第513堀:勇者呆れる
勇者呆れる
Side:タイキ
「貴方がユキの言ってた、ゆうしゃ?」
「いえ、私はタイキといいます」
「ゆうしゃじゃないの?」
「いえ。違います」
「え? どういうこと?」
会ってそうそう、カミシロさんとはそんなやり取りをしていた。
どうやら、彼女の大陸には勇者という概念は存在せず、ユキさんたちのことを英雄って言っていたらしいから、こっちに連れてこられたっていう日本人はゲームに縁がなかったのか、タイゾウさんのようにそういう文化すらなかった時代の人だったのだろう。
「いいか、カグラ。勇者ってのは勇気ある者って意味でな。本来の意味では、勇敢な兵士とかを指す言葉だ。しかーし、俺たちの大陸では勇者というのは、英雄を超える英雄」
「英雄を超える?」
「そう。魔王とかいう存在がいるって言うのは話したよな?」
「ええ。でも、そっちで言う、種族の王って感じで、人類の敵って認識じゃないんでしょう? そういってたじゃない」
「それは今の話だ。昔は俺たちの大陸を征服せんとした魔王もいたわけだ。それを倒したのが勇者と名乗った存在なわけだ。すべての国が諦めかけた時に、その旗印として立ち上がり、纏め上げ、魔王を倒すっていう。一国に留まらない活躍をした英雄を超える英雄を指すのが勇者という言葉だ」
「はー。そんなのがいるのねー。ってちょ、ちょっと待ちなさいよ!? じゃ、じゃあ、このタイキって人、物凄く偉いんじゃないの!?」
「そりゃー、一国の王様だしな」
「そ、それを早く言いなさいよ!? し、失礼しました!! ご無礼どうか平にご容赦を!!」
そういって、頭を下げるカミシロさん。
しかし、今のやり取りから見て、不思議な点がある。
「まあ、こんなことで怒ったりしないですよ。というか、なんで俺よりも立場が上なユキさんにため口なんですか? そっちの方が問題になりませんか?」
「え、えーっと、そうなんだけど……」
「それはわざとやってるんだよ。俺から頼んだ。嫁さんたちも、バイデのメンバーも納得してる」
「なんでまた? カミシロさんは礼がなっていないと思われません?」
「立場の問題だよ。カグラはこれから、ハイデンを救うために奔走しなければいけないが、俺たちの言いなりじゃ不味い。ハイデンを救っても、傀儡政権とか言われると、せっかくハイデンを安定化させてもまたぐらつくからな。あと、カグラ自身の安全のためでもある。ウィードと交渉できるのはカグラだけと思わせればカグラを排除しようとは思えないだろう? ため口で仲良くやってますって。結局さ、ハイデンを救ったとしても、王妃様はただの旗印、分かりやすい国の顔ってだけで、ハイデンを救ったのは紛れもなくカグラなんだよ。カグラが動かなければどうにもならなかったのに、こういうのは後の政権はカグラを邪魔者扱いするのは定番だろ?」
「ああー。そういうことですか。戦果をあげすぎた英雄は邪魔になりますからねー。かといって、カミシロさんがユキさんの配下みたいにペコペコしてたら、ハイデンは属国になったとか思われますしね」
「そういうこと」
つまり、大国相手に引かない、対等な立場で話し合える、唯一無二の存在としてハイデンでの立場を安定させるつもりか。
「正直、私といたしましては、ユキ、ユキ様には礼を払うべきだとは思うんですけど。話を聞くと確かに一理あると思いますので、ハイデンの問題が片付くまではこのような言葉遣いとなりました」
やっぱり、公爵令嬢らしく、しっかり礼のある言葉は喋れるみたいだ。
「今のハイデン相手に、新しい国がー、とか言っても頭おかしいって言われるだけだしな。そしてその国の支援を受けてー、って言って賛同得られるとおもうか? ペコペコして」
「そりゃ、ウィードの実力を見せないといけないですけど、そうなると、属国って見られますし、反発する連中もでてくるから、隠した方がいいですよねー」
「俺たちの存在は、終わってからばらす方向だな。あくまでも、今はカグラが奮闘して、ハイデンを立て直したって感じが望ましいだろ」
「うーん。それがよさそうですね。他の国も警戒しそうですし、下手すると新しい火種ですからねー」
そんな話をしていると、キャサリンさんが入ってくる。
このクソめんどうな状況の渦中にあるバイデの女領主さん。
いやー、さぞかし胃が痛かっただろうなーと思う。
既に、彼女とは挨拶をしているし、ユキさんとは兄弟分みたいな付き合いがあって、別の国の王様って言ったら、恐縮しっぱなしだった。
まあ、そんなのが、護衛に就くこと自体おかしいからな。
「ユキ様、タイキ様、カミシロ殿、出発の準備が整いました」
「よし。ならさっさと、援軍に来ている連中を追い返すか。あ、お姫さんは?」
「姫様はすでに準備を終えて待機しています。……やる気だけはあるようです」
「必要なこと以外は黙っててくれってのは守れるかねー」
「「……」」
沈黙する2人。
一体どういうお姫様なんだよ。
お花畑っていうぐらいだから、うちのビッツと同じぐらいか?
