第514堀:素晴らしき作戦 セカンド
素晴らしき作戦 セカンド
Side:ユキ
ハイデン王国の援軍はキャサリンの演技のおかげですぐに反転して戻って行き、お姫様はお手紙という名の妄想小説の執筆に。
さーて、予定通りではあるけど、結果報告を聞いてさらに面倒だと感じる。
「不自然な点がありましたか?」
俺が考え込む姿を見て、キャサリンが心配そうに聞いてくる。
「不自然というかなんというか……。なんでまたというか……」
「どういうことでしょ……じゃなかった、どういうことよ」
カグラも俺とため口は慣れたと思っていたが、流石に俺の嫁さんににらまれながらはキツイらしい。
一応説明して、理解も得られているから、文句を言ったりはしないが、嫁さんたちからすれば、誘拐犯が夫にため口とかなめてんのか?立場わかってのか?ああん?って気持ちらしい。
いや、分かるけどね。
今後の展開でカグラのため口は必須になるから、日常会話から慣れてもらわないといけない。
あと、みんなには言ってないが、カグラのため口には別の狙いもある。
「それは、タイキ君ならわかったんじゃないか?」
「彼? なんでまた? 彼って今日こっちに来たばかりでしょう?」
「聞いてみればわかるだろうさ。で、タイキ君どうみた? あの援軍」
俺が聞くと、微妙な顔をしながら口を開く。
「んー。こっちの常識とか人物の背景とかさっぱり知りませんけど。あれはあからさまでしょう」
「あからさまですか?」
「何が?」
キャサリンとカグラは何があからさまなのかわかっていないようだ。
まあ、あれがデフォルトと知っているならなおさらだろうな。
「いや。キャサリン殿が話した相手、援軍の大将タークラムっていうやつ。敵が退いたってことで、あからさまに動揺したでしょう?」
「それは当然ではないでしょうか? 陽動の可能性も示唆しましたし……」
「それに、バイデを取るつもりが取れなくなったからじゃないの?」
「それはそうだろうけど、あのタークラムってやつ、本来は内政担当みたいなもんだろう? デブだし」
「はい。そうですが……」
「それがどうしたの?」
「普通、自国内が攻められて、助けるための援軍で、内政担当のやつを総大将に据えるか?」
「「あ……」」
そう。
不自然すぎる点はそこなのだ。
なんで、武官、将軍クラスが出てこなかったのか?
素人に万を超える軍を預けるなんて正気の沙汰ではない。
自国内の重要交易都市の防衛にそんな烏合の衆を援軍に差し向けるか?
まあ、中世ヨーロッパ程度の文明レベルだから、地方領主が戦功や名誉欲しさに独断というのは考えられるが、数が数である。
万を超える軍隊など、冗談抜きで、専門職に任せるべきものだ。
「しかも、援軍要請を王都に出したんですよね?」
「「……」」
ようやく、2人はタイキ君が云わんとすることがわかってきた。
この援軍自体がおかしいのではなく、この戦い自体が変すぎるのだ。
「一応、ハイデンが周辺諸国へ喧嘩を売ろうという方針になっているのは知っています。それで、あれだけの数の兵士をあんなのに任せますかね?」
さあ、いざ戦いの狼煙を上げるのだ!! って時に、その先陣といっていい今回の戦いで、なんで内政官の男が総大将やねんって話になるのだ。
普通、期待をかける若輩の将軍とか歴戦の古強者が出てくるべきなのだ。
「確かに、王宮にはちゃんとした将軍もいます。……あんなのが出てくるのはおかしいです」
「……でもなんのために? 下手したら……じゃなくてあのままじゃ、バイデで帝国軍とぶつかって手痛い被害を受けることになったはずだけど? そこになんの意味があるの?」
「いや。そこまで詳しいことがわかるわけないですよ。状況から推察するしかないですね」
「って、ことはタイキ君ある程度、推察できているってことだな。流石勇者!!」
「……」
俺が適当によいしょしておく。
だって勇者だし? 俺の都合で迷惑に付き合わせているのだから、ちゃんとした報酬はもちろん名誉も必要だろう。
イフ大陸でやったように、タイキ君が今後新大陸で何かを起こす時に、後押しができるように工面するのは、人として当然であろう。
なんて、言ってはいるが、俺の目的が理解できたのか、タイキ君は嵌めやがったなーという視線を向けてくる。
さて、なんで嵌めやがったなー。という表情になるのかは、話を真剣に聞こうとしている、キャサリンとカグラにある。
簡単に言えば、勇者ってすごいのね!! 惚れた!! 作戦である。
キャサリンはすでにウィードに従属しているから厳しいだろうが、カグラは今後、ハイデンを上手く立て直すためには、ハイデン以外の国の支援が必須である。
この新大陸の支援はもちろんのこと、ウィードに意見できる立場の国との連携は喉から手が出るほど欲しい。
かと言って、俺とカグラが結婚しましたは、立て直したハイデン側としては避けたい事態だ。
どう考えても、唯一のウィードと交渉できるカグラが抱き込まれるというのは、以前言った通り、従属国とみられるからだ。
そこに、ランクスという国の王様であり、勇者というネームバリューもあるタイキ君がいればどうなるだろうか?
