第1988堀:彼女たちの判断
彼女たちの判断
Side:ニーナ
「私たちに話すのを任せるのね」
「また面倒な」
なんというか、キシュアの言う通り面倒。
ユキたちに判断を任せたんだけど、こっちに投げ返されるとは思わなかった。
まあ、理由を聞けば納得だけど。
「でも、それが一番よ。やばいと思ったら話さないでいいんだし」
「ああ、そういう考え方もできるんですね。確かに命令として話せって言われたら相手がどのような状態でも言わないといけません」
そう、スィーア、ヴィリアの言う通り、人って状態があるから、私たちの話を受け入れられるタイミングというのがある。
それを選べるのはいいこと。
日時を指定されるとそれに従わないといけないし、それは確かにありがたいが……。
「話さないっていうのは、実質無いに等しい」
「それだよな~。ナイトマンを正式に導入しないと私たちが動けないもんな」
「動きたいって言っていたのに文句を垂れないように」
「あはは、私たちが変化を求めてお兄さまに相談しましたからね。とはいえ、ナイトマンを援軍に回すという判断になるとは思いませんでしたが」
うん、ヴィリアの言う通り、そこまで思い切った判断をするとは思わなかった。
まあ、ナイトマンを秘密裏に動かして備えるぐらいで、表向きに話すことは無いと思っていた。
私たちを動かす理由としては、教会と接触して援軍を呼ぶという方向にでもなるかな~って。
とはいえ、敵の規模を考えれば、この砦だけで済む話じゃないから、今のうちにナイトマンなどの保有戦力が存在するっていうのは納得できる話ではある。
「まあ、それで私たちはペトラ清司教と会うことを優先できるわけだ。中央部もかなりきな臭いしな」
「……オーエ侵攻が目的ではなく、ギアダナにある何かが目的だったというのは気が付かなかった」
「ですね。軍を動かして、戦争まで引き起こしておいて、実のところ敵としてみていたオーエではなく、ギアダナを目的としていたなどと」
「普通は考えませんね」
ヴィリアの言う通り、そんなことは普通は考えない。
というか、そんなことができるともやろうともまずは思わない。
リスクが高すぎるから。
下手をすればギアダナ王国はもちろん、中央部の国々もクリアストリーム教会の敵に回る可能性も十分にある。
今だってその可能性は否定できない。
オーエを制圧してしまうという、向こうにとっては予想外の出来事が起き、そしてギアダナの戦力が減らなかったので、クリアストリーム教会はギアダナの中に入ることが出来ず、そのままというわけ。
いや、そのおかげで、ギアダナがドドーナ大司教を通じてペトラ清司教と連絡をとるという動きまで見せた。
まあ、いまのところギアダナ以外の国はクリアストリーム教会に賛同しているし、成否を考えると半々って所か。
だからこそ、早く動いておいた方が良いってことだろう。
「……それで今から話に行く?」
「様子を見てじゃないか? まだいろいろ話し合っているころだし、それを聞きつつ、物資支援とナイトマンの援護を言う」
「キシュアの言う通りですね。タイミングは大事です。会って話すのはペトラ清司教の場所を尋ねるという感じで良いでしょう」
「見つかっていればいいですね。それなら、代わりの戦力とか物資の提供を提案しやすくなりますから」
そうなればいいけど。
黙って話さないという可能性もある。
とはいえ、それがカシア王女の器ってことにもなるし、とりあえず私たちは面会をしたい旨を使用人に伝えて待機すること15分程度で返事が来た。
「お待たせいたしました。カシア様がお会いになるそうです」
「ありゃ、意外と早いな」
「ちょうど会議が一息ついたようです」
なるほど。
まあ、あれだけ会議をしていれば休憩を入れたくもなるか。
そんな納得をしつつ、私たちはカシア王女がいる会議室へと向かう。
そこは、別に豪華な会議室というわけではない。
なにせ、砦の会議室だ。
ウィードのように拠点としての機能を万全と整えているわけじゃない。
必要最低限というやつで、精々暖炉があり、大きなテーブルと椅子、地図があるだけのモノ。
防衛拠点の会議室に快適さを求めるのはウィードぐらい。
「待たせたようだな」
そういって、出迎えてくれるのはこのアンドの砦の主であるカシア王女。
隣にクレント将軍や補佐をしている各代表たちもいる。
あれだ、ウィードにおける物資の部門とか、冒険者の隊長や魔術部隊の隊長とかそういうの。
もちろん、冒険者の代表としてチノクもいる。
「お忙しいところ申し訳ない。状況はどうなっているかと思ってね」
キシュアは特に遠慮なくそう聞く。
まあ、忙しいのは間違いないし、こちらも状況を聞きたいからこれ以上ない言い方なんだけどね。
下手をすると偉い人とかは怒りだすから、難しい。
とはいえ、カシア王女たちはというと。
「さっきも言ったが、待たせていたからな。気にしないでほしい。キシュア殿たちは今や砦の士気の柱であり、主力だ。状況を聞きたいのは当然のことだろう」
そういって納得はしてくれたが、つまりは私たちを頼りにしているということ、下手なことでは逃がさないと言っているようなもの。
う~ん、面倒だ。
「それで、現在の状況だが。北部山岳で発見した、魔物の出没地点のことを王都へ報告し、援軍の要請をしているところだ。返事は来ていない」
それは仕方がない。
発見してまだ4日。
そんなすぐに援軍が来るわけもないし、砦の戦力での対応も考えたはずだからもっと連絡を送ったのは遅いはず。
そして何より……。
「援軍が来る可能性はあるのか?」
そう、キシュアが言うように援軍要請をしたところで援軍が来るのかというと微妙だ。
援軍を出せるぐらいなら、もっと前に大部隊を送り込んで制圧している。
つまり、こっちにそこまで援軍を回す余裕はないってことを示しているわけ。
「……正直、微妙だな。敵の増大は常々伝えてはいるが、今まで支えてきた実績もある。そして今回もキシュア殿たちのおかげで持ちこたえたというのも事実だ。アンドの戦力でどうにかなるという判断になる可能性もゼロではない」
「ですが、今回は数が膨大ですし、私の方からも軍部として報告を送りました。そして……」
そういって、クレント将軍はチノクの方へと視線を向ける。
どういうこと?
