第1990堀:ひとまず話はまとまる
ひとまず話はまとまる
Side:ユキ
『……魔王か。確かに魔物の攻勢が激しくなっているから、何かしら原因があるとは思っていたが、そんなおとぎ話が出てくるとはな』
そう言うのは、キシュアたちの目的を知ったカシア王女だ。
『カシア王女たちはこの原因は何だと思っているんだ? 中央部は魔王が原因だって言って、亜人がその仲間だと吹聴しているわけだが』
『あははは! 先ほども聞いたが、腹が立つ限りだな。とはいえ、亜人が原因というのはまったくもってありえんな。それならイオアは襲われていない』
『だよな』
カシオ王女の言う通りだ。
亜人が魔王の手下とか協力体制にあるなら、北部の国々は基本亜人が活躍していて、王族にも亜人が普通にいるらしいので、攻撃対象にはならないはずだ。
というか、協力をしているのであれば、すでに中央部になだれ込んでないとおかしい。
つまり、中央部の言うことは、つじつまが合っていないわけだが……。
『不思議なのだが、なぜそのような話を中央部の国々は信じているのだ?』
『そこが不思議で、ドドーナ大司教たちが調べているってところだ。まあ、真っ向から指摘しても否定するだろうし……』
『それで、ペトラ清司教か』
『そういうこと。あれだけのことをやっている割には、ペトラ清司教の名前を出すと慌てていたからな』
『……杜撰ですね。とはいえ、各国は亜人の排斥に協力していると』
『そうなんだよな。ギアダナは亜人と生きていくってのをやっている国だから、周りから圧力があるようだがな』
そうそう。
そのおかげで、オーエの方に攻めてきたぐらいだし。
『ギアダナ王国か。そこが倒れるとまずいわけだな?』
『まあ、そうだな。中央部が全て亜人排斥に賛成となると、亜人たちは北に南にってなるわけだ。その時受け入れられるか?』
『無理だな。大きな混乱が起こる。……それが目的か?』
そこらへんは現在おぼろげに見えては来ているが、断定ってレベルじゃないしな。
『さあな。それをするにしても、北と南を騙さないといけないっていう大仕事もあるからな』
『むむ。何か、別の目的がありそのようなことをしていると?』
『そこまではわかっていない。というか、それを調べに来たわけだ。ペトラ清司教のことは恐れているみたいだし、何かそこら辺にヒントが無いかってな。そして、北部が魔物の攻勢にどれだけ耐えられるか。クリアストリーム教会が北部の崩壊を望んでいてもおかしくない状況だしな』
実際それもあると俺は思っている。
真っ向から北の戦力とぶつかるのは不味いと思っているから、ペトラ清司教の名前を出した時は焦ったわけだ。
とはいえ、耳に届きそうなもんだが……。
チノクが言ったように杜撰が過ぎるんだよな。
何を考えているんだか、あるいは考えていない?
どっちにしろ面倒だな。
『なるほど。いまクリアストリーム教会が割れれば、魔物の攻勢を食い止めるのは難しくなる。そうなれば、北部はもちろん、この地に残っているクリアストリーム教会のメンバーはそのほとんどが、命尽きてもこの地に残ることになるだろう』
その言葉に否定をしないほかの二人。
いや、どれだけバーサーカーやねん。
『それに、クリアストリーム教会が割れなくとも、昨今の魔物大攻勢を考えると、あながち崩壊という未来は間違っていないのだが、そこまで詳しくこちらのことを把握しているということは……中央部のクリアストリーム教会が魔王とやらと繋がっているのでは?』
『それは考えたが証拠がなくてな。その証拠集めもかねて。でも、カシア王女たちは魔王のことは全然だろ?』
そう聞くキシュアにカシア王女たちは首を横に振る。
それを一緒に見ていたセラリアは……。
「これで、魔王関連の話は完全に嘘ね。まあ、北部で魔物を指揮しているダンジョンマスターみたいなのはいるけれど、繋がってはいないわね」
「だな」
セラリアの言う通り、カシア王女たちの話を聞いて、ほぼ確定と判断していいだろう。
北部の魔物を率いる勢力と、中央部のクリアストリーム教会がいう魔王は別物だ。
いや、元々亜人排斥を進めるための方便のような話だったから、嘘だろうって線は濃厚だったけどな。
「とはいえ、魔王という単語がどこから出てきたのかは気になるがのう」
そう思っているとデリーユがそんなことを漏らす。
「普通に考えるのであれば、おとぎ話から取ってきたってところだろうが……」
「うむ。誰もがおとぎ話という認識なのは、カシア王女の言葉からもわかる。じゃが、そのおとぎ話の元がどこかにあるという事じゃからな」
「どこかで、魔王が繋がっているかも。ということかしら?」
「可能性はゼロではないじゃろう? というか、この魔王が北部の存在であればまだわかりやすいのじゃが」
「ああ、なるほどな。別のところで魔王が動き出せば、俺たちとしては3正面作戦、いや4正面とはいかないが、ほぼ4つを同時に相手しないといけないわけだな」
「そういうことじゃ」
うん、考えただけで胃が痛いが、考えないわけにもいかない。
「ですが、これ以上戦力の捻出は出来ませんよ? 真面目に。真剣に」
今度はジェシカが本当にこれ以上は戦力は出せないと言ってくる。
いや、それは流石にわかっている。
