第1998堀:追跡方法と演技に関して
追跡方法と演技に関して
Side:コメット
「……ということで、どこまで上手く行くかはわかりませんが、撤退してる魔物は確かにいます」
「それを利用できないかって話か」
なるほどね。
確かにジェシカたちの提案は可能性がある。
下手に私たちがドローンや使い魔を使って送り込むよりは……可能性あるかな?
微妙な所ではあるけれど、何もやらないよりはマシってところかな?
「喪失の可能性があるのは魔物に取り付けた発信器か。いや、まあ、ほぼ喪失確定だが」
「はい。ですが、一度本拠地の場所を特定できれば、敵の輸送地点であるダンジョンを攻略せずに本拠地を攻められます。それは大きい利点といえるかと」
「確かにな」
うん、ジェシカの言う通り、一度場所を特定してしまえば、別に敵の出現ポイントを押さえる必要はなくなる。
それはつまり、敵に悟られることなく本拠地を攻められるということになる。
大本を逃げる間もなくやれる可能性が高くなるわけだ。
ま、理想だよね。
とはいえ、ちょっと急ぎすぎな所もある。
「ユキ。ジェシカたちの話はわかったけど、もうちょっと魔物は厳選しよう」
「厳選? 生き残った魔物じゃだめか?」
「それはちょっと博打が過ぎる。敵が作戦を変えてきたってことは、おそらく偵察をしているって個体がいるってことだ」
「「「あ」」」
私の指摘にほかのメンバーはともかく、珍しくユキが驚いた顔をしている。
あまりそこら辺を詳しく考えていなかったね?
まあ、別に敵が戦法を考えてきたところで、ウィードの戦力がどうにかなることは無いんだけどさ。
ユキとしては、不安定な敵を使って偵察という手を思いつかなかったんだろうね。
何せ、発信器にしろ盗聴器にしろ、ドローンにしろ、物資の喪失になる可能性はほぼ確実だ。
その喪失した道具から敵がこちらの動きを読み取るという可能性はゼロじゃない。
だからこそ、向こうを探るとなると、もっと他のアプローチを考えていた可能性も十分にあるが……。
「なるほどな。確かに、魔物たちの砦への攻勢が変わったというのは、砦が落とせないからだよな」
「そうね。でも、よく考えれば、その砦を落とせないという事実をどうやって知ったのかというのがあるわよね」
「ああ、当然どこかで情報を収集している何かがある。この場合は使い魔か戦場を見張っている魔物だろうが……。今まで、現状と、目前のダンジョンっぽい何かに注目が集中していたな。ちょっと、データ解析してみるか」
ユキの言葉から察するに、調べるもなにも、現状のデータ収集を優先していた感じだね。
その証拠に、すぐに今まで集めていた映像を解析に回している。
まあ、犯人というか事件の規模を考えると、そういう潜入捜査のまえに、防衛能力を固める方が先だしね。
『はい。こちら対新大陸指令室』
「さっき話題にあがってな。イオアのアンド砦での襲撃に関してだが、指揮官とは言わずとも偵察して、砦の様子を窺っている魔物か、相応の人物がいたりしないか確認してみてくれ」
『かしこまりました。分析してみます。ヴィオラ様が砦に到着する前日からドローンで撮影していますので、そこから分析を始めます』
「頼む。ということでジェシカたちの追跡関連に関しては、後日データ分析を終えてからってことになるがいいか?」
「はい。それは構いません。私たちが提案したことよりも確実そうですし」
だね。
偵察している何かを見つければ、そっちに発信器や追跡をかける方が確実だろう。
「ま、ヴィリアたちが到着してからまだ10日と経っていないんだ。こんなもんでしょ」
「そうなのよね。コメットの言う通り、まだヴィリアたちが砦に入って10日ほどなのよね。それを考えれば、カシア王女たちにウィードではないにしろ、ドドーナ大司教のことや、中央部の状態を伝えたのは、かなり判断が早かったわね」
うん、それは私もそう思う。
だからこそ、カシア王女たちも少し微妙な反応だったんだし。
実力は信じられても、こちらの提供する情報を信じられるかっていうと微妙だろうね。
カシア王女たちを混乱させようとしていると思われても何も不思議じゃない。
「まあ、おかげでリエルと兵士を向こうに回すことは出来たんだし、それは良いことだろう。あとは、ナイトマンスーツの耐久性だな」
「スペック上は問題ないと聞いていますし、実際戦闘をみて問題ないと思いますが、ナールジアさんたちとしてはどういう風に見ているのでしょうか?」
おっと、そっちの話になるか。
いや、ユキやジェシカたちの話題は一端終わりを迎えているし、そうなるとナイトマンスーツの総評が必要だと思うのは当然だね。
なので、代表であるナールジアさんに私たちは視線を向けると、すぐに頷いて口を開く。
「そうですね~。実戦初日で何とも言えませんが~、ナイトマンスーツは常にモニタリングしていて、兵士のバイタルも確認しています~。なので、数値上はすべて許容範囲の数値ですね~」
そう説明しつつ、ナールジアさんは戦闘の時の映像と、兵士たちのバイタルデータを展開させる。
「……見方は分からないが、この数値は今のところは問題ないってことか」
「はい~。ですが、あくまでも今のところ。初日でしかないというのは理解してくださいね~」
「この手の実戦データは万全の状態じゃなくて、色々な状況下でのデータだからこそ意味が出てくるからね~」
「そうだね。エージルさんの言う通り。連戦での装備損耗、魔力枯渇、兵士の体力消耗などなど、まだまだ分かっていないことが多いね」
ナールジアさん、エージル、ハヴィアがそう付け加える。
