第1984堀:ようやく到着する要人の前に
ようやく到着する要人の前に
Side:カグラ
「はぁ、オーエで仕事をしていたと思ったらこれか」
「いやいや、元からその予定だったじゃん」
そういってくるのはミコス。
今日はシアナ男爵たちが連れていた、オーエの統治に口を出すためのクリアストリーム教会の要人が到着する日。
つまり、とんでもなく面倒な日でもあるのに……。
「前日にユキからとんでもない予想を聞かされなければ、こうはならなかったわよ」
「あはは~。まあね」
ミコスももちろん、昨日の敵の本命はオーエではなく、ギアダナ王都の可能性が高いという話を聞いて、かなり驚いた。
つまり、オーエへの攻勢は次いでというか、とばっちりに近い。
そのおかげで、召喚誘拐事件が起きて、私たちに疑いの視線があつまり、こうして新大陸とウィードの行き来で奔走する羽目になっているわけで……。
その原因であるクリアストリーム教会の要人がくる日。
どれだけ腹に一物抱えているのか、面倒極まりないわ。
「最悪、謁見で前回と同じようにオーエ王を害する可能性だってゼロじゃない」
「え? 謁見させるわけ?」
「させないわよ。北の町に到着次第、スタシアが拘束する予定」
「当然だよね」
本当に敗戦して従っているならともかく、それは偽りなんだし、本当の勝者はこちら。
オーエ王を危険な目に合わせるモノですか。
「でもね、向こうだってこちらを害したことは知っているんだし、狙いがオーエ王の首なら、勝手に動く可能性もあるでしょ?」
「あ~、まあ、そうかな?」
「そうよ。だって、宣戦布告の使者を使い捨てたぐらいよ? それぐらいするでしょ」
「あったね~。とはいえ、オーエの王都まではいけないでしょ? 何せ魔物が山ほどいるんだし」
今やオーエの森は荒野の先、おそらくはアスリンたちが調査をしている南端の大森林やほかの森から来た魔物たちでごった返しているもの。
そういえば、そっちの調査もあったわね。
「あ、魔物で思い出したけれど、ヴィリアたちが北部の魔物出没地点に行ったって話はどうなったわけ? あれから大きな報告は聞いてないけど、失敗もしてないよね?」
「ああ、ヴィリアたちというかイオアの防衛部隊としての山岳部調査ね」
「同じじゃん」
「同じじゃないわよ。わかってて言ってるでしょ? 作戦の成否というか、判断とかはウィードにないんだから。あくまでもヴィリアたちはイオアに雇われている冒険者でしかないの」
そう、今のヴィリアたちでは敵の出現ポイントをどうこうすることは出来ない。
とはいえ、それもするつもりはないんだけど。
「わかってるって。でさ、結局どうなったのさ?」
「報告書はミコスもアクセスできるでしょう? ……私に要約して説明してほしいとかじゃないでしょうね?」
「そんなことはないよ~。いや、それはあるかな? とりあえず、カグラからの意見を聞きたいって感じかな。ユキ先生にデータ集めを頼まれそうなんだよね」
「どういうこと?」
「ほら、ミコスちゃんって各国にカタログとかそういうのである程度名が通ってきているんだよ。敏腕編集者って感じ?」
「ああ、確かに」
ミコスは今まで私の補佐ということで、あまり目立っていなかった。
ハイデン外交官の補佐で、ユキと仲が良いって感じ。
でも、最近ではカタログを中心としたウィードでの出版を担っていることが認められて、本を作るならミコスの会社をと言われるぐらいだ。
まあ、ミコス一人の力ではないんだけど、それでもそういう技術を持った部下を集めて、本を作っているということは間違いないから、ミコスの実力でもある。
そして、そうなると色々頼まれることも多くなってくる。
「各国に説明用に情報をまとめて作ってくれって、まだ確定じゃないけれど、そういうの頼まれているんだよね」
「それって報告書とは別よね?」
「うん。娯楽として読みやすい感じで。ゴシップ記事って感じ?」
「……意味あるわけ?」
「別に嘘を書くわけじゃないし、新大陸の荒野進出の歩みを進めたいって目的があるからって」
「ああ……すごく納得」
ハイデンがいるハイデン地方の国々も今回の新大陸進出に関しては慎重だ。
ウィードが支援するとは言っているが、上層部としてはこれ以上ウィードの支援を露骨に受けるのは良くないと考えている。
何せ、すでに自動車、医療品の生産工場の設計図とかの支援が確定している。
もちろん、その支援については、見返りにウィードの活動を支援してもらっている、闇ギルドから端を発するこの一件で、ウィードはかなり国際的にギリギリな行動をしているからだ。
もちろんばれないように動いているし、表向きの行動にも闇ギルドを追い詰めるためということで賛同もしてもらっている。
ウィードとしては本当にありがたいから、新大陸の件も巻き込んでいるから、そのまま受け取れとユキは言いたいんだけど、流石に土地の提供までとなると、もらいすぎという意見があるのは、私も否定できない。
もちろん、新大陸の国々とことを構えることになれば、戦ってもらうことになるから、その協力要請もしているんだけど、それでもというやつだ。
だから、その鈍足とは言えないけれど、その予定を少しでも早めるために、ミコスを通じて、新大陸の情報を載せた雑誌を作って、大陸間交流同盟の国々に配って、新大陸進出を少しでも早めたいのでしょうね。
