第531堀:諸々の調査結果
諸々の調査結果
Side:ユキ
「お忙しいところすみません」
そういってお茶を出すのはザーギス。
「いや、こっちこそ、新大陸の魔力調査中に新しい仕事を放り込んですまん」
「いえいえ。いい気分転換ですよ。しかしまあ、次から次へと色々見つかるものですね。研究者としては嬉しい限りですが、そちらは大変そうですね」
俺は出されたお茶を啜ってから答える。
「おかげで、右に左に大忙しだな。呪われてるんじゃないかって思うぐらいだ」
「実際、女神に祝福されていますからね。あながち間違いでもないでしょう」
「はぁ、まあ、言っても仕方ないから、本題に移るか」
そういいつつ、研究室を見ると、いつものように小奇麗に整理されている。
ザーギスは定番の散らかし放題の研究者ではなく、ぴっちりと整理整頓を行うタイプの研究者であったらしく、最初のころは驚いたもんだ。
「了解しました。こちらがまとめた報告書になります。目は通されると思いますが、口頭でも説明しておきます」
「頼む」
「ではまず、新大陸における魔力の運用倍率の問題ですが、基本的に5000倍もの負荷がかかるのは、ダンジョンマスターのスキルを行使する時のみだというのがはっきりとわかりました。これはユキ自身がよくわかっていると思います。他の魔術を行使した時の魔力消費量は何ら変化ありません。ロガリ大陸と等倍ですね」
そう。
あの大陸は、ダンジョンマスターのスキルに限り非常に魔力運用効率が悪いのだ。
まあ、山の向こうも同じかはわからんが、とりあえず、バイデからハイデンの一帯は5000倍なのを俺が道中確認している。
しかし、他の魔術行使は特に制限がない。
イフ大陸のように魔力の濃度が低く、20倍もの消費量を要求されるわけでもないのだ。
その証拠に、魔術師自体の数は多く、組織、隊として空飛ぶ部隊が運用されているのも確認ができたし、下手をすると、魔術だけで言えば、ロガリ大陸をも上回っているかもしれない。
「しかし、不思議なことに、現地で精霊の巫女、または戦士と呼ばれている獣人、エルフなどが極端に少ない。いや、絶滅寸前と言っていいでしょう。そして、魔物に至ってはゴブリンやオークなどのある程度意思疎通が可能な種族以外は消え去っていて、魔物という脅威が存在していない」
「そこらへんが不思議なんだよな。何か理由でもわかればな」
「そこはある程度ですが、予想が立てられました。ユキがダンジョンスキルで魔物を召喚しようとして無理だったことがヒントでした」
「どういうことだ? ただのエラーなんてのはないのはわかっているが、あれだけでわかるものか?」
「まあ、ここからは予測ですから、ユキの意見も大事なのですが、ダンジョンの魔物召喚陣と異世界からの召喚、一昨日送られてきたリザードマンの召喚は別物だと私は思っています。というか確信しています。なぜかわかりますか?」
「……別物ね。流石によくわからん」
「これまで簡単にわかってしまったら研究者がいりませんからね。現物をじっくり見たこともないでしょう?」
「そりゃ、忙しかったからな」
「でしょうね。で、話を戻しますと、ダンジョンの魔物召喚陣が異質なのです。厳密には違うもの。正しくいうのであれば、魔物生産陣なのです」
「……ああっ!! そういうことか!!」
ザーギスに言われて、ピンときた。
「つまりだ。魔物の誕生が阻害されているのであって、召喚には制限がかかっていないというわけだ。だから、バイデに作ったダンジョン内で魔物召喚陣を使って魔物を呼び出せなかったわけか。そして、後者の異世界召喚やリザードマンの召喚は文字通り別の場所から引っ張ってきたわけだ」
「理解が早くて助かります。その証拠に、スティーブたちは問題なくゲートで行き来できますし、この現象はある種の召喚と言っても間違いではないでしょう」
「確かにな。しかし言われるまで気が付かなかったな。確かにダンジョンの魔物召喚システムは生産に分類されるはずだ。DPを消費して意図的に魔力だまりを形成して、魔物の発生を行うシステムだからな。召喚というより生産が正しい」
