第1974堀:北部山岳の謎
北部山岳の謎
Side:ユキ
「最近全く話を聞かなくなったんじゃが、闇ギルドの方はどうなっておる?」
デリーユがやってきたと思ったら、そんなとはいわないが、そういうことを聞いていた。
「闇ギルドね。一応海側に逃げたって話まではしたよな?」
「うむ。したな。そして、このグラス港町を設けた。いざという時は海側から動けるようにと」
「ああ、陸路から追いかけると、キャナリアの時のように、複数の国をまたぐ必要があるからな。次はそう簡単にはいかないだろうってことで、海路を確保したわけだ」
「じゃな。というか、キャナリアはどうなっておる?」
「現在はルルアの下で勉強しているな。旧ヴィノシアの領民、いや、多くの人を助けられるようにってな。まあ、とはいえ始めて一ヶ月前後だ。すぐに結果が出るようなものじゃないしな」
今のキャナリアは看護師見習いってレベルだな。
まあ、現代のレベルに合わせて言うなら、見習いどころか学生扱いで、病院ではお手伝いレベルだが。
「それもそうか。闇ギルドとはもう関わらない感じか」
「それはわからない。これから旧ヴィノシアはもちろん、困っている人たちの為に動きだすなら、ある意味闇ギルドから逃げ出したような人物に映るだろうしな。狙われないという保証はない」
可能性はかなり低いとは思うが。
何せ、旧ヴィノシアにいた闇ギルドの残党は逃げたからな。
戦力は分散しているし、それでわざわざキャナリアを狙うというのは、組織の動きとしてはリスクしかないだろう。
キャナリアが守りも何もないところに住んでいるのならまだいいが、ウィードに保護されている状態だしな。
こっちに来るならそれはそれで情報が手に入ることになるからありがたいんだが、それは向こうも承知しているだろう。
「ふむ。つまりはキャナリアの方面からは接触はなさそうか。ならば旧ヴィノシア、ヒンスアから海の方面に逃げたところで足取りはなしか」
「ないな。とはいえ、ダンジョンが見つかれば報告してくれっていうのは、冒険者ギルドには通達しているし、各国にも言っている。闇ギルドを庇っていない限りはすぐに情報が飛んでくるだろうし……」
「いまだに、潜伏というか、ダンジョンを作っていたとしても、あまりうまく行ってはいないということか」
「だな。ダンジョンは性質上、入ってもらってこそ、DPという燃料が増える仕組みだからな。残っていたモノで生活は最低限維持は出来るだろうが、それまでだな。それに、まだそこまで時間もたっていない」
「いや、ユキはそのわずかな時間で大きくしたじゃろう?」
そう、ユキは短期間でダンジョンのシステムを利用して、ウィードをあっという間に大きくした。
敵もそういう風に大きくなる可能性もゼロではないはず。
「それはそうだが、俺とやっていることが同じだしな。不用意に大きくなっている町や村などがあればすぐにわかる。迂闊に大きくもできないってわけだ」
「ふむ。確かにそういう話をしておったな。となると、こっそり町や村を支配して力を溜めるぐらいか?」
「そうだな。裏からこっそりとってやつだ。とはいえ、これも規模を注意しなければ、あっという間に噂が広がる。余程の僻地である必要がある。人の出入りが激しいと怪しまれるしな。だから、町はほぼないだろう」
「なら村か」
「村なら、潜伏するだけならいいだろうな。村人からDPをもらいつつ、わずかばかりの防衛に力を貸すってな。まあ、闇ギルドも拠点が必要だろうし、村人をどうこうすることは無いとは思うが」
「そりゃのう。村人を殺めてしまえば、それでDP収入がなくなるし、村から逃げ出す連中もおろう。となると、共存が知られないようにじゃな?」
「それが無難だろうな。とはいえ、他国のことだから、これ以上手出しのしようがないからな。キャナリアの時もかなりギリギリだったし。ルルア経由のリテア聖国に頼んで、ヒンスア王国に連絡とって、さらに教会経由だぞ?」
今考えれば、かなり無茶だったよな。
