第1975堀:方針の変更と砦の動き
方針の変更と砦の動き
Side:ヴィリア
「……ふむ。これは確かに……」
私はお兄さまからもたらされた報告書を読んで、ちょっと考え事をします。
山岳部には主だった国が存在しない。
そこから、どうやって魔物を生み出すリソースを得ているのか。
私は衛星軌道上から撮影した、地表を見て、国家が存在するかどうかは判別は付きませんが、お兄さまが言うように、北部の山岳に国家群があるのであれば、宣戦布告なり、魔物の退治協力を申し出るなり色々接触があってもおかしくはありません。
それがないというか、イオアの人たちはもちろん、カシア王女ですら魔物が来る北の山岳としか思っていない状況です。
これはつまり、こちらと話をするつもりがないのか、人がいないのかという話になるのですが……。
「それだと、ダンジョンは誰が管理しているのかという疑問に行き当たりますね」
結局、なぜあれほどの魔物を無駄にも等しい投入をしているのでしょうか?
いえ、最近は圧力が増してきて、崩れる可能性が出てきましたが、それに変更するまで随分期間が空いています。
理性的な相手なら、もっと無駄なく切り替えている気がしますが、何の警告もありませんし、人為的というには変ですよね。
「ヴィリア、どうしましたか?」
そんなことを考えていると、スィーアさんがそう言って話しかけてきました。
「いえ、朝、お兄さまからもらった書類なのですが……」
「ああ、魔物を送り込んでくる相手についてですわね?」
「はい。今まで、魔物の進行を止めることを考えていましたが、規模を考えると奥にいる敵の本拠地と原因を叩かなければいけないというのは理解できます」
「っていうか、もうのんびり受け身で待っているわけにはいかなくなったって感じだろ? 敵が思った以上の量で押し寄せているし、ここで私たちが粘るだけじゃどうにもならないってさ」
キシュアさんもやってきて、今回の結論を話し始めます。
そのことに否定は全くできません。
何せ、その通りですから。
私たちの目的は元々、冒険者として、北部の国々の様子とクリアストリーム教会の様子、そして魔物の攻勢について実際調べる事でした。
まだ、余裕があるのかと思えば、意外と砦の守りは精一杯。
私たちがこの場を離れて、各地を詳しく調査するというのはなかなか難しいでしょう。
なにせ……。
「砦で活躍しすぎた。たった3日で私たちは救世主扱い。あ、スィーアは聖女様扱い」
「いや、私たちはともかく、スィーアは元々聖女だしな」
スィーアさんの評価に関しては同意です。
キシュアさんの言うように、元々聖女様と言われていただけあって、けが人への対応も見事でした。
私たちも知識はあるのですが、病院での勤務経験などはありませんから、あくまでも回復魔術を使うぐらいで、患者を気遣うというのは抜けていました。
学校で回復魔術を使っていた時も、泣いているガキをなだめるなんて面倒はしませんでしたから。
さっさと治して、ポイが一番いいんです。
どうせ、また遊んでころんで怪我して泣いてのループですから。
優しくするほどの価値がないというか、そういうのが惜しいのです。
はい、治った。行っておいでって感じですね。
と、そこはいいとして、私たちがあの500ちょっとの群れを退治したあと、ちょっとした騒ぎになりました。
私たちが遠距離の魔術攻撃で敵を粉砕しおよそ300以上片付けたおかげで被害がかなり抑えられたのが理由です。
いえ、私たちが本気を出せば、魔術を使わなくても4人であの程度の魔物たちなら、素手で殴り殺せます。
デリーユお姉さま直伝の武術がありますから。
体力も十分に持つでしょう。
柔な訓練はしていないのです。
おっと、そこはいいとして、先ほども言いましたが、私たちはこの砦では、そういう意味で活躍してしまい、簡単にこの砦から離れられなくなりました。
「カシア王女もこの場に残って戦ってほしいといっている。まあ、代わりにペトラ清司教の捜索はあちらで引き受けてくれるとは言っていたけど」
ニーナさんがそうどうでもよさそうに言います。
実際、私たちが探すか、カシア王女たちが探すかということに、こだわりはありませんからね。
ですが……。
「それってペトラ清司教を見つけたとして、私たちに素直に話すと思うか?」
キシュアさんが口にしたように、私たちをこの砦にとどめたいがために、嘘を吐く可能性も否定はできません。
「その可能性は否定できませんが、だからと言って砦を今更無視することもできないでしょう。それこそ逃げたなどと噂が立てば今後の活動に支障が出るのは目に見えていますし。それは相手方にも言えるでしょう。私たちがペトラ清司教を探していることも、砦の皆さんは知っています」
「そう、それで私たちに黙っていれば、逆に不義理ということになる。国のメンツに傷がつくことでもある」
スィーアさんニーナさんの言うように、逆に黙っていれば、今度はイオア王国のメンツにかかわることになります。
だから、嘘を吐かれる心配はないにしても、私たちの対応次第では、私たちの立場が悪くなるでしょう。
……めんどうな限りですね。
「となると、やっぱりユキが思いついたナイトマン増産は間違ってないか」
「ですね。私たちが結局のところ、砦、というかイオアの町に固定されることになりましたし、ほかの町を巡るというのは現状難しそうですから」