普通に考えれば、ランクスと縁を作って、ウィードとの交渉をするというのがベターだろう。
あと、勇者としてこの地でも活躍すれば、どこかの絵本や、ラノベ王道ストーリーの鉄板。
人々の称賛を集めやすく、支持を得やすい。
今後のハイデン安定への布石というわけだ。
ため口もその一環で、カグラに敵対する奴らは、ため口を利いている俺たちを舐めてわかりやすい圧力をかけてくるだろうから、そこを叩いて、カグラや旧王家派への文句を減らすのが目的だ。
こういう低姿勢外交ってあぶり出しに非常に有効なんだよね。
相手が調子に乗ってくれるから。
……なんてのは建前で、本音のところは、俺とカグラとのフラグを折るためだ。
嫁さんたちは現在、カグラの所業でブチ切れ中ではあるが、それは今後どうなるかわからない。
しかも、王道の召喚をされたのは、残念ながら勇者タイキではなく、なぜか俺。
ストーリーとしては、反目しながらも協力して問題を解決し、最後には……というのが鉄板だ。
カグラに結婚する気はないと釘を刺し、政治的状況を鑑みて限りなくそれは低いと踏んでいるが、万が一に、そんなことにもなれば、今後、新大陸の大陸間交流などもウィード主導でやらなければならないし、嫁さんがもう一名追加という悪夢が加わる。
サマンサの件で、あいまいな態度や甘い行動はダメだと思い知った。
王道や鉄板の効力の強さを叩き込まれた。
俺がギャルゲーと思っていたら、サマンサにとっては乙女ゲーであり、その場面に実質選択肢一択の俺がのこのこ出て行ったわけだ。
ならば、選択肢を増やせばよい!!
俺一択の選択肢から、タイキ君という選択肢を!!
タイキ君はこれから勇者としてどんどんカグラを助けていく。
それで俺は裏方に徹し、2人の仲を応援する。
もって、俺への好感度は一定以上溜まらず、カグラはタイキ君ルートが確定するというわけだ!!
タイキ君も、イフ大陸で知り合ったソエルとも仲良くやっているようだし、最近ウィードでデートしたとか聞いているし、王様だし? 勇者だし? もう2、3人奥さんがいてもいいと思うんだよ。
と、いかん。
なんか長々と己の偉大な野望を考えてしまっていた。
今は、勇者タイキの素晴らしい推察を聞かなければいけない。
俺の為にも!!
「あくまでも現状からできる予想、推測、推察ですからね……。えーと、実はあれはお飾りの大将で部下がちゃんとしている可能性もありますから。わざわざ無駄に兵を減らすわけはないですからね」
ま、そりゃそうだ。
何か別の理由があって、あのおっさんを大将にしていただけ。
政治的な理由と言われればそれまで。
「あとは、そもそも撃退を期待していなかった。確実にバイデは落ちてもらう必要性があったとか。だから、負けてもらうためにあれを大将にした」
これもありそうな話ではある。
色々問題があったのは聞いているし、バイデが落ちることが開戦の切っ掛けにはちょうどいいだろうからな。
「こんな感じで、色々想像ができる。あれを大将に指名したのは王様だろうし、国ぐるみでバイデをどうにかしようとしているんだろうなーってのはよくわかるけどね。というか、お姫様にカミシロさんもいることをしっているだろうし、ここで邪魔になりそうな先代の王女様と宮中に関わらないカミシロ公爵の娘を始末して、内部をまとめようって考えかもしれませんね」
「……まさか」
「さ、流石に、そこまで……」
キャサリンとカグラにはショックな話だろう。
「ここ最近、キャサリン殿は疎ましく思われていたようですし、その排除を敵に頼むと。ついでに、旧王家派とか反戦派とかをまとめるために、必要な犠牲、生贄にお姫様とカミシロさんが選ばれたってほうがわかりやすいですけどね。ま、あくまでもですよ? これが確定ってわけじゃありませんから」
「「……」」
なんて最後にタイキ君がフォローするが、2人は反論できない。
まあ、自分たちで内通を疑っていたしな。
お姫様が狙われている、バイデが欲しいという話は自分たちがしているから、否定しようがないんだろうけど。
まさか、国ぐるみでってのは思ってなかったみたいだよな。