「本来であればそんなことは不可能なのですが、そこは女神様の力と納得しておきましょう。しかし、凡人にはそのようなシステムの構築など不可能ですから、世界のどこかにいる現物を呼び寄せるしかない。だから召喚としてはこちらの方が正しいわけです」
「つまりだ。あの大陸では、魔力だまりから魔物が出現するということが禁じられているから、ダンジョンでの魔物生産ができなかった」
「そして、それの余波を食らったのが獣人やエルフたちなどではないかというのが私の考えですね」
「なるほどなー」
確か、獣人やエルフなどは、魔力によって特定の部位を維持しているってルナが言っていたしな。
それのどこが魔物と認識されるかは知らないが、あの阻害システムに引っかかって極端に数が減ったわけか。
「まあ、今後も要検証ですね。魔物という話題が出たので、一緒に報告させてもらいますが、空気中と言っていいのか大陸の濃度と言っていいのかわかりませんが、それは変わらないので、魔法生物でも大丈夫ではないか? と思い、ダンジョン産の低レベルスライムをバイデに連れて行ってみました。結果……」
「結果?」
「見事に消滅しました。理由は簡単に言うと核の消滅ですね」
「核の消滅? 魔力減衰による消滅ではなく?」
「はい。いえ、厳密には同じなのでしょうが、魔法生物はどれも共通して、その体を維持している核、コア、魔石が存在しています。魔法生物は魔石がなければ生きていけません。魔石に魔力や知識など大事なものがすべて詰まっていますから。ですが、あの大陸に行った途端、核に強烈な負荷がかかって消滅しました。どれもまったく同じ現象です」
「負荷?」
「ええ、魔力減衰というにはちょっと強烈ですね。じわじわと減るのではなく、一気に1000近くの減衰が見られました」
「1000って、スラきちさんでも危なくね?」
「はい。ありえないぐらいの負荷率です。ダンジョンマスターへの負荷が5000倍なのに比べるとまだマシとは言えますが、ほとんどの魔法生物にとっては即死レベルですね」
「なんでまた」
「流石にその理由はわかりませんが、魔物がいなくなった始まりとされる500年前に何か、あったのでしょう。当事者などいないでしょうから、文献を漁って調べるしかないでしょうね。それを解決しない限り、ウィードが誇る魔物軍団は新大陸で生物タイプしか使えません。これで凡そ半分は封じられていますね。ですので、いずれ解決をしないといけない事柄ではあります」
「それが分かっただけでもましか。でも、500年前ねー……」
当事者ならそういえば、カミシロ公爵家の地下にいたな。
あれが全部知っているわけでもないだろうが、あとで聞いてみるか。
そういえば、あれのカテゴライズは何になるんだ?
魔物なら魔法生物枠でもう消滅しているだろうし、やっぱり神様とか言う部類か?
それとも社の中ってそういう結界でもあるのかね?
「ああ、言い忘れていましたが、引き渡されたリザードマンが生産ではなく、本当に召喚されたという事実に気が付いたのは、アスリン殿のおかげですよ」
「アスリンが? って、優秀なモンスターテイマーだったか」
「ええ。私だって流石にそこまで万能ではないので、魔物の姫君にご助力願いました。その尋問の結果、リザードマンがロガリ大陸のリテア聖国近くの獣神の国である湿地帯の所にいたことがわかりました」
「うちの大陸からかよ!?」
「おかげで、私の予測が正しかったという確信が持てたわけです」
「そりゃー、確信が持てるわけだよ。で、なんで呼ばれた連中はあんな奴の言いなりになったんだ? 野生の魔物はあんなに物分かりはよくないぞ?」
自我があるからな。
ダンジョン産の魔物のように自我がほぼない人形みたいなのは、それはそれで初期が面倒なんだけどな。
いや、今でも面倒か。
すぐにさぼりたがるわ、きゅうりばかり生産するわ、わけわからんし。
「そこは、そのクレイという人がもっていたあのコアらしきものに、何か秘密があるのでしょう。申し訳ありませんが、流石に昨日今日であのコアらしきものまで調べることはできず、今朝方、コメットが調べ始めたばかりですよ」
「そりゃ、仕方ないな。ま、おかげで新しい方針が……」
バタンッ!!