実際、新大陸の戦況については本当にわけがわからないし、こちらと足並みをそろえて動いてくれる味方が少しでも多いというのはありがたいもの。
南側の荒野から南の制圧状況だって限定的だし、土地は広大。
ウィードの戦力じゃマジで足りないのよね。
「で、説明プリーズ」
「あ、そうだったわね」
各国の進出状況とか考えていたけれど、元はミコスが新大陸の雑誌を作るから情報をくれって話だったわ。
別に否は無いし、素直に話すことにする。
ミコスのさぼりじゃないってわかったし。
「そうね。簡潔に言うと、アンドの町、砦から山岳部の中腹と言っていいぐらいの3か所において、敵が出現する洞穴を確認したわ」
「洞穴って、魔物が出てくるんじゃダンジョンじゃないの?」
「そこの判断はしていないのよ。ヴィリアたちが勝手に侵入するわけにも、潰すわけにもいかないから」
「あ~、一応調査が目的だったもんね」
「その通り。あわよくば潰してしまってもよいって命令はあったけれど、逆に危険だと見たらしいわ」
「なんで?」
「その洞穴は今まで山岳の調査を行っていた人たちは知らなかった。というかなかったと言ったのよね。つまり、作られたってこと。そしてそれを潰すなりなんなりすると、別ができる可能性がある」
「あ」
ミコスも気が付いたわね。
私も当初は出現場所を潰せばアンドへの圧力は減るって思っていたんだけど、ユキは難しい顔をして。
『それはやめておいた方がいいな。ヴィリアたちも無駄に刺激するな』
そう指示を出したぐらいだ。
ダンジョンマスターだからこそ、というか、こういう戦略を練るのがユキの本分だものね。
「そっか。そういう場所を作るんだから、潰されたら新しく作るだけだもんね」
「その通り。しかもその新しく作ったものが砦を超えてイオアの内側ともなれば……」
「うわぁ、大混乱だよね」
「そうね。砦の意味がなくなるし、下手をすると国内のあちこちに敵の侵攻拠点が出来かねないって思っているわけ。それは避けたいから……」
「手を出すなって話か~」
「そういうこと。すでに敵の送り込み方を変えてきているんだし、対応策を取られれば後手に回りかねないわ」
本当に面倒よね。
というか、こういう判断をイオアのカシア王女たちも思いついたんだから、流石というべきか、かなりの軍略家ってことになるわ。
「なるほどね~。うん、後で報告書を読んで、ユキ先生に話を聞いてみるよ」
「聞いてみるって、そこまで暇じゃ……。ああ、取材の一環?」
「そうそう。あとはヴィリアたちだね。ほかにナイトマンのほうも」
「ナイトマンって、まだ誰も出動はしていないでしょ? 情報を集めている最中のはずだけど?」
「だからだよ。ほかの二国、最北端ワイダウ、北東部分のシジシオの情報があることに越したことは無いでしょう?」
「まあ、それはそうだけど、それこそナイトマンに変身するメンバーが自分で情報を集めるんじゃない?」
どうせ最新すぎる情報だし、常に更新される。
出撃の都度、ユキの方から最近の情報が与えられるはずだ。
「それはそうだろうけど、事前に国の情報があるのはいいことでしょ?」
「確かにそれはそうね」
無知の状態よりは遥かにましでしょう。
とはいえ、ナイトマンとして出動する時は別に相手のお国柄とか事情に巻き込まれないように関わることはまずないんだけど。
まあ、それでも相手の文化を知っておくのは大事か。
無理が災いして、敵対者として見られるのは避けたいし。
「よし、じゃあ。そこら辺で情報を集めるとして、まずは北の町に行ってクリアストリーム教会の出迎えをしないとね」
「はぁ、本当に嫌なことを思い出させるわね」
「まあまあ、私もクリアストリーム教会の人たちがどういうのかは知っておかないといけないしね」
「ああ、そっちも情報収集するってわけか」
「そうそう、こっちも記事にしないといけないからね。一応新大陸の情報誌になる予定なんだし。クリアストリーム教会のことは外せないでしょう」
「その通りね」
むしろ、一番情報をまとめておかないといけないでしょう。
これから新大陸に来てくれる各国が下手に関わりを持って取り込まれたりとか最悪のことなんだし。
いえ、北部のまともな活動をしているクリアストリーム教会ならいいのかしら?
まだそういう判断もわからない状態よね。
……そこら辺の注意をミコスにしっかり書いてもらうためにも、クリアストリーム教会の使者とはしっかり話す必要がありそうね。
「じゃあ、スタシアにさっそく連絡を取りましょう。シアナ男爵たちを出迎える準備もしているはずだし」
「勝手に私たちが話をするわけにもいかないからね~」
ということで、私たちはさっそくスタシアに連絡を取り、クリアストリーム教会の要人がくるのを出迎えるのであった。
ミコスは最近有名になってきており、キャリー姫とかハイデンの要人たちはびっくりしているよう。
まあ、雑誌編集者として名前を馳せるとは思わないよね。
本を作るのと、編集というのは昔は結び付かないし、新聞というのもほぼないような文化なんだよね。
もちろん、雑誌という概念もほぼなし。
だからミコスは世界初の編集者になったという感じなっているわけで、注目を浴びている。




