第228掘:各国の動き
各国の動き
side:エナーリア聖国 聖王エナーリア7世
「……この魔剣を、本当にか?」
「はい」
「……間違いございません」
現在私たちは厳重な警戒の元、ほぼ軍を損なうことなく、引き返してきたプリズム将軍、援軍へ向かわせたウーリー将軍とその部下たちを交えて話を聞いていた。
当初は、ベータン一帯を取り戻せず帰ってきたという事態に驚いたが、ことの経緯を聞けば、頷かざるを得ない。
見知らぬ軍が現れたのだ、それを無暗に攻撃を仕掛け敵対行為をとれば、ジルバと組む可能性もでき、かえって不利な状況に陥る可能性がある。
そして、何より、その魔物を率いる長と思しきものは、ミノタウロスという伝説の魔物だ。
幸い、伝説とちがい、私たちの言葉を話し、争いを好まぬのか、プリズム将軍やウーリー将軍の兵を無暗に襲うことなく、プリズム将軍に至っては彼等の住処の遺跡内の食糧を奪ったのにも関わらず、穏便に済ませている。
極め付けは、エージル将軍を物資を返すまでの捕虜としたのだが、こちらを信用させるために将軍たちに預けた……魔剣や伝説の武具の山だ。
「……しかも、適性など気にせず、私にも使える。これは……」
「はい、この様な武具をあっさり渡すなど、通常は考えられぬこと」
「しかるに、彼らにとってはこの武具ですら取るに足らない物なのか、それともこちらに誠意を見せていると見るべきかと思い、例え相手が魔物であっても、言葉を約束を交わし。民を支える騎士として、貴族として、聖王の判断を仰ぎに参った次第です」
そう、この魔剣は私でも使えるのだ。
このような武器は今まで存在していなかった。
剣を持ち念じれば、炎がでる。
恐らく意識しだいで更に大きな炎を発生させることもできるだろう。
この武具をあっさり渡すその魔物の軍とぶつかり合うのは、非常によろしくないと言うのが分かる。
この将軍たちは決して失態を犯してはいない。
予期せぬ出来事により、本来の目的は達成できてはいないが、この発見は領土を奪い返すよりも意味が大きい。
「……ふむ。将軍たちの話はわかった。本来なら目的を達成できなかったことを罰するべきなのだろうが、この魔剣や武具を見て尚罰する王がいれば、それは暗愚であろう」
私がそう言うと、一緒に話を聞いていた宰相もうなずく。
「はっ、陛下の言う通りかと思います。この未曾有の武具を作り出すのか所有しているのかは存じませんが、その相手と友誼とまではいかなくとも、交渉の余地を残して戻ってきたことは、これからのエナーリアにとってベータン一帯を取り戻すことより大きな利益となるでしょう」
「となると、素早くその魔物の軍と話をして、我が聖国に招かなくてはならんな」
「はい。多少国民に混乱はあるでしょうが、ゴブリンやオークを飼っている所も多々あります。そういった方向で押し通せば問題はないでしょう」
「……ふむ、そのミノタウロスが機嫌を損ねたりせぬか? どう思う、ハイン? 実際そのミノタウロスと話した身としては?」
ハインは私が若いころから一緒に戦場をかけまわったよき相棒でもある。
今回の件、流石ハインと言ったところか、話を聞けばその魔物の軍に数騎の護衛で交渉に赴いたとのこと。
相変わらず、豪胆な男よ。
「そうですな。私が見た感じ、ミノタウロス将軍とオーク副将軍を見る限り、部下の統率はしっかりしており、こちらが魔物を見慣れぬことを前提に丁寧に接してくれました。こちらから実害を伴う危害を加えねば多少の誹りは流してくれる人物……いえ魔物ですな。というか、喧嘩を売るなら私たちがいないところで頼みます。分散した我らの部隊をほぼ命を奪うことなく、物資を奪って、行動不能に追い込んだ相手です」
「……たしかにな。どこまで信用するか、といいたいが、実際物資は奪われ、逃げ戻ったあとに返却されたのだったな?」
私はウーリー将軍へ視線を向ける。
「申し訳ございません。陛下からお預かりした物資を奪われ、多少であれ大事な兵の命を損なったのは私の責任でございます」
そう、ウーリー将軍の作戦の元、敵を分断、孤立させ、一か所ずつ確実に落としていく作戦を取ったらしいのだが、そこを魔物の軍に突かれ、物資を奪われ行動不能にされたというのだ。
証言では女二人にやられたという話もあるが、どれもこれも容姿が違うし、ウーリー将軍は脅威の力を持つゴブリンにやられたというし、目撃者もいる。
