第505堀:当然のこと 自明の理
当然のこと 自明の理
Side:キャサリン・バイデ ウィード所属 バイデ領主
「まず、勘違いを正そうと思う。カグラは俺たちを異世界から呼んだと思っているが、実は違う。同じ世界から俺は呼び出された。その場所が、この大陸。そして、カグラたちがいる大陸はここ」
「「「えーーーー!?」」」
驚愕の事実がユキ様から告げられる。
目の前に映るへんてこな絵図が私たちの大陸の地図だそうだ。
「こ、この地図の精度はいか程のものなのですかな?」
隣に座っているジョージン殿が震える声で確認する。
それは当然だ。
こんなモノは世界に存在しない。
そもそも、海の向こうに大陸があるなどと、誰も考えた事がない。
海の向こうは滝になっているというのが、世界の常識ではなかったかしら?
「それを今から確認してもらおうと思ってな」
「確認ですか?」
「そうそう。この地図って高い上空、空から撮影していて、高解像度なんで、拡大が結構できるから……こうやって」
さつえー? こーかいぞーど?
よくわからないけど、もにたーと言われるところに、白い点が現れて、ユキ様が何か操作をすると一気にその場所が拡大された。
そこには見覚えのある湖と街が映っている。
「こ、この街はバイデですか?」
「そうだと思う。同じような配置の場所があるかは知らないから、断言はできないけどな。だから、確認だよ。キャサリン殿。自分の街だ。よくわかるだろう? バイデで間違いないか?」
そういわれて、私は凝視して、そのバイデらしき街が間違いなく、バイデなのかを確認する。
まずは、街の中心の領主館。これは同じ配置。
次に湖の漁や物流の港の建物も一致。
門の数も位置も同じね。
「……これは間違いなくバイデだと思います」
「そうか。ならこの地図の信憑性は高いということか」
「どういうことでしょうか? この地図はユキ様たちが作ったものでは?」
「残念ながら、個人で大気圏突破して宇宙から撮影できる変人ではないからな。提供されたもんだよ」
「も、申し訳ございません。浅学の身で言っていることがわかりません」
「あー、気にしないでくれ。今は、この地図に間違いがないか確認するのが大事だ。位置関係もしっかり確認しよう。それが、この地図が正しいものであると、そっちも理解するのに役に立つだろう。そして、俺たちのウィードがある大陸の地図もその流れで正しいものだと理解できるだろう?」
「なるほど」
「そういうことですか」
「そういうことね。なんでこんな地図を見せてきたかわからなかったけど、まずユキが言っていることが正しいのか、私たちの知識を持って、確認させようってわけね?」
「そういうこと。ウィードが同じ世界にあるとか言われるだけじゃ信じられないだろうが、自分が住んでいる国とかの仔細が描かれた地図なんて出されれば信じないわけにはいかないだろう?」
ユキ様の言う通り。
私たちでは、ユキ様が本当のことを言っているのかどうか判断がつかない。
ならば、私たちが理解できることを提示することで、嘘を言っていないという信頼を築くしかない。
それが、今回は私たちが住む大陸の地図ということね。
「まあ、今後の作戦展開の為にも、この確認は必要だからな。他の位置関係もしっかり確認しよう」
そして私たちは、ユキ様が見せてくれる地図の精度に驚かされることになった。
ハイデンの王都はもちろん、カミシロ公爵領、果てはジョージン殿のフィンダール帝国の帝都、帝国領の街や村まで全部確認できていました。
恐らく、上空、空からさつえい?したというのが本当だからでしょう。
帝国以外の他国の見たこともない街や村なども、見て取れて、これが否応なしに本物だと理解できてしまいました。
この、常識はずれの地図にジョージン殿は顔を手で覆って、絶句している。
この技術力はもちろんではあるが、これがあれば敵の重要拠点がまるわかりで、ウィードにこの地図があるということは、戦いでの地の利を握られていることになる。
まさか、ウィードがここまでとは。
「ああ、ジョージン殿。そっちとは手を結びますし、ちゃんと正式な約定、契約が結ばれたあとなら、この地図は提供しますよ」
「「なっ!?」」
「本当ですか!?」