「元々はちょっと様子を見て、情報を集めて、砦は問題ない。クリアストリーム教会によろしくって感じを想像してた」
ですね。
私もそのニーナさんのイメージを抱いてやってきたのですが、思った以上に砦は切羽詰まっていて、いつ崩壊してもおかしくない現場だったんですよね。
そのせいで私たちが防衛の要となるようなことになったのですが……。
と、そんなことを考えていると、不意にドアがノックされます。
「はい。どなたでしょうか?」
『チノクです。部屋に入っても?』
「大丈夫です」
私はその間に報告書をアイテムボックスにしまいます。
流石に見せるわけにはいきませんからね。
「失礼いたします。皆さん、体調はどうですか?」
「私は問題ないな」
「私も問題ありません」
「大丈夫」
「はい。元気です」
ここ3日ほど、チノクさんはこうして私たちのマネージャーというか、秘書官のようについてくれます。
別の視点でみれば、監視とも取れるでしょうが、まあ、トラブルにならないためにというのもあります。
「それはよかった。昼食を運び込んでも?」
「ああ、頼む」
そうキシュアさんが言うと、奥から昼食を持った砦の使用人たちが入ってきます。
砦と言っても兵士や冒険者だけではありません。
生活を支える人たちがいるわけです。
と言ってもわざわざ個室に食事を運び込んでくる人はいないですが。
そんなことを考えているうちに昼食が用意されたので、使用人たちが出ていきます。
「迷惑をかけます。とはいえ、食堂に行くと騒ぎですからね」
チノクさんが苦笑いをしつつそう言います。
「気にしないでください。私たちがやったことを思えば仕方がありません」
スィーアさんが気にした様子なくそう言います。
仕方がないんですよね。
あの魔物の攻勢を止めた結果、私たちの評判は砦の中ではうなぎ上りになりました。
カシア王女も隠してはいましたが、それでも私たちがやったというのはすぐにばれるでしょう。
だから、その日の食堂で騒ぎが起こりまして、このように個室で食事をとるようになりました。
まあ、個室と言っても4人部屋ですが。
「それで、チノクは俺たちのお世話って感じだが、冒険者ギルドはいいのか?」
「代わりがいますし、ギルド長もいますから問題はありません。それよりも皆さまのことが優先です。今のところ問題はありませんが、変なトラブルが起こり負傷でもしてしまえば、それこそ砦が混乱に陥ってもおかしくはありませんから」
あ~、そういう可能性もありますね。
私たちが怪我をする、負傷をして倒れるなんてまずないのですが、チノクさんたちからすればそれは避けるべきことです。
私たちが人気を得たということは、私たちに不用意なことが起これば砦の士気は落ちるわけです。
指揮を執る者からすれば、それは避けなくてはいけませんからね。
とはいえ、そのおかげで、私たちは砦からさらに抜け出しにくくなるわけですが。
「でも、いつまでもこのままというわけにもいかないぞ。私たちはこれからどうなるんだ?」
「それは、カシア王女と協議していますが、ペトラ清司教の情報は向こうとこちらの冒険者ギルドで集めています。なので、当初の目的である北部での実績をこの砦で積んでいただければとは思っているようです」
「戦闘経験を積むのは良いのですが、実績となるとまた別だと思うのですが?」
確かに、戦闘経験ならこの砦にいれば魔物は今のところ絶え間なくやってきますのでわかりますが、実績というのはどういうことでしょうか?
魔物退治の実績なら魔物退治と言えば良いのですが、今の話し方だと他のことがあるような……。
「はい。カシア王女からお話がありますが、事前に伝えておいてほしいということで、お伝えいたします。キシュア様たちの参戦により、砦の士気はもちろん、守りは安定していると判断しているようで、これがあと10日続くようなら、こちらから発生源を調べ、できればそこを叩くとのことです」
「へ~、こっちから行くわけか。相応に目星は付いているのか?」
「それに関しては、カシア王女にお聞きください。冒険者ギルドとしては、その作戦の参加要請を伝えるだけとなりますので」
まあ、当然の返答ですね。
下手をすると色々不味い情報も出てくるでしょうし、冒険者ギルドには必要最低限の情報しか渡していないでしょう。
とはいえ、冒険者ギルド独自の情報網や推測なんかもあるでしょうが……。
イオア王国である限りは、カシア王女たちの顔を立てるでしょう。
「冒険者ギルドとしてはそれでいいのか?」
「もとより冒険者ギルドは人々を助けるものです。国も同じです。とはいえ、色々利権でもめたりはしますが、それでも人々の助けになるためです」
チノクさんはそうはっきりと告げます。
彼女は冒険者ギルドに意思をもって所属しているのですね。
これならば、悪いことにはならないでしょう。
「そうか。じゃ、まずは腹ごしらえだな。そのあとにカシア王女に会いに行くって伝えてくれ」
「わかりました。では」
ということで、私たちは昼食をとるのでした。
因みに、味の方は持ってきた調味料で色々やったというのは悪しからず。
ヴィリアたちの砦側も色々反抗作戦というと違うかもしれませんが、原因究明と排除に動こうとしているみたいです。
まあ、下手したら攻撃部隊が全滅とかなりかねませんし、迂闊にとれる手段ではありませんが。
今ならいけると判断したのは間違いないと思います。




