第1994堀:彼女が補佐な理由
彼女が補佐な理由
Side:フィオラ
「ふぅ。何とかうまく行きましたね」
「そうだね。まあ、リエルならちゃんとやるよ」
私が安心して呟いた声に、トーリがそう言ってきます。
どうやらトーリもリエルのやり取りを聞いていたようです。
「ああ、いえ。リエルが真面目にやらないというわけではなく、向こうが受け入れてくれたという話ですよ。リエルや兵たちはともかく、冷凍庫などちょっと向こうが過剰に反応しそうな物も入れていましたから」
「そっちか~」
そう、一応向こうの反応を見るというのも目的であったのですが、流石に冷凍庫などの長期保存がきくような道具を持ち込めば、私たちの裏を必要以上に勘ぐる可能性もあったわけです。
「いえ、実際私たちの裏がどんなものかと疑っているのは間違いないでしょう」
「まあ、当然だね。とはいえ、今は少しでも物資と戦力が欲しいから受け入れるってユキさんが言ってたけどその通りだったね」
「……現状を考えれば受け入れないというのは無いでしょう。そこは間違いありません」
ユキ様はその手の取り引きというか、駆け引きで判断を誤ることはまずありません。
ですが、そのあとは微妙に判断のわかれる所というか、向こうに選択肢をゆだねることにしました。
「冷蔵庫などの品物を回して、こちらの背景が巨大であると伝えたわけです。カシア王女やクレント将軍もそれを理解しているでしょう」
「私は心配ないと思うけど、フィオラは彼女たちがこちらを裏切ると思う?」
「いえ、彼女たちは砦の防衛がありますから、それは無いと思っていますが、王都から派遣される人物たちは微妙かと思いまして。リエルではなく私が……とも思ったのですが……」
「やっぱりフィオラが行くとまずいって感じ?」
「ですね。私やジェシカ、スタシアが向かわなかったのは、あまりにも軍人だからです。もちろん、貴族としての立ち居振る舞いも見抜かれるでしょう。そういうのはお互いわかるものですから」
「あ~、そういうのは私たちもわかるかな」
「ですよね。生まれというと差別的な発言になりますが、教育が行き届いているというのは、自然な動きでわかるものです」
そういうしぐさに関しては、生まれて教育されてきた環境が出てきます。
もちろん、矯正して直す人もいますが、そういうのは貴族になった平民がやることです。
貴族社会で舐められないために。
貴族だった人が平民の所作を真似るっていうのはまずありません。
諜報活動をなどをしない限りは。
そういう所から貴族とばれると、国の所属ではないって言っているキシュアたちの立場が怪しまれます。
どこかの貴族、つまり国からの子飼いと思われる可能性があり、それはキシュアたちの行動を阻害しかねません。
「それに、私はこの砦の指揮サポートもありますからね」
「フィオラには助けてもらっているよ」
そう、私は南砦の指揮のサポートをしているのです。
トーリも指揮をできないことはないですが、ウィードでの専門は警察。
つまりは治安維持の指揮であり、軍という敵を倒す、一掃するための部隊運用とは違います。
元々、ユキ様の指示に従って、軍の指揮を執ることもあり、訓練にも参加はしていますが、私に比べると
、専門で軍人をやっていない分、そして警察に所属しているため、やり方が少し温いのですよね。
まあ、治安を守る側と、敵を倒す側となると対応が違いますから。
そして、この南砦はオーエ南の町の防衛も兼ねており、支援もしています。
つまりは、亜人であるトーリの方が受けが良いというのもあり、あとは、私が新参者であり小国の姫というのもあります。
この南側の荒野には、大陸間交流同盟の各国が基地というか、町をつくる予定にもなっているのです。
そうなると、私では新参者であり、ウィードに迷惑をかけたという実績があるので、対応するには、まだまだ実績が足りないのです。
「どうしたの、フィオラ?」
「あ、いえ。この場を任せてもらえていれば、もっとみんな自由に動けたのかと思いまして」
「あ~、それは違うと思うよ?」
なぜかあっさり、はっきりとトーリは私の言葉を否定します。
「フィオラがさ、私のサポートっていうのは、確かに大陸間交流同盟に色々配慮はあるのは間違いないけどね、南のこの荒野は広大すぎるから、フィオラ一人じゃ無理だし、私一人でも当然無理。そして、その後のフォローとかもあるし、どう考えてもフィオラは必要だよ。そして、それで実績を上げるっていうか、積むって感じだよ」
「……なるほど」
確かに、トーリ一人では無理ですから、私がサポートとして送られてきたのですが、それは私にとっては良い実績を作る場所にふさわしいわけです。
今までは、ダファイオの水不足を解消するためにウィードに差し出された小娘としての動きしかできていませんでした。
まあ、大きなトラブルがなかったのもそうですが、あくまでウィードは補助や裏方に回るなどの動きしかしていなかったため、私を表向きに使えなかったというのがあります。
ですが、今回の新大陸でのトラブルに関しては、ウィードの人員がほぼ枯渇するような大動員となっています。
私を表向きに運用しても問題ないと言うわけです。
私ことダファイオのフィオラは、公式には迷惑をかけた姫が罰という下働きという形で出向しているという状態なのですから、軍の指揮など普通は出来ません。
ですが、今回は緊急事態ともとれる状態です。
