第300堀:求められるもの
求められるもの
side:???
「どう思うこれは?」
「面白いと思わないか?」
そう言うのは私の師と呼べる人たちだ。
まったく、いきなり呼び出されたと思えばこれだ。
この人たちは本当に根っから科学の申し子らしい。
私は、少しでもこの人たち追いつきたい。
見知らぬ世界を見出し、研究し、その謎を解き明かし、技術という名の未来を作る。
世界はいつだって、未来へ、新しい世界へと繋がっている。
その中で、自分も、己の手で新しい未来を作ってみたいのだ。
だが、世の中、好きなことをやっていても飯は食えない。
だから、研究成果を出し、世の中に役立て、自分たちのやっていることが有意義であり、未来を作るものだと証明しなくてはならない。
そんな現実と向き合いながら、それでも私の師たちは今日も研究室にいる。
「あれ? 今日は電流計の針の異常な振れ方の究明はしないんですか?」
「ん? ああ、今日は息抜きだよ」
「お前も読んでみるか?」
そう言って渡されたのは、銃の歴史という本だった。
「なんでまた? 全く関係ないじゃないですか?」
「だから息抜きだといったろ。私たちは1つの事に集中すると周りが見えなくなるからな」
「そうそう。わざとこうやって、研究分野と関係のない物を読んで、心を落ち着けようってわけだ」
「はぁ」
……相変わらずよくわからない人たちだ。
「結構面白いものだぞ。火薬の作り方や、銃撃に耐えられる鉄の強度とかな」
「私たちは最初から道具を用意されているからな。研究費が降りなくなれば、自力でどうにかするしかない」
「まさか、自力で作る気じゃないでしょうね?」
「まさかではない。有事に備えなくては意味が無い」
「そうだ。結局のところ私たちの研究も他人からの評価が無ければ、研究費は削られ、いずれは無くなる。だが、その研究がきっと何かにつながると思えば、お金がなくても研究を続ける必要があるだろう?」
「いや、それはそうですが……」
それで、なんで材料から作ろうという発想になるのか?
なんて聞けるわけもない。
きっとこういう生き物なんだろう。
とりあえず今日は渡された本を読んでみよう。
こういう知識は、師たちの言った通り無駄にはならないと思うから。
きっと、面白半分だろうが……。
時は流れ、師たちの研究は一定の成果を上げるが、時は二度目の世界大戦へと進み、如何に人を殺せるか、目標を破壊できるか、移動能力など、そんな研究が重視されるようになっていった。
「上の連中は頭が固いな」
「言っている理屈もわからないでもないがな」
「でも、あれができれば人死には……」
「上の理屈はこうだ。電波を出しながらなど、提灯をつけていて、自ら的だと言っているようなものだとな」
「それは、改良を進めれば……」
「改良に割ける予算があれば、新しい兵器を開発したいだとさ」
そして、師たちが開発したものは、敵の方が有用性を理解して、軍に取り込んでいた。
私たちの国は遅れてようやく師たちの研究と開発の重要性に気が付いたらしい。
まあ、もっと早ければ。こんな劣勢に……、なんていうつもりはない。
ある程度学のある人ならわかっている。
今回の戦争、落としどころを間違えた。
いや、これは最初から結果の決まっている戦争だった……。
結果、多くの命と資源をすり減らし、私も消耗される日が来た。
ウーーーーッ
そんな音が鳴り響く。
周りの人々は一斉に空を見上げる。
「な、なんでこんなところに!?」
「馬鹿言ってないで逃げろ!! 空襲警報だぞ!!」
そう、空襲警報。
この地域では珍しいことではあるが、なかったことではない。
ここは、軍需用品を作っているのだから。
「技術士官殿!! 避難を!!」
「わかっている。しかし、この資料を燃やされるわけにはいかない」
これは、師たちの研究の成果、情報をもとに、さらに高精度な相手に探知されない……。
ヒュウゥゥゥゥーーー……
私の前にいた場所はそれなりに都会だったため、この音はよく聞いた。
