第512堀:夢から覚めて現実へ
夢から覚めて現実へ
Side:カグラ・カミシロ
……私は夢でも見ていたのだろうか?
そんなことを思ってしまう。
「カグラ。この手紙はどう思いますか?」
「あ、はい。拝見いたします」
だって、この姫様の相手に戻っているのだから。
前と同じ、意味のないやり取り、私がいいと言っても、姫様は聞かず、手紙を書き直すだけの繰り返し。
つい先ほどまでいた、ウィードの事が全部夢だと思うぐらいの退屈な日々。
というか、ウィードのことを夢と思いたいという気持ちもあると思う。
何かの悪い冗談だと言われる方が、まだ納得できたかもしれない。
でも、ウィードでの出来事は真実で……。
「あら? その指輪はどうしたのですか?」
「あ、えーっと……」
姫様の視線の先には、私の指にはめられている、とんでもない能力を秘めた指輪が存在している。
これこそ、ウィードに私が行ったという証拠。
あの武器選別のあと、軽く使い方の説明を受けた後、バイデに戻ってきたのだけれど、あまりの違いで、夢見心地だったようだ。
ちなみに私が選んだ武器は杖だ。
剣は多少使えるけど、騎士ほどではないし、杖自体から魔術を撃つタイプにした。
まあ、そこはいいとして、この指輪はなんて説明したものだろうか?
ただユキからもらったといえば、何か不平不満を言うかもしれないし、変な誤解でもされれば面倒よね。
「あまり良い物ではありませんね」
「はい?」
「ほら、そこ、傷が入っています。意匠もなくただのリングですね」
「あ、ああ、そうですね」
これは、偽装の為にナールジアさんがそういう風にしたらしい。
私としては、あまりに指輪の性能がぶっ飛んでいるので、まったく気にならなかったけど、姫様にはこの指輪はそういう風に見えたらしい。
「カグラほどの身分となると、身なりもそれなりに要求されます。あまりこういうことは言いたくないのですが、思い入れがないのであれば、はずしておくべきでしょう。侮られることになります」
姫様の言う通り、価値のない物、粗末なものを身に着けているということは、家の貧困を疑われる。
それは、相手になめられる要因の一つにもなる。
これが普通の傷ついた指輪であれば、姫様の言う通りにするべきなのだけど、この指輪は普通ではない。
どこかの伝説やおとぎ話に出てきてもおかしくないぐらいの、凄い能力を秘めた指輪。
私のこれからに絶対必要なモノ。
どんな風に説明したら、納得してくれるものか……。
ああ、あの手で行こう。
「いえ、姫様。これを外すわけにはいきません。私の戒めでもあるのです。バイデの為に戦って散った騎士の遺品であります故」
「……そうでしたか。その指輪はバイデ、いえハイデンの為に戦った人々の証なのですね」
「はい」
「わかりました。失礼なことを言いましたわ。それは身に着けておくべきでしょう」
こういうところは、心優しい姫様だからいいんだけど、そのほかは空っぽなのがねー。
というか、私自身も混乱しているといってもいいのよね。
ユキたちの故郷ウィードがある大陸と、この大陸が同じ世界にあるなんて未だに半信半疑だ。
まあ、今やるべきことは、ハイデンの内部をどうにかすることだし、そういう難しいことは後でいいでしょう。
「しかし、カグラ」
「はい。なんでしょうか?」
「王都の援軍は遅いですね。怠慢ではないでしょうか? もう、戦いが終わって7日、交戦期間は5日で、援軍を要請したのが開戦2日前でしたよね?」
「はい」
「すでに、14日も経っています。ハイデンの危機と理解しているのでしょうか? 叔父様、陛下に叱責してもらわなくては」
こーゆー、常識すらないんだから。
「いえ、姫様。敵の規模などを見るに、王都の防衛軍をそのままバイデに派遣するだけでは数に劣りますし、あっという間にやられます。なので、近隣の軍を集めて、物資を整えて出発となりますから、今来ても早いぐらいなのです。人は集まれば集まるほど、動きが鈍くなります故」
「そうなのですか?」
不思議そうな顔してるわねー。
もうちょっと、事態の深刻さに気が付いてよ。
あの無謀な籠城戦を反省してもらいたいんですが。
ユキたちが来なければバイデの部隊は全滅、私たちは捕虜ですよ、捕虜!!
