第1983堀:狙いが違ったかも
狙いが違ったかも
Side:ユキ
「『『……』』」
モニター越しではあるが、全員が沈黙し、緊張が走っているのがわかる。
日中の気軽な面会での情報収集だったのが、思わぬ真実が見えてきて背筋がヒヤッとしてきた。
なんというか、夏場なのに寒くなってきたってやつ。
とはいえ、このまま黙っているわけにもいかないので、俺は現在判明している事実を告げる事しかできない。
「ここまでして、何が目的かと考えますと、オーエに兵を出したという事実から、ギアダナの兵力を削ぎたかったのは間違いないですね」
『あ、ああ。ユキ殿の言う通りだと思う。そうだな、ダエダ?』
『……そうですな。失礼いたしました。余りのことに唖然としておりました。ですが、ユキ殿の言う通りかと。元々亜人を差し出せと言っていましたからな。そしてクリアストリーム教会肯定派がオーエの町への出陣を決めました。動機は魔王の配下である亜人を倒さなければという名目で』
その話は聞いている。
というか、捕まえた侯爵本人からも聞いている。
保身とクリアストリーム教会との癒着ばかりで、教会に何の意図があったかはさっぱりわかっていない様子だが。
まあ、ある意味それが正しい協力関係ともいえる。
下手にお互い深入りすると面倒になるからな。
……そのまま予定通りにオーエが落とせるなら。
いや、この場合、クリアストリーム教会としては……。
『だが、予定が狂った。トルル侯爵たちはオーエを落とし勝ってしまった。表向きな』
そう、ギアダナ王が言うように、敗北するはずだったトルル侯爵たちは勝ってしまった。
それが意味するところは……。
「つまり、クリアストリーム教会は敗北を想定していたということになります。では、敗北した場合のことを考えてみましょう。私としては中央部の政治バランスに関しては分かりませんが、トルル侯爵が率いる連合軍が負けたことで兵が四散します。これで出た被害を教会が賄うということは出来るのでしょうか?」
『……できるかできないかと言えばできる。むしろ兵を失ったところからすればありがたい話ではあるな』
『そうですな。敗北したギアダナを糾弾することは……実際難しいでしょう。なにせ、あの軍勢でオーエを落とすのは無理でしたし。はて、そういえば援軍の云々がありましたな』
「ありましたね。ですが、こちらから、つまりはトルル侯爵が要請してという話だったはずです。ですので準備もなにもなかった。違いますか?」
『確かに、援軍はトルル侯爵から要請するという話だったな」
『当然です。ギアダナ王国としては、無駄に戦うことはしたくないという方針でしたし、亜人も引き渡すことも拒否していましたからな』
『だから、そこらへんは自分で賄えという話になった。どうせとん挫すると思ったのもあるし、トルル侯爵を支援というか、後押ししていたクリアストリーム教会の狙いも見たかったからな』
なるほど、ギアダナは当時もクリアストリーム教会の妙な動きに警戒していたというのは言っていた。
そして、トルル侯爵たちの亜人排斥派が独自に近い形で動いていたのも聞いている。
もちろん、クリアストリーム教会と露骨な対峙を避けるために、静観していたというのもあるだろう。
何せ、今やクリアストリーム教会の亜人排斥思想は中央部では広く知られている。
中身はすっかすかの魔王の手先という、子供の絵本ばりの敵役としてだ。
まあ、民衆には受け入れられやすいというのはあるだろう。
実際、反乱を起こして国に被害を与えたというのは事実だし、そこら辺と混同させれば亜人を悪と錯誤させるのは簡単だろう。
『しかし、そのトルル侯爵たちが敗北した穴埋めにクリアストリーム教会の部隊を送り込むか……』
「言ってなんですが、現実的ではあるのでしょうか?」
『国としてはありえない。だが、各領主たちが受け入れてしまうだろうな』
『何せ、戦力が激減しているのです。なので注意したところでというのもありますし、教会からの支援ということで、独自に受け入れてしまうでしょうな。それに敗戦の責を負わされるというのもありますから』
『あ~、そういうことか。敗戦の責を確かに取らせようとしていた。失った兵をどうするのかとか、そこで教会の兵士を取り込みに成功したとでもいうつもりか』
ああ、そういう方便も確かにアリだな。
『普通であれば教会も戦力低下するようなことを受け入れるわけがありませんが、ギアダナを切り崩すとなれば有効な手段となりますし、ギアダナに従ったふりでもするでしょうな』
『だな。そうなると、クリアストリーム教会の意向でトルル侯爵以上に自由に動く兵が国内にはびこることになるな』
『というか、そこまでになるとトルル侯爵領などはそのままクリアストリーム教会が直轄地にしてしまうことになるのでは?』
十分あり得るな。
トルル侯爵の支援と称した実効支配。
というかその方がギアダナ王国には離反がばれにくいというか、実証のしようがない。
何せクリアストリーム教会は支援に来たと言えばそれまでだしな。
「十分政治的にもあり得るというのは分かりました。とはいえ、今はとん挫しているので、一旦この話は後回しにしてよろしいでしょうか?」
『ん? ああ、そうだな。クリアストリーム教会の狙いがオーエではなく、このギアダナだったということが重要だな』
