第1995堀:夢を形にする裏側
夢を形にする裏側
Side:エージル
カタカタ……。
画面に映っているのは、陸上戦艦の設計図。
既に8番艦まで建造し、稼働している。
まあ、3艦は予備機なんだけどね。
だからこれ以上陸上戦艦を作る予定はない。
だが、僕はこれを見ながら、別の設計図を書いている。
「……すでにホーバークラフトの原理を真似た魔力を用いた空中浮遊のシステムは出来ている。これを延長すればいいんだけどな」
僕は陸上戦艦の次である、空中戦艦の基礎システムを考えているところだ。
ユキから言えばまだまだ先って感じなんだけど、こういうのは出来た時点で次を考えて作り始めているモノさ。
とはいえ……。
「数百メートルサイズの鉄塊を空中に浮かべるのは流石に魔力消費量がね~。いや、でも陸上戦艦も基本的には常に浮上させているんだから、負荷は同じはず。いや、浮かぶ距離が問題か」
確かに地上から5メートルと自由に上下可能で最大高度が想定7000メートルだと、消費する魔力量は違う……。
「違うのか? 魔力障壁を利用した浮遊は、その場に出現させるだけだ。つまり、ただ足場を常に出現させ続けているだけであり、足場となる魔力障壁を空中に出現させれば……」
それは疑似的には空を飛んでいることにはならないだろうか?
いや、検証というか、ユキとそういう話になったことはあったね。
その時は確か。
『確かに空に浮かんでいるというのは間違いないが、空を自由に航行できているのかというと違う。というか、その理屈であれば、馬車だって、魔力障壁を展開し空を走れば空中にいることになる。それは空中戦艦、空中馬車と言えるか?』
『確かにね。それはちょっと違うね。空中馬車となるとイメージとしてはペガサスが馬車を引っ張っているけど、ペガサスはもちろん、馬車ももちろん自由にというか、地面を走っているのではなく、ふわっとした感じがあるよ』
『だろ? いや、効率を求めるのであれば、レールを敷くように、魔力障壁を足元に展開するのがいいだろう。とはいえ、その場合魔力障壁を壊されたり解除されたりすると、その場で墜落することになる。もちろん、再度魔力障壁を展開できるのであれば持ち直せるが……』
『落下しているときに展開するから、落下ダメージは受けるか。確かにそれは空中に浮いているとは言い難いね』
うん、そういう話をした。
確かに空中に浮いてはいるが、足元に見えない地面を作っているだけで、落下した場合ダメージを受ける。
僕がイメージしている空中浮遊とは違う。
浮遊となれば、落下しても徐々に減速して、ふわりと浮かぶのが浮遊というモノだろう。
「うん、確かにこれは浮遊とは違うね。となると、足場を作るのはダメだな。そうなれば浮遊の魔術だが……」
それは現実的じゃないんだよな。
いや、できないことは無い。
地球にある飛行機の原理を使えばできるのは間違いない。
だけど、それでは飛行機としての最適解は速度を上げて浮力を得るというモノだ。
それも一つの回答だというのはわかる。
だが、僕が目指すのは空中要塞ともいうべき空中戦艦。
堂々と空中に留まり、必要に応じて戦艦のように雄々しく進み、敵を打ち砕く!
「理想としては、緊急回避でそのまま360度回転とか、そういうことを戦艦で出来るぐらいには、浮力と機動力が欲しい。そういう無茶な動きをしても、壊れない戦艦が!」
因みに、地球に存在する大型旅客機などは、そんな無茶な軌道をすると空中分解してしまうから要注意だ。
「いや、要注意じゃねえよ。誰もそんな真似は……。いや、実際ハイジャックした奴が旅客機で大橋の下を渡ろうとした事件があったか?」
なんか、僕の心の声に誰かがツッコんできた?
