第503堀:恒例のお約束
恒例のお約束
Side:カグラ・カミシロ ハイデン所属 カミシロ公爵家次女
「何、あれ」
私がそれを見た時の言葉はそれだった。
いや、仕方ないと思う。
だって意味わからないんだもん。
門みたいなところはなんか青白い光に包まれていて、そこから沢山のオークが出たり入ったりしている。
しかも、そのオークたちも妙な服を着ている。
鎧でもない、へんてこなポケットがいっぱいある服。
背中には変な武器?槍みたいなものを担いでるし。
「あれが、ウィードとの出入り口、ゲートだな。遠くの場所へ一気に移動ができる魔法技術だ」
「素晴らしいですわ。これがあれば、バイデは物資に困ることはないということですね」
「まあ、包囲されても枯渇することはないな」
「ははは、やりにくい話ですなー。そして、物資どころか、援軍もくるのでしょう?」
「そりゃもちろん」
なんか、気が付けば、帝国軍の大鷲ジョージン殿までいるし。
確か私は、護衛のリーアとジェシカにキツイ一発をもらって、謝って、ハイデンへ協力の話をしてたはずなんだけど……。
「で、今からあのゲートをくぐって、ウィード、つまり俺たちの本拠地へ来てもらう」
「え? なんで?」
「なんでって、こっちの力をしっかり把握したり、国を確認したほうが、そっちも安心できるだろう?」
「あー、言われてみればそうね」
「まだ、忠誠を誓ってわずか数日。それで王都に招いてくれるその心の広さに感謝いたします」
「わしとしても、さらに説得材料が増えるのでありがたいですな」
……ねえ。
2人とも、召喚した人たちがすぐに故郷と連絡を取れたり、行き来できることに何か言うことはないの?
おかしいでしょ、これ!?
そんなことを思っていると、不意に肩に手を置かれる。
誰かと思って振り返ると、ジェシカだった。
「……な、なんですか」
先ほど、思いっきりビンタされたことを思い出して、体が強張る。
「そう怖がらないでください。先ほどの一撃で私は終わりにしていますから。無論リーアも。そちらの事情も把握していますので」
「そ、それはありがとうございます」
「で、今はそういう話ではなくて、おそらく、現状の展開についていけてない。そうですね?」
「は、はい。浅学の身なので」
「そこは、仕方がないというか当然です。キャサリン殿とジョージン殿が恐ろしく、柔軟なだけですから」
「は、はぁ?」
いったい何がいいたいのか、よくわからないでいると、その話を聞いていた、キャサリン様やジョージン殿が話に加わってきた。
「まあ、普通ならこんな話は信じないわよ。でもカグラ。目の前で起こってることを否定しても仕方ないのよ。現実を受け入れて、最善を尽くさないと。常識なんてのは領地繁栄に通用しないんだから」
「確かに、領地の繁栄を促すために当たり前のことをしていては、普通の成果しかだせませんからな。まあ、長い目でというとわかりませんが、目の前を泳いでいる大魚を逃すような領地が衰退するのは目に見えておりますな。無論、戦いもしかり。目の前の現実を受け入れて現状を正しく把握しなければ、無駄に部下を死なせることになりますからな。まあ、お若いカミシロ殿にはよい経験でしょう。といっても、私もこのような展開は長く生きてきて初めてですがな。わっはっは!!」
「は、はい!! 勉強になります!!」
なるほど、2人もわけわからないのは同じで、それでも必死に受け入れて前に進んでいるのね。
確かに、私がわめいても、話は先に進まないし、予定が遅れるだけね。
「って、そういえば、ジェシカ様はなんで私の考えていることがわかったんですか?」
「私も昔はユキと敵対していまして、同じような状況でしたから」
「……へ?」
「そして、カグラ、キャサリン殿、ジョージン殿、これらはまだ序の口です。ウィードは想像をはるかに超えてきます」
「はい。覚悟しておきます」
「はっはっは。この老人、驚きすぎて死なぬよう構えておきましょう」
「……これで序の口って」
「で、あと、カグラに注意があります」
「なんですか?」
「敬語は不要です。リーアと話しましたが、あなたの安全のために、仲良くした方がいいでしょう」
「どういうことですか?」
私が首を傾げていると、黙っていたリーアが口を開く。
「簡単だよ。ユキさんの奥さんは私たちだけじゃないから、カグラに恨みがあるのはまだまだいるってこと。私たちはビンタで済ませたけど、下手すると首が落ちるかもねー」
「……」
「こら、リーア。脅かすなよ」
「えー。でも、ユキさん。可能性はありますよ」
「ゼロではありません。というか、ビンタで済ませるといっても加減ができるかもわかりませんからね。私たちと一緒にいた方がいいでしょう。安全策としてはそれがいいかと」
「わかった。カグラに死なれるわけにはいかないからな。2人でカグラを守ってやれ」
「はーい」
「了解しました。ということで、カグラは私かリーアの傍を離れないようにしてください」
「わ、わかったわ」
ねえ、奥さんが沢山ってことに誰も何も言わないの!?
