第1976堀:守りから動く
守りから動く
Side:ユキ
「思いのほか、簡単に動いたというか、決断したな」
俺がそう言うと、隣で一緒に状況を見ているセラリアが口を開く。
「どうかしら? 今までの戦況やヴィリアたちとのやり取りをを見るにじり貧だっていうのは理解していたようだし、どこかで反撃をしないとって思っていても不思議じゃないわ」
「じゃな。馬鹿には見えん」
デリーユも同じ意見のようだ。
「まあ、それはそうだろうが。ヴィリアたちが到着してまだ3日だぞ?」
たった3日で攻撃を仕掛ける判断をするっていうのはちょっと驚きだ。
まだヴィリアたちを信じられるかもわからないだろう。
いざとなれば逃げだすかもしれないしな。
敵だとは思ってはいないようだが……。
今後の動き次第では敵になる可能性もゼロではないんだよなぁ。
ま、そこはいいとして。
「それで、あなたとしてはどうするわけ? ヴィリアたちが作戦に参加するのであれば、問題なく敵の発生点までは行けるとは思うけれど?」
「ヴィリアたちがあの程度の魔物に止められるとは思えんが、その先は妾たちとしても心配じゃな。何があるかわからん」
「そこは難しいところだな。カシア王女たちが何を考えているかによるしな」
どこまでカシア王女たちが情報をつかんでいるかもわからない。
案外、俺たちが知らない魔王とやらの所在を把握している可能性もなくはないからな。
「発生地点が穴、ダンジョンになっているなら、そこで足止めがいいだろうな。どう見ても相手のホームベースだ。準備がいる。というか、ウィードで当たらないとただのダンジョン攻略戦にしかならない。まあ、それになるならともかく……」
「ダンジョンマスターが悪辣なら、主戦力を誘い込んで、包囲殲滅しつつ、別から戦力を回して砦を落とすわね」
「じゃな。ユキならやりそうな戦術じゃな」
「おい」
俺はそんな非効率な戦い方はしない。
もっと……。
「いや、間違いじゃったな。ユキなら敵に動きを与えずに、内部から瓦解させる方法をとるのう。例えば、物資を遮断して町を干上がらせるな」
「やるわね。それでほぼ無条件降伏。いえ、物資でも渡して、味方にするぐらいはするかしら?」
「おい」
なんだその飢え殺し戦法は。
マッチポンプが過ぎるわ。
「ともあれ、カシア王女の話を聞きましょう。それによっては今計画しているナイトマン2号以降の出撃も考えないとね」
「そうじゃな。話が事前に通っておったのが幸いじゃ。そういえば、ナールジアたちには伝えおるのか?」
「ナイトマンについては、すでに実用試験済の量産モデルが確定し、いつでも増産は出来るってさ。まあ、一応セラリアたち各々に合わせてカスタムもするって今頑張っているな」
ネタで作ったのが、正式採用に近い形だからな。
元々はヒーロースーツにあこがれて。
そして、俺がパワードスーツという風にして開発を頼んだわけだ。
放っておけばこんなこともあろうかとって感じで、びっくりドッキリメカになるのは目に見えていたからな。
変に無視するより、課題を与えてそれに集中してもらう方がいいってことだ。
なので、嫁さんたちが使うナイトマンはきっと、今日明日にでも試作が出来る事だろう。
ただの装備を変えるとか、カラー違いならもう用意が出来ていると、本人たちは言っていたし。
まあ、それで納得しないのが研究者というか、趣味人たる所以なんだが。
「カスタムか。なら、もうナイトマン自体は生産終わっておるな」
「そうね。準備がいいというか、なんというか」
二人も俺が言った言葉の意味を正しく理解したようで、遠い目をしている。
陸上戦艦を作りつつ、パワードスーツもあっという間というのは、本当にどうなってんだと言いたいよな。
とはいえ、ヒーロースーツの方は、実のところ陸上戦艦よりも前に構想はあったから、独自で研究していたというのが事実だ。
なにせ、エンチャント、つまり特殊な能力を持った鎧などの装備品は存在している世界だ。
それを補強したと考えれば、陸上戦艦よりは大人しい現行展開モデルだったわけだな。
「ま、そこはいいとして、カシア王女の所に行くみたいだ」
昼食が終わったようで、カシア王女の執務室で詳しい作戦内容を聞くようだ。
「まともな作戦が出てくるといいわね」
「出てこんじゃろ。ヴィリアたちが来てから動き出すんじゃぞ? どう見てもヴィリアたちを前面に押し出した作戦じゃよ」
それは否定しようがない。
ヴィリアたちがいなければ完全にじり貧になっていたからな。
まあ、即日落ちてはいないだろうが、今頃砦の中は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたのは間違いない。
だから、要となるヴィリアたちを使わないというのは、まずありえないだろう。
そんなことを考えていると、執務室へと入ったヴィリアたちは、当たり前のようにカシア王女とクレント将軍に出迎えられていた。
『よく来てくれた。話はそちらのチノク殿から聞いていると思うが……』
『改めてご説明させていただく。今回お呼びしたのは、この砦に攻め寄せる魔物がくるところを調べ、原因を取り除けるのであれば、取り除くというのが目的です』
