第1999堀:敵の偵察とこちらの引継ぎ
敵の偵察とこちらの引継ぎ
Side:ニーナ
「なるほど。確かにその通り」
「今まで気にもかけてなかったな」
ユキから連絡を受けて、その事実に目を開く。
「確かに、偵察がいないと、砦の攻勢の仕方を変えようとは思いませんね」
「そうですね。どこかに偵察をしていた何かがいるのは間違いありません」
「だね~」
私とキシュアの言葉に、スィーア、ヴィリア、そしてリエルが頷く。
リエルが合流したんだけど、女性ということで、私たちと同じ部屋。
部下の8名は隣の部屋となっている。
「いま、解析をしているか。今日中にある程度絞れるといいけど」
「そうだな。私たちはこの砦から動くことになるから、リエルに任せることになるからな」
「うえっ。それは避けたいな~。だって、これから色々と演技もあるし」
リエルも流石に嫌そうな顔をしている。
それも当然、砦の兵士たちが、私たちだけでいいじゃんとやる気をなくさないためにも、ある程度、苦戦や整備などを装って、戦い方を調整しないといけないから。
『まあ、偵察している何かについては、わかってから対応を伝えるから、そこまで気にしなくていい。まずは、リエルは連れている部下たちとの連携というか演技の練習と、後方待機のローテーション決めだな。いま、ジェシカやスタシア、フィオラがそこら辺の内容を詰めているから、リエルはジェシカたちの指示通りに対応すればいい』
「あ、そうなんだ。それならできるかも」
うん、現場指揮をしながら、演技の想定、設定とかを詰めろとか無理。
後方の連中がちゃんと矛盾が無いようにそこらへんは考える必要がある。
「それで、キシュアたちはどうなの? すぐに出ていく感じ?」
「いや、それは無い。リエルと兵士たちの繋ぎがあるからな。まあ、裏では連絡取り合っているが、それはカシア王女たちは知らないし、リエルたちもカシア王女たちと円滑にコミュニケーションをとる必要があるからな」
「そう、急ぎでもなければ4、5日はかかる」
「まあ、顔見せと信用がいりますからね。確かに初日に兵士たちがナイトマンスーツを使って敵を蹴散らしましたが、それだけですから」
「あはは、それはそうだよね。まだ、砦の人たちと仲良くなったわけじゃないし。それでキシュアたちがいなくなれば当然不安になるよね。そこらへんはちゃんと月日を重ねないと」
確かに、人の仲というか、警戒心に関しては日々の積み重ねが大事。
たった4、5日で解消されるかはわからないけど。
「えーと、そもそも私たちもここにきて10日ぐらいなんですけど……」
「「「あ」」」
不意のヴィリアのツッコミで思い出した。
そうだ。別に私たちもここに長期間いたわけではない。
「まあ、治療など、そういう面で接していたからこそというのもあると思います」
「確かにヴィリアの言う通り、命を助けられたというのは、信頼する大きな要因ね」
「だな。しかも私たちが来たときはけが人続出してたしな」
「回復薬はもちろん、医療道具も足りていない状況だった。そこで助けたというのは大きな好印象になる」
「あ~、そういうのはあるよね~。僕たちもユキさんにピンチの時に助けられてとてもうれしかったし。あ、でも、ユキさんとはいつあってもきっと仲良くなってたけどね」
「はい。お兄さまと私たちは運命で結ばれています!」
あ~、ユキとののろけに変わった。
まあ、私も……いや、私の場合は敵対してたし。
しかも、結局私はユキのことが好きなのかよくわからない。
「はいはい。それはいいとして、リエルはそういう足掛かりがないしな。ナイトマンスーツを着ている兵士たちの顔見せはどうなんだ?」
「それは許可がでたよ。流石に素顔を見せないのは、砦の人たちとの関係を考えると不信しか生まないだろうって。あと、その話をしたスタシアが胸を押さえていたけど」
「「「そりゃそう」」」
「あはは……」
スタシアは妹のアージュを失い、その原因が自分が怪我をしたことだと思って、ずーっとフルフェイスの所謂バケツ頭をつけていた。
会議とか、要人と顔を合わせるときでも。
その関係で、評判が悪いところがあった。
今では解消されてはいるが、それでも彼女にとっては色々な意味でトラウマになっている。
とまあ、そこはいいとして……。
「理解はできるけど、安全面は? 兵士の教育はしていると思うけど、中身は女性だったはず」
そう、今回のリエルの部下としてつけられた兵士は全員女性だ。
男性がいないわけではないが、今回は作戦行動というか、私たちに合わせて女性の兵士が選出されている。
もちろん、相手の侮りを引き出すためでもあるし、ナイトマンスーツでの活動で、男性だと相手の視線をそらすためでもある。
「そこらへんは問題ないよ。わかっていると思うけど、ナイトマンスーツが無くてもこの砦の防衛ぐらいならどうにでもなる実力だし。裸とかそこら辺を覗き見る馬鹿相手に一々反応するわけもないよ。何せ兵士だし」
「そうか。ま、こっちの心配しすぎか」
「そう、キシュアと違って、自分の裸に自信があるし」
キシュアは残念。ぺったんつるりん。
兵士たちは相応に立派。
もちろん、私たちも立派。
「おい」
「そういう意味ではないのは理解していますよね?」
おっと、キシュアとスィーアが鋭い目つきでこちらをにらんでくる。
余裕が無いのはよろしくない。
「わかってる。とはいえ、兵士やっているんだし、そこらへんは対応できないとダメだと思う。違うリエル?」