「普通に声に出ているからな」
「ありゃ、そうだったんだ」
そう答えつつ振り返ると、そこには僕の自慢の旦那が立っている。
「それで、ユキはどうしたんだい? こっちの研究所に来るのは珍しいね」
今、私がいるのは、陸上戦艦を開発、組み立てをするグラス港町に作った研究造船所ではなく、魔力研究所の方だ。
「別に来ないってことはないだろ?」
「最近は向こうだろ?」
「そりゃ、メインの開発と組み立てしているからな。何より、エージルやフィーリア、ナールジアさんやコメットがいるのはもっぱら向こうだろうに」
それは間違っていない。
なにせ僕たちは陸上戦艦の開発と組み立てを含む開発責任者でもあり、夢にまでみた大型の兵器だし、全員喜んで向こうに出ずっぱりだ。
別に最近は、パソコンと中身のデータさえ持っていれば、実際の実験以外はどうにでもなるからね。
なら、造船所の方にいる方が効率的だ。
「確かにその通りだね。で、改めて聞くけど、こっちに来た理由は?」
わざわざ僕を探してきたってことは僕個人に用事があるはずだ。
色々、専門で仕事は引き受けているから、何が原因なのかはよくわからないけど。
「ああ、仕事じゃなくて、時間だ」
「時間?」
そう言われて時計を見るとすでに6時を回っている。
「あ、定時か」
「そういうこと。家に戻ってないから、フィーリアやコメットに聞いてみると、こっちに行くって言っていたってな。研究馬鹿を引きずるのは旦那の役目だと思ってな」
「確かに、ユキの方が僕としてもうれしいね。まあ、もっぱらフィーリアやアスリンに引っ張られるんだけどね」
「少しは情けないと思えよ」
「あっはっは。僕は今更この性格を変えるつもりはないさ」
研究に夢中になって時間を忘れるなんてのは、昔からよくあることだったしね。
エナーリア聖国にいた時は、プリズムにも迷惑をかけたがそれでも自分を曲げることは無かったんだ。
「威張るな威張るな」
「まあ、それだけユキたちを信頼しているわけさ」
「それは嬉しいが、あまりにも自堕落だと他の皆が怒るかもしれないぞ? いや、俺もだな」
「その辺のラインは見極めているさ。とはいえ、今日はちょっとね。まあ、了解。お家に帰るとしよう」
言い訳は早々に切り上げて、僕は荷物をまとめる。
と言ってもパソコンぐらいだけどね。
「それで、こっちに来てわざわざってことは、何か気になることがあったってことだろう?」
帰り道、ユキがそう話しかけてくる。
「そうだね。気になることがあってというのもあるけど、騒々しいのもちょっとと思ってね」
「ああ、こっちは静かだよな。エージル達が実験しなければ」
「防音魔術を使わせてほしいんだけどね~」
「それはダメだって言っているだろ? 大事故が起きた時に気が付かないからな。そのために広い場所を取っているんだ」
「ま、わかっているよ。ウィードに来てから失敗したときの被害は物凄いことになるってのはわかっているからね」
扱う物品のエネルギーは、エナーリア聖国にいた時とは比べ物にならないからね。
火薬とか、魔力とかも文字通りけた違い。
扱いを間違えば、辺り一帯吹き飛ぶレベル。
なので、いきなり大爆発でもない限りは事前の火災とか、小規模な爆発とかがあるから、その前兆を逃さないために防音魔術は無し。
僕たち個人に防音はしては良いとしても、空間の音を消すのは防災上駄目だってことだね。
だから、造船所もその手の事故の把握のために防音魔術は個人はともかく部屋とかにはしていないんだ。
緊急時に職員たちが事故にあっているのに、僕たちへの呼びかけが聞こえないとか馬鹿だしね。
「で、こっちで静かに考えたいっていうのは?」
「ああ、別に何も隠すこともない。フィーリアもコメットもナールジアもハヴィアも、タイゾウさんだってワクワクしていることだ。空中戦艦」
特に隠す理由もないので、空中戦艦のことを考えていたということを話す。