『まあ、上手く行けば魔物の侵攻を止められるというわけだ。元々戦力に余力があればと思っていたが、今までその余力がなくてな。というか、わかっていると思うが、かなりまずい状態だったな』
『ですな。そこでキシュア殿たちが来てくれたおかげで余力ができました。しかし、キシュア殿たちはいずれ、クリアストリーム教会へと赴きます。早めに原因を突き止めるか、原因を取り除かねば、砦はさらに厳しい状態に陥るでしょう』
ああ、なるほど。
ヴィリアたちがいるからっていうのは間違ってはいないだろうが、いなくなった時のことを考えるとここで動かないわけにはいかないわけだ。
「あら、意外とまともな動機ね」
「ヴィリアたちがいなければじり貧じゃったからな。いる間に解決を望むというのは悪いことではないな。むしろ好感が持てる。クリアストリーム教会のことも考慮しているようじゃしな。まあ、勝手に居なくなられるのも困るからじゃろうが」
「それもあるだろうな。とはいえ、この判断はどっちにとっても良い判断だろう」
クリアストリーム教会にとっても冒険者ギルドにとっても、そしてイオア王国にとってもだ。
下手にこちらの要望を反故にすると、砦が維持できなくなるし、無難と言えば無難な判断だ。
まあ、権力者からすると、キシュアたちを手放してもよいような判断は疑問が残るが。
『話は分かった。具体的な作戦は?』
『これから5日後に敵の発生地点と思わしきところに兵を向かわせる。その調査部隊にキシュア殿たちは同行してほしい』
『発生地点? 山の奥ってことか?』
『いや、それが違うようなのだ。偵察からだが、理由はわかっていないが、山奥からではなく、あの山のおよそ3か所から敵が出現しているようなのだ』
へぇ、こっちと同じ結論には至っているのか。
いや、今まで散々防衛をしてきたんだから、原因を調べるぐらいはしていて当然か。
これだけ防衛を続けているんだしな。
『元々、いや、この砦は魔物の南下を防いできた。これは知っているな?』
『ああ、ここは大事な防衛の要っていうのは聞いている』
『その歴史は長い。すでにイオアという国が作られて300年は経っているが、その前からこの砦と防壁は存在していた。イオアの前の国が作ったともあるが、詳しくは不明だ』
『そんなに歴史があるのか』
『そうだ。だから、その歴史の中で、魔物を討伐し、北部に土地を求めるという動きも何度かあったわけだが……』
『北部の山から魔物が相応に降りてくるので、拠点を作っても押しつぶされもどされるというのを何度も繰り返しているのです。今回のように変な地点から湧いてくるというわけではなくです』
『なるほど。そういうことか』
歴史からわかる事実ってことか。
まあ、この頻度と数で襲われているんだから、この防衛を昔からしているんだから、敵の出現場所の異常には気が付くわけか。
『幸い、偵察隊が魔物の発生地点を詳しく割り出している。地図を』
『はっ』
そういってクレント将軍が地図を広げる。
お世辞にも正確とはいえないが、それでもなんとなくはわかる。
『砦を超えて、中腹地点の3つだ。どれも距離が相応に離れている。距離にして1キロはある』
ふむふむ。
この地図を見ても、俺たちが調べた地点と差異はなさそうだな。
『それを全部調べるってことか?』
『それが出来ればな。とはいえ、森の中なので、支援がほぼなく、森の中ということで、人数も多くはいけない。砦の守りもあるからな。なので、3回に分けて一か所ずつ調べていくというのがいいだろうと判断している』
まあ、それが無難だよな。
一気に調べられたとして、魔物に囲まれて全滅したんじゃ意味がないからな。
情報を毎回持ち帰るというのを優先するというのは間違いじゃない。
それが確実に魔物の流入を止められるという確証もないからな。
『どうだ、この作戦に協力してくれないだろうか?』
『……作戦自体は問題ないと思う。だが、私たちはどういう協力をするんだ? それによる』
キシュアは安易に答えることは無く、自分たちの仕事について確認を取る。
大事なことだよな。
使い捨てにされるようなことは無いと思うが、そういう配置にされても文句を言えないという形になるからな。
それだけ約束というか、契約というのは大事なわけだ。
向こうはこちらに承諾を得ていたからあの配置にしたとな。
そうなると悪くなるのはこちら、キシュア側になるわけだな。
『当然だな。キシュア殿たちの仕事、協力してほしいことは、調査隊と砦の防衛で二組に分かれ、支援をしてほしい』
「……ま、そうよね。攻めと守りを両立させるのであればそれしかないわね」
「じゃが、戦力の分散ともとれるが、今の状況では仕方がないか」
二人ともカシア王女の判断には特に異論はないようだ。
俺も同じく。
調査している間に砦が落ちるっていうのは避けなくてはいけないしな。
そうなると、守りにも戦力を振らないといけない。
ヴィリアたちの戦力価値をしっかり認識しているからという判断だし、こちらを使い捨てするつもりはないともとれる。
片方が戻らなければ不信が残るからな。
そして、さらに詳しく話を聞いていくのであった。
このままではじり貧なので、ヴィリアたちがいる間にちょっとでも動こうと判断したわけです。
もちろんほかにも手をうってはいますが、それでもというやつです。
色々手段があった方がいいのは当然というやつですね。