爆弾が落ちてくる音だ。
「ひなっ」
「えっ」
ドォォォォン……
ああ、まさか目の前に落ちてくるとは思わなった。
スローモーションのように爆弾が落ちて、爆発する瞬間を目にする。
あー、映像をカメラに記録できれば、かなり有用なデータになるのではないだろうか。
そんな、馬鹿なことを考えながら私は爆発に飲まれていった。
……私も師たちのことは言えないな。
結局、私も根っからの研究者だったのだ。
八木先生、宇田先生、一緒に電波指向方式の改善を研究できなくてすみません。
次があるのなら、戦争のためでなく、もっと楽しいことのために研究をして、未来を作ってみたい。
私としたことが、最後に変なことを祈ってしまったな。
いや、輪廻転生を否定するわけではないのだが、宗教もありだと思う。
だが、研究者である私がそういう願掛けを最後の最後にするのが、なんとなく可笑しく思えたのだ……。
……さあ、目覚めなさい……
そんな声が聞こえた気がした。
おかしなものだ。
私の意識は確かに途絶えた。
いや、生を終えたはずだ。
まあ、まともな往生とはいいがたいが、それなりに充実してたと思う。
未練がないと言えばウソだが、己が死を回避できたようには到底思えない。
まさか、大けがで生き延びたか?
それはそれで嫌だな。あの直撃で生き延びても、もう一生ベッドの上だろう。
……あれこれ考えても仕方ないか。
とりあえず、目を開けて状況を把握してみるか。
一通り考えたあと、とりあえず自分の体の感覚に違和感がないので、閉じていた瞼を上げる。
「ようこそ。神聖界アロウリトへ。私に選ばれし異世界の勇者よ」
そこには外国人がいた。
美女と呼んでいいのだろう。
白髪とは呼べないほどに光を反射するところから見て、金髪ではなく銀髪というべきか?
白金、外国ではプラチナと呼ぶのだったか?
はぁ、敵国語だからと言って、こういう常用語まで禁止されると色々面倒だな。
と、それはいい。
まずは、返事をしなければ。
先ほどの言葉はおそらく私に言ったのだろう。
私の後ろに人がいればその人かもしれないが、生憎、この個室?には私と彼女以外の気配がない。
精神修養で示現流を学んだおかげでそれぐらいはわかる。
まあ、地元の訛りのせいで上京した際には困ったものだが。
「申し訳ない。先ほどの言葉、私に言ったのでしょうか?」
彼女にそう言葉を返す。
しっかりとした日本語。
それでいて、外国人の容姿となれば、伊か独の人だろう。
共闘国で、日本語がしっかり話せているとなれば、日本に在住する立派な家柄の娘さんなのだろう。
私のような技術士官は下手な対応をすれば、首を落とされかねない。
「ええ。間違いなく貴方にいいました」
「そうですか。私、大日本帝国軍、技術開発局、第23部隊所属、階級は少尉、本目泰三と申します」
そういって、ビシッと敬礼をする。
粗相のないようにしなければ。
わけのわからないことを言われたが、真意を問うより、まずは私がしっかり自己紹介をするべきだな。
「モ、モトメ、タイゾウ?」
「はい。日本人特有の名前でして、ああ、本目が苗字、家名でして、泰三が名前になります。こちらで言うのであれば、タイゾウ・モトメですね」
「貴族の生まれの方でしたか。丁寧な説明痛み入ります」
「いえ。我が国では誰でも家名を名乗ることが許されています。私自身は一般の生まれですので、畏まってもらう必要はありません」
……家名でそんな勘違いをするか?
いや、箱入りお嬢様なのかもしれない。
「いえ、タイゾウ殿には礼を尽くす必要があるのです。先ほども言いましたが、貴方は遥か遠くの異世界より、私が呼び出した勇者なのですから」
「はぁ。その、勇者というのは兵士のことでよろしいでしょうか?」
正直混乱してきた。
どう考えてもお遊びの話なはずなのに、兵士になれという話になっている。
いや、いつの間にか、このお嬢さんのお話し相手になれとでも命令が来ていたか?
