第2000堀:仕事が沢山出来るのは良いこと?
仕事が沢山出来るのは良いこと?
Side:ユキ
「なるほど、確かにカシア王女に先に伝えるのは色々問題か」
『そういうこと。別に敵対しようとは思わないけど、向こうは知れば動かないわけにはいかないし、面目的には向こうが先に動かないとまずい。私たちが待ったをかけることは無理』
「当然ね。私たちが向こうの立場でも同じことを言うわ」
ま、セラリアの言う通り当然の話だわな。
リエルやキシュアたちに偵察兵とか指揮官のことを伝えて捜索することになったんだが、その存在はカシア王女たちにはしばらく秘密にしたままがいいという話がきた。
本来であれば、カシア王女に話して、協力を得てから動いた方がいいのだが、あくまでもカシア王女たちから見る俺たち、いやキシュアたちもドドーナ大司教から送られてきた小部隊でしかない。
リエルという援軍を送ったが、それでも総勢で15名に届かないと来たもんだ。
それで、調査の主導を渡せ、全部任せろというのは信用が足りないよな。
戦闘能力に関しては、問題ないだろうが、その手の情報収集は別だし、所属が違うし、自分の国のことを他国の集団に任せるところは当然ない。
「分かった。それでいい。こっちの分析調査を急がせる」
『うん。僕たちもカシア王女たちと話しつつ、魔物を退治してそこら辺を調べてみるよ』
『私たちの方が案外先に見つけるかもな』
「それなら助かる。今日の戦闘は終わったし、明日の成果に期待だな」
『……お前はそういうやつだよな』
「ん? どうした?」
『え~と、ユキさんがキシュアに負けてたまるか~というのを期待していたのかと』
「ああ、そっちか。別に俺個人が探すわけでもないしな。実際に頑張るのは司令部のオペレーターだしな」
『キシュアは子供。ほっといていい』
『うるせえよ。とりあえず、わかった。こっちも探してみる』
『お兄さまもお気をつけて』
「ああ、そっちも無理をしないようにな」
そういって連絡を終えて、一息つく。
「向こうは元気がありそうで何よりね」
「ああ、遠征、長期出張をしているから心配だったが、今のところは問題なさそうだな」
ああいう出張先は慣れない環境と、新しい人付き合いとかあって、不調を訴えてもおかしくはない。
「旦那様から見れば、大変なことなのでしょうが、私たちから見ればすぐにこちらに戻れるのでそこまでと思います」
「ですね~」
と、俺とセラリアの会話に、キルエとサーサリがお茶とお菓子をもって入ってくる。
「ああ、そういう考え方もあるか。お茶ありがとう」
「ありがとう。ふう、美味しいわ」
「ありがとうございます」
お茶を飲みつつ、そういう見方もあるのかと考える。
確かに、俺からすれば長期出張だが、こっちの世界の人にとっての長期出張は意味が違うしな。
「そうですよ~。普通長期出張とか事実上の追放に近いですからね~。王都からの地方とか、普通はあれですよ~」
ああ、そういう意味にとるのか。
いや、実際地球でも本社から支社とかは、出世のための実績か、もう戻ってこれないってやつだもんな。
「サーサリの言う通りですね。こんな簡単に地方と王都は行き来できるものではありませんから。地方に行った人たちはもう戻れないと思う人がほとんどです」
「まあな~」
キルエの言葉からもこっちの世界でも田舎への左遷というのは、出世は出来ないというのと同じなようだ。
こういう社会のシステムは異世界でも変わらないか。
「それに奥様たちや腹心ともいうべきキシュア様たちですからね~。左遷じゃないですから~。リエル様付きの兵士たちも任務でいるだけで、こっちに戻れますからね。ただ現場に行っているだけですから、長期出張というより、遠征とか、そういうのですね」
「確かにな。向こうにずっといてもらっているわけじゃないしな。元々、そういうストレスが無いように移動手段を確保していたっていうのもある」
まあ、そういうことを考えなくもなかったので、通勤が簡単にできるようにしているわけだ。
グラス港町やベータン、バイデ、オーレリア港町とかもゲートが無ければ、ウィードから見れば僻地も僻地だしな。
ウィードの人手不足の現状で、出張とかで退職を選ばれると困るしな。
そういう福利厚生はちゃんとしているんだ。
ブラック企業は俺は否定したいからな。
……とはいえ、結局こんな風な状況だし、ブラックな仕事になっているよな~とは思うが。
「旦那様。何か悩み事でしょうか?」
キルエに俺の心情が見抜かれたのか、心配そうに聞いてくる。
「悩み事と言えばそうだな。キルエやサーサリもそうだが、忙しすぎないかってな」
「「はい?」」
首をかしげる2人。
なるほど、自覚がないなこれは。
「キルエとサーサリには家の維持や子供たちの世話とかも頼んでいるからな。確かに、自動清掃とか、洗濯機とかがあるから、一般的なメイドよりは楽かもしれないが、逆にそういう仕事をこなす道具や技術が存在しているせいで、仕事が詰め詰めになってないかなと」
そう、現代の仕事はちょっと昔の仕事に比べて密度がかなり高いと言われている。
いや事実そうだろう。
なにせネットワークが構築され、パソコンでの作業をあっという間に反映できる。
足で稼ぐ営業などが無駄だとは言わないが、それもネットを通じてできるしな。
「ああ、確かに言われてみると、同じ時間でやれる仕事量は圧倒的に増えていますね」
「ですね~。家の掃除はほぼいりませんし、洗濯なども自動ですし、外で干さない限りはべつに手間でもありませんね~。ああ、服を畳むのに時間がかかるぐらいでしょうか~? まあ、だから先輩の言うように仕事量は昔と比べると多いですけど。洗濯に関しても50人分はやっていますし~」
「そうですね。とはいえ、洗濯機は自動ですからね。量としては確かに信じられないほど増えてはいますが、負担はそこまでありません」
「キルエ先輩の言う通りですね~。確かに仕事量は増えていますけど、便利になっているので、カツカツって感じは無いですよ~? ちゃんとお休み時間はいただいていますし、私たちは私たちでメイド養成校を運営していますし~、ウィードなどの諜報をしていますから、そちらの運営もやれています」
そういえば、そうだったな。
ウィードは冒険者ギルドを中心とした職業斡旋所が存在しているが、それだけではない。
冒険者はあくまでも、人が足りない時の緊急要請だ。
店などを運営している側としては、常に予定どおり務めてくれる正規雇用の人員が必要だ。
だから、その職に応じて必要な技能を持った人材がいれば、雇う側も助かるということで、専門校というのが存在している。
もちろん、計算などは職業訓練場などで習得は可能だ。
そこからの分岐、現代風で言えば職業訓練場が高校、そこから専門の職業訓練が専門学校という感じか。
なので、メイドなどの特殊技能が必要な場合はメイド専門校に通っていれば、認定がもらえ、その信用で雇ってもらえる幅が広がるわけだ。
その専門には、今新大陸関連で枯渇している、医者や看護師、薬剤師なども含まれている。
雇用拡大の法案、どこまで話してたっけな?
