第301堀:飛龍隊
飛龍隊
Side:スティーブ
「ブリット、状況どうなっているっす」
『準備は半分と言ったところです』
「もっと急がせるっす。大将たちが偵察に出る前に、高高度偵察を行うっす。アスリン姫たちを危険に晒すわけにはいかないっすよ!!」
『分かってますって』
そう言って連絡が切れる。
おいらは、執務室でイライラしている。
こっちは書類の決裁は終わって、さっさと出撃する準備は終わっている。
だって、大将の話だと、敵には銃を使う物騒な連中がいるらしいっす。
そんな危険地帯にドッペルとはいえ、アスリン姫たちが行って、万が一銃弾なんて浴びたらぞっとするっす。
そんなことは許されざることっす。
あ、大将とかその嫁さんたちはどうでもいいっす。
そのぐらいのことはどうにでもするし、対処しているだろうから。
大事なのは、アスリン姫たちに怖い思いをさせない事っす。
ということで、銃器とか物騒なものを使う敵は、さっさと偵察して、イケそうならおいらたちで殲滅するっす。
情報収集を兼ねているっすから、何も問題ないっす。
「しかしよ、スティーブ。何で大将は実力行使ができそうなら、情報収集とかねて敵を撃退していいなんて言ったんだろうな?」
横で待機しているジョンはキュウリをかじりながら不思議そうに言う。
そう、ジョンの言う通り、情報収集の結果、おいらたちの偵察戦力で撃退できそうならそのまま攻撃に転じていいと許可と、命令が出ているっす。
「なにをいっているっすか。アスリン姫を危ない目に合わせないためっすよ」
「いや、それは分かるが。動かすのは飛龍隊だろ?」
「そうっすよ。アスリン姫が全員名前を付けた、高速、高高度飛行可能な、ジェット戦闘機までの速度はないっすけど、ゼロ戦ぐらいには動けるように装備品でフォローしている。虎の子部隊っすよ」
約時速500キロ、この世界で間違いなく最速に近い。
まあ、航行距離速度の話であって、戦闘速度は大将たちの方が上っすけどね。
あ、おいらたちもだけど。
無論、ゼロ戦の最大の弱点、降下性能と装甲もばっちり。
ゼロ戦ができた当時は最強の名を冠する戦闘機として君臨していた。
だが、そのゼロ戦にも弱点が存在していたっす。
言った通り、降下性能と対弾性能、装甲である。
当時の連合側にはゼロファイター、つまりゼロ戦と出会ったときは戦闘せず逃げろと言われたほどに、性能に差があった。
色々諸説あるが、ゼロ戦1に対し、連合側は5を用意して対等などと言う話もある。
さて、性能に差があるのであれば、逃げ切れるわけもないのだが、言ったように降下性能と対弾性能が良くなかったため、降下すれば何とか逃げられたのだ。
さて、その原因だが、まず最高速度と運動性能を出すため、徹底した軽量化が図られた。
その結果、高速での降下性能が著しく低下し、軽量化のため対弾性能が極端に低下したっす。
降下性能はヘタすると降下中に空中分解をし、装甲は弾の一発でももらえば貫通して、パイロットにダメージが来る薄さだったらしいっす。
まあ、難しい内容っすけど、大将曰く、二次大戦最強の戦闘機だぜ!!ってことらしいっす。
単純な答えでありがたいっす。
いや、飛龍っすけどね。
大将的には、完璧なゼロ戦、飛龍隊って感じなんでしょうが。
「だからだよ。虎の子を出すのはまあいいけどさ。飛龍はワイバーンよりも2つ上ぐらいの上位種だぞ。ワイバーンで騒いでいるのに、あの新大陸で飛龍なんか見たら大騒ぎじゃね? そうなると色々と不味くないか? その飛龍に対して連合が組まれたりするかもしれないじゃん? だって、敵を攻撃するんだから、どう考えてもアグウストやヒフィーの軍には見られるんだしよ」
「ああ、そっちのことっすね。大丈夫っすよ」
「大丈夫なのか?」
「大将がそんなことを考えていないわけないじゃないっすか」
大々的に手出ししていいなんて大将が言うんだから、フォローがないわけがない。
もう、これでもかってぐらい、納得の答えだったっす。
「大将の考えでは……」
以下、当時の回想っす。
「ええ! 飛龍隊を出すんすか!?」
『ああ、それで頼む』
「えーっと、それは新大陸の常識からぶっ飛んでる気がするっすけど。鷲とかの鳥の偵察隊でいいんじゃないっすか?」
『偵察だけならな。銃を使っているから、下手すると、こっちの偵察を察知される可能性がある。鳥だと、攻撃されてやられかねない。かといって怪鳥、魔物タイプの鳥を送り込むのも問題だ』
「いや、なんでっすか? 銃を使っているとなんで偵察が察知されるんすか? 怪鳥タイプの魔物の何が問題っすか?」
鳥タイプの怪鳥なら、銃撃でも十分耐えられる魔力障壁が張れるっすよ?