だって、勇者とは勇気ある者。
軍隊における、優秀な兵士を指す言葉だ。
「ああ、遥か昔にはそう呼んでいましたね。私たちの世界ではすでにその意味は忘れ去られて久しく、勇者とは英雄を超える者として認識されています」
「そうなのですか」
「はい」
……あれ?
話が通じているようで通じていない気がする。
落ち着け、こっちから名乗ったのだから、まず最初の礼儀は大丈夫なはずだ。
彼女の名前を聞いて、状況を説明してもらおう。
後で上官に叱責を受けるかもしれないが、何も状況がわからないままで話を進めるよりはましだ。
「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、すみません。私は、ヒフィー神聖国を束ねる神聖女ヒフィーであり。その神聖国が称え、崇める、女神ヒフィーでもあるのです。どうぞ、ヒフィーとお呼びください」
……ヒフィー神聖国?
全く聞き覚えがない。
というか、彼女の言が正しいのであれば、彼女は国のトップである。
女神とかは一旦ほっとく。
とりあえず、全く信用ならんが、機嫌も伺わなければいけないので、それとなく話に乗って情報を集めるしかない。
「申し訳ありません。私は無知なもので、ヒフィー神聖国の名前を聞いたことがないのです。一体どこにある国なのでしょうか?」
「聞き覚えが無くても仕方ありません。ここは神聖界アロウリトなのですから、タイゾウ殿が生まれ、生きてきた世界とは違うのです」
「そ、そうですか……」
不味い。
これはやばい変な宗教に巻き込まれたのか?
しかし、生贄にしようとかいう物騒な雰囲気でもない。
わけがわからないぞ。
「ふふ。そうでした。異世界に連れてこられて、部屋の中で話してもわかりませんね。どうぞこちらについてきてください」
そういって彼女は微笑んで、扉を開ける。
すると、扉の前にはまた美人な女性が佇んでいる。
「コメット、護衛ご苦労様」
ヒフィー殿がそう声をかけると、返事もなく頭を下げる。
しかし、美女なのだが、肌が異常に白い。
いや、青いか?
こう言っては失礼だが、まるで死人みたいだ。
「彼女はコメット。貴方とは立場は違えど、魔術道具の開発に携わっていて、我がヒフィー神聖国の柱でもあります。仲良くしてくださいね」
「コメットと申します。コメットとお呼びください。これからよろしくお願いいたします」
コメット殿はそう言って、綺麗な金髪を無造作に揺らして頭を下げる。
そう、ただ人形がカクンと首を落としたように。
頭を上げた後も、乱れた髪を直さないので、その認識が間違っていないと思う。
と、ただ無頓着なだけかもしれない。
私の師たちも私生活はとんでもなかったからな。
「これはご丁寧に。私はタイゾウ・モトメと申します。タイゾウとお呼びください」
「はい。タイゾウ殿」
乱れた髪が彼女の顔を隠し、片目だけからの視線が私に届く。
……やっぱり何かただならぬ感じがする。
「あらあら、コメット。ちゃんと髪を整えないと。綺麗な姿が台無しだわ」
そう言って、ヒフィー殿が髪を手で直していく。
……こう見れば、容姿に無頓着な妹の世話を焼く姉と言った感じに見えるだろうか?
「すみません。ヒフィー様。今後は注意します」
「いいのよ。私が直してあげるわ。そうしないとコメットは研究ばかりだから」
「了解しました」
でも、なにか受け答えは硬いな。
まあ、死体が動くわけもあるまいし、こんな感じの人なのだろう。
私はそう納得して、彼女たちの案内の元、外へ出た。
目の前に広がるのは、城の周りにあるちょっとの畑と、見渡す限りの草原が広がっていた。
こんな景色は日本にはない。
確かに私は、記憶が途切れる直前まで、日本の工場にいたはずだ。
「信じていただけました? ここが神聖界アロウリトだと」
そうヒフィー殿が言う。
現在の劣勢を考えれば、共闘国に足を運ぶのは困難なはずだ。
それも、私が一度も目を覚まさず連れてこられるわけがない。
状況から考えて、本当に私は異世界に連れてこられたのだろう。
なぜ、日本語が通じるがわからないが、よくよく彼女たちの口の動きをみれば、日本語を喋ってはいないみたいだ。
ただ、音が日本語として私の耳に届いているようだ。
何かの呪術か?