「善意である分、ビッツよりさらに面倒だな。相手を貶めようとか、我儘を通したいとかじゃないから、なお性質が悪い」
「うへー」
「まあ、会えばよくわかるさ。嫌って程にな」
そんな不安を煽る話をして、俺たちは領主館前に集合する。
そこには、今回、ハイデン攻略、カミシロさん護衛組である、ユキさんの奥さんメンバーがそろっている。
さっきから、ずっと一緒にいるリーアとは別に、そして、驚きのヴィリアにドレッサがいる。
あと、この場にはいないけど、デリーユさん、キルエさんが入ることになる。
全員で5人。
ちなみに、俺も一応護衛として、近衛隊長のルースを引っ張ってきている。
まあ、全員ドッペルだから安全なんだけどな。
そこはいいとして、メンバーを見ればわかると思うが、全員、人族のみで構成されていて、アスリンちゃんやフィーリアちゃんと言った幼い子たちは今回参加していない。
実力があるとは言っても、侮られるような姿形は問題があるからだ。
いつもの護衛であるジェシカさんやサマンサ、クリーナは大陸間交流では重要な役割があるし、今回の作戦には常時参加はできない。
ハイデンの男尊女卑は結構激しいから、このメンバーでもトラブルが予想される。
なので、さらに問題を抱えるのはよくないという判断でこうなった。
更に、こちらで精霊の巫女とか言われる獣人やエルフも騒ぎの元なので、エリスさんや、ラッツさんなどは参加不可能。
というか、もとより、セラリアさんや、ルルアさん、シェーラちゃんと一緒に大陸間交流の仕事があるので、参戦は厳しい。
ヴィリアとドレッサは今回、このような状況で人手が足らないから参加となった。
かろうじて、騎士見習いってことで押せるしな。
戦力としては申し分ないから、戦力が分散しない限り何とかなるだろう。
バイデの防衛は残ったメンバーで何とかなるしな。
すぐにスティーブ達も参戦できるから。
そんなことを考えていると、その集まりの中、場違いなドレスを着こんでいる、お姫様がこちらに進み出てきた。
「まあ、ユキ様も来られるのですか!?」
「いいえ。見送りですよ。その間にバイデの防衛を整えておきますので」
「そのようなことにはなりませんわ。私を信じてください。ユキ様も落ち着ける時間が欲しいのは存じております。ですから、短気を起こさないようにお願いいたします」
この人が、例のお花畑お姫様か……。
特に問題はないように思えるんだけどな。
「で、こちらの殿方たちは?」
「ああ、騎士で選りすぐりを用意しました。女性ばかりだと舐められそうなので、いざという時は彼らを頼ってください」
「まあ、お心遣い感謝いたしますわ。流石は英雄様ですね。お二方もよろしくお願いしますわ」
「はっ。お任せください」
と、ルースが代表で挨拶をしてくれる。
「では、参りましょう」
そんなお姫様の言葉で俺たちは、バイデに向かってきている、ハイデンの援軍へと向かうのであった。
と言っても、道中は特に問題なく、あっさりと、ハイデンの援軍がいる場所までたどり着いた。
「おお、本当にキャリー姫様だ!!」
「ご無事だったのか!!」
そんな声が援軍側から聞こえる。
その中から、なんか太ったあからさまなおっさんが進み出てくる。
「こ、これは姫様、そして、キャサリン殿、よくぞご無事で」
「大義です。タークラム。よくぞこれほどの援軍を連れてきてくれました」
タークラムって、やっべ。
何? その名前ネタ? あからさまにあのおっさん挙動不審だし、話していた内通者って絶対こいつだろう?