なんて、心の中で文句を言っていると、ドアからキャサリン殿が入ってくる。
「キャサリン殿? どうかしましたか?」
「何かありましたか?」
「姫様。カミシロ殿。王都から援軍の先触れが到着しました」
「まあ、先ほどのカグラの話から察するに、とても優秀なのですね。こんなに早く到着するなんて」
「は? は、はあ。まあ確かに、そうですね」
「と、とりあえず。援軍の状況はどうなっているのですか?」
姫様の明後日方向の感想はいまはどうでもいい。
思ったよりも早い、というのは、やはり手引きがあって、準備をしていたということ。
下手に対応すると、そのままバイデを乗っ取られる。
そうなれば、ウィードの事がばれて、そのまま開戦ということになりかねない。
何とか、援軍がバイデに到着する前に追い返さないと……。
「援軍の本隊はあと3日ほどで到着するとのことですが、戦闘が行われていないことに、先触れの兵士は戸惑っています」
「ユキ様が敵を打倒してくれましたからね」
「はい。その通りですが、姫様もご存知の通り、ユキ様はハイデンのことを良く思っておりません。このまま、援軍が到着すれば、ユキ様と敵対することになるでしょう」
「まあ、そんなことをしてはなりません。バイデを、いえハイデンの危機を救ってくれたのですから」
何を今初めて知ったようなセリフを。
前から言ってるじゃない。
「その通りです。ですので、今しばらく、ユキ様を説得する時間を稼ぐために、援軍にはお引き取りいただく必要があるのです。そのために姫様にはユキ様のことを隠していただき、自分たちの力で追い返したと言ってもらう必要があるのですが……」
「……そうですわね。今、ユキ様の立場を危うくするのは本意ではありませんわ。わかりました。と、言ってもなんて説明すればいいのですか?」
「……そこは、私とキャサリン殿が補佐いたします」
この姫様にそんな説明ができるわけもないか……。
「すでに日は暮れていますので、先触れには本隊に簡単に事情を説明するために戻って貰っています。私たちは明朝、早馬で援軍の本隊へ行き説明をいたします。明日は早くなりますので、お早めにお休みください」
「わかりました。ふぅ。残念ながらお手紙はまた今度ですね。今は、ユキ様と話し合う時間を稼がなければ。英雄を私たちの手で倒すなど、あってはなりませんわ」
「「……」」
その言葉に私とキャサリン殿は微妙な気持ちになる。
倒すなんて無理なんだけどねー。
むしろ、延命の時間を稼いでいるのはハイデンの方なのよね。
というか、このまま敵対すればハイデンが即死しそうなんだけど。
「さあ、明日は早いのですから、もう休みましょう。カグラも早く休みなさい」
「は、はい。では、失礼します」
「姫様。食事は今から運ばせますので」
「まあ、ユキ様のお菓子が今日もついているかしら?」
「ついております」
「楽しみですわ」
……だめだこいつ。
と思いつつ、部屋を抜け出して、執務室の方へ戻る。
「こう、ですかな?」
「そうなのです。で、こー、なのです」
「むんっ。なかなかキツイですな」
「慣れなのです。その戦槌はフィーリアのと同じで重量を減らさず風で負荷を減らす仕組みが付いているのです。それを発動するタイミングは覚えるしかないのです」
「なるほどですな。だからこそ、振り下ろす時よりも、振り回す時に風の支援を受けたほうが効率がいいのですな」
「そうなのです。でも、やりすぎると、腕や体が戦槌の加速重量に耐えられないのです」
「ふーむ。なかなか奥が深いですな。戦槌も」
「なのです」
そこでは、なぜか、ジョージン殿がフィーリアに戦槌のレクチャーを受けていた。
「お、来たな。援軍の話は聞いたか?」
「え、ええ。で、何やってるのよ?」
「おお、これは失礼いたしました。待っている間に、フィーリア殿から戦槌の指導をしてもらっていたのです」
「武器を使いこなすには練習や理解が大事なのです」
「いや、そのとおりだけど……」
なんで執務室でそんなことをしてるのよ。
って、待ってたからか。
でも、室内で戦槌を振り回すとかやめてよ。
そもそも、それ、ナールジアさんの武器でしょう?
