第1986堀:待機よりも動く
待機よりも動く
Side:アスリン
「う~ん。今日もお疲れ様~」
気が付けばハヴィアちゃんたち調査隊も戻ってきて、仕事の終業時間になっている。
私たちはホワイトな仕事をするようにってお兄ちゃんがいってたから、残業はめったにしないんだ。
「お疲れ様~。って、結局何も見つからないけどね」
「いやいや、南端の森に行って魔物の遭遇数は上がっているじゃないか」
ハヴィアちゃんとワズフィちゃんは南端の大森林で日々仕事をこなしてくれている。
とはいえ、南端と言ってもかなり広いし、森、ジャングルの中から、調査をあれこれしているから、あまり進展はないんだよね~。
いや、そういうのが大事なんだけど。
「……流石に私はキツイ。何せ新種とか、遺跡とか、まあ色々探さないといけないんだし」
「ナイルアは体力ないよ。もっと体力付けな~」
「だな。これから訓練するか?」
「しないよ。……私は道具作りが基本なんだ。外に出るだけで体力を無くすの。知ってるだろ」
うん、ナイルアちゃんは基本的に屋内での仕事だよね~。
でも、二人と一緒にローテーションで指揮官をやってもらっているから、我慢してもらうしかないんだよね~。
「ごめんね~。フィーリアちゃんも開発に回ったし、3人も手伝ってもらってるよね~」
この3人も実のところ陸上戦艦の開発のお手伝いをしてもらっているんだよね~。
出向って形なんだけど、そのあとにこっちに来てもらっているから疲れているんだろうね~。
それだけ3人も魔術に精通しているってことなんだけど~。
私もお手伝いは出来るけど、こっちの仕事が回らなくなるからね~。
「いやいやアスリンちゃんは気にしなくていいよ。好きで手伝っているしね~」
「そうそう。まさか、あんな船を作ることになるとは思わなかったけど。私も手伝えるし楽しいし」
「……ワズフィはなんでか、腕力で手伝っていたよね。浮遊の魔術使えばいいのに」
「私はそっちの方が相性的に有利なんだよ」
「あはは、辛くないならよかったよ~。今日は終わりだからゆっくり休んでね~」
ということで、お仕事を終えて私たちはお家に戻ろうとしていたんだけど。
『アスリン。今空いているか? ちょっと、ヴィリアたちに説明してほしいんだが、執務室に来れるか? 』
そうお兄ちゃんから連絡が来て、すぐに私はお兄ちゃんの所に向かう。
と言っても、場所に関しては私たちが働いているところはそこまで離れていないからすぐにつく。
「きたよ~」
いつものようにノック無しで部屋に入る。
中はいつものように、プロフお姉ちゃんたちが仕事をしていて、奥の立派な机にお兄ちゃんが難しそうな顔をしつつ、書類を手に難しい顔をしている。
大変だよね~。
あと、コール画面も出ているから、あっちのお仕事もだね。
何せ昨日は大騒ぎだったし。
そう考えていると、お兄ちゃんは私が到着したことに気が付いて顔をあげ。
「お、アスリン。来てくれたか。ちょっとコールに参加してくれないか」
お兄ちゃんがそう言うと、コールの参加要請が届く。
コールはこうして複数人数の話し合いが出来るのがホント便利だよね~。
とはいえ、これってちょっとした話じゃないよね?
私がちょっと顔を出すだけなら、お兄ちゃんのコール画面の端に少し映るぐらいでいいもんね。
これは、かなりの難題お仕事かな?
