第1981堀:おぼろげに見えてくる混乱の原因
おぼろげに見えてくる混乱の原因
Side:ユキ
「キシュアたちは無事に移動中か」
「そのようですね。ドローンからは見えないのがもどかしいですが」
プロフの言葉を聞いてドローンの映像に視線を向けると、完全に森の中になっていて、上空からキシュアたちの確認はとれない。
どのみち、本人たちからの映像は届いているからそこまで無駄ではないんだが……。
「やはり指揮官が存在していますね。100を優に超える魔物の集団が森を下れば、どこかで必ず木々が倒れます。野生の魔物などそういうモノです」
霧華はそう断言する。
いや、雑だな~と言いたいが、実際霧華の言う通り、野生の魔物はそんなものだ。
木々を避けて進む魔物もいるが、今回砦にやってきた魔物はオーガも含まれる。
目の前のモノをなぎ倒して進むタイプであり、その体も巨体で、パワータイプと呼ばれる力自慢の魔物で、冒険者たちがゴブリンやオークを倒して慣れてきたところに出くわして、全滅するパターンの代表モンスターでもある。
ゴブリンやオークのように人と同じぐらいではなく、体格が2倍から3倍ほどの大きさもあり、かなり戦い方を考えないといけない。
もちろん、レベル差やステータス差による蹂躙は出来るが、それができるのは一部だけで、普通の冒険者はチームを組んで、一撃をもらわない戦い方をしなければいけない。
と、話がそれたが、つまり木々が倒れていないというのはおかしいというわけだ。
なので、指揮を執って魔物が無駄に暴れないようにしていると判断ができるわけだが。
「面倒ですね~」
「そうですね。そういう指示を出すのに、人と、というかイオアとの交渉の話はまったくありません」
ホービスやオレリアの言う通り、話し合いを持つのであれば何が目的とかわかるんだが、向こうからの接触は無し。
一体何を狙っているのかもわからん。
交渉が決裂するにしても、交渉の席に着いた時点でわかることがあるからな。
とはいえ、それを一切しないあたり、こちらの思考を読んでいるか、それとも単一思考というか、人を攻め滅ぼすって一辺倒なのか。
「とはいえ、これで敵の発生地点が確認できます。そこを調査の第一歩とするしかないでしょう」
「霧華の言う通りだな。情報は集めるものだしな。これからってことにしよう。で、キシュアたちの方は映像監視だし、到着までは時間がかかる。ほかの報告を聞こうか」
俺はそう言って、新大陸指令室の大画面モニターから目をそらし、霧華の方へと向き直る。
因みに各指令室には大型モニターを置いてオペレーターが情報処理をして、指揮官が指示をする場所となっているが、それとは別に会議室が用意されている。
隣接と言うか、その指令室をガラスで部屋割りをしたような感じで、音だけを遮断したような部屋だ。
映画とかでよくあるタイプか。
俺たちはそこで会議をしているわけだ。
「はっ。では、まずナイトマン増援計画ですが、すでにギアダナから私たちの部下を出発させており、2名とも無事に北端の国へと到着しています」
「早いな。いや、妥当か」
「はい。道中の情報収集はせず、一直線に北部の防衛ラインに向かっていますので、少し遅いと言ってもおかしくはありませんが、そこは私が足止めをしております」
「霧華が指示を出したか、理由は?」
「イオアと同じく、魔物攻勢を受けている残りのワイダウ、キジシオを状況を正確に把握するためです。先ほども申し上げましたが道中の情報収集を行っておらず、状況を確認できておりません。最悪砦が落ちている可能性も否定できませんので」
「ああ、確かにそりゃそうだ」
ワイダウ、キジシオというのはイオアと同じ北部の防壁と言われる国だ。
ワイダウが最北端に位置し、シジシオが北東部分を担っている。
イオアはちなみに西北部分。
残りの国は何をしているのかというが、ほかの国にも魔物は流れてきているのでどこも大変なのは間違いないわけだ。
形状として北部の国々を山岳部分が包み込んでいるという感じだ。
なので、どこも魔物の襲撃を受ける可能性がある。
その中でも山岳と面する部分が多い北部3国が激戦区となっているわけだ。
簡単な話だな。
「それで現在情報を集めている最中というわけですが、おそらく砦は落ちていません」
「なぜと聞いてよいですか、霧華様」
俺の代わりにプロフが詳しく話を聞く。
「はい。まず王都で兵を集める動きがありませんし、難民も発生していないということです」
「確かにな。北部の守りが落ちたとなれば王都も大騒ぎか」
「ああ、なるほど。確かにその通りですね」
「国の守りが落ちれば~、大混乱ですもんね~。でも~、まだ伝わっていないという可能性はないですか~?」
「ホービスの指摘通り、まだ王都に連絡が届いていないというのも十分あり得ます。情報収集をしている間に砦が落ちる可能性も十分にあります。ですが、砦やほかの町が落ちるような状況が近いのであれば、応援を呼ぶはずです」
「そうか。落ちる前に騒ぎになるか」
「主様のご指摘通りです。応援の連絡という手段を取る前に、砦が落ちる可能性もゼロではありませんが、その場合落ちる前に伝令なりなんなり出ていますので、その可能性も低いかと」
確かにな。
軍事施設が落ちるようなことは国としては大問題だ。
そんなときのために緊急連絡手段の一つや二つあっても不思議じゃない。
そういうことを考えると、ここまで王都が静かなのは、砦は落ちていない可能性が高いってことだな。
「あと、二日情報を集めたのち、防衛をしている砦へと赴き、ナイトマンたちの増援準備を行う予定です」
「わかった。それで進めてくれ」
「はっ、お任せください」