それとも、私の耳に何か細工をしたか?
クソ、医学の細部は全く勉強していないから見当がつかない。
「……とりあえず。見知らぬ地に連れてこられた。そういう認識はできましたが、まだ多少混乱しております」
「そうですね。すぐに何かを成してもらおうと言う訳ではないので、ゆっくりこの大神聖堂でお過ごしください。その間に色々わかると思います」
「私を勇者として呼んだのではないのでしょうか?」
「はい。ですが、倒すべき敵、なすべきことは強大で力だけでは無理なのです。だからこそ、異世界より卓越した知識を持つ貴方を、タイゾウ殿を呼び寄せたのです。どうかお力をお貸しください」
「……えーと、小官にそんな大役が務まるとは思いませんが、ご協力はさせていただきます。その話を聞いたところ、私はどうやら命を救われたようなので」
「命をですか?」
「はい。私は命を落とす寸前でした。状況を見るに、ヒフィー殿に呼び出されたことによって、難を逃れたようです」
「そうですか。でも、そんなにすぐにお返事をしてよいのでしょうか? お話しを聞くに、軍の方とか」
「ええ。そうです。ですが、命を救ってもらって、恩を返さず祖国に戻るわけにはまいりません。日の元、日本の大和の心を見せるときだと思いました」
まあ、敗戦濃厚で、無茶な国家総動員体制をとっているんだ。
今更戻ったところで命を散らすだけだろう。
私がとるべき行動は、このヒフィー神聖国とより良き関係を築き、日本と国交をつなげ、よき友となってもらえるように尽力すべきだ。
それが、命を救ってもらったことへの恩返しにもつながるのだから。
幸いなことに、師たちの息抜きで色々本をよんでいるから、ゼロからでもいろいろなものが作り出せるだろう。
この国の文明レベルはわからないが、なんとかやっていけそうだ。
本当に色々手を出しておくものだな。
酷いことにならないように、調整などは必要だろうが。
……あんな戦争なんかまっぴらだからな。
side:タイキ・ナカサト
『……ということだ。何か詳しいことがわかればタイキ君にも来てもらうかもしれないからそのつもりで』
「はい。わかりました」
そう言って連絡が切れる。
俺はユキさんから異世界人がいるらしいと情報を聞いた。
しかし銃ね。
こういうのは十中八九、日本からだと思うな。
ユキさんの意見に賛成だ。
はあ、話が通じる人だといいな。
俺みたいなクソな目にあってないといいな……。
「どうかしましたか。タイキ様?」
「あ。わかっちゃった?」
「ええ。タイキさんの剣に曇りが見えました」
……えーとなんでソエルさんがいるのかね。
俺がその視線を向けたのがわかったのか、アイリとソエルさんが仲良く手をつなぐ。
「「お友達ですから」」
にこやかに告げる。
……やべー。俺も何か逃げ場無くなってない?
いや、まずは精神を落ち着けよう。
じいちゃんから教わった、薩摩の示現流。
技らしいものはまだ一つもできないし、獲物も剣だからな。
でも、刀の訓練は欠かさない。
だって刀はユキさんが用意してくれているし、いつか家に戻っても、腕がなまってたら怒られるからな。
そう考えて、とりあえず素振りを再開するのであった。
さて、相対するは、真面目なチート。
どこかでうろ覚えの適当チートではない。
実力でチートになった、天才。
彼が、現在どうなっているか知らないが、八木、宇田の名前に聞き覚えがあるなら、相手のすごさがわかるはずだ。
次回をお楽しみに。