とりあえず、空いている来賓用のソファーに座ってゆっくり出来るようにしていると、すぐにお茶が出てくる。
顔を上げると、ホービスお姉ちゃんがいて。
「アスリン様お茶をどうぞ~。お茶請けはケーキでいいですか~」
「うん、ありがとう~」
私が仕事をするっていうのが分かったのか、すぐにお茶とお菓子の用意をしてくれる。
さて、コール画面を開いて繋ぐと。
すると、画面の先にはなぜかヴィリアちゃんが映っている。
「あれ~? ヴィリアちゃん?」
『アスリン? あれ? お兄さま、クリアストリーム教会のお話でしたよね?』
ヴィリアちゃんがそう言ったことで、なぜ私が呼ばれたのかが分かった。
「あ~、それなら私が一番だよ~。昨日会ってきたから~」
『そうなんですか?』
「うん。お兄ちゃんが呼んだってことは、お話は聞いていると思うけど、クリアストリーム教会のお姉さんは全然悪意が無かったんだ~」
『えーと、それはどういう?』
『意味がわからん』
ヴィリアちゃんもキシュアお姉ちゃんたちも首を傾げいている。
当然だよね~。
「つまりだ。今回、クリアストリーム教会が寄越してきた人員は、何も知らされていないって感じなんだよ」
『『『はぁ!?』』』
今度は驚きの声だ。
うん、当然だよね~。
何せクリアストリーム教会が要人を寄越しておいて、事情を何も知らない人が来たんだから。
何を考えているんだってね。
『それは本当なのでしょうか? 何も知らないというのは? 演技とかでは?』
「演技だったらそれはすごいが、表向き反感を買うやり方で攻め落とした町だぞ? 下手に民衆と接触したら殺される可能性も少なくないからな。微妙なところだ」
『確かにそうだよな。あんな人質を取るようなやり方をして、しかも裏で主導してた連中がそんなことするとは思わないよな』
うんうん、本当に不思議なんだよね~。
向こうの狙いがギアダナ王都にあるってことを知らなければ。
「だから、俺も不思議でその手の嘘とかに敏感で、暴けるラビリスとアスリンに判断を頼んだわけだ」
『なるほど。その二人なら嘘かどうかは間違いなくわかる』
「その結果、アスリンは白、ラビリスも接触して心中を把握したが、全然だと。ここに派遣されたのは戦争で傷ついた人たちの支援が目的だった。まあ、俺たちの中でいえば、リリーシュとかハイレンタイプだな」
『『『ああ』』』
お兄ちゃんの説明で、派遣された人がどういう人物像なのかよくわかったみたい。
私もよくわかる説明だと思う。
リリーシュさまとかハイレンちゃんに確かに似ていた。
「ラビリスはウィードで仕事があるから、アスリンに来てもらったってわけだ」
「そうだよ~」
私は今南の大森林の調査任務で派遣部隊が活動しているだけだからね。
ローテーションで回しているから、そこまで忙しいってわけじゃないけど。
ウィード待機メンバーが減っているから、こっちにいるんだよね~。
フィーリアちゃんは陸上戦艦とかパワードスーツの開発で忙しくて、顔を出せないしね~。
『そういうことですか。しかし、なぜそのような状況にオーエを押さえる意味などないとでも言いたげでは?』
「その疑問はもっともだな。まあ、視点を変えてみよう。元々、オーエに興味がなかったとすれば?」
『『『はい?』』』
『ちょ、ちょっと待って』
理解できていないキシュアお姉ちゃんたちやヴィリアちゃんと違って、ニーナお姉ちゃんだけが分かったようで、かなり驚いた顔になってる。
いつものニーナお姉ちゃんを知っているから、珍しいよね~。
まあ、それだけ衝撃的事実だったんだろうけど。
『つまり、クリアストリーム教会はギアダナが目的だったってこと?』
『『『はぁ!?』』』
ニーナお姉ちゃんの言葉で今度はキシュアお姉ちゃんたちが叫ぶ。
ヴィリアちゃんは口を開けたまま信じられないって感じだ。
「今のところな。別の情報が出てくれば、違う判断になるだろうが、オーエに来たクリアストリーム教会の要人があれじゃな」
「だよね~。露骨に狙いはギアダナだ~って言っているようなものだし~」