適当な功名欲しさの小心者の仕業と思うのは無理もないけど。
さっきの援軍を見るに、現王家が指示を出さないとできる規模じゃないからな。
と、沈黙していても仕方ないか。
「さて、どちらにしろ動くことは決定しているんだ。そこからちゃんと敵さんの情報を得て行こう。幸いバイデの守りは十分だし、そうそう心配はいらん」
「そ、そうです!! 今やバイデはハイデン領ではなく、ウィード領……。何も、そう何も、私が心を痛めることはないのですよね……」
キャサリンはなんとか元気にふるまおうとするが、祖国にそんな扱いを受けたかもしれないって状況はつらいよな。
同じように、カグラも黙ったままだ。
なんて声をかけたものかと考えていると、ジョージン殿が口を開く。
「なに、そこまで気にすることはありますまい。これで遠慮なく、現王家派、武闘派の連中をぶっとばせるのですからな」
「だな。カグラ、泣かないで。ここからが本番だぞ?」
「な、泣いてないわよ!!」
ようやくカグラは顔を上げる。
泣いてるとは思っていないが、反応がないので心配していた。
ここで心折れたとかやめてほしいからな。
「よし。それだけ元気があればいいな」
「こうなったら、やってやるわよ!!」
「その調子で、お前の実家にいってまずは協力を取り付けよう」
「そうね。準備をして早くお父様の所に向かいましょう!!」
そういって、カグラはいそいそと領主館に戻っていく。
「元気がないよりはましですな。ユキ様もおられますし大丈夫でしょう。キャサリン殿もショックや心配はあるでしょうが、バイデはこの大鷲やウィードに任せて、確実な旧王家派の協力を頼みますぞ」
「はい。ありがとうございます」
大人な2人はそういって握手をしている。
「で、ユキさん的にはさっきの俺の話はどう思います?」
「ま、個人的には当たりであってほしいな。ほかに目的があったらあったで面倒だし」
「ですよねー」
「それもカグラについて行きつつ調べるしかないだろうな」
「あ、そういえば、カミシロさんを押し付けようとしましたね?」
「さあ、なんのことやら? あの年頃のお嬢さんが勇者様に惚れるのはなんら不思議なことではないと思うけどなー」
「そういうこと言っちゃいますか。なら俺にも考えがありますよ」
「ほほう? どうすれば、勇者よりハーレム野郎の俺が素敵にみえるのかね?」
「それは教えませんよ。しかーし、覚悟しておいてください」
「はっはっは。やってみるがいいさ!!」
なんて、タイキ君と遊んでいると後ろからドレッサたちの声が聞こえる。
「……あれ、何やってるの?」
「あー、ユキさんやタイキさんの発作みたいなものだね」
「発作ですか?」
「そうだよ。無駄なのにねー」
「「無駄じゃないよ!?」」
「そういって、サマンサやソエルさんが来たよね。ユキさん、タイキさん」
「「ぐっ!?」」
容赦のないリーアの発言に、俺たちはたじろいでしまう。
だ、だが!! それが無いようにするために俺は布石を打っているのだ!!
大丈夫、そう大丈夫なはず!!
今はタイキ君が一歩どころか十歩リードだ!!
いや、お約束みたいに許嫁とかあるだろうし、そう物事上手くいくもんかよ!!
あんな学府みたいなお約束が……。
「「あっ」」
「どうしたの?」
俺とタイキ君はその瞬間ひらめき。
その声を聞いたドレッサが首を傾げている。
「奴がいるじゃないか」
「いましたね。ラッキースケベ野郎が」
確か、ポープリの話によればそろそろ事情を話すべきかどうかとか聞いているし、戦力もこっちは不足しているから補給できるのはありがたい。
安全面に関してはフィーリアからもらったミサンガがあるし、問題なしだな。
「保険は多い方がいい……ではなく、弟子の成長を見なければいけないだろう」
「ですね。連絡を取ってみます」
そうして俺たちはカミシロ公爵家へ向かう準備を進めるのであった。
ユキやタイキの作戦はうまく行くのか!!
あ、6巻発売しました。
とりあえず、ツタヤデイリーとかではラノベ部門で2位とかなので、買っている人多いんでしょうな。
ありがとうございます。