『その通りです。トルル侯爵が敗北したらというのは今は意味がありません。ギアダナの何を狙ってきたのか。それが重要です。まず間違いなく、我らがいる王都を狙っているというのは分かりますが』
『そうなのか?』
ギアダナ王はダエダ宰相の言葉に首をかしげる。
王都以外があると思っているのだろう。
俺もその可能性はゼロではないと思っているのだが……。
「理由をお聞きしても?」
『簡単な話です。王都以外に目的のモノがあるのであれば、別に私たちに話を持ってくる必要はないのです』
「『ああ』」
その一言に納得してしまう。
『私たちギアダナと揉めるというリスクを冒して、ほかの地域を確保する意味がありません。クリアストリーム教会の支部を利用して、何かしらの派遣などを使ってその土地を調べてしまえばよいのですから。こちらは目的を把握していませんし、普通に魔物討伐の為にやってきたと言ってしまえばそれでですから』
確かにダエダ宰相の言う通りだ。
目的地がギアダナの王都でなければ、別に堂々と教会の仕事と偽って調べても何も問題は無いだろう。
王都に目的の何かがあるからこそ、ギアダナ王やダエダ宰相たちが邪魔になったというわけだ。
流石に王都のどこかを調べるためには、王家の許可とかが必要になるだろうしな。
とはいえ、王都の誰も関係のない場所なら別に許可もいらないはずだ。
つまり……。
『王家由来の場所に何かがあるというわけだな。王都とはいえ、私たちが全て監視しているわけではない。ここまで踏み込んでくるということは……』
『私たちが厳重に管理しているような場所が狙いでしょう。下手をすれば戦争になるような……』
だろうな。
ギアダナ王国を敵に回しかねないような場所を探るというか、何かを手に入れようとしている。
だからこそ、現ギアダナ王家というか、その周りの力を削ぎたい。
その一環がトルル侯爵の動き。
まあ、そこはいいとして、あとは……。
「そのクリアストリーム教会が狙いそうなものというのは分かりますか?」
そこが大事だ。
クリアストリームはギアダナ王都の何を狙っているのか。
そこからわかることもあるだろう。
だが、二人とも首を傾げ。
『すまん。パッと思いつくものは無いな』
『そうですな。確かにギアダナ王城内には相応の宝物があるというのは自負しておりますが、それで魔物をすべて倒したり、亜人を倒せるとは思えません。ほかの秘密の場所もあるにはあるのですが、そちらは兵が常駐しているような場所でもないので、クリアストリーム教会がわざわざギアダナに喧嘩を売るような作戦を取る必要はありません』
確かにな。
ここまで露骨にクリアストリーム教会がギアダナ王都を狙っているとなると、兵が常駐して押し入るのが難しい場所というのは間違いないだろう。
だが思いつくものは無い。
ちょっと発想を変えてみるか。
「お二人が思いつかないとなると、直接的に価値があるモノではないのでしょう。ですが、ギアダナにあり、持ち出しが著しく難しいモノなどとなれば何かありませんか?」
『確かに、思いつかないとなると、そういうモノになるな。ダエダ何か思いつかないか?』
『ふ~む。持ち出しが難しいモノであり、私たち以外にとってはそこまで価値がないものですか……。そうなると歴史などを擁する物品ですかな?』
『まあ、それぐらいだろうな。芸術品とはいかずとも代々伝わっているガラクタはある』
『そういう言い方はどうかと思いますが、そういうのは確かにありますね』
あるある。
傍から見ればガラクタなんだが、その家にとっては歴史があるモノとか。
そういうのはよくあるんだよ。
そして、ただの一般人ならともかく、一国を担う国主の一族が持っているモノとなると迂闊に処分もできないよな。
それ自体が国の繁栄の証ともとれるものだ。
傍から見ればガラクタでも。
美術品、芸術品も可能性はゼロではないが、その手合いは盗んでしまえばそれでいい。
クリアストリーム教会が表に出る必要性は全くない。
ただの泥棒でことが済むもんな。
となると、美術品ではなく芸需品でもなく、武具でもなく、宝飾品でもなく、大きく持ち運びが不便で、ギアダナに表から対応しないと奪取が難しいと思えるもの。
だが、俺はギアダナを運営している立場ではないから、想像の域を出ない。
「とりあえず、こちら、オーエの方にあと数日でクリアストリーム教会の代表が到着するそうなので、そちらでも探りを入れてみましょう。予定通り拘束する方向でいいのでしょうか?」
『ああ、そっちから情報を得られる可能性はあるな。頼むユキ殿』
『そうですね。こちらでもその候補を探していきます。流石にギアダナにいるクリアストリーム教会の連中が口を割るわけもないというか、正確な情報を与えられているかも怪しいですから』
「そこはそうですね」
下っ端に重要情報を握らせるわけがない。
狙いが分かってしまえば防衛は固くなるしな。
そこらへんは知らないという最高の防御をとるだろう。
とまあ、こんな感じでギアダナ王都に何かがあるということが分かり、今度はそれを探ることになるのであった。
後、オーエに来るクリアストリーム教会の人だが、どんな人物がくるのやら。
当初から整理すると無茶苦茶なんですよね。
でも、少し視点をずらすとギアダナにクリアストリーム教会を潜り込ませるためと考えれば納得はいきます。
トルル侯爵は捨て駒のような感じではありますが。