新大陸に進出し、オーエ防衛、南側の砦、そして調査部隊、さらには陸上戦艦の運用とこれでもかと兵力を出している。
他にも以前から調査している闇ギルドの調査部隊や旧ヴィノシア復興を後押しとか、グラス港町の防衛、本当に多種多様に兵を動かしている。
兵士の増員もしているが、補充されたところで人手不足は変わらないしな。
どこかの戦線というか、仕事が終われば兵を撤退させて、多少は余裕が出てくるが、それは先のことだ。
「わかってるって。おそらくは、陸上戦艦を動かして対応だな」
「それが無難でしょうね。そのまま陸上戦艦に共働している部隊を運用ね」
この現状で動かせる戦力としては、陸上戦艦部隊だ。
現在製造中、調整中のを含めて計8台が存在している。
5台稼働かと思いきや、予備機としても作っていたようだ。
予算どうしたんだって思ってたら、以前開発した装甲補修液を使って、希少鋼材を使った装甲を増やしていたらしい。
補修液は素材の抽出が特殊で、装甲が増えるのに時間がかかるだけで、素材は簡単にあつまるので、ほぼ無料で希少鋼材が手に入るため、予算がかからないようだ。
……これほっとくと、鋼材を増やしまくって、ロボットとか出来ないだろうなと心配している。
もちろん、希少鋼材を増やして、陸上戦艦の予備パーツを作るというのは有用というか、当然の話なので許可をしている。
下手に鋼材生産を厳しく管理すると、ナールジアさんたちが秘密裏に開発を始めるのは間違いないから、あえて鋼材を余裕を持たせて、開発を自由にやってくれと言っている。
もちろん、どんなものを作っているのかを報告をきっちりさせている。
それを知ったウィードのメンバーは苦笑いを通り越して、もう無になってたな。
まあ、流石に陸上戦艦はこれ以上は作らないらしいのが救いだ。
データを取って、海上の戦艦、及び空中戦艦の開発を始めるらしい。
……マジかよと思ったが、既にホバー技術は陸上戦艦で作っているので、次というと空中浮遊だよな。
「まあ、陸上戦艦が動かせる状況であることを祈ろう」
「デリーユの言う通りだな。陸上戦艦が動かせない状況って北部の戦線が崩壊しているってことだしな」
「あはは、その時はウィード軍は敵に殺されるよりも、仕事で忙殺されるかもしれませんね」
「その時は真面目に兵のローテーションとかはしっかりしないと、本当に仕事に殺されるわね。疲労に依る事故死とか最悪よ」
ジェシカの皮肉に誰も笑えない。
セラリアも真剣に疲労を残さない兵の運用を考えるレベルで。
当然の話だが、ずっと働き続けられる生物はいない。
疲労が蓄積して、最終的には過労で倒れて死ぬ。
だから、いくら忙しかろうと休みを取らせないといけないわけだ。
いや、極限の状態だからこそ、動けるように休みを忘れるなってことだな。
『で、こっちの事情は話したってわけだが。どうする? 物資の支援とか援軍ってわけじゃないけど、俺たちと同等の連中が来るって話だが』
おっと、そういえばイオアへの援軍の話だったな。
今までの事情説明で今後のことを考えていたが、まずはこの戦線を支えるのが大事だよな。
キシュアの支援の提案を受けるのか……。
『ふむ。応援の人物がこちらにとって良いかどうかは会ってみないとわからない。だが、物資に関しては助かるのは間違いない。どうだ? 悪い話ではないと思うが?』
『ええ、今後のことも考えるとキシュア殿たちと友誼を結んでおくのは悪くありません。まあ支援に対する報酬は聞いていませんが、おそらく今後の情報共有というところですかな?』
『ああ、別に名誉とかそういうのはいいんだよ。ドドーナの爺さんから何とか大事になる前に止められないかって話だからな。下手をすると、ドドーナ爺さんの弟子たちがって話だったからな』
そう、この支援の報酬は基本的に事件の終息だ。
普通に金銭を支払ってもらっても、使う場所が無くなれば意味がないからな。
名誉とかも同じく。
『今は、俺たちが味方だってことを認識してもらえればいいってやつだな。北部では無名というか、下手に大きく動けないからな』
『なるほどな。後ろ盾というのはちょっと違うかもしれないが、未だに状況が分かっていない今、下手に有名になることもできないから、行動に関する支援が欲しいわけか』
『そういうこと。下手に有名になると色々目を付けられるからな。今回の混乱に乗じるバカも少なからずいるだろうしな』
『それは否定できんな。いや、寧ろ必ずいる』
『いますな』
『いますね。そういう馬鹿は。まあ、そういうことを考えて冷静に動いてくれたというのはありがたいです』
『チノク殿の言う通りだな。下手な馬鹿に雇われて、敵対してはこちらがとんでもない目に合っていただろうというのは、簡単に想像できる』
そりゃな。
砦での最大戦力だし、それと敵対なんて被害甚大だしな。
『じゃ、詳しい今後の話を進めてもいいか?』
『ああ、そうだな。頼む』
ということで、キシュアたちはイオアのカシア王女たちを味方として動き始めたのだった。
アンドの砦メンバーは敵対せずという感じで話はまとまる。
あとは、具体的にどれだけ戦力や物資を供出するか。
そして、クリアストリーム教会との接触をどう図るのかという、色々面倒なことがある。