「まあね。さっきも言ったけど、現地の人と接することもあるし、もちろん辺りの安全が確保が難しいところでの対応もあるからね。のぞき見ぐらいは気にしないというと違うけどね。偵察兵とかもあるし」
そう、冗談ではなく、別にみられたところでキャーとかいう暇はない。
敵を排除する。
それが兵士としての心構え。
「なら、そこらへんは気にしなくていいか。実力的にも問題はないんだろう?」
「うん。普通の兵士よりも強いよ。ジェシカたちが選んだ選抜だし」
「言っていましたね。ナイトマンスーツが無くても防衛は出来ると」
「そうそう。一応、デリーユの指導とかも受けているし、武器が無くても結構戦えるよ」
なるほど、それならそう簡単にやられることは無い。
「それで、僕たちのことはいいとして、キシュアたちの方はどうするの? 4、5日はいるって聞いたけど、別にペトラ清司教の居場所が分かったみたいなことは聞いていないけど?」
「ああ、それはな。いったん最北端の防衛を担っているワイダウに行ってみてはどうかって提案されているな」
「あ~、確かクリアストリーム教会の本部があるんだっけ?」
「そうだ。そこに行けば、まず間違いなくペトラ清司教の行方は分かるだろうってな。それに、ドドーナ大司教の戦友たちもいるから、そこからも何かしら情報が得られるだろうってな」
そう、カシア王女は私たちの話を聞いて、真面目にやばいと思ったのか、思いのほか即座に動くべきとこちらに集めていた情報を渡してきた。
もちろん、リエルたちの見極めとか、引継ぎの時間は取るけど。
「そっか、まあ、妥当かな?」
リエルは少し首をかしげて考えるそぶりを見せる。
意外というと、リエル本人は怒るのだけれど、適当に見えて、実際はしっかりしている。
つまり、リエルがこうしているというのは、何か引っかかっているってこと。
「リエル。何が気になってる?」
「お姉さま、聞かせてください」
ヴィリアもリエルの態度に違和感を持ったのか、私に続いて聞いている。
「うーん。別に気になるって程じゃないけど。ほら、ユキさんが指摘した、偵察している存在ってあったじゃん」
「あった」
「そうだな。あれだけの数を送り込んでいるんだ。指揮官なり、偵察していたりするのはいるだろうなっていうのは話してたな」
「ですね。出現地点のダンジョンの入り口周辺も荒らされていることは無かったですし、そういう存在がいるのは間違いないかと」
「それがリエルお姉さまは気になるんですか?」
「まあね。今映像分析しているから、相手はそう時間はかからずわかると思うけど、それが厄介そうな気がするんだよね」
「「「やっかい?」」」
「うん。今まで、この砦を攻撃していたってことは、その間ずっと見ていたってことでしょ? 流石に、カシア王女とかが気がつくと思うんだけど、そんな話は無かったよね?」
そう言われてはっとする。
確かに、魔物の量が増えたぐらいしか聞いていない。
「わざと言っていない?」
「どうだろう? 映像とかも見たけどそういう感じには見えなかったし、話してみた感じもそういう所はなかった。というか、あの規模の魔物を指揮する存在を信じていない感じかな? ほら、北部が魔物と組んでいるなら、私は既に中央部にって話あったでしょ?」
「ありましたね。確かにあの様子は敵に指揮官がいるとか、そういうことを考えている感じじゃないですね」
「そうですね。私もそう思います。魔王の話をしたときも笑っていましたし、そういう意味でも指揮官みたいな存在を考えていないかと。まあ、規模が規模ですし、そう考えても仕方がないかと」
「まあ、ヴィリアの言う通り、規模が大きすぎるしね~。普通は考えないかな? 昔から魔物の襲撃はあったって聞くし。でも、僕たちはそこら辺の事情は知っているでしょ?」
それはそう。
何せ、その大群の魔物を操る側だし。
とはいえ……。
「それをどう伝えて信じてもらうかって話か。ダンジョンマスターのことを言うわけにもいかないしな」
「別にダンジョンマスターのことを伝える必要はない。私たちからみて、組織立って動いているってことを指摘すればいい。別に魔王とかダンジョンマスターとかではなく、普通にその手の指揮官や偵察しているのがいるってことを伝えればいい」
「ああ、そういう言い方でもいいのか。だが、その手の斥候、偵察は俺たち、ウィードが先に捕らえた方がいいだろう?」
「それはそうだよね~。ユキさんたちが情報を集めたあとにしてもらわないと先にちょっかいを出されてっていうのも困るし。いや、結構難しいことだとは思うけど」
リエルの言う通り、ウィードの情報収集、解析能力、そして敵の追跡能力を超えるというのはなかなか難しい、というか無理。
「なら、ユキたちが見つけるまで待機して、見つけるのを契機に動き出せば色々連鎖的に終わるから、そのあとにカシア王女に伝えるというのは?」
「まあ、それが無難だが、ユキたちが見つけるまでの期間は? あまり長くというのは無理だと思うぞ?」
「それこそ、カシア王女たちに協力してもらって捜索してもらえばいい。まあ、ユキに話は通す必要はあると思うけど。どう、リエル?」
「うん。それがいいと思う。さっそくユキさんに連絡してみるよ」
ということで、私たちは今後の方針を決めていくのであった。
現場は現場で考えることが一杯。
上も上で考えることが一杯。
どっちがというわけではなく、どっちの意見もすり合わせないと無理が出てくるのは当然の話。