だって、バイデに一緒に来たのも奥さんたちって聞いたわよ。
一体何人いるのよ!?
「……もしかして、私。貞操の危機?」
ぼそっと呟く。
ユキは今、キャサリン様やジョージン殿にウィードの話をしている。
その顔はまじめだけど……。ほら、私、日本人っぽいし、自分で言うのもなんだけど、美人だし?
ユキが女を漁る趣味があるなら、襲われる?
でも、私が体を捧げれば、ハイデンは助かるかもしれない?
「それはないよー」
「ありませんね」
「……どうして? 沢山、奥さんがいるんでしょう?」
「ユキさんは結構堅物だからねー」
「やむにやまれぬ事情がない限り、そういうことはしないですね。あとは利用しまくった末の、責任取りという形ですね」
「まあ、それだと愛が無いように聞こえるけど、ちゃんとラブラブだから問題ないの。根っこはとても優しい人だからね」
「基本的に、ユキは一人で色々やるのが好きなので、私たちとしては非常に心配なんですけどね」
「は、はあ。そうなの……」
意味が分からない。
なに、利用しまくった末の責任取りって?
どういう状況で奥さんが沢山になるのよ。
ユキが女好きってことじゃないの?
「……なんか不穏な話が聞こえるが、カグラ」
「な、なに?」
「そういうことはしないから心配するな。というか、そっち関係はことわるからな。ハイデンを助けてほしくば、ちゃんとした利益を用意するこった。カグラなんかと結婚した暁には、どう考えても、ハイデンの政治に巻き込まれること確定だからな。こっちから願い下げだ」
「……まあ、巻き込まれるのは当然よね。でも、なんでウィードはハイデンを欲しがらないの? そこがわからないわ。私との婚姻だって、ハイデンを手中に収めるならいい手でしょう? 手中に収めなくたって、ハイデンと良好な関係を保つためには悪くない話だけど?」
私はユキの言葉からにじみ出る真剣さで、貞操の危険はないと思ったけど、なぜユキが、ハイデンとの関係を強化できる私との婚姻を嫌がるのか、よくわからなかった。
私だって公爵家、しかも特殊な公爵家、初代様の血筋という英雄の家系。
政略結婚なんて当然だから、お偉いなんてそんなもの。
だから、それを拒否するユキがウィードのトップとして不思議だった。
「それは、ウィードを見てから言ってくれ。こっちもこっちでクソ忙しいんだよ」
ということで、ようやくゲートをくぐろうとして……。
得体のしれない、青白い光が満ちるゲート前に、私を含めて、キャサリン様、ジョージン殿も立ち尽くす。
流石に、2人も得体のしれないものに身を投げることまで躊躇いがないわけではないみたい。
「……ここは定番になりつつあるな」
後ろでユキの声が聞こえてきて……。
「混雑してますので、前に進んでくださいねー!!」
ドンッ。
蹴られた!?
「ちょっ!?」
「ユキ。もう少し穏便な方法はないんですかね?」
「時間が押してるから仕方がない」
「あははー。ユキさんは変わらな……」
リーアの言葉は最後まで聞き取れなかった。
いきなり、ぶつっと音が消えて……。
ドテッ。
「あいた」
地面に転がった。
「……本当にユキがよくわからないわ」
私は起き上がりながら、服についた汚れを叩いて落とす。
丁寧かと思えば、いきなりこれよ。
あ、そういえば、先に蹴られた2人は、と思って顔を上げると、そこには見たこともない街並みが広がっていた。
私たちの様式とは全く違う、建物ばかり。
つなぎ目の見えない、綺麗な壁でおおわれている大きな建物たち。
レンガを積み上げずに、どうやってあんな綺麗な一枚岩を用意できたのかしら?