そういって立ち上がろうとしたとき、研究室の奥の扉が勢いよく開けられて、コメットが入ってくる。
「やあやあ、ユキ君。今しがたこれを調べ終えたよ」
コメットは自信満々にコアを持ってこちらに近寄ってくる。
目にくまがあることから、おれと同じ徹夜組か。
……というか、リッチのアンデッドの癖になんでくまなんか……?
ん? 何か引っかかったな?
いや、まあいい、今はコアの事だ。
「で、そのコアは本物か?」
「本物だろうね。だが、もうダンジョンコアとしては機能しないだろう。中の術式がまるっと変更されている」
「変更?」
俺がそう聞いている間に、コメットは俺の横に座って、俺が飲んでいたお茶を奪って一気に煽る。
「ぷはー、なんか一昨日から何も飲み食いしてなかったから生き返ったよ。いや、死んでるけど」
「なんで俺のお茶を取るんだよ。リーアやジェシカのでいいだろう?」
「わざわざ後ろで控えている彼女たちのお茶を奪うつもりはないよ。ザーギスも徹夜だしね。それなら昨日ズコバコやって体力全快な君からもらった方が効率的だろう?」
「……どうしてそれを」
というより俺が喰われただけだからな。
いや、あとで仕返しで喰い返したけど。
「いや、昨日一緒に朝風呂したからね。その時サマンサ君やクリーナ君がつやつやだったしね。そこのジェシカ君も、いやー、若いって羨ましいわ。と、そこはいいか。変更についてだけど、私はコアを多少弄って、剣と繋げてDPを直接回収するシステムを作った。ヒフィーは聖剣使いの彼女たちにコアを埋め込んで、機能維持というのを人の体に適応して、老いさせないシステム作り、ダンジョンとしての機能も限定的に持たせた。これもその一種だよ」
そういって、コメットはコアをテーブルの上に置く。
「中身が別物っていうのは、ダンジョンシステムのほとんどを排除して、召喚と翻訳、維持、従属に充てているから。元の多機能の名残はほとんどない。まあ、新大陸の状況を見るに、理に叶った使い方と言えるだろうね。そもそも5000倍もの効率ではダンジョンそのものを展開できないから、こうやって、機能を減らして、効率よく使ったんだろうさ」
「このコアを使うと5000倍ではないってことか?」
「そうだよ。中身が別物。たぶんダンジョンスキル系と認識されていないんだろうね。等倍ぐらいの魔力で動くよ。まあ、システムをこのコアに書き込んでいる分、無駄な魔力もないから、効率的には自分で魔術を唱える魔力の半分以下で対象を召喚できるだろうね。まあ、それでもよその大陸から引っ張ってくるんだ。それなりの魔力は必要になる」
だから、膨大な魔力があるキャリー姫やカグラを狙ったか。
当主であるカミシロ公爵に頼むわけにもいかんだろうしな。
その場で謀反とか言われかねないし、邪魔になりそうだったから殺りに来たと。
やっぱりここら辺が妥当か。
しかし、クレイ本人は研究のためって言ってたからな。
断定は危険か。
「あとは、このコアを弄った、作り上げた年代はよくわかんないね。新大陸の魔術技術がどれぐらいかってのがわからないと何とも言えない」
「そりゃそうだな。だけど、思った以上に情報は集まったから助かる。2人はしっかり寝てくれ」
「そうさせてもらうよ」
「流石に眠気で頭が回らないのでそうさせてもらいます」
そういって、2人は研究室から出て行く。
俺もそれを見送ったあと、報告書を持って出て行くが、あと一つ面倒なことがある。
「……駄目神訪問かー。めんどい」
ようやく色々わかってくる今回。
ウィードが抱える技術屋の腕はいいのです。
そして、次回、ついにユキの天敵と相対する!!