ユキも言わなくてもわかっているとは思うけど、セラリアやジェシカたちの前だし言っておく必要はあるね。
感覚的にわかっているんだろうけど、こちらを無敵の天才だって信じている感じだしね~。
その信頼は私たち研究者としては嬉しい限りだが、それはすべてを任せて良いという意味ではない。
まあ、自分の理解の及ばないことだからこそ、こちらに頼るんだろうけどね。
「そういうことだね。あくまでもナイトマンスーツは装備だ。使っている最中、思わぬ故障、欠損を起こす可能性は十分ある。もちろん、フィーリアが言うように、あの程度の戦場でどうにかなる程度の装甲と魔力障壁ではないとは思うけどね。でも、製作者ではわからない死角っていうのは、生き残るために戦う相手が文字通り、死に物狂いで見つけるものだ」
「そうね。それが戦いね」
「分かります」
「その通りですね」
「はい。それが生きるということです」
私の説明に、セラリアをはじめジェシカ、スタシア、フィオラが即座に頷く。
うん、戦闘馬鹿は戦いを搦めて説明するとすぐに納得するね。
「劣化、破損で思い出したが、ナイトマン装備のメンテとかはどうするんだ? ある程度は自動修復するだろうが、兵士に合わせての調整とかは使い続けると蓄積するモノだろ?」
だが、ユキはそうはいかない。
私たちと同等の技術などの見識が深いからこそたどり着く疑問が存在する。
「どういうこと? 調整と自動修復は違うわけ?」
「いや、セラリアがなんで首をかしげているんだよ。たった今ジェシカたちが話した、自分たちに合った装備の変更だよ。まあ、ナイトマンスーツだとポケットとかはつけることは無いだろうが、剣を握ったとき違和感があるとかは、柄の握りの問題だろう? そこは巻く布とか皮の微調整になるのはわかるだろ?」
「ああ、なるほど。確かにそこらへんは個々人の調整ね。でもそういうのがナイトマンスーツにもあるの?」
「そりゃ、ナイトマンスーツに関しては素人じゃ、簡単に手を出せる代物じゃないし、個人への調整なんて、使う側の兵士ができるわけがない。だから、ナールジアさんとかが必要なわけだ。そういう違和感を無視していると、使う側が合わせようと無理する分負担が出てくるからな。剣の柄とかは、手に豆ができるとかな」
「そう指摘されるとその通りね。というか豆じゃなくて、手の皮が剥けるわよ。ずるっと」
「ですね。無理に使うとそうなります」
「あれはしばらく響きますからね」
「剣を握る力がどうしても落ちます。下手しなくても、治るまで戦場に出ないことをお勧めしますね」
うんうん、ユキが分かりやすくセラリアたちに説明してくれる。
私たちには向かない説明だ。
現場に出ての問題っていうのは、私たちにはあまり関係ないからね~。
常時訓練や戦闘の場数をこなした末に漸く認知される問題なのだろう。
言われてみれば私たちだって愛用の道具には相応の調整を施す。
だが、それを説明することは思いつかなかったね。
今度、プレゼンをするときはそういう視点も入れてみるとしよう。
「ということで、初日の戦いでそういう違和感が出てくる可能性もゼロじゃないってことだ。靴擦れじゃなくて鎧擦れとかあったら最悪だしな」
「ああ……合ってない鎧とか靴を使い続けると後で地獄ね」
「地味に痛いんですよねあれ」
「痛いですね~。ほんと」
どうやらジェシカたちもそういうことがあったらしく顔をしかめている。
私も靴擦れは経験あるけど、随分昔だね。
痛かった記憶は今でもあるし、その時に呆れた様子でヒフィーに治療された記憶も。
「さて、セラリアたちの説明は終わったが、結局のところ、現場にいる兵士たちのメンテはどうするんだって話になるんだが?」
おっと、それがあったね。
そういう調整をするには、あの砦で出来ないことはないが、私たちの誰かが赴くことになるし、設備を展開する必要がある。
とはいえ、そんな余裕がないから、リエルと兵士8人を向かせわせてるんだけどね。
さて、どうしたものかと思っているとフィーリアが口を開く。
「兄様。それはさっき話した演技の件を利用するのです」
「演技を?」
「そうなのです。全力稼働ができない理由は整備が必要ということにするわけです。後方で」
「ああ、それでこちらに戻して整備、調整するわけか。合理的ではあるな」
うん。合理的だ。
あそこまでの品を砦なんかというと、怒るかもしれないけど、整備なんてできないよね。
盗むことを考える連中はどこにでもいるんだし。
「確かにそんなこと言っていたわね。ジェシカどう思うかしら?」
「良い案かと。とはいえ、半数の4人をすべて引かせるというのは、砦の兵たちにとっては不安になるでしょうから……」
「その半分。2名ほどが戻るぐらいがいいでしょう。それでもリエルを含めて9人のうち2人。およそ五分の一、兵士だけと考えると四分の一が動けないのですから、意外と危機感を覚えるかもしれませんが」
「今まで働いてきたヴィリアたちと比べてしまいますからね。そこは今後の戦闘で安心してもらう必要があります。後方に引かせて、整備する計画も王女と話す必要があります」
「だな。……あれ? リエルにこういう話できるか?」
「「「……」」」
ユキの疑問に私たちは沈黙を返すことしかできない。
いや、でも、うーん。
「大丈夫なのです。リエル姉様はこのぐらい簡単にやるのです」
と、フィーリアだけがリエルのことを信用していたのが印象的だった。
リエルはこの手の説明を上手くできるとは思われていない。
だけど、フィーリアは信じている。
いや、意外とできる可能性も十分にあるんだけどね。