……詰めないと。
と、そこで不意に思いついた。
「なあ、キルエ、サーサリ。聞きたいことがあるんだが」
「はい。何でしょうか?」
「なんでもきいてくださ~い」
「メイドの方で、医者や看護師、薬剤師などになれる人物っているか? ほら雇用拡大を考えているのは知っているだろ?」
「あ、そうね。メイドや執事なら、優秀でしょ? いてもおかしくないと思うけど?」
「「ああ……」」
セラリアも俺の意見に一理ありと思ったのか、二人に聞くが、微妙な顔をしたあと……。
「確かに、優秀な人物はウィードの医学試験を突破する猛者もいますが……」
「メイドの勉強に医者の勉強に実務とか、私も相談されて、カリキュラムを確認しましたけど~……無茶苦茶ですよ? よくあれを突破した人がいると思ったぐらいです~」
そりゃそうだ。
メイドも医者も片手間で成れるもんじゃない。
でも……。
「一応いないわけではないのか」
「はい。いるにはいます。メイドとしても医者としてもどちらもできる人物は」
「でも、その子たちは既に就職先を決めていますからね~。地元に戻ってお世話になった人に恩返しするんだ~って」
「そうですね。そういう確固たる決意があるからこそできることでしょう」
ですよね~。
どちらも簡単に成れるようなものじゃないですもん。
とはいえ、現代の地球においても、学生をしながら実業家だったり、医者だったり、変なというと失礼だが、どうやったんだという経歴の持ち主は相応にいる。
まあ、数は多くは無い。
というか少ない。
そして、そういう人たちは最初から自分の目的を持って動いているからこそ、成果が出せることがほとんどであり、その手の人物をこちらに引っ張るのは至難の業だ。
「医療班に引っ張っていくのは無理だな」
「そうね。メイドや執事の業務をしつつと言うのは難しいのはわかっていたけれど。まあ、とりあえず、キルエとサーサリに負荷がかかっていないのならよかった」
「はい。健康的です」
「ですね~。私たちは万全ですよ~。というか、最近は新大陸関連で手伝えていないのが少し心配ですね~。まえ、情報を集めるために色々調べてはいましたけど~」
「そうですね。その時に、時系列での整理をと指摘させていただいて以来、あまりかかわりあいになれていません」
「そういえばそうだな。とはいえ、あれはかなり助かったんだよな」
あの指摘のおかげで、時系列上不自然な点が見つかり状況把握が進んだと言っても間違いない。
だが、メイドの二人は手伝いたがっていると。
「そうね。二人の気持ちはわかるわ。とはいえ、現地でメイドがいるような仕事って……ある?」
「今の所は南の砦での従業員ぐらいだが、現地の避難民を雇用しているし、それの指導員ぐらいだが……。メイドたちも手一杯じゃなかったか?」
そう、二人はこういうが、グラス港町などの新しい町の開発などがあり、その手の人員として、メイドたちは駆り出されているはずだ。
「確かにその通りです。ですが、南砦の人員ですか……」
「なんというか、現場実習って形で使えませんかね?」
「言っていることはわかるが、下手すると荒事もあるしな。そこら辺が微妙なんだよな。あとは、また資料を読んでアドバイスか? ほら、中央部のクリアストリーム教会の狙いはギアダナってわかったが、王や宰相は首をかしげていたしな」
「なるほど、南砦のことも、敵の狙いもどちらもできそうではありますね」
「はい。そういう荒事はメイドや執事は経験もしないといけませんからね~。ちょっと考えてみます~」
「そうか、なら頼む」
協力できるというのだから、そこらへんは大人しく好意に甘えることにする。
もちろん、無理をしない範囲でだが。
あと、南砦の管理をしているトーリやフィオラとも話はしておかないとな。
ウィードのメイドたちは家事をこなしながら、学校を運営し、ウィードの情報を集めているわけです。
前も話しましたが、意外と多忙です。
まあ、それでも手伝える余裕があるのは、現代技術の賜物と喜ぶべきか悲しむべきか。
もっと仕事ができるね!