「あ~。陸上戦艦の実働データも集まりきらないうちにか」
「荒野や海上での運用テストは行ったしね。地形への魔力障壁の自動展開と船体との平行をどう維持するか、大変だったよ。そして、荒野はともかく、海上は波が安定しなさすぎるね。普通に戦艦を浮かべる方がいい。竜骨を基本とした、海を、水を割く設計はやはり完璧に近い。底平の船は精々波が穏やかな、川や湖が精々だね」
そう、実働データに関しては確かに集まっていないが、試験走行では結構色々な所を走っている。
そのおかげでバランス
「そうだな。それは否定しない。地球でもそうだったしな。それで、空中戦艦はどう考えている、空に魔力障壁を浮かべてか?」
「それは考えたんだけどね~。落下したときはほぼ終わりだって気がついてね」
「あ~、確かに。自分で浮遊しているわけじゃないからな。落下した際は地面に落下したのと同義だよな」
「その通り。だからやっぱり自分で浮遊するシステムがないと意味がないんだよね~。というか、落下した時点で、戦艦がかなりのダメージを受けること確定だし」
「そりゃな。浮遊していなんだから、あの巨体が地面に叩きつけられて、外装はともかく、内部は酷い有様だろうな。内部機関も人も」
そうなんだよね。
幾ら船体が頑丈でも、中身はそうはいかない。
なので自身が浮遊して、落下速度を調整できなければいけない。
100から0という急停止ではなく、100から99、98と刻むように減速できれば、内部に問題は出ないからね。
「ということで、そのシステムを考え中ってわけさ」
「なるほどな。無茶な考えをしてなくてよかった」
「流石に戦艦を飛ばして安全対策がないのはあれだしね」
失敗したときの損失は計り知れない。
金銭や物資で賄えるならともかく、命はどうしてもね。
「理解していて何よりだ。地球においてはその人命ですら、実験で消費されているしな」
「ああ、そりゃ限界値なんてやってみなければわからないからね。それは僕たちの研究だけに限った話じゃないだろ?」
「まあな。医療なんてその最たる例だ。表向きは人命救助だが、裏というと違うが、怪我人、病人を実験台、経験するために使っているというのは間違いない」
「君はそういう言い方しかしないが、それがなければ発展は無かったんだよ」
そう、ユキの、地球の恐ろしいほどの知識のうらには、おびただしい人の死が存在している。
だが、それだけではない。
彼らの死が無駄ではないのだ。
より良い未来をつかみ取るための礎となるわけだ。
それをユキはわかっている。
「わかっているけどな。当事者にとってはたまったもんじゃないだろ? リュシとかはそれがわかっているのに俺に感謝するしな」
「君の場合のエクストラヒールはほぼ完治確定だろ?」
「外傷に関してはな。それでも心は戻る、いや、まだ戻っているかはわからない。……違うな、戻るわけがない。記憶、歴史は消えないもんだ」
そういうユキの顔に特に苦悩などをしている様子はない。
むしろ何も感じない。
全てを受け入れているという感じだ。
「君は大胆な行動をする割には、そういうのを引きずるというか、忘れないよね~」
分かっているのに、理解しているのに、それを考えるんだよね。
「忘れるか。思いやりを忘れればただの馬鹿でしかないからな」
「ま、それが僕としては好ましいよ。ということで空中戦艦の開発をだね」
「だから、その手の犠牲を減らすのが俺の仕事だ。理論をしっかりくみ上げて模型で実験して、俺たちに話を通してくれ」
「はいはい」
ま、そういうのは大事だね~。
ということで、僕たちは家に帰るのであった。
何事も表と裏があります。
華々しい活躍の裏には、夥しい苦労があるのは当然です。
まあ、ないこともありますが、直接的なことはないにしても、それも今までの積み重ねがあってこそ。