部屋ごと吹き飛んだりしないでしょうね?
「ま、練習はここまでにして、ようやく援軍が来たわけだ。数はおよそ5万」
「5万ですか。それでも私たち帝国軍の半分ですな。後詰も合わせると3分の1ですな」
「これって多いのか?」
「時間的に考えると動員数は思ったより多いのですが、対応は妙に早いですな。まだ戦闘開始から15日とそこら、前もって準備していない限り、この動きの早さは説明できませんな。徴兵動員に3日4日はかかりますし、同時に軍需物資の確保などや、編成もありますからな。それに加えて、動員が万を超えていることから、進軍の速度はすこぶる悪いでしょう」
「なるほどな。こっちもあんまり軍隊の速度ってのは変わらないか。しかし、約半月で来るってことは、やっぱり手引きがあったとみるべきだな」
「でしょうな。攻城戦で警戒するべきは、敵の援軍ですからな。背中を突かれれば、攻めるどころか全滅の危険がありますからな。内通者にはこちらの軍は3万と言っておきましたからな。それに釣られたということでしょうな」
「で、実際は10万で来たと」
「内通者をそのまま信用するわけにはいきませんからな。そのままハイデンへとなだれ込む予定もありました故。しかし、予想通り私たち帝国軍もその内通者にとっては餌だったようですな。3万で攻めていれば、未だバイデは落とせず、背後から敵の援軍に挟まれ全滅だったでしょう」
「それで、内通者はバイデを救って、バイデの利権を得るって筋書かねー」
「恐らくは」
なるほど。
やっぱり手引きした内通者は援軍の中にいるってことね。
でも、そうなると……。
「ユキ様やジョージン殿の話の通りだとすれば、援軍はなんとしてもバイデを占領しようとするのではないでしょうか? 姫様の説得に応じるでしょうか?」
「それは、説明次第だな。バイデを攻めてきた帝国軍はすぐに引き返したとでも伝えればいいだろう。それで、狙いが他の場所にあったとか言えば、援軍はすぐに引き返すだろうさ。すでに戦闘が終わったバイデに援軍を置いておける余裕をなくせばいい」
なるほど。
それなら、援軍はすぐに転進しなくてはいけないわね。
「これを信じないって可能性もなくはないけど、すでにバイデでは戦闘が終わっているからな。無駄に軍費を浪費したとか、首が飛ぶしな。可能性は低いだろうし、そうなればそれはそれで俺やジョージン殿は隠れて過ごせばいいだけだ。それで本国にバイデから報告すれば、援軍は引き返さざるを得ないだろうな」
「……そうですね。しかし、ユキ様やジョージン殿はそのような扱いでよいのでしょうか?」
キャサリン殿はどうも主君と仰いでいるユキにそういう扱いをするのが心苦しく、ユキの様子を伺っている。
「んー。俺は基本的に目立ちたくないからこのやり方で問題ない」
「私も問題ありませんな。戦略的なものですし、ただ卑屈になっているわけではないですから」
「わかりました。では、明朝、カグラ、姫様を連れて、援軍への説得へ行ってまいります」
「頼んだよ。ああ、明日は護衛つけるから、何かあればその護衛を頼ればいい」
「護衛? ジェシカさんとか?」
「いんや。勇者」
「ゆうしゃ?」
なにそれ?
戻ってきて、いよいよユキたちが新大陸で動き出します!!
どのような困難がまっているのか!!
ユキたちはその危機や困難をのりこえられるのか!!
あと、30日に6巻発売です。
気が向けば買ってくださいな。




