第1982堀:情報から見えてくる事実
情報から見えてくる事実
Side:ドレッサ
「何が原因かと思っていたら……」
「くだらないよね~」
私とヒイロはグラス港町で軍港で書類仕事をしつつ、ユキたちの話し合いを聞いていた。
だが、その中でわかった事実が、亜人の排斥理由というのが……。
『実に馬鹿な話だな。亜人が暴れられると抑えられないから、信頼がある教会に押し付ける形になったとか』
『その通りですが、対応策としては穏便であり、妥当でしょう。信頼関係の再構築などかなり時間がかかりますし、その流れになるかというと無理でしょう』
ギアダナ王もため息ついているわね。
そりゃそうよ。
圧制というか、反乱というか、逃げるほどの圧制を行っておいて、制圧しようとしたら破られて押さえられないからクリアストリーム教会へとお願いするとか。
いえ、当時はまだクリア教会かしら?
国としてのメンツは崩壊よね。
『だからこそ、魔王か』
『ですねぇ。魔王のせいにでもしないとメンツが崩壊しますし、亜人たちの反乱も魔王の配下ということにしないと問題ですねぇ』
『はっ、その程度で支配が揺らぐならさっさと滅びればいい!』
ドンッ! とテーブルを叩くギアダナ王。
私も同意見ね。
政治力ゼロで国民を苦しめるような馬鹿は死んだ方がいいわ。
『陛下。エナ殿、そしてユキ様の前ですぞ』
『おっと、失礼したユキ殿、エナ殿』
『いえ、お気持ちはよくわかります』
『はい。あまりにもな話で驚きました』
『ああ、私も報告に驚いて口をあけっぱなしになった』
『私もですな。もっと、やりようがあると思いました。とはいえ、それを知らなかったのですが、上手くやれたというのも間違いではないでしょう』
そうね。
私たちも今の今までそんな理由とは思いもよらなかったのだし、ある意味では隠蔽に成功しているわよね。
『しかし、各国はそれで亜人を追い出して、未然の反乱を避けたということでしょうか?』
『だろうな。クリアストリーム教会が亜人を集めているという話は前からあったからな』
『お金を出してまで、税収がある人々を追い出すのはなぜかと思いましたが、国が亡ぶと思っていればそれは過激になりますね』
『はっ、それだけ民をひどく扱っていたと自ら言っているものだ。と、そこはいいとして、問題はこれからだ。なぜ、ギアダナの亜人排斥派を使ってオーエに攻め寄せたのかということだ』
そうね。
亜人を追い出したいというだけなら、オーエに攻め寄せる理由はないわね。
亜人を追い出したというだけなら、オーエに攻める時点で目的は達成しているともいえるのだし、わざわざオーエと決めて攻め寄せる理由はないわね。
『ふむ。確かに今までの情報では、オーエを攻める理由はありませんな。しかもわざわざ我が軍を使ってまで』
『だな。そして亜人をあのように扱っていたこと。北部の情報を聞くとやはり矛盾している。冒険者ギルドの依頼の話もギルド長から聞いている。アレもおかしい。というか、亜人への追い出しを知られたくなかったのかもな』
『ギルドの事というと、お話が来ていたのですね』
ああ、そういえばミリーを伴って冒険者ギルドの情報を集めたってことを言っていたわね。
それで、なぜか手伝っていたラビリスとシェーラが妙なお金の動きを見て違和感に気が付いたんだっけ?
『ああ、その話を聞いて依頼料金を下げている領主たちに確認を取った。怪しむというか、普通に討伐費用が浮いたとかそういう感じだ』
ま、そうよね。
冒険者を追い出したのか? なんて露骨に聞いちゃ領主たちも警戒するでしょうし。
『それで、領主たちは?』
『そのままだ。強力な魔物がいなくなり、それに伴い、領地の治安などは自前の兵士でどうにかなるようになったと。つまり魔物や盗賊などの討伐もそれで事足りることになり、冒険者ギルドへ討伐を依頼する個人が減ったのではないかと』
『なるほど。普通な答えですね』
『だな。おかげでそれ以上は踏み込めない』
言っていることは普通ね。
というか、それぐらいしか聞けないわよね。
下手をすれば、下が不満を持つんだし。
現状のギアダナの勢力図を考えると迂闊なことは言えないわね。
「魔物がいなくちゃお仕事ないもんね~。冒険者たちは移動するしかないよね?」
「そうね。仕事が無ければ食べていけないでしょうし、よほどその土地に愛着でもなければ無理ね」
名声を取らず、村や町の細々とした仕事をするっていうのは本当にね。
何のために冒険者になったのかわからないもの。
まあ、その町の仕事もウィードぐらいになると、別に悪くはないと思うんだけど。
「じゃ、ウィードならいい?」
「ウィードなら問題ないわね。というか、普通にダンジョンもあるんだし、体が万全なら収入に問題は無いわ」
ウィードは町中の仕事は豊富だし、普通に冒険者をするならダンジョンを攻略するというのもあるわ。
それに、ウィード自体が冒険者の支援もしているから、若者から大人まで、色々な冒険者としての仕事がある。
冒険者ギルドとは反目するようなことは無いのよね。
……まあ、ウィードは色々例外が過ぎるとは思うけれど。
『ところで、冒険者ギルド自体の反応はどうなのですか? ギルド長に話を聞いた限り、初めて知ったような感じでありましたが』
『ああ、そこらへんは巧妙に調整をしているようだな。流石に露骨に冒険者ギルドを排除して、敵対する気は無いようだ。まあ、当然だな。戦争時も傭兵として雇うこともあるからな』
