にぎわっているな」
目の前に広がるのは、人、人、人である。
恐らくは、お昼時でこっちに食事をしに来ている人もいるからだろう。
思ったよりも平日の昼でも人が多いらしい。
まあ、ウィードの昼食休憩時間は2時間としているからな。
1時間だと飯を食うのにちょっと遠くまで足を延ばせないし、碌に休憩もできなかった俺の社会人時代の経験からである。
工業区などの仕事場から距離があっても、ゲートによる移動で、移動時間も短縮できるので、現代日本みたいに、近くに飯屋がないという状況にはならない。
そういう理由もあって、この商業区のお昼の賑わいは並みではない。
「お昼時だなー」
「……何度見ても、人が多い」
「そうですわね。ウィードの住人と、観光客が入り乱れている時間帯ですものね」
そう、ウィードの商業区は住人と観光客が混じり合う場所であり、下手をすると、夜よりも日中の方が、人が多かったりする。
仕事が終わると、家でのんびりする人は多いからな。
逆に仕事がなく休みの人は日中に、商業区へと足を運んで娯楽などを楽しむ人もいるので、ピーク時間と言っていいだろう。
「しかし、ここまで人が多いとどこも結構人が入ってるな」
「ゆっくりできそうにない」
「流石に、後ろに人を待たせて食事は遠慮願いたいですわね」
適当に歩いてよさそうなところにと思っていたが、言っての通り、どこも人が入っていて、下手をすると行列ができて待っている人たちも存在する。
よくよく見れば「先日ウィードラジオで放送された!!」とか「ラジオのパーソナリティが絶賛!!」なんて看板が出ている。
ああ、最近はそういう形でラジオをやっているとか言ってたな。
いや、案を出したのは俺だけどさ。
広告になるし、活性化につながると思ったんだが、見るからに、キャパシティオーバーの列ができている。
やりすぎたか。
地球ですら紹介されたお店は当日の混雑は当然なのに、元々そういう大衆に向かっての情報提供という機能がないところでやれば人が集まるのは当然か。
よく見れば、警察の巡回メンバーとは別に、警備強化の為か警察官が立っているのが見える。
ここまで人が多いとトラブルは多そうだからな。
だが、こうなると、クリーナの言う通りゆっくり食事はできそうにないから、いつものように商業区の外れにある実験堂へと向かうことになる。
それでも、昔より知っている人は増えているので、外れの場所にあっても、人はそれなりに入っていた。
「へい。いらっしゃい!! お客様は何名って、大将ですか」
店に入ると、いつもの店長が出迎えてくれる。
この人はウィードの初期のころからいた人で、俺の料理の再現に付き合ってくれた料理仲間である。
その関係で、この実験堂の店長を任せて、料理の試作から、レシピの販売など、後人の料理人が育つように手ほどきなどもやってもらっている。
「おう。しばらく顔を出してなかったな。調子はどうだ?」
「見ての通り、秘密のっていうには、毎日結構な数の人が来るようになりましたね。おかげで、飯屋での赤字はなくなってきましたよ」
「それはいいことなのか悪いことなのかわからんな」
主に、実験堂は料理の再現、開発が目的であって客商売がメインではない。
まあ、それだと食べてくれる人がいないので、客がゼロというのも困るわけだが。
ここはウィード全体の食文化向上場所なのだ。
というわけで、飯屋としては赤字なのが普通なのであったが、最近はそうでもないらしい。
「まあ、そこらへんは微妙ですな。で、今日は何か新しい料理の開発でも?」
「ああ、いや、今日は飯を食いに来ただけ。表の方はすごかったからな」
「昼時ですからね。人も最初の時に比べて倍増どころの話じゃないですし、いや、流石大将が作ったウィードですよ。料理のやりがいがありますわ。ではこちらに」
そういって案内を開始する直前にまたお店のドアが開いてお客が入ってきた。
「へい、いらっしゃい!! て、おお、ルナさんたちじゃないですか。今日もですかい?」
は?
いまなんてった?
