第1979堀:裏で支える人たち
裏で支える人たち
Side:カヤ
「そう、医者が増えるのは良いこと」
私はルルアから医療従事者を増やすという方向性が固まったという話を聞いていた。
「カヤも会議に参加してよかったのでは?」
「参加しても建設的な意見は言えない。セラリアとジェシカがいればそれでいい。私がやるべきは、農業と治安維持。今はトーリが新大陸に出ずっぱり、リエルも手伝いであちこち。だから、ウィードでの治安維持の雑務は私がメイン」
「そうですか。そうですよね~。みんな大忙しですし」
「忙しい。とはいえ、治安維持に関してはポーニ署長が上手くやっているから、そこまで大変じゃない」
「ポーニさんは頑張っているようですね」
ポーニはウィードへ初期に近い移民でやってきた人で、ラッツと同じ種族でありながら、警察の署長をやっている人物。
そして今現在もその地位を維持しているということから、その腕前がわかる。
「間違いなく、リエルよりは署長の適性がある」
「あはは……」
元々、リエルは副署長だったんだけど、警察署の特務部署で好き勝手に動いていた。
特殊犯罪対策任務本部という名目で、あらゆることに捜査権がある立場。
直感はするどいので、それで色々犯罪を検挙した実績もある。
とはいえ、直感が過ぎるので動きが突飛すぎて、それがわかっているルルアは苦笑いというわけ。
「そういえばリエルが率いている特務はどうしているんですか?」
「あそこの引継ぎというか、仕事をするのが私の仕事。一応私も特務だし。同じ所属のデリーユも新大陸とかに呼び出されることがある。だから、特務のメンバーを増やして対応している」
「増やしたのですか? よく許可が下りましたね」
特務に関しては、個人にかなりの権限が与えられる。
つまり、ある種の特権となり、お馬鹿な人がその立場になれば、えん罪を生み出すことになり、警察の信頼失墜となりウィードの治安維持に支障が出かねない。
そこで、特務の立場は私たちユキの妻が務めるという形になった。
信用があり、実績もあるから。
そこで、一般の人をそこに配属するというのは、とても慎重にならざるを得なかったのだが……。
「そこは霧華たちで、裏をしっかり洗ったし、私たちも面談して選出した。あとは信じるしかない。まあ、大丈夫だと思っているから任せている。代表を選出するのと同じ。いずれ私たちの手から離れなければいけないものだから」
そこはちゃんと調べているとも。
ウィードは立場上色々な国の人が入り乱れる。
発生する事件も多種多様。
世代も立場も様々。
そこで正しく判断できる人材を育てるのも大事。
そうでないと、延々と妻たちだけで特務に所属して働かないといけないってことだし。
「確かに。いずれウィードの運営は国民にと旦那様は言っていますからね」
「そう。というか、どの国も優秀な人物を登用して、国をよくしていく。それだけの話」
「ですね。それが普通の流れですね」
今までの運営が異常というか、色々あって対応してきただけ。
徐々に建国者以外の手にというのは間違いではない。
「私たちも有能である限りは手伝う。それだけ。と、そこはいいとして、新大陸の事情は聞いている? ナイトマンの話だけれど」
「はい。そちらも聞いています」
本来はヴィリアたちが自由に動くための囮というか、便利に動くための仮初の姿として用意されたナイトマンが、新大陸北部の状況が思いのほか予断を許さないようなひっ迫した状況であり、遊撃戦力というか、わざわざ国や町の有力者に話を通して戦いに加わるという手順を無視して参戦するために利用することが決まった。
何せ、戦闘に参加するにも話し合いというか、参加許可とかがいる。
話し合いにも時間がかかり、かといって許可を取ったとしても所属の問題とかが出てくる。
今回のトラブルは広域で起こる可能性が大きい、だから下手に所属があると動けないので、無所属であり、誰の指示も受けないという柵がない立場が最適。
「……今更考えてみると、ナイトマンほど便利に動ける身分はありませんね」
「私もそう思う。しかもナイトマンは全身鎧。顔を見てどこの誰かと判断することもできないし、人を入れ替えることも可能。これはウィードとしてはかなり便利」
「ですね。と、失礼しました。ナイトマンのことでお話があったのでは?」
「ルルアもナイトマンでの出動はあるのかと思って」
「私がですか?」
ルルアは不思議そうに首をかしげている。
なるほど、ルルアは向こうに出て動き回りたいという気持ちはないようだ。
まあ、ナイトマンとしてヒーローごっこをしたいというメンバーもいる。
なにせ、後腐れなしで動き回れる珍しい機会だ。
「参加は自由でしたよね?」
「そう。その関係で出るならローテーションを作るって話だし、その分ウィードが空になるということでもある。その場合私がフォローに回る」
「え? カヤはナイトマンにならないのですか?」
「今のところ予定はない。というか農業の管理が大変。旧ヴィノシア領や、オーエ農地の復興。ほかに蝗害の後始末の手伝い。そして大陸間交流同盟内での農作物の生産相談とか色々あって忙しい」
私の説明を聞いて納得すると同時に何か疑問が出てきたのか……。
「改めて聞くと、本当にカヤはすごい立場ですね。各国の農作物の生産体制に口を出せるというか、管理しているのですよね?」
