第1989堀:話した結果は
話した結果は
Side:ヴィリア
「「「……」」」
ピリッと空気が張り詰めるのを感じます。
実際にそんなことは無いのですが、やはりそのように感じますね。
何度も経験してはいますが、あまり心地の良いモノではありません。
別にカシア王女が敵になるわけではないという確信があっても、この空気はやはり身構えてしまいそうになります。
そして、こちらを疑うというか、警戒してしまうカシア王女の気持ちもわかります。
いきなり大量の物資に加えて援軍を出すという、か弱そうな女性たち。
疑うなという方が無理があります。
「何者って言っても、ドドーナ大司教の弟子ってことは間違いないぞ。そして、魔物を押し返そうっていうのには賛成だ。というか、この砦にきて私たちだけじゃ厳しいというのは分かったしな。すぐにペトラ清司教と連絡を取って連携を取った方がいいって思っただけだ」
「……すぐに援軍や援助のことを言わなかったのは?」
「それもわかっていると思うけどな。こういうのは持っていくだけ持っていく連中もいるだろう? さっきもカシア王女が言ったが、信用できると思ったからだよ」
キシュアさんは素直にそう告げます。
いえ、それが事実なんですよね。
まあ、ドドーナ大司教の裏にはギアダナと、さらにはウィードがいますが。
本当に嘘は言っていません。
……お兄さまの得意は事実を言っている。聞かれたことに答えているだけですね。
「ふぅ。そうだな。そうだった。そちらの不安も当然だな。ドドーナ大司教の弟子であり、物資を持っているとなれば、好きに使おうとする連中がいることぐらい、私でもわかる」
「ですな。素直に物資を出してしまえば、あっという間に枯渇します。素直なのは美徳ではありますが、おろかでもあります」
「というか、疑うというのであれば、砦の防衛に加えてはいませんからね」
チノクさんの言う通りですね。
既にカシア王女たちは私たちを仲間だと認めているはずです。
最初はドドーナ大司教の名前がある奇妙な少女たちで、戦えば戦力として、そして今までで良き仲間とみとめているからこそ、私たちは頼りにされている。
「まあな。二人の言う通りだ。とはいえ、だ。ここまでの支援となると何を要求されるのかというのがある。それは私の一存で判断できることではないのだ。そこはわかるな?」
カシア王女の懸念は当然のモノです。
何かを得るには何かを差し出さなくてはいけません。
善意での無償の行動というのは、受ける相手にとっても実のところ重いモノなのです。
まあ、クリアストリーム教会のように魔物討伐や民の救済を組織として掲げているならまだしも、私たちのことは何もわかっていないのですからね。
「そこは大丈夫だ。私たちは組織としてはクリア教会の所属って感じだ」
「クリア教会? ドドーナ大司教の? クリアストリーム教会ではなく?」
「そうだ。理由を聞きたいなら、少し冷静になってもらう必要があるわけだが……どうだ?」
キシュアさんは中央部での動きを話すつもりですね。
正直、私は今でも話して良いモノかと悩んでいるのですが、こういう判断はキシュアさんたちの方が年季……ではなく経験豊富なので任せましょう。
お兄さまも私たちに任せると言っていましたし。
「冷静に? どういうことだ?」
「まあ、色々腹が立つ話があるわけだ。これ以上の混乱を避けるために私たちが動いているってわけだよ」
「……混乱というと、軍を動かすとかそういうのか?」
「私からは何とも。とはいえ、そういうのも含めて冷静にって話だろうな」
「そうか。……わかった。私たちとしてもこれ以上問題を抱えて動けば自滅するのは目に見えている。冷静に動くことを約束する」
「わかった。クレント将軍やチノクさんもいいか?」
「はっ、王女の命に従います」
「私としてはなんとも。下っ端ですからね。まずは上に報告するかどうかを判断することになると思いますが、良いでしょうか?」
クレント将軍はいいとして、チノクさんが微妙ですね。
いえ、冒険者ギルドの立場を考えれば当然ですね。
腕が立つとはいえ、支部の一職員ですから仕方がないと言えます。
「チノクさんは問題ない。付き合いから今から話すことを喋るようなバカじゃないと思うしな。だろ?」
そうキシュアさんが私たちに視線を向けてきたので、素直に頷きます。
チノクさんはそういう短慮なことはしないと思いますから。
「じゃ、私たちがこんな風に援助をしつつ、行動している理由を話すとしよう。あ、変に騒ごうとか、こっちに喧嘩を売るのであれば潰すからな?」
「「「……」」」
キシュアさんは最後に脅しをつける。
笑顔だったんですが、カシア王女たちは無言でそれを受け止めます。
冗談だとは思っていないようで何よりです。
なにせ、下手をすれば北部どころか中央部の国々まで壊滅しかねないことにつながる内容ですからね。
最悪は、この場の全員入れ替えてしまうというのも、最終案としてありだとお兄さまが言っていましたから。
「よし。わかっているようでなによりだ。それで理由だが……」
そして、小一時間をかけて、キシュアさんが私たちがなぜ北部へ来たのかを説明します。
もちろん、腰を上げかけたことも何度かありましたが、キシュアさんはもちろん、ニーナさん、そしてスィーアさんが威圧をして事なきを得ました。
無論、私も同じように笑顔で対応しましたが。
「「「……」」」
それで、話を聞いた3人はというと、真っ青になっています。
まあ、当然ですよね。
味方かと思っていたクリアストリーム教会が亜人排斥を行っているとか。
背中から刺されるという感じでしょうか?