そして、その凄まじく価値がある地図を提供するというユキ様に私やカグラは絶句し、ジョージン殿は喜んでいる。
「しょ、正気ですか、ユキ様!?」
「ユキ!? あんたこの地図の価値がわかってるの!?」
「わかってるわい。だから提供するんだよ。今後の良好な関係の為にな。お互いに戦いたくはないだろう? こんな相手とは」
「うむ。その通りですな。我がフィンダール帝国は必ずやウィードとの友好を望みますぞ」
「な、なるほど。そういうことですか」
「……そうか。そういう考え方もあるんだ」
確かに、このような技術力を提供してくれるのならば、友好でありたいと思うでしょう。
これを独占するのであれば、脅威とみなすのは目に見えています。
「まあ、ちゃんとこちらの地力があるからこその提供だけどな。で、地図の正確性は確認できたし、こちらの、ウィードがある大陸も確認してもらおう。こっちの大陸情勢も耳に入れておきたいだろう?」
そういわれて、頷く私たち。
ジョージン殿はこれから手を結ぶ相手の力を見極めるためにも、カグラもウィードとの付き合い方をどうすべきなのかを、私は、自分が仕える国の力を知るために。
そして、始まるウィードが存在する大陸の情勢はすさまじかった。
ジェシカ様が車内で言われたように、ユキ様の尽力により、3大国やそれに従う小国が、ウィードのゲート技術を利用し、連合を組み、今や、戦争は限りなく少なくなり、トラブルがあれば連合が出て対処するという凄まじいルールが出来上がっている。
それに伴い、盗賊などの犯罪の激減、交易が盛んになり、各国が富み、雇用の増加など、理想的と言っていい国と国の関係が出来上がってた。
地図を見るにウィードがある大陸の大国はどれも、私たちの大陸の国々と遜色ない国土で、現状のゲートを利用して発展しているところを見ると、国力的には相手が上。
「とまあ、こんな感じだな。で、カグラ」
「な、なによ。まだ、何かあるの?」
「いや、注意事項だ。今後召喚は絶対するな。次も俺みたいなのが呼ばれるとは限らない。万が一、ゲートといった移動手段がある相手を呼び寄せたりすれば、国が無くなるどころか、技術格差で大陸すべてを飲み込まれてもおかしくない」
「……ええ。今後、召喚は絶対しないわ」
当然ね。
こんなことが起こりうるのなら、召喚なんていう誘拐は未来永劫認められることはないでしょう。
国を救いたい一心で、大陸を滅ぼすなんてのは本末転倒よね。
カグラの初代様はよほど穏やかだったのか、それとも攫われた苦しみを抑えてこの地に骨を埋めたのか……。
知りたくもないわね。胸糞悪くなるわ。
「でも、これだけ力があって、なんでユキは世界を征服しようとは思わないの?」
「「「はぁー」」」
「な、なんでみんな一斉に!?」
あまりのお子様発言にユキ様、ジョージン殿、私は一斉にため息をついた。
まあ、若い子はそういう夢を見がちよね。
「まあ、若いということですな。簡単な話、物理的にむりですからな。敵国は打ち倒せても、民をまとめられないですからな」
「ジョージン殿の言う通り。ハイデンがいまだ領土が少ないのは人が圧倒的に足りないからよ」
というか、魔術優遇主義が一番のネックなんだけどね。
「どういうこと?」
「いいか、カグラ。人には数限りがある。それで、自分たちと同じような大国を複数相手に勝利を収めて、統治できると思うか?」
「え? できないの?」
「……勝ったところで、人の心までは屈服できないですからな。今後の治安維持などで、人手を取られるばかり。反乱などを示し合わせて起こされればお国の危機となるでしょうな。だからこそ、大国同士の戦いは賠償金や一部利権がある土地の接収などで終わるのです。一気に手中に収めても零れ落ちるのは目に見えていますからな」
「だから、ユキ様は、戦いではなく、連合を組ませることを思いついたのよ。各国同士を監視役として、それなら無駄な敵国の統治なんてのに手を煩わせる必要がないから」
「……そう、なんだ」
カグラも戦術は学んだんだろうけど、人心掌握とか、領地の運営のノウハウを知っているわけはないわよね。
まだ学生だし、次女らしいから、しかたないわね。
「しかし、驚きだ。俺の占領が面倒だっていう話を理解してくれるとはね。うちの嫁さんたちも当初は世界征服だー!! って言ってたんだけどな」