「口を出すというか、調整。管理でも間違いではない。今ではゲートのおかげで物資の流通が安定している。そして、あちこちで足りない物資のやり取りが頻繁に行われている。ユキの言っていた物資流通網が出来たから」
「ですね」
前も説明したけど、ゲートという存在のおかげで、多くの物資が腐ることなく、ほかの国々へ輸出されることになり、お互いに豊かになった。
ですが、その結果、多くの人を養えることとなり、多くの物資がさらに必要になった。
今は多くの国々が農業を推奨し、輸出用のモノを多く作っている。
もちろん、飢饉などの対策も兼ねているが、それを各々の国で勝手にやっても、買い手がいなければ意味がない。
なので、そこら辺の調整をウィードに集まって話し合っているわけ、そこで司会や何を育てられるかのアドバイスができ、農業に豊富な知識があるということで、私が仕切っている。
エリスやラッツ同様、各国から恐れられているというか、崇められている感じがするが気のせいだと思う。
まあ、食料を握っているから、そこら辺で怖がられているかな~とは思うけれど。
「旧ヴィノシアのことは任せきりですが、どうなっていますか?」
ルルアにとっては気になることだ。
あそこは、間接的にとはいえ、教会の怠慢というか、拝金が行き過ぎたことで民衆が苦しんだのは紛れもない事実。
「あっちは、ジョンたちの部下が見回りをして、薬草、香辛料の第一回の収穫と加工、出荷も出来た。シスタークノシア、シスターマグノリアたちが頑張っている。もちろん、旧ヴィノシアの人たちも」
だが、その民衆を今まで助けていたのもリテアのシスターたちで、これからも代表としてシスタークノシアたちが引っ張っていっている。
正直、私たちもあの姿勢には驚いたし、感心させられた。
あれだけの気持ちとパワーはすごい。
だから個人的にも仲良くはしているけど。
「生産は上手く行ったのですね」
「上手く行った。それで畑を拡張中。闇ギルドの手出しも今のところは無い。民衆もよく手伝ってくれている。仮設の住居も上手く機能しているし、町の復興も進んでいる」
おっと、生産の話だった。
復興の為、そして旧ヴィノシアの人たちが食べていけるために用意した、薬草畑、香辛料畑は上手く行って、第一回目の収穫、そして加工が上手く行った。
ちゃんとその写真や映像もある。
それをルルアに見せる。
「えーと、リリーシュ様がいますね?」
「いる。収穫の時期だといったら、即座に手伝いに行った」
リリーシュ様はそこら辺アクティブ。
有言実行。というか、みんなの為に動く。
「い、いつのまに」
「ルルアは忙しかった。でもリリーシュ様は合間に動いた」
ルルアはウィードの医療を仕切っている。
それに加えて、各教会とも話し合いとか会議がある。
そんな中、復興中の町へ顔を出しに行くというのはちょっと無理がある。
リリーシュ様は表向き、ウィードの教会の司祭だし、代わりは相応にいるし、リリーシュ様の性格を知っているので、普通に送り出す。
「ということで、安心した?」
おそらくルルアが私に話しかけてきたのは、ナイトマンのことはあるけれど、一番はここなのだと思った。
「はい。安心いたしました。ですが、カヤは北部のことはそこまで気にならないのですか?」
「気にならないと言えばウソ。とはいえ、私が出て行ってもナイトマンでしか活躍できない。別に暴れたいってわけじゃないし、農作物を育てて、支援の準備をする方が北部はもちろん、新大陸での動きにも役立つ」
それは確信している。
まあ、余裕があれば暴れたいというのは無いとは言わないけど、そんな暇もマジでない。
「それに、ユキからヴィリアたちの補給物資について相談も来ている」
「ラッツではなく、カヤにですか?」
「そう。ヴィリアたちは活躍してしまったいま、簡単には動けないし、もうすぐ攻勢に出るって話。それは知ってる?」
「はい、聞いています。魔物が出てくる場所を調査し、できれば潰したいと」
「そう。つまり、その攻勢で相応の物資を消費する。向こうも向こうで用意はしているだろうけれど、支援があればそれはそれでありがたいはず」
「それはそうですが……。あまり背後を探られるようなことはしないのでは?」
「その通り。だから、ラッツみたいにしっかりというか、ちゃんとした補給とかではなくある程度偏った補給にする」
「それはどういう意味が?」
「ヴィリアたちにもドドーナ大司教以外の伝手があるとほのかに伝えておく。戦力だけではないと」
「……ふむ。いまウィードの存在を知られると、警戒されますが、その程度であれば、ヴィリアたちを慕っている人たちがいる程度にとどまるということでしょうか?」
「その通り。まあ、とはいえ、そういう物資もラッツに用意はしてもらうんだけど」
流石に私も農業で管理している分があるとはいえ、砦の全員を賄う量となると無理なので、そこはラッツというかウィードに物資を回してもらう。
それっぽい状態で。
「なるほど。そうやって徐々に北部での影響力を増すわけですね」
「そう。とはいえ、まずはナイトマンと、イオアの北部での敵拠点調査が大事」
ということで、ルルアと今後のことについて話し合うのであった。
この二人は基本的には裏で支援するタイプ。
頼まれれば出るけど、別にそこまでって感じです。