それとも、下手をすると南北を挟まれて魔物と中央部に押しつぶされる未来でもみえたのでしょうか?
どのみちあまりよい結末を想像できるような、明るい話ではないのは事実です。
「色々ショックだと思うが、別に最悪ってわけじゃないからな。先ほども話したように、どうも北部と中央部の動きが違いすぎる。北部のクリアストリーム教会については、今まで移動してきて白だと私たちは判断しているわけだが、そっちはどう思う?」
因みに、私たちの話が本当であるというのは、ギアダナ王とダエダ宰相、そしてドドーナ大司教から預かった手紙を見せて信用を高めています。
一応、北部にもギアダナのことは知られているので、王や宰相の手紙というのは有効でした。
「……済まないキシュア殿。あまりにも……驚きの内容だったのでな。だが、北部のクリアストリーム教会は白だと私も思う。とはいえ……」
「中央部で好き勝手やっている連中が北部にも紛れ込んでいるのは間違いないでしょうな。ペトラ清司教と連絡を取ると言ったときにひるんだというのは間違いないですからな。下手な真っ向な接触は妨害される可能性がありますな」
「そうそう。私たちもそれを警戒して、冒険者として動いていたわけだ。というか、冒険者ギルドも中央部の方は殆ど亜人排斥に賛成みたいだしな」
本当に中央部はどうなっているのか把握することすら困難なんですよね。
ギアダナと組んでいますが、冒険者ギルドも与している可能性が高くて、下手に動けないって状態なんです。
「……そういう風潮があるというのは聞いていましたが、まさか追い出すまでになっているとは。というか、冒険者ギルドが亜人排斥に関与しているなどと……」
「そういえば冒険者ギルドの方も気になっているんだが、冒険者ギルドの本部というか、そういうのはどこなんだ?」
「知らないのですか?」
意外という感じで、チノクさんはこちらを見てくる。
まあ、知らないわけじゃないんですが、向こうの認識と私たちの認識が合っているのか。
「私たちが所属というか登録したのはギアダナの冒険者ギルドでな。そこから事態を把握したから、下手に動くのは危険だって話があってな」
「ああ、確かにな。数名の新人冒険者などどうにでもできるだろう。もちろんキシュア殿たちが腕が立つのはわかるが、権力などを使えば面倒になるのは間違いない」
「その判断は間違いではありませんね。では、チノク殿説明をお願いできますか?」
「わかりました。とはいえ、そこまで難しいことではありません。冒険者ギルドの本部は北部の中央ファイアナ王国にあります。魔物との戦いで常に働き続けた土地ですからね。そこから冒険者の派遣を行っています。……ですが、それでは各地域で指示に遅れが出るのは当然なので、中央部、南部においても、本部の代わりになる、中央部本部、南部本部として機能していますので……」
「そっちはそっちで勝手に動いている可能性はあるか」
「……はい」
当然の話ですね。
ウィードのように即日伝達、そして戦力派遣ができるような環境にはないのですから、ある程度の距離が離れているのであれば、独自に判断して動ける頭が必要となります。
というか、ウィードだって行政関連は各土地で任せていますからね。
そうでもないと、ウィードの総合庁舎はパンクしてしまいます。
グラス港町はグラス港町で、オーレリア港町はオーレリア港町で、ベータンはベータンで、バイデはバイデで、各領主たちが各々の町と治安を守っています。
もちろん、手に余るようならこちらに連絡が来ますが。
それを冒険者ギルドも採用しているだけというわけです。
「となると、本当に動きが取れないな」
「ふむ。話は分かった。だが、その先の目的は中央部にはびこる亜人排斥派の一掃ということでいいのか?」
流石は王女様。
この話の根幹をちゃんと聞いてくるのですね。
「まあな。ドドーナ大司教は今回の亜人への対応をみて、クリアストリーム教会の正当性というか、頭を疑っていてな。当初は殴り込むとまで言っていたからな」
「……あ~、ドドーナ大司教の噂は聞いているが、そのままなのか?」
「その噂を私たちは知らないが。まあ、まっすぐな爺さんだったな。あれでどうやってクリア教会を率いていたのか不思議なぐらい」
「優秀な仲間がいたって言ってたけど、普段は普通のおじいさん」
「ですね。私たちの前では紳士な普通の子供たちに優しい方でした」
「はい。それは間違いありません」
本当にドドーナ大司教は穏やかな人でした。
だからこそ、そこまでのことをしたのだと思います。
「なるほどな。とはいえ、結論を先に言うが、今の私たちに中央部のクリアストリーム教会の動きをどうこうする余裕はない」
そうはっきり告げるカシア王女。
うん、私たちもそれは予想していました。
というか、この状況で敵を増やすとか、逆に殴ってでも止めるべきです。
「大丈夫だ。それは理解しているし、目的はほかにもある。北部の魔物の攻勢具合を見に来たっていうのもあるからな」
そう、噂の魔王の存在を確認するというのもあるんです。
キシュアたちの話は、びっくり箱もいいところ。
北部が崩壊しかねない話だったわけで。
まあ、こちら側も話す相手の見極めがどれだけ大変だったか。
という割には意外と早い段階で話したんだから、カシア王女はマシなんだろうね。