そこで、トーリの補佐としてついて、今回のことでの対処ができるということです。
これなら、私が無理を言ったわけでもなく、ユキ様が私情で私の減刑に動いたとなどと疑われることは無いでしょう。
いえ、まあ、私のことを知っているのであれば、絶対に私の立場をよくするためにという、邪推は出てくるでしょう。
……元々、扱いは悪くないのですが。
これを私と同じように、ウィードに助けてもらいたがっている連中が知れば烈火のごとく怒るでしょうね。
それだけ、私はウィードに勝手に接触をした価値を受け取っているわけです。
はぁ、卑怯者ですね……。
「あれ~? なんか落ち込んでない? 大丈夫?」
「あ、いえ。……元々私がユキ様やトーリたちの所に来たのは、傍から見ればどうしようもなく、卑怯だと思いまして……。周りの反発も当然かと」
「あ~、まあ、そういう風にみられるのは仕方ないけどさ。逆に考えてみてよ」
「逆、ですか?」
「そうそう。確かにさ、あの出会い方は、傍から見れば悪いかもしれないけどさ、結果を見れば、私は、いや、私たちはさ、フィオラにあえてよかったよ」
そうトーリは素直に言います。
私はその言葉になんと言葉を返して良いのか、固まってしまいます。
「フィオラはお姫様なのに、私たちにも対等に相手してくれたし、フィオラがいたからこそ、ウィードが小国貴族相手の交渉ができるようになったしさ。私たちもあの他国貴族の相手が大変だったんだ~。オレリア、ホービス、ヤユイは特に喜んでるよ?」
「あはは、というか私と彼女たちは同期のような感じですから」
オレリアたちは私が迷惑をかけた時期にユキ様の補佐、側付きになったんですよね。
そして、リュシもそのあとすぐに、けが人として運び込まれてきていましたね。
彼女も十分に同期と言えるかもしれません。
「それに、こうして私たちの助けになっているんだし、ほかの子だったらこうもいかないよ? 指揮なんてとれるお姫様なんて、意外と稀なんだから。まあ、私たちの周りにはセラリアとかローエルとか、ジェシカ、スタシアなどなどいるけど」
「言われてみればそうですね」
確かにトーリの言う通り、戦える姫なんていうのは、その立場上まずありえないのです。
セラリアたちや私だからこそできることがあったというのは事実でしょう。
まあ、戦うことですからお父様たちはあきれているかもしれませんが。
「そうそう。こうして私たちのサポートとか実質指揮官として動ける人材っていないんだから。自信をもってよ」
「ええ、そうですね。トーリのおかげですっきりしました。これからも頑張らせてもらいます」
「うんうん。というか、陸上戦艦の指揮とかもありそうだけど……」
「そっちは……あまりうれしくないですね。その場合北部は大混乱ということですし」
「だよね~……」
陸上戦艦。
それはウィードが保有する戦力の中で、水上の移動要塞というべき戦艦と並ぶ陸上の移動要塞であり、最高戦力ともいうべきもの。
それを投入するような戦場というのは、かなりひどいというのが予想できます。
戦うことが本分である私たち軍人ですが、別に劣勢の戦場に身を置きたいというわけではないですからね。
負けるとわかっている戦場に立つことも本来は遠慮したいです。
誰が好き好んで命を捨てたいと思うものですか。
生きるために、守るために命を懸けるのであって、敗北必至な状況は遠慮したいと思うのは当然なのです。
「色々心配はありますが、今は、この南の砦を中心に、大陸間交流同盟が確保するであろう場所の安全を図ることが大事です」
「だね。アスリンたちも調査を頑張っているけど、その半数も陸上戦艦開発に行っているしね~」
「そうですね。とはいえ、あれ以降魔物の北上が見られないのも不思議ですが」
そう、不思議と言えば、オーエの南の町というか、南部の森に北上していた魔物の群れがぱったりと途切れていること。
私たちが南の砦を築いてからというのも、散発的な魔物との遭遇戦はあるものの、南の町に寄せていた量には届かないというか、少なすぎます。
「まあ、魔物が枯渇したってことならいいんだけど……」
「まだそう判断することは出来ませんからね。油断はしないようにしたいです。というか、守るべき範囲が広すぎですからね」
「だね。一応各建設予定地は相応に大きいし、防衛はしっかりしないといけないからね」
私たちは現在、南側の荒野の魔物を退治しつつ、大陸間交流同盟が拠点を築くであろう場所の確保と維持、そしてさらなる調査を続けている状態です。
こっちも台地の植生とかそういうのもありますし、荒野での作物栽培実験などなど、やることが多いので、そういう意味でも北部の手伝いは行きたくないんですよね。
「ウィードの仕事もなくなったわけじゃないしね」
「ですね。トーリは警察関連、私はユキ様に面会を求める貴族たちの対応がどうしてもありますからね。オレリアたちでは無理がある馬鹿はいますし」
「いるよね~」
少し、お互いに遠い目になってしまいます。
なんだかんだ言って、私たちは本当に忙しいのです。
何せ、今話しながらも、書類を捌いている最中なのですから。
トーリ、フィオラは南砦で砦の運営はもちろん、各地の調査や防衛に行っている部隊の管理などもやっているので、かなり忙しい状態です。
というか、もしもフィオラがいなければ、ユキたちはさらに忙しい状況になっていたのは間違いありません。
フィオラを率いれたのはナイス判断だったと言えるでしょう。