「……-い。おーい。ボーっとしないでくださいね。また蹴りますよー」
「はっ!? 申し訳ありません、ユキ様。初めて見る風景だったもので」
「いや、これは申し訳ない。このような大きな建物、城以外では初めて見まして、しかもあの建物の骨組みは木ではない、鉄ですな。あのように鉄を加工して使えるとは……。いやはや、驚きです」
「……ここがウィードなの?」
「いや、ここは軍事施設。一般の住まいはそっちとそうそう変わらんよ。まあ、電気とかもあるから夜でも明るいけどな」
「でんき?」
「そういう説明はあとでな。まずは移動するから、おーい、ジョン。手配してた車あるか?」
そうユキが建物の奥に呼びかけると、なにか変な箱が走ってやってきた。
それは目の前で止まって、中にオークがいることに気が付いた。
これ、乗り物?
「はい。どうぞー。でも、大将。アイテムボックスにあるでしょうに」
「お前らの紹介もあるんだよ。さて、こいつが、現在ウィードとバイデの物資運搬を担当している、ベジタリアン……なんとかオークのジョンだ」
「紹介をすっげー適当にするのやめてくれません?」
「それなら勝手に進化するのやめてくれ」
「Bキャンセルがあればよかったですがね。と、魔物軍の将軍を担っているジョンです。よろしくお願いします」
なんかよくわからない話をしているうちに、ジョン将軍はそういって頭を下げる。
「あ、どうも。カグラ・カミシロと言います」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私、この度ウィードの傘下となりましたバイデの領主、キャサリンと申します」
「この老人が、帝国軍のジョージンと申します。いやー、仕える国は違えど同じ将軍として、仲良くやっていただければ幸いです」
「ご丁寧にどうも。まあ、何かあれば将軍のジョンにと言えば通じますから。頼ってください。では、ウィード観光を楽しんでください」
「一応会談がメインだからな?」
「観光も兼ねているでしょうに。あとでキュウリの漬物とどけますわ」
「いらん」
「ひどい!? なんで大将やスティーブたちは……」
なんか言い争いが始まった。
でも、ジェシカやリーアは止めることなく……。
「さ、車に乗ってくださいねー」
「こちらから乗ってください」
「あ、どうも。って、ほっといていいの?」
「ああ、いつものジョンの病気ですから。気にしないでください」
「病気? どこか将軍はわるいのですか?」
「そのようには見えませんでしたがな……」
「ああー、そういう病気じゃないですよー。好きな食べ物をみんなに無理やり食べさせようとする癖がありましてー」
ああ、そういう病気ね。
たまにいるわよね。
そんなことを考えていると、すぐにユキが箱の乗り物に乗り込んできた。
「もういいの?」
「ああ。お約束みたいなネタだからな。これで多少は緊張も解けただろう?」
「あ……、うん」
「ならよかった。じゃ、ジョン行ってくるわ」
「はい。お気をつけて。でも、漬物は送りますわ。晩御飯の一品増やしってことで」
「了解。キルエがいる庁舎の方に送ってくれ」
「あいよー」
そういって私たちは勝手に動く箱の乗り物に乗って、ウィードの街へ向か……。
「は、速い!? 速すぎない!?」
「こ、これは、こんなに速いのに、馬車みたいに揺れない!?」
「ほほー。これは凄まじいですな。色々用途が多そうだ」
何、なんなのこれ!?
どうやって動いてるの!?
なんでこんなに速いの!?
「……うるせー」
「仕方がないでしょう」
「普通はこうなりますよ」
「はぁ、説明という仕事が増える」
「「あきらめてください」」
悪かったわね!?
でも、ちゃんと説明しないと安心できないわよ!?
welcome!!
って感じですよねー。
他のお客様のご迷惑になりますので、出入り口では止まらず進んでください。
なんてアナウンスはよくあるよね。
そして、そういうのがいると実際すごくイラっとする。
さあ、始まりました、ウィード観光!! の前に多少説明会がありますけど。