『つまり、オーエに送られた人物はクリアストリーム教会にとってはどうでもいい人ってことね?』
「おそらくは。しかもよくよく考えればギアダナが同行者をよこせって言った割には、その要人を中心に10人前後で護衛の騎士も3人と来たもんだ」
『制圧したとはいえ、たった3人? いえ、ギアダナが制圧したから、護衛はギアダナに任せているってこと?』
「表向きはそうだろうな。そして、オーエでそのクリアストリーム教会の代表が何か事件に遭えば、護衛をしているギアダナの責任になる。というか、元々オーエ侵攻に関しても疑問が多かったからな」
うんうん。
オーエに攻めてきた状況もおかしいところが沢山あった。
確かに、オーエの兵数よりは多かったけど、それでも3倍とまではいわなかったし、制圧するとなると少ないよね~って話はあったんだ。
でも、トルル侯爵っていうのがお馬鹿過ぎて、どこまで本気だったのか、計画だったのかが判断付かなかったんだよね~。
『確かにそういわれると無謀な攻勢だった。そして、今回の妙なクリアストリーム教会からの人物となると、目的はオーエではないという判断になったわけか』
「そういうこと。とはいえ、ギアダナの何が目的なのかっていうのはわかっていないし、現在オーエの北の町に来ているクリアストリーム教会の人たちが演技をしているという可能性もゼロではないがな」
「私は嘘を吐いているようにはみえなかったけどね~。普通に派遣されてきました~って感じだったし」
普通にクリアストリーム教会を布教に来ましたよ~って感じだったんだよね。
「まあ、そういう感じで、今は情報を集めている最中ってところだ。だから、北部の動きに関してはこちらからアドバイスできるような情報は無かったって感じだな。そっちから聞いて、何か北部の動きに関るような話はあったか?」
ああ、そういうことか~。
なんでヴィリアちゃんたちがオーエに来たクリアストリーム教会の人たちのことを気にしているのかよくわからなかったけど、北部の動きが出来なくなっているから、こっちに聞いてきたんだね。
『今のところは特に動けるような話は無い』
『だな。というか、マジでクリアストリーム教会にどう接触するべきか悩むよな~』
『ですね。ユキさんとしては、北部というか、イオアのアンドの砦でこのまま防衛をしておくべきかと思いますか?』
「あ~、そこな。とりあえず、防衛に関してはどうなんだ。4人が抜けて砦が落ちるという話なら問題だが、それがないなら、ペトラ清司教と接触を優先したいって言ったらどうだ?」
「そっか~。援軍を呼ぶとか言えば嫌って言わないよね~」
『なるほど。その手がありますね』
ヴィリアちゃんはポンと手をうつ。
いい手だと思ったんだね。
とはいえ……。
「でも~、ヴィリアちゃんたちが離れた時に魔物がもっと多く押し寄せたらどうするの~?」
『『『む』』』
そう、そこが問題なんだよね。
ヴィリアちゃんたちが砦から動けないのは、別にヴィリアちゃんたちに意地悪がしたいわけじゃなくて、砦を守れなくなるってことにあるんだよね。
そして、それはヴィリアちゃんたちにとっても、私たちウィードにとっても好ましくないんだよね~。
イオアが崩壊すれば、それはそれでこっちにしわ寄せがくるし。
「そこはちょうどいいのがいる。もういっそのこと、名前を出すか? とはいえ、面倒ではあるな。ちょっと時間をくれ。ナイトマンを表向きの遊撃部隊として認識させるかどうか微妙なところだしな」
『『「あ」』』
そういえばちょうど、自由に投入し引き上げが可能な戦力を用意してたんだっけ?
とはいえ、別にウィードの戦力が増えたわけじゃなくて、私たちが趣味と気晴らしで暴れるだけの戦力だけど。
そうなると、正式に手伝えるとか、稼働できるっていうのは問題があるよね~。
とまあ、そんなことを話しつつ、一旦ヴィリアちゃんたちはカシア王女たちの方向性を探るってことで決まったのでした。
う~ん、陸上戦艦とかも意外と使えるかな~?
敵の狙いが絞れてきたものの、手数はいまだに足りない。
そして、こんなこともあろうかと?用意しておいたナイトマンが役に立つのか!?