「奥様達のことはよく存じませんが、前線勤めですからな。現実は見えています」
「そうですね。ユキ様の奥方様は元大国のお姫様とか、そういう世界を手にというのは王者であれば夢を見るものでしょう。このような力があるのであればなおさら。まあ、現実的ではありませんが」
人手が圧倒的に足りない。
そんなことをするなら、自国の印象を良くし、国を富ませることに力を入れた方がいい。
戦争なんてのは、国力を消費する最後の手段というのを、理解している者はすくない。
だから、ハイデンの後はないのだ。
勝っても負けても、最後は破滅しかない。そんな道を歩んでいるところについて行く気はない。
「さて、これでウィードの情勢はわかってもらえたと思う。物資は潤沢ですぐに運びだせるから、そういった方面での心配はないな」
心配どころか余裕です。
一国どころか大国が複数もバックについているとか、ありえません。
そして、戦力的にはユキ様たちだけで、勝利を収めるほどの実力がありますし、ウィードの勝利は揺るがないでしょう。
ですが、先ほど言ったように、私たちでハイデンを潰してしまうのは面倒でしかない。
後々の統治に問題がでるばかりか、帝国に倣って、他国もこぞって領土を奪いに来て、下手をすると大規模な戦いに発展しかねない。
そうなると、面倒極まりないので、何としても、ハイデンで幽閉されている王妃様を旗に旧王家派が現王家派を抑えてくれるのが一番。
「これにて説明会終了。あとはのんびり観光をって言いたいんだが、最後にもう一つある。俺が何度か3人に聞いた魔物の存在だ」
「魔物? ですか」
「そういえば言われていましたね」
「おとぎ話の化け物がどうしたのよ?」
魔物が一体どうしたのでしょ……まさか!?
私が、気が付いたと同時に、ジョージン殿も顔を蒼白にしている。
カグラはいまだにピンと来てないらしいけど、ユキ様がそういう風に聞くということは……。
「この大陸には魔物が存在している。こんな風にな」
すると、ユキ様の周りがいきなりぼやけて、巨大な蛇が現れ……、いや、周りにどんどん異形の怪物が!?
「ひっ!? く、首がない騎士!?」
「な、な、なんだこの大きな黒い狼は!?」
「人の下半身が蜘蛛に!?」
気が付けば、周りが怪物で囲まれていた。
そのどれもが、威圧、殺気がものすごい。
戦いになれば、一瞬で私は自分が死体になるのがわかる。
それはジョージン殿やカグラも同じで、青ざめた表情で辺りを見回している。
そんな恐怖の中、場違いな声が響く。
「はーい。みんな、そこまでだよー」
「これ以上はだめなのです」
「そうね。漏らしちゃうわ」
「皆さん。ご協力ありがとうございます」
聞き覚えがある幼いかわいらしい声が複数。
その声が響いた瞬間。
周りを囲んでいた怪物たちが、一斉に引いて、頭を下げた。
そこでようやく、私は扉からあの子たちが入っていることに気が付いた。
「あ、フィーリア!?」
「ラビリス様!?」
「シェーラ様!?」
そこには、ユキ様と一緒に召喚に巻き込まれバイデに来ていた、ものすごく強い幼女たちがいた。
でも、最初に声を上げて入ってきた子はよくわからない。
アスリン様に似ている気がするのだけれど、アスリン様は少女であそこまで幼くはない。
私がどう声をかけたものかと思っていると、カグラが恐る恐るそのアスリン似の子に声をかける。
「ね、ねぇ。あなたはアスリンの妹?」
「うにゅ? ……あー、違うよ。わたしがアスリンだよ。今はこうやって小さくなってるの。お兄ちゃんにだっこしてもらえたり、みんなに簡単にのれるから。よっ」
「え!?」
そういって、アスリンと名乗る少女は、黒い大きな狼にまたがり、それも当然のように受け入れた狼は立ち上がり、咆哮する。
オオーーーン!!
なんて、すさまじい……咆哮だけで、体が竦む!?
そんな恐怖を抱いていたのに。
「うるさい。アスリン」
「はーい。駄目だよクロちゃん。他のみんなにも迷惑だから。めっ!!」
「きゅーん」
アスリン様?に叱られて、悲痛な声を上げる狼がいた。
色々な意味で当然な話。
国力差も、技術差も、戦力差も、魔物も。
で、最後にでてきたのは、アスリン直属の十魔獣とか、霧華とか、シャドウスネークのシロちゃんだったりする。
久々の搭乗。