森に入った部隊はヘビの魔物にやられたと言うし、恐らく旅人でも見て勘違いしたのだろう。
「よい、ウーリー将軍のおかげで魔物軍の力を大よそだが計ることはできる」
「ですな。確かに物資を奪われる失態は犯しましたが、相手の戦力を知る機会を得ることができました。何も知らずに魔物たちを迎え入れれば、倒せや支配下に置けなど言う輩が必ずでます」
「宰相の言う通り、そのような事態になれば、我がエナーリア王都は地獄絵図となろう。ゴブリン数匹でウーリー将軍を含めて300人以上を沈めることが可能な魔物がいるのだ。それを防げる情報を得られたのは素晴らしい事だ。恥ずべきことではない。ウーリー将軍はその身をもって国を守ったといっても間違いはなかろう」
「……ありがとうございます」
その前に、この宝物をもって帰っただけで、失態は取り消しできるのだがな。
「問題はジルバ帝国か……」
「ですな。この状況で戦争を継続しても不利益しかないですから。さっさと、魔物軍をこちらに招くためにも、停戦を持ち掛けねばなりません」
「ふむ。しかし、いきなりベータンをあきらめたことを警戒しないか? さらに、攻めてくる可能性はないのか?」
そう、停戦をしたいのだが、ジルバが応じるとは限らない。
これを気に一気に攻めてくる可能性もあるのだ。
「そこは、何とも言えませぬが、魔物の軍に協力を得れば可能性は高いでしょう」
「……なるほど、向こうにも魔物軍がいかに強大か知らしめるのだな?」
「ええ、幸い、私たちしかこの魔剣や武具のことは知りませんし、ジルバ相手に魔物軍はこの宝物を贈る理由もありませぬ。というか、既に私たちが交渉しているのですから、万が一ジルバが攻めてくるのであれば、魔物軍と協力することも可能でしょう」
「そうなれば、魔物軍と協力する我が軍は強力な味方を得られ、仲も深められるか」
「はい。しかし、恐らくジルバも停戦に応じるでしょう。いきなり見知らぬ軍が現れたのです。無暗に攻めれば痛いところを突かれる。ですから、そんなことはしないでしょう。向こうも、ベータンを手に入れたのです。時間を稼げるなら、それに越したことは無いはずです」
宰相との話で停戦がよいと分かる。
失敗しても、魔物軍が私たちの味方になる。
……身内がうるさいが、この宝物を見せれば納得するか。
「よし。プリズム将軍、ウーリー将軍、ベータンを制圧しているジルバ帝国の将へ停戦の打診をせよ。同時に、魔物軍へ捕虜となっているエージル将軍の解放の対価として物資を譲渡。及び、エナーリア聖都へ御足労願え。代表者には100までの部下の同行を認めると伝えてくれ」
「「はっ!!」」
さて、私と宰相はうるさい好戦派を鎮めなくてならんな。
side:ジルバ帝国国王 フィオンハ・レーイガ・ジルバ ジルバ8世
「ふむ。これは停戦するべきだな」
「そうですね。状況が不明瞭すぎます。魔物の軍勢がどう動くか全くわかりません。最悪、エナーリアと共闘する必要もあります」
我はミフィーからの報告書を読んでいる。
まったく、次から次へと問題が起こる。
しかし、これは考えようによってはいい話かもしれぬな。
報告書をみたエアも同じ考えに至ったのか、私の停戦を支持する。
「現状、無理にベータンへの増援を送っています。しかし、停戦が叶えば、ミフィー王女の勇名も馳せることで士気もあがり、ベータンを確保したという事実も残り、無理に送った増援を再び元の配置に戻すことも可能です」
「で、あるな。停戦を無視してこちらに攻撃を仕掛ければ名が一気に落ちる。多くの領土を抱えるエナーリアとしてはそんなことはせぬはずだ。問題はベータンを取られたまま大人しく停戦に応じるかだ……」
そう、問題はエナーリアが停戦に応じるかだ、現状、遺跡に落ちた軍勢は増援と一緒に撤退したが、兵の損失はほとんどない。
物資を補給すれば、すぐにまた攻めてくる可能性がある。
「……希望的観測ではありますが、魔物の軍勢がいるのです。お互い横やりを入れられる可能性がある以上、今回の停戦は向こうも無視できないと思いますが」
エアの言う通り、普通に考えるならばそうだ。
しかし、私たちがエナーリアを侵略してベータン一帯を奪っている。
あそこの穀倉地帯はかなりの利益があるので、この様な事態であっても手放すか怪しい。