「ははっ!! しかし、帝国軍はどういたしましたか? 万を超えていて、バイデの戦力では長く持たないとのことでしたが……。先触れの話しでは退却したとか、よくわからぬ話を聞きましたが、今一つよくわからないのですが」
「それは、英雄さ……」
「それは、私から説明させてもらいます。姫様は後方で回復魔術を担ってくれていましたので、前線の動きはしらないのです」
うっわ。
だめだ、このお姫様。
ユキさんのことをフォローするとかいいつつ、今バラしそうになったよ!?
え、なに考えてんの?
今、ユキさんのことを言うとか爆弾にしかならんだろう。
「ふむ。それもそうか、で、キャサリン殿、一体なにがあったのだ? そもそも、なぜバイデに敵が押し寄せた? 国境の守りはどうなっている!! 姫様を危険にさらしたことは、職務怠慢であるぞ!!」
本当にあからさまだな。
ユキさんが見たら笑い転げそうだ。
「そもそも、フィンダール帝国とは十数年来戦争をしておりませんし、隣国として仲良くしてもらっております故。さらに、国境警備の縮小は王宮からの命令でございます。他国を刺激するのはよくないと。確か、その提案をされたのはタークラム殿だったはずですが?」
「ぬぐっ。そ、それは政治的な問題だ。だからといって、そちらの非が無くなるわけはないぞ」
「確かに。ですが、今は私の処罰云々をやっている暇はありません。攻め寄せてきたフィンダール帝国の動きですが、こちらの援軍を察知したのか、突如陣を引き払って、撤退したのです。おそらく内通者がいるものかと」
「そ、そのようなこと、あるわけないではないか!! ハイデンは陛下の元、一つにまとまっておる!!」
なんだこのアホは。
腹芸一つもできないのかよ。
「ですが、今はそのような内通者探しをしている暇はないでしょう。ここにあからさまに、援軍が誘き寄せされたということは。他に狙いがあるはずです。今回のことで他の場所のまもりは減っているでしょうから」
「ぬ!? ま、まさか!? 敵は他の場所に進軍しているとでもいうのか!?」
「そうでもなければ、バイデから敵が退く理由もないですし、援軍のことをしっているのであれば、もっと数を揃えてくるはずです」
キャサリンさんがそういうと、後ろで話を聞いていた援軍のお偉いさんたちが慌て始めた。
まあ、他の場所が狙われているかもしれないって聞いたらそうなるよな。
「帝国軍が撤退してから、まだ6日ほどです。即座に王都に戻り情報を集めるのが先決でしょう。内通者の件は、私のほうから早馬を出して伝えておきます故、タークラム殿は援軍をまとめて引き返す準備をお……」
「い、いや!! その必要はない!! 内通者の件も含めて私が報告しよう!! キャサリン殿はバイデの安定に努められよ!!」
そんな感じで、あっさり援軍は引き返していった。
多分内通者の件を伝えられると、一番怪しまれるのはタークラムなんだろうな。
「姫様、上手くいきました」
「はい。よく頑張ってくれました。私はこの貴重な時間で、陛下への手紙を書きあげ、ユキ様を何としてもハイデンの英雄にいたしますわ!!」
「……よろしくお願いいたします」
……あー、なるほど。
だめだこのお姫様。
状況がまったく理解できてねー。
ごめん予約忘れてた。
慌てて投稿。ゆるしてね。
さてさて、これからいよいよ本番だぜ。
役者はそろってきた。