すげー俺の聞きたくない単語が聞こえてきた気がするんだが。
「あったりまえよー!! ここのごはんが一番美味しいからね!! まったく、ユキの奴もここを隠しているとかありえないわよねー。ねー、リリシュ、ヒフィー、ノノア」
「えーと、ユキさんはー、隠しているーつもりはーないかとー」
「ですね。ただ単に、いう理由がなかったのでしょう。ここは文字通り料理を実験する場所みたいですし」
「でも、普通に美味しいわよね。今日は何をたべ……」
そこでようやく、大将を挟んだ先の俺たちと視線があう。
「あー!? 無事だったというのに、今まで私の所に顔を出さなかった不届き者の不信者め!!」
「うっさい!! こっちはそれどころじゃなかったんだよ!! というか、そっちから会いにこいよ!! これでどうやって信仰しろっていうんだよ!?」
「あんですってー!? だれが、食っちゃねしてるだけの役立たずですって!?」
「自覚があるんじゃねーか!!」
そんなことを言いながら、お互いのほっぺむにーっと引っ張り合う俺とルナ。
まともに喧嘩をすると、ここら辺が更地になるから、妥協点がこれである。
「えーと、大将、ルナさん。他にお客もいますんで。やめてもらえますかい?」
「「はい。ごめんなさい」」
まあ、俺とルナのお約束でもあるので、すぐにじゃれ合いはやめる。
クリーナもサマンサも、リリーシュ、ヒフィーは慣れたものか、止めもしない。
ノノアだけがおろおろしていたが、すぐに元に戻ったので頭を不思議そうに傾げている。だって、元々は飯を食いに来たのだ。
そっちを優先するのは当然であり、ここに第23次駄女神改心戦争は決着することなく終わることになる。
つまり、いつものこと。予定調和というやつだ。
「じゃ、これとこれとこれね。あ、食後のデザートに……」
そういってジャンジャン注文する駄女神。
どう見ても、女性4人で喰いきれる量ではない。
「お前、それ全部食べろよ」
「あったりまえじゃない。別にお昼の時間だけで食べきる必要なんてないんだしー。晩御飯も兼ねているのよ。喫茶店みたいなもんなんだから」
「ちょっとまて、大将。このバカが言ってるのは本当?」
「まあ、本当ですね。別段騒ぐわけでもなく、毎日来てくれるし、試作の料理の味見はしてくれるんで、別に問題はありませんよ。ここはルナさんたちの専用の一室みたいになってますからねー」
「そうよー。私はここの常連なの。いい、ユキの食事改善のために貢献してやってるんだから感謝しなさいよね」
……なんつー迷惑な駄目神だ。
あれか、ファミレスで何時間もドリンク飲み放題で居座るおばちゃん連中か!?
いや、料理は注文しているからマシなのか?
というか、お昼兼、晩御飯ってどこまで自堕落なんだよお前。
しかし、大将が文句を言っていない以上、俺がとやかくいうのは筋違いだ。
なので、俺は駄目神のことは放っておいて、注文をする。
クリーナもサマンサも注文を終えると、大将が部屋から出て行く。
それを見計らって、ルナが口を開く。
「で、私に何か用?」
「ここで会ったのは偶然だよ」
「ここで会ったのはね。いやー、結局、私に会いたくなったわけじゃない」
「業務上已むに已まれずだよ」
「ふむ。まあいいわ。流石にあの土地に呼び出されるとは思わなかったからね。今回は今日のご飯代で手を打ってあげましょう」
「そっちのミス……でもないからな。はぁ、必要経費か」
「経費って言うのが気に食わないわね。絶世の美女と一緒に食事ができるのに、そこまで嫌そうな顔されると腹が立つわ」
「生憎、絶世の美女っていうのは俺の嫁さんたちのことを言うんだよ。それとも何か、俺と結婚して、美女入りするってことか?」
「冗談はやめてよ。小姑みたいに口うるさい夫とか勘弁よ。まあ、そこはいいとして、あの土地の情報が欲しいわけね」
「そういうこった。つい一昨日にダンジョンコアが見つかったからな。あそこにもルナが手を出していたってのが分かった」
「あらら。まさか500年以上も前の品が残っているとはね。びっくり」
「人工物ってことは考えられないか」
「それはないわねー。ダンジョンコアに書き込まれてる魔術式というかシステムはある種の物質創造システムよ。魔力をあらゆる物質に変換して排出する。神の御業を再現する道具なんだから。って言っても、あんたからすればレプリケーターとかSFの範囲でしょうけどね。ともかく、そういう所から分かると思うけど、現地の人が作れる技術力を大幅に上回っているから、人工物ってのはあり得ないわよ」
確かにな。
ダンジョンコアを自分たちで作り出す技術があれば、すでにこの世界はもっと発展しているか、一大国家が征服していてもおかしくないだろう。
「で、500年前に何があった?」
そう、これが聞きたいことだ。
ルナが干渉をやめた理由とか、ダンジョンマスターはどうなったのかとか、色々あるが、まずはそこからだ。
「そうねー。その前に……」
ルナはそういって部屋の扉に目をやると、大将が入ってくる。
「へい。五目チャーハンと餃子のお客様は……」
「はいはいー!! まずは腹ごしらえよね!!」
とりあえず、ご飯を食べることになった。
知らないのか? 駄目紙からは逃げられない。