偵察も十分できるし、攻撃力も飛龍ほどではないとはいえ、しっかり強い。
『銃を作れるってことは、もうこの世界の戦闘スタイルとは隔絶しているっていうのは分かるな?』
「そりゃ、隊伍組んで突撃―なんてのは的にしかならないっすからね。銃の前には」
『その銃を、超射程の武器を有用に使うためには、何が大事かわかるな?』
「敵の位置の把握、情報っすか?」
『そうだ。そのために、こっちもダンジョン化やスキルでの気配察知や魔力察知で、敵の動きを把握できているようにしている』
「……敵も索敵に力を入れている可能性があるってことっすか?」
『そう言うことだ。そして、戦力を出し惜しみしているのは俺たちだけではない可能性も高い。相手が手の内を全部だして攻めてきていると思えるか?』
「いや、それはあり得ないっすね。手の内を全部晒すなんてことは自殺志願レベルっすし」
『だろう。まあ、航空戦力という単位が存在するとは思えないけどな』
「なんでっすか?」
『戦力という、軍や隊単位が揃っているなら、既に空中から攻めているっていう話があるはずだ』
「ああ、そりゃそうっすね。つまり、ポープリさんみたいに、個々で飛べる奴がいるかもしれないってことっすね?」
『ああ。そのレベルの手札が紛れていた場合。こっちの手がばれて、情報も収集できない可能性がある。そのために飛龍隊を使う。そして、お前やジョンに出撃命令をだしているんだ。だから、新大陸で公開してもいいわけが立つ最高戦力、飛龍隊を選んだってわけだ』
「で、どこが飛龍隊は大丈夫って言い訳になるっすか? どう考えても、新大陸の状況から考えれば、大怪獣来襲レベルっすよ? まあ、グラウンド・ゼロレベルではないっすけど」
あのアルフィンとグラドは現在、ウィードの学校で仲良くやっている。
呼び捨てになったのは、おいらがよく面倒を見ていて、さん付けすると悲しそうにされるから。
でも、おいらは紳士なので、やましいことは考えていないっす。
だって、ちょんぎられるから。
『そうだな。言い訳にできるというか都合がいいって言った方がいいかな?』
「都合が?」
『ああ。そうだなー。大まかに3つぐらい都合がいい理由がある』
「3つもっすか」
『まず1つ目。飛龍とワイバーン。どっちが上とか下とか、新大陸の人は分からない』
「そりゃそうでしょうよ」
『だから、アマンダの配下ということにできる。都合がいいことに竜騎士だからな。ワイちゃんは実は、飛龍の長ということで、主の未曽有の危機に際して部下を呼び寄せたということにできる』
「それは、アマンダさんは恐縮しまくって、ワイちゃんは立場上、上の飛龍隊に命令を出す立場になって胃がぶっ壊れそうっすね」
ワイちゃんは飛龍隊で散々しぼられたから、上下関係はしっかりトラウマになっている。
まあ、命令には飛龍隊も納得するだろうし、いじめなんてのは無いが、ワイちゃんはアマンダさん以上に、胃が痛いでしょうな……。
とりあえず1つ目の理由は分かった。
『で、2つ目。竜騎士アマンダの配下と認められなかった場合は、それこそ自由に暴れまわってさっさとヒフィーを落とせるなら落とす。その後、去って行って、連合が組まれるならそれでいい。そうなれば戦争なんて起こりようもないからな。いつ飛龍の群れが来るかわからないし』
「……そうでしょうよ」
それは本当に戦争している場合じゃないでしょうからねー。
おいらたちの配下なんて知らないし、もう二度と表舞台に立つことはないっすし。
結果万々歳ってところっすか。