北部の状況把握と戦力提供というか、暴れる計画は何とかうまく行っているか。
ここまで雑な介入はしたことがないが、あくまでも戦闘の支援だしな。
落ちてもらうとこっちも大いに困るし、仕方がない。
「で、後は中央部、ギアダナとの連絡だが」
「エナがすでに待機しております。つなぎますか?」
「ああ、頼む」
「では」
そう霧華が返事をすると、会議室の上にあるモニターがついてエナの顔が映る。
『はい。こちらエナです。ギアダナ王、ダエダ宰相との面会時間まであと10分となっております』
「あ、思ったより早かったのか」
そう言われて時計を見ると、確かに予定の10分前だ。
まあ、10分前行動と思えば悪くないか。
「そういえば、モニターで返事をしているってことは周りに人は……」
『はい。周りに人はいません。控室で待機という状態ですね。扉の向こうに兵士がいますが、問題ありません』
「そうか。じゃあ、話し合いの前にエナの方で事前に集まっている情報などはあるか?」
俺が言う情報というのは中央部の動きというか、クリアストリーム教会が中心となっている亜人排斥の動きについてだな。
『私が個人で集められる限りでは、クリアストリーム教会が独断で動いたというよりは、やはり利害が一致したという線が濃厚のようです』
「利害か。その結論が出た理由は?」
『どうやら、50年ほど前、ギアダナではないのですが、亜人の集まりによる反乱があったようです』
「反乱か」
『はい。元から中央部では魔物との激しい戦闘はなく、主にギアダナが抱える大森林や、山や森などに多少強力な魔物がいる程度で、中央部は人と人の争いが多かったようなのです。そこで、亜人は元々扱いが良くなかったようで……』
「自分たちで独立でもしようとしたか」
『いいえ、目的は独立ではなく南方への避難でした。歴史上は反乱となっていますが』
「領土に留まらせようとしたってことか」
『はい。基本的に村民などは自由な移住などは認められていませんから』
なんだそりゃと思うかもしれないが、村を維持するため、国力を維持、そして何より収入などを維持するために住人が逃げないようにそこら辺を厳しくしているところは多々ある。
もちろん、外敵から守るためというのもあるけどな。
住人が好き勝手と外へ出入りしていては守るものも守れない。
だからそこら辺の出入りを厳重にするというわけだ。
とはいえ、それはちゃんと住人が生活して行ければだ。
反乱を起こして脱出を図るぐらいだから、よほどの扱いだったんだろうな。
「待ってください。亜人たちの扱いはわかりましたが、それでクリアストリーム教会の動きと、各国が結びつく理由にはならないのでは? 亜人をとどめておきたかったのですよね?」
エナの説明に待ったをかけたのは、オレリアだ。
確かに亜人の反乱というか脱出を止めたということは、出て行ってほしくなかったからというのはあるだろう。
あと、脱走を簡単に認めてはほかの民衆にも示しがつかないってこともあるだろうが。
『その時はそうなのですが、普通に脱出され、それが伝播したようです。私たちが調べられる程度には』
「「「あ~……」」」
「反乱と脱出をちょっと調べただけのエナが知っているということは……」
『おそらく、一般に知られる程度に大騒ぎになったかと思います。そしてギアダナの方にも噂が流れてきているのでしょう。とはいえ、ギアダナとしては元々亜人と融和というか普通に暮らしていましたので……』
「何をやっているんだって話になるわけか」
『その通りです』
いや、マジで何をやっているんだ。としか感想は出ないよな。
もっと民を大事にしろぐらいしか感想がないだろうし、この手の国盗り合戦となると独立の反乱なんてこともままあることだろうし、珍しいことでもないのか?
『そのことがあり、亜人を危険視する側も増え、中央部の亜人を利用したいクリアストリーム教会と意見が一致したのかと』
「あ~、逆か」
「逆? どういうことでしょうか?」
オレリアは俺の言葉がわからなかったようで首をかしげる。
まあ、説明がないと難しいよな。
「つまりだ。俺は亜人憎しから各国が亜人を追い出したかと思っていたんだが、反乱が起こったことでなし崩し的に亜人を敵にすることになったってことだな」
「ああ、確かに今の話ならそうなりますね。前提が逆なのですね」
「そう。まあ、厳密には亜人に圧制を敷いていた連中は亜人憎しだったのかもしれないけどな。とはいえ国としてはそこまで大ごとになるとは思っていなかったんだろう。ただの地方農民の反乱ぐらいで」
『はい。そうだと思います。その手のトラブルは山ほどありますから』
日本で言えば農民の一揆だ。
戦国の当時は良く起こっていて、そして鎮圧されている。
「なんか、国が妙な動きをしているのはそこが原因っぽいな。まあ、クリアストリーム教会の亜人を材料にしようとした話は別だが」
『私もそう思います。一度手痛い反乱を起こされ、多数も同調したのであれば……』
「普通は警戒いたしますね。そしてさらにお互いの不信になり、厳しく取り締まることになる。悪循環ですね」
霧華の言う通りだな。
というか、こういうトラブルっていうのは悪循環の結果ではあるんだけどな。
そんなことを考えていると、どうやら時間になったようで。
『ユキ様。面会のお時間です。移動してよろしいでしょうか?』
「ああ、頼む」
ということで、ギアダナ王とダエダ宰相と話に向かうのであった。
どうやら中央の各国が亜人排斥に動いているのは、相応の理由があったようです。
いや、どっちが悪いとかは分かりませんが、魔王が~というよりは現実味が出てきました。