「冒険者ギルドとしても、今回のことでかなり難しいと判断し、同じように援軍要請の書状をだしました。イオア王国は当然として、イオア王都にある冒険者ギルドにもです。ギルド長もさっそく」
なるほど、冒険者ギルドとしても援軍出さないとまずいと判断しているわけか。
まあ、あれだけアンドの町の冒険者が出払っていればね。
とはいえ、人や物は動いているから、まだまだ平気だと楽観しがちってわけか。
「話はわかった。それで、そこら辺を踏まえて援軍とか物資とか送ってくるのか?」
「正直に言えば、援軍や物資は送ってくるだろう。だが、それでも多くはないとみている」
「ですな。今のところ砦は健在で、兵や冒険者もけが人はそれなりに出ているが、死人についてはそこまで多くはない。町の戦力をほぼギリギリまでつぎ込んでいるところ以外は問題ないのです。そういう事実で出し渋りをし、まずは試しということになる可能性があるかと」
「はぁ、まあそうなりますよね。とはいえ、その人たちが来て現状を正しく報告をしてもらえれば、ようやく本隊がということになりますね」
よくあること。
ウィードでも最適な運用のために確認はするし、これはその一環。
兵士なんて動かすだけでそれだけ物資や資金を垂れ流すんだし、簡単に送るわけにもいかない。
だからその前に、信頼できる人物を送り、最適な運用を判断させる。
とはいえ、ウィードだと映像記録はあるし、連絡は一瞬で出来るから、判断はそこまで時間はかからない。
こっちは、早馬と兵や物資をまとめての援軍だから……。
「そうか、それでその少ないとはいえ、その援軍が来るまでの時間は?」
「そうだな。早くて3日。援軍の数が相応に多ければ10日と言ったところか」
「ですが、3日だけとなると、王都にいる実力者が少数くるだけになりましょう。物資に関してもアイテムバッグに入るだけとなりますから、医療品が多少ぐらいと思っておいた方がよいかと」
「まあ、そりゃ仕方がない。で、実情としては、もっと戦力や物資がある方がいいとは思っているわけだよな?」
「それは当然だ。今の状態を保っていられるのは、間違いなくキシュア殿たちがいてこそだ。だが、それにずっと頼っているわけにはいかない。ペトラ清司教を探すということで、キシュア殿たちの支援を受けているのだ。それをないがしろにするつもりはない」
カシア王女はそうはっきり言って、クレント将軍も頷いている。
なるほど、約束は違えるつもりは、この二人には無いと。
その様子を見て、私たちは顔を見合わせて頷く。
これらな話しても問題は無いだろうと。
「ん? どうしたのだ全員で顔を見合わせて。何かあったのか?」
「ああ、カシア王女たちの状況であることを話すか話さないかを考えていたんだが、この様子なら話してもいいだろうって結論になったわけだ」
「ほう。キシュア殿たちの信用を得られたというわけだ。それで話というのは?」
「簡単だ。戦力や物資で困っているのは理解しているからな。それを補える方法があるって話だ」
「……詳しく聞かせてくれるか」
「もちろん。ちょっと時間は長くなるけどいいか?」
「ああ、お茶を用意させる」
ということで、私たちも本格的に机に座って話を始める。
「それで、そちらが戦力と物資を補えるという話だが? 本当か?」
「まあ、疑いたくなるのはわかる。だからまずはこれを見てくれ」
そういって、キシュアはあらかじめ用意しておいた、カバンを持ってきて、そこから物資を次々と取り出す。
それはあらかじめ用意しておいた、大量の医療品の一部。
これはユキがいざという時はこれを置いて退散してもいいだろうってことでもらっているもの。
それを今回は物資を持っている証明の一つとして利用する。
「アイテムバッグか!」
「しかもこれほどの」
「驚きました」
カシア王女、クレント将軍、チノクも驚いた様子でこちらを見ている。
「この運用に関してはドドーナの爺さんから一任されている。そして、いざとなれば仲間を呼び寄せることもできるわけだ」
「……仲間。それはキシュア殿たちと比べて……」
「遜色ないな。得意分野なら上のも相応にいるな」
「そこまでか。しかし、なぜこうして協力してくれるのだ? そしてキシュア殿たちは何が目的なのだ?」
そして当然の質問をカシア王女はしてくるのだった。
イオアとしては援軍は出るが、ちょっと微妙になりそうなので、キシュアが援助を提案。
とはいえ、動機がわからないので警戒するカシア王女と言ったところですね。
まあ、世の中無償の援助というはまずありえませんから警戒するのは当然のことです。