『最後に3つ目。飛龍隊を投入して、経験を積ませるためだ。実戦、本物の戦場は初めてだしな。これが一番の狙いだな。俺たち自身が知るスペックはただのデータでしかない』
「そう言う事っすね。確かに訓練だけしかしてないっすからね。出してもいい戦場があるなら、出撃させて経験を積ませるのが最上っすね」
『その通りだ。この偵察と、状況によれば交戦の可能性もある。今までの成果を問われることになるんだ。アスリンたちを餌になんてつもりはないが、アスリンたちを守るためと言えば、飛龍隊の士気は上がるだろう?』
「そら、おいらたちも上がりますから。アスリン姫、直下の飛龍隊なんて意気込みすごいっすよ」
『だから、モチベーションも上がっているし、総合評価や経験を積ませることも考えて、一番、今取りうる最高の選択だと思ったわけだ。そして、万が一、飛龍隊が損害を出すような相手であれば……』
「こちらも、戦力を隠してやる必要はないわけっすね? いや、その余裕がないっすね」
『ああ。そのレベルの戦力を有している場合。新大陸に存在する国では対処できないし、俺たちにも色々な意味で甚大な被害を被る可能性が高い。よって、その場合は、ウィードの投入可能な戦力をかき集めて殲滅する。それで無理な場合は撤退だ。だからその見極めも兼ねて、スティーブとジョンがしっかり敵の戦力評価を行え』
「わかったっす」
「以上、回想終了っすね」
おいらが言い終わると、ジョンがなんかふてくされてというか、あきれた様子で、ちびちびとキュウリをかじっている。
「なんというか、いや、納得はできる。しかし、相変わらず容赦ないというか、隙がないというか……」
その気持ちは分かるっす。
相も変わらず、えげつない作戦っす。
「本当に状況と、こっちの都合も合わせて色々考えるな……」
「それが大将っすからね。昔からそうだったじゃないっすか」
「まあな。でもよ。飛龍隊の装備は知ってるだろ?」
おいらはジョンにそう言われて、目を机に向ける。
そこには都合がいいのか悪いか、丁度、飛龍隊の装備の指示書がある。
それは……。
「装備5型。偵察、対空、対地、通信、補給、この5つを揃えた、完全武装だぞ?」
そう。
ジョンが言う通り装備5型。
これは、どんな状況にも対応できるように、装備を整えた飛龍隊、長期戦も考えられた完全武装である。
と言っても、1匹の飛龍に全部を装備させるわけではない。
中隊、つまり10騎編隊で、1騎を隊長とし、1騎を偵察装備、3騎を飛龍専用の対空装備バルカンなどの近代兵器を装備、3騎を飛龍用の爆弾などの対地装備、1騎を電魔通信装備をして連絡する通信装備、最後の1騎を武器弾薬、食料の運搬補給を行う補給装備。
「火炎とかを使うことを最初から放棄しているんだが……。いいのか? 近代武器持ち出して」
「それで敵さんが慌てて引き返すほど、戦力差を理解できる頭があるなら後々の交渉はらくっしょ?」
「ああ。……本当に容赦ないな。で、その中隊が5つ出撃だろ?」
「そうっすよ。ついでに遊撃隊として更に攻撃特化した、対空、対地、対人装備隊が3騎ずつでるっすね」
「さらに。おれたちが乗る飛龍が2騎。総勢、61騎。なに? ヒフィー神聖国潰すつもりか?」
「だから、その戦力差が理解できるなら、話し合いに持ち込めるっていったじゃないっすか」
「……そうだった。あまりの過剰戦力に殲滅するというイメージが強すぎて、さっきの話押しつぶしてたわ」
うん。その気持ちはよくわかる。
が、手を抜いていい相手でもないということっす。
大将も、おそらく自分と同じ世界の出身の可能性が高いっていっているっすから。
