落とし穴61堀:お花見と誕生日会
落とし穴61堀:お花見と誕生日会
Side:セラリア
季節は巡る。
それを今程実感したことはないと思う。
だって……。
ザァァァ……。
そんな風音と共に、舞い上がる桜の花。
「ごい!! ごい!!」
私の腕の中で、その桜吹雪を見て嬉しそうにしている娘がいるから。
「すごいわね。サクラ」
「あい!!」
そう、サクラとスミレが生まれてもう一年が巡った。
少し遅れてエリア、シャンス、ユーユ、シャエルも生まれたけどね。
まあ、誤差の範囲ということで、今日、皆の誕生日会をやろうって……。
「よーし、お前等しっかり準備しろよ!!」
「「「イエッサー!!」」」
夫が張り切っているのよ。
まあ、スティーブたちまで引き連れて。
「旦那様。嬉しそうですね」
「あう?」
ルルアがスミレを抱えて、私と一緒に夫を見て呟く。
「そうね。私もそれは一緒なのだけど。流石に、夫ほどではないわよ。子供たち全員の誕生日会を開くとか言ってたから、皆で慌てて止めたのを覚えてる?」
「あははー。お兄さんの気持ちは嬉しいですけど。それだと、4月には子供たち6人分もやることになりますからね。祝い事はいいかもしれませんが、限度もありますし」
「そうですね。私たちの仕事量からも考えて、そこまで時間を割くわけにもいきません」
「というか、それだけ誕生日会やっておったら、これから生まれてくる子供たちの分もあるから、毎日とは言わんが、毎月数回はありそうじゃからな……」
「流石にそれは避けなくてはいけません。毎月まとめて祝うという形にしなければ、旦那様は世界そっちのけでやるに決まっています」
気が付けば、子持ちのメンバーがそろって、旦那を見てそんな話をしている。
……冗談に聞こえないのが怖いわよね。
ヒフィーの時だって、娘が喋ったことを伝えたら、わざわざヒフィーたちを封殺して戻ってきたんだから。
夫にとって世界の趨勢より子供や私たちの方が大事なのよねー。
嬉しいのか悲しいのかわからないわ。
まあ、クソ親父みたいに、仕事一辺倒は嫌なんだけどね。
ふふっ、私ってわがままね。
「あ、セラリアさん。どうも」
そんな言葉をかけられて振り返ると、夫と同じ地球は日本出身のタイキ君がそこに立っていた。
彼も、この世界の勝手な事情に巻き込まれ呼び出された一人だ。
申し訳ないと思いつつも、夫の同郷の知り合いがいることに安堵もしている。
「勇者様にわざわざご足労いただいて感謝しますわ」
「やめてくださいよ。今日は公式ってわけでもないでしょうに。表向きな立場は勇者ですけど、裏的な意味で言ったら、ユキさんがトップでしょう?」
「そういうのなら、今日はタイキで通すわ。いいかしら、アイリ?」
「はい。セラリア様」
「お互い、妙な夫に苦労するわね」
「そうですね。でも、誇らしくもあります」
そう言って笑い合う。
この子は私と違って一人でタイキを支えているのだから凄いものよね。
「ほー。あの時用意してもらったダンジョンとはまた趣が違う。なんというか、より日本に近いというか……」
「これが、タイゾウ殿のいた日本の風景なのですね……」
「凄いねー。春の一時しか咲かない木の為に用意した道かー。無駄に思えるけど、実際見てみると違うなー。圧巻という奴だね」
と、今度はタイゾウたちも来たみたい。
「ようこそタイゾウ殿。よくぞ来てくださいました」
「や、これはご丁寧に。この度は、ご息女の誕生日を祝う場に招待いただき、感謝を申し上げるとともに、心よりお祝い申し上げる」
ヒフィーとコメットは桜の風景の見事さに見惚れていてこちらに気が付いていない。
まあ、仕方ないわね。
流石にこの場所は幻想的と言ってもいいくらいだもの。
しかし、タイゾウ殿は硬いわね。
いえ、普通ならこういう挨拶が当然なのでしょうけどね、ほら……、夫のノリがね。
「泰三さんも来たんですね」
「ああ、タイキ君か。それは当然だろう。いくら緊迫した状態とはいえ、禁欲というのは続けられるものではないし、こういう祝い事は荒んだ心を和らげる。生まれてきた命を祝福することは悪いことではない。いや、こういう時だからこそ、祝うべきだと私は思うよ」
「泰三さん……」
「そう言うしんみりした話でもない。ほら、サクラ殿やスミレ殿、他の幼子たちも笑っている。これこそ本来私たちが守るべきものであり、明日への活力であり、誇りなのだ。違うかね?」
「……そうですね」
……タイゾウ殿らしいわね。
凄惨な戦争を知っていて尚、いえ、知っているからこそなのでしょう。