『お金をかければ一定数は確実に集まりますからな。地方領主たちとしても常備兵を沢山備えるわけにもいきませんし、負けたくもないですから冒険者を雇うということはままあります』
それはそうね。
冒険者というのは、魔物退治や町の雑事をこなすだけじゃない。
盗賊退治というのも上げたけれど、現状の保持兵力が足りない場合、戦力補強という形で、冒険者を雇うことはままあるのよね。
ダエダ宰相が言った、戦時での徴兵もその一つね。
領民を徴兵するというのもあるにはあるんだけれど、それは領地の生産能力の低下というのも防げるし、戦闘能力はどうしてもいまいちなのよね。
何せ、農民なんだし、戦いに長けているわけがないから、強い云々の前に、ただの盾って扱いなのよね。
『幸い、冒険者ギルドの方からも苦情は出ていないので、そこら辺のトラブルは回避できそうだな』
『ですな。これで冒険者ギルドと揉めたとなると、私たちまでその対応に追われますからな』
『ああ、別に私たちがギルドをないがしろにしたわけではないが、そこらへんは国の責任となるだろうしな』
それはそうね。
領主が冒険者ギルドに対して粗雑な対応をしたとなると、その領主が所属している国を警戒しないわけにはいかないわよね。
『それはよかった。この状況で冒険者ギルドも敵になるというのは避けたいですし。しかし、今の裏事情を考えると、魔王が原因というのはいささか無理がないですか? 50年前の話をすり替えたというのは分からないでもないですが、今更になってというのがあるでしょう?』
確かにそうよね。
原因となる事件は知りえたけど、その事件は50年も前。
それで今更亜人の排斥をってなるわよね?
『別に今更ではないのだが、クリアストリーム教会と手を組んで亜人排斥を強めていたのはここ4、5年ではあるな』
『そうですね。ユキ様たちの指摘で気が付いた話ですが、それを考えると不思議ですな。いえ、そうでもないのか?』
『どういうことだ?』
なにかダエダ宰相は気が付いたのかしら?
『確かに陛下の言う通り、ギアダナ王国内で騒がしくなったのは4、5年の話ではあります。と、言えばわかりますか?』
『ああ、ほかの国はもっと前からクリアストリーム教会の独断専行があったというわけか』
そうね、確かに時間に差があるわね。
そうなると、動いていたのはもっと前からと考えるべきよね。
たった数年で、亜人の反乱を口外しないために多くの国が結託するっていうのはいくらなんでも早すぎるわよね。
『そういうことですか。なるほど納得できる話ではあります。その亜人の反乱というか退避が4、50年まえとなるとクリアストリーム教会が出来た時期と重なりますし、信憑性は高いでしょう。そこでの前身であるクリア教会とクリアストリーム教会の清司教となるペトラ殿は最北端で激戦をしていたと考えると、亜人へのことは一旦隠す必要はあったでしょうし』
ユキの言う通りね。
話に矛盾は無いわ。
当時は激戦をしていたっていうし、クリアストリーム教会の現司教ではあるペトラって人はまだ子供だった頃だし、そのころから派手に動くとはできない。
今回みたいに北部の亜人たちの国がって話になるもの。
『確かにそういわれるとそうだな。当時は中央部でもまだ魔物の被害がそれなりにあったと言われている。それなのに、魔物を優先して退治していたクリア教会を敵に回すような真似はしないか……』
『今でもクリアストリーム教会とクリア教会を敵に回すことはしていませんが。まあ、その年月の間に何かがあり、中央部の国々が北部からやってきたクリアストリーム教会と結託し、今回のことを起こしたと。その中でオーエが目障りになる何かがあった』
『そうでしょうね。つまり、オーエを襲う方針を決めたのはおそらく、クリアストリーム教会でしょう。最初からオーエに目的の何かがあるのなら、もっと前からギアダナへの協力要請があってもおかしくはない』
それぐらいしか理由がないわね。
あるいはクリアストリーム教会が味方に付いたからようやく動けたとも取れるけど、それならもっとオーエにちょっかいを出していてもおかしくないのよね。
情報でも何でも抜き取って、オーエでの戦いを少しでも有利に進めようと画策するでしょう。
でも、実際は亜人を人質にとって、オーエの士気と、怒りを誘発するような雑な戦法。
クリアストリーム教会が捨て駒としてうごかし……あれ?
『ん? ちょっと待ってください。自分で言ってなんですが、オーエへ攻め寄せたのは、あくまでもギアダナ王国内の人たちですよね?』
ユキも同じ事実に気が付いたみたい。
そうなのよ。
オーエに攻め寄せたのはあくまでもギアダナ国内の人物で、クリアストリーム教会の人はいなかった。
それはつまり……。
『そうだ……。元々勝算のない戦いだった。つまり、クリアストリーム教会の狙いは……』
『このギアダナということになりますな』
あら、この情報のすり合わせで答えがおぼろげに見えてきたわね。
面白くなってきた。
と、そこで気が付いた。
一緒に話を聞いているヒイロは……。
「う~……あ~……」
予想通り頭を抱えていた。
これは……。
「すごく面倒になってきたね~……。これ下手するとギアダナが周りから総攻撃されるんじゃない?」
「……そうね。真面目にやばいかも」
ヒイロはこれでもそこらへんは結構鋭いのよ。
でも、頭を抱えたくなるほどの話よね。
情報というのは都合の良いように操作される。
そこから見えてくるのは当時の杜撰な状況。
そして、現代に続くことを考えると、さらに面倒な話が出てくる。