ヘタすると、武装は劣っていても、大将以上の切れ者の可能性があって油断できないっす。
だから、一気に決着をつけるような指示を出したと思うっす。
そんなことを話していると、ブリットからようやく待ち望んだ言葉が届く。
『隊長。出撃準備整いました』
「了解、いまからいくっす」
「うっし。行くか」
そして、おいらたちは、アグウスト近郊の森の下に作られた、即席の出撃ゲートに赴いた。
そこには、飛龍たちが各部隊ごとに整列して待っていた。
彼らの知能は普通に高い。
人の言葉も理解できしっかり喋れる。
そして何より、アスリン姫たちを大事にしている。
全員が、今回の作戦を知らされており、表情にはヤル気がみなぎっている。
「諸君。状況は把握していると思う。事態は一刻を争う。しかし、それで焦ってミスをしたのではアスリン姫の危険につながる。なので、落ち着いてもう一度作戦の概要を聞いてほしい」
そう言って、ジョンが前にでて、モニターで今回の作戦概要を伝える。
飛龍たちも真剣に話を聞いている。
そして、その話もおわり、いよいよ出撃になる前の最大のイベントが始まる。
「これより出撃に入るが、その前に、各自のコールサインを発表する」
そう、戦闘時における呼び名。
そうすることで、敵に個人の情報を隠し、暗殺などを防ぐためだ。
いや、暗殺されねーじゃんとかいわない。
いつ、どこから飛龍を倒せる奴が出ないとも限らない。
「まずは、遊撃隊のコールサインを黄色中隊とする」
ザワッ……
飛龍たちがそのコールサインに驚いている。
まあ、元ネタは某ゲームなのだが、大将は偉大な空を制した者と言っているので、飛龍隊には神聖な名前として認識されている。
「次に第一をガルム中隊、第二をウォードック中隊、第三中隊をスカーフェイス中隊、第四をグリフィス中隊、第五をガルーダ中隊とする。各自、コールサインに恥じない、冷静な、それでいて確実な任務遂行を期待する!!」
ギャース!!
飛龍たちの雄たけびが響き渡る。
ヤル気度はここに来て完全にMAXだ。
「そして、おいらのコールサインはメビウス。まあ名前に負けないようにがんばるっすよ」
……完全に名前負けしてると思う。
というか、あの化け物の戦力評価に勝てる気がしない。
さて、オチはジョンに任せよう。
「最後に、ジョンのコールサインはオメガだ」
「うぉい!!」
オメガ、それは伝説のベイルアウターの名前だ。
ベイルアウト、それは戦闘機などに搭載されている、緊急脱出装置を使っての離脱である。
まあ、被撃墜ということだが、これは侮蔑ではない。
ちゃんと生きて戻ってくる漢のコールサインである。
……本当だよ?
「全騎、出撃開始!!」
「おい、こら!!」
さあ、お仕事お仕事。
……飛龍たちが悲しい目で、ジョンを見ていたのは言うまでもない。
『なんて奴だ……。あいつらが戦況をひっくり返してやがる!?』
『ああ、ジャン・ル○がやられた!?』
『落ち着け、ジーンお前が引き継ぐんだ』
『相手はリボン付きだぞ!!』
『いや、円卓の鬼神もいやがる!!』
『あっちの黒いのはラーズグリーズの悪魔か!?』
『傭兵共もか!!』
『見ろ!! あっちは凶星だ!!』
『さらに、鳥か。紳士が集まったものだ。さあ、天使とダンスだ!!』
『……被弾していないのに、ベイルアウトした機体がいたぞ?』
『機体の不調じゃないのか?』
さて、この無線のネタがわかるなら相当と言っていいだろう。
そして、空戦があるかもしれないのに、このネタをやらないわけにはいかない。
相手はどうなるかしらないけど。
わからない人はエースコンバットで検索だ。