「と、セラリア殿。申し訳ないが、ちょっとした食べ物を用意させてもらいました。どちらに持っていけばよろしいでしょうか?」
「あ、それなら、夫に……」
「お、タイキ君もタイゾウさんも来たな。2人とも手を貸してくれ。男手が少ないからな」
「わかりました!!」
「よしきた!!」
あら、男で集まってなにかするみたいね。
まったく、こっちの気も知らないで。
「……タイゾウ殿は楽しそうですね」
「そうだねー。うちにいた時は難しい顔ばっかりだったからね」
「タイキ様も最初の頃は思い悩んでいました」
「私の夫も……あんな顔はしなかったわね」
最初の頃とか、私ですら邪険にしてたものね。
まあ、当然よね。
敵か味方かもわからないし、私の態度もひどかったもの。
それから考えれば凄い前進よね。
既に結婚して、子供もいるのだから。
「まんま?」
「何でもないのよ。パパ楽しそうよね」
「あう? さくーら!!」
サクラはそう言って、目の前に舞い散る桜の花びらに手を伸ばす。
まだ難しいことは分からないわよね。
「うー!! うー!!」
「ん? どうしたのじゃ、ユーユ?」
「ままー!! あれ!!」
「スミレちゃんあれって? へ? 旦那様たちがなにか樽を運んできてますよ!?」
「はい?」
私もスミレが言う方向を向くと、夫たちが何やら、大きな樽を1人ひとつずつ運んでいるのが見えた。
「お兄さん。なんでまたお酒なんか?普通にビールとかワインはもう持ってきていますよね?」
「もってきてゆ」
「はい。既にお酒類も全て運んできておりますが……。なぜわざわざ?」
「なじぇー?」
なるほど、あれは酒樽なのね。
でも、普通の酒樽よりやけに色が薄い気がするのだけれど。
ラッツもキルエも娘と一緒に首を傾げているから、予定外の物ってことで間違いないみたいね。
「ねえ。あなた。それどうするの? 見たところ酒樽みたいだけど。お酒はもうあるわよ?」
「ん? ああ、セラリアは知らなくて当然だな」
「そうですね。セラリアさん。これ、俺たちの世界……じゃなくて、日本では祝い事の時にやるんですよ。鏡開きって……あれ? それって餅でしたよね?」
「間違いではないよ。鏡抜きとも言ったりするが、結局意味が伝わればいいのさ」
「なるほど。日本の伝統というものかしら?」
「そうですな。本来であれば、祝い人の分、酒樽を持って、割るべきなのですが、相手が幼子でありますし、男手も3人ということで、この数になりました」
「まあ、こっちの伝統も色々あるんだろうけどさ。俺の故郷の祝い事もしていいんじゃないかって思ってな」
相変わらず、こういうことは変に力を入れるんだから。
「子供たちのことを思ってのことだし、寧ろ嬉しいわ。で、これはどうするのが正しいのかしら?」
前に置かれた酒樽をみて、夫に尋ねる。
「いや、すまん。この手の行事はよくわからん。ただ上を木槌で割るぐらいしか……」
「はい?」
珍しい。
夫がこういう祝い事のやり方を知らないなんて。
日本でもあまりメジャーではないのかしら?
「無理もない。本来であれば、武士の祝い事だからな。近年は主に、職場、選挙、戦勝祝いで用いられることが多い。まだ若いユキ君はこの手の幹事に回ったことがないのだろうから、やり方の詳細を知らないのも無理はない。と言っても、難しいルールなどあってないようなもので、概ねユキ君のやり方で間違っていない。セラリア殿、これをお持ちください」
そう言ってタイゾウ殿から渡されたのは、結構ずっしり来る木槌だ。
「でも、これでは樽は割れないと思うけど?」
ずっしりくると言っても、木槌だし、この程度の槌で割れるような樽は強度上問題がある。
「ああ。上の蓋部分に振り下ろすぐらいで割れますよ。これは、そいういう代物なのです」
「それでやけに新品同様だったのね」
「ええ。と、本来であれば、当人であるサクラ殿に木槌を振るって、割ってもらうのが正しいのですが、流石にそれは無理ですので、御母上であるセラリア殿が代わりにお願いいたします」
「そうね」
「まんま!!」
あと二つの樽にも、ルルアとデリーユが木槌を持って前に立つ。
「では、ご準備が整いましたので、僭越ながら、新参者であるわたくし、本目泰三が司会を務めさせていただきます」
そう言われて、なぜか、皆は空のグラスを持たされてタイゾウ殿の話を聞く。
「今日、この良き日に、桜が満開し、齢1を数えた新しい命を祝い、皆々様方、これからの栄達を願い、鏡開きをお願いいたします」
「じゃ、セラリアたち。木槌をドーンと」
「ええ」
「わかりました」
「うむ」
3人でそろって木槌を振り上げ……。
ガコン!! ジャプン!!