「なにか、こちらから手を打つ必要があるな……。しかし、なにを……」
「……申し上げにくいのですが、いっそのこと、ミフィー様を停戦に向かわせ、エナーリアへお嫁に送るという手もありますが……申し訳ありません、すぎたことを言いました」
「いや、よい。寧ろいい手だ。もともと時間稼ぎにミフィーを送ったのだ。末席とはいえジルバの王族だ。それを嫁に出せばエナーリアも嫌とは言えんだろう。だが、人質では足りぬ。あそこの穀倉地帯はそれほど価値があるのだ、今後エナーリアと停戦をどれだけ結ぶかは分からぬが……長ければ長いほどこちらにとっては兵を割かずに済むのだからいいことだ」
「はい、ですが……」
「ふむ。ならば、捕らえた聖剣使いを聖剣と共に解放しよう。聖剣と言われる秘密を探れないのは惜しい気もするが、今は停戦するほうがよい。魔物の軍勢の対応もそれでエナーリアと協力体制がとれるだろう」
「なるほど、こちらが捕らえた魔剣……いえ聖剣使いをエナーリアへ返すのであれば、ミフィー様との嫁入りの件も合わさって、受けないわけにはいけませんね」
「よし、この案で停戦へ望むとミフィーへ命令書を直接エアが持って行け」
「はっ!!」
「講和条約を結ぶ場所は恐らくエナーリア聖都になるはずだ。万が一を考えて、ユキたち傭兵団に護衛を頼め。そうすれば、向こうの好戦派によってミフィーや聖剣使いが暗殺されて停戦がご破算になることはないだろう」
「了解いたしました!!」
ある意味、魔物の軍勢には感謝せぬといけぬな。
これで、停戦が成れば、エナーリアへの警戒はかなり下げられる。
他への侵攻に力を入れられる。
「……ミフィー、王族としての務め果たしてみよ」
side:トーリ
私はリエルと一緒に関係各所への連絡を慌てて行いました。
セラリアとルルアの時も、街は一日大騒ぎになって、臨時にお祭りになったぐらいだし。
私たちはそれを想定して、庁舎に現状を報告し、祭りがあると準備を怠らないように伝えたりで大忙しです。
必死に連絡を終えて、病院に戻ってきたのだけれど……。
「まだかな……。みんなは無事に産めるかな……。子供たちは……。うわぁぁぁ……」
ユキさんが廊下でうねり歩いていました。
「……またですか?」
「……みたいだね」
「……変わらない」
横からカヤの声が聞こえて、そっちを振り向くとユキさんを見ながらため息をついてるカヤがいました。
「……ユキは私たちと子供のことについてはめっきり弱いみたい」
「だねー、こんな慌ててるのを見たのはセラリアとルルアの時だけだもん」
「でも、嬉しいよね。私たちのことをこんなに心配してるんだから」
私がそう言うと、2人とも嬉しそうにうなずいてくれる。
「でも、そろそろウザい」
「うん。邪魔になるよね」
「そうだね。可哀想だけど、皆の叫び声なんて聞いたら、邪魔しそうだから……ユキさん」
私たち3人は同じ考えに至る。
「トーリ、リエル、カヤ、お疲れ!! でもこっちはまだだよ。まったく、俺にできることはないかな? なんでもいいんだ。みんなの手助けになることはないか!?」
ユキさんは必死に私の肩に手を置いて話しかける。
「あ、あのユキさん、お、落ち着いてください!?」
「はいはい、落ち着こうね」
「……ユキ寝てて」
「ふぇ?」
カヤがサッと睡眠の魔術をかけると、ユキさんはあっさり意識を失う。
倒れるユキさんを私が抱き留める。
「無理はしないでください。ユキさんの分は私たちが頑張りますから」
「さ、おねむしようねー」
「……こらリエルはユキと一緒に寝ないで、みんなのところにいく」
ユキさんは、前と同じように空いてる病室に寝かせて、リエルを2人で引きずりながら、新しい命を迎える手伝いに行く。
「ちょ、耳は、耳は引っ張らないで!? ユキさんだけだよ!? 耳さわっていいのはーーー!!」
各国の動きは誰かさんの手のひらの上。
そして、今日発売だ!!
しかし、俺は九州の福岡、大体二日は遅れるんだよな。
来週発売を待つよ。
みんなも、よければ出版バーション手にとってみてくれい。
特別編で、ユキが来る前のダンジョン一帯の話がのってるぜ!!
特典SSはスティーブたちがゴブリンABCの時の話だ。
ゲーマーズ、とらあな、アニメイトとかの先着で配布らしい、近場のひとは狙ってみるといいかも。
最後にユキは子供の出産には立ち会えない!!