「うひゃ!?」
「あら」
「わぷ!?」
思ったよりも簡単に蓋が割れて、中のお酒に木槌を思い切り叩きつけた結果、酒の飛沫が舞い、私とデリーユに降りかかる。
ルルアだけは、そこまで力を入れていなかったようで、被害を受けていない。
……違うのよ。これは力馬鹿とかではなく、思い切りやらないと、と思ったからで、決して、私が力一辺倒というわけではないの。
「まま?」
「おみじゅ」
「ぬれぬれー」
子供たちには幸いお酒はかかっておらず、私たちを心配したり、眼下に広がるお酒をみて驚いている。
「力入れ過ぎたな。ほら動くな」
「あう」
何か言う暇もなく、そのまま夫にタオルで拭かれていく。
「ユキー。妾も濡れておるぞー」
「はいはい。ちょっと待ってろ」
「あ、あの、旦那様。わ、私も……」
「ルルアは濡れてないだろ。間違っても酒をわざと被るなよ?」
「……はい」
そうやって私たちが夫に優しく拭かれている間に、空のグラスを持った皆が集まってくる。
「さ、皆様方。このお酒を始まりに、花見と、誕生日会を始めましょう」
タイゾウはそう言って、ミリーから空のグラスを受け取り、柄杓で酒樽から酒を入れる。
その瞬間、良いお酒の香りが更に広がる。
「うっわー!! タイゾウさん。これって日本酒ですよね!? しかも、かなりいいやつ」
「ええ。よくお分かりですね。ユキ君がいいものをこの酒樽3つ分も詰めてくれたんですよ。外国の酒もいいですが。花見ですからな。始めはやはり清酒ということで」
そんな話をしながら、他の皆も酒をグラスに入れては美味しそうに飲んでいる。
子供たちも、用意されたケーキを、顔をベタベタにしながら食べている。
キルエやサーサリがどのタイミングで顔を拭いていいのか悩んでいるわね。
「ほら、セラリア。お酒」
「ありがとう」
「のむー」
渡されたグラスにサクラが反応して手を伸ばす。
「サクラにはちょっと早いわね」
「うー」
私がそう言って、グラスをサクラから遠ざけると、今にも泣きそうな声をだす。
そんな時、風が吹き、一面が桜で覆われる。
ブァッ……。
その光景に皆見惚れる。
「春だな」
「春ですね」
「ああ、春だ」
男三人はそう言ってグラスをカチンと打ち鳴らせて、飲む。
と、なぜか夫だけは飲まずに、こちらに戻ってきた。
「どうしたの?」
「ぱぱ?」
母娘で仲良く首を傾げていると、夫はグラスに浮いている桜の花びらを取ってこちらに差し出す。
「アルコール浸けで消毒もされているから、良いだろう。これも風流ってもんだよ。ほら」
差し出される花びらを躊躇いなく、夫の指ごと口に含む。
ほんのり桜の香りと酒の味が口に広がる。
「悪くないわね」
「だろ。ほら、サクラも」
「あむっ? ……ぺっ!!」
サクラの口には合わなかったようで、すぐに吐き出す。
やっぱりまだお酒は早いわね。
さてさて、皆々様方、お花見はしたでしょうか?
それともまだ満開には遠いでしょうか?
九州は福岡ではすでに満開で、4月1日を花見ネタにさせていただきました。
いや、ある意味ちょうどいいですね。
さて、先ほどもも言った通り4月1日。
エイプリルフール 笑らえる嘘ならOKという日です。
先に言っておきましたからね?
嘘ですよ。
なんと、必勝ダンジョン運営法漫画化決定!!
なわけあるか。
はい。嘘はおわりです。
アニメ化とかも面白いと思ったけど、まあやりすぎはよくないと思った。
嘘から出た真とかを期待している人がいるかもしれんが、いままでモンスター文庫からの漫画化はないからアキラメロン!!
はい、でさらに後書きは続きます。
4月1日をもって活動報告で集めていた、同人原稿締切日です。
だが、思ったよりも集まらなくてこれじゃ俺があと1万文字ぐらい書かないといけないんで、4月3日まで伸ばすわ。 文字数基本5000文字以内2000文字以上な。
ふう、長かったな。
じゃ、また次回!!