キャナリアという当事者がいたにしろ、すでに奴隷としてほぼ身分はないって状態だからな。
ただヴィノシアの財宝を手に入れるっていう建前で行ったわけだ。
もちろん、裏では闇ギルドの資金稼ぎを突き止めることもあったわけだが……。
「ふむ。やはりグラス港町を作って海側から警戒をするというのが無難か」
「だな。あとは、奴隷売買を追うって方法もあるが……」
「表立って動けることではないのう。そっちは追っておるのじゃろう?」
「ほかの国と協力してな。ウィードばかりが追うというのもあれだし、立場的にも難しいんだよ。それに闇ギルドを邪魔だと思っているのはウィードだけじゃない」
そう、闇ギルドに関しては、決して俺たちだけしか人がいないわけじゃない。
ロガリ大陸では共通の敵という認識になっている。
何せ、各国の暗部も務めているような連中だしな。
とはいえ、ルーメルで田中たちが暴れて、闇ギルドのトップが倒れて、各地の支部、所属組織ごとに勝手に動き出していると言えばいいが、まとまりが無くなっているわけだ。
つまり連携が取れなくなっている。
これが、ある意味よくて、悪いという状態だ。
統制が取れている組織は上を抑えつければよいが、上が倒れてしまえば個々の判断で独自に動き出し、ほぼ把握が出来なくなる。
所謂テロリスト化というやつだな。
大きい組織を潰すというのをためらうのはそこら辺があるわけだ。
「まあ、それはそうじゃろうな。とはいえ、利用していた連中もいよう」
「いるだろうな。そこらへんは土着、地元の暗部とかもあるだろうし、そこはウィードが介入するべき事柄じゃない。もちろん、援軍を求められれば手伝うが……」
「そんな地元の暗部を退治する、身内の恥を他国に頼るわけもなしか」
「そういうことだな。俺たちが優先しているのは、ダンジョンコアをある程度使いこなしている闇ギルドの一派ってわけだな。被害が尋常じゃなかったからな。スウルスは特にな」
ある意味、闇ギルド事件の始まりといっていい。
マジで焦ったからな。
「そういえば、今回の件はそこから始まったんじゃったか?」
「一度、ウーサノとアーエの前に終わっているけどな。一応、この新大陸の事件に関しては、闇ギルドじゃなくて、行方不明事件を追ってという話だったから」
「それでも行方不明事件は闇ギルドが関わっていると思ったから介入したからのう」
確かに、デリーユの言う通り関わっていないというわけでもないか。
まあ、実際は別の問題で、ウーサノとアーエの領土争い関連もあったから、下手すると闇ギルドよりもドロドロだったわけだが。
「ま、闇ギルドの動きがないならよかろう。ナイトマンの増産、増援の話を聞いてな。流石にウィードから戦力が持っていかれすぎではという話になったわけじゃよ」
「ああ、その話か。なんだ、ジェシカたちやデリーユも出るつもりか?」
もともと、ナイトマン増援計画は、新大陸を手助けしたいラビリスやフィーリアが暇なときというと語弊があるが、時間がある時にやるという計画だ。
忙しい、しかも新大陸で活動しているスタシアやフィオラ、そして、ウィードで軍を預かっているジェシカが出るか?
「何を言っておるか。我がウィードの女王ですら出ると言っておるのに、妾たちが出らぬというのもおかしな話じゃろう?」
「まあ、そこはそうだが……。別にいっぺんに行くってわけでもないからいいのか?」
「じゃな。最大4人ほどじゃろう? 2チームが出て、北部の残り二つの最前線の国を支えるというわけじゃ」
「まあ二国の防衛が二つだけってのは無いだろうが……」
「それでも出さぬよりはマシじゃろう。ナイトマンとして妾たちが赴けば、その方面だけでもどうにかなるのはまちがいないし、情報が入るのは一番じゃろ?」
「そりゃな」
俺がナイトマンを増やすことを許可したのは、ほかの北部の最前線の様子が知りたかったからだ。
もちろんテコ入れはするが、それは二の次だった。
何せ、敵の襲撃がどう見ても意図的、つまりダンジョンマスターなどの指揮官、指導者がいるというのがわかったからだ。
そうなると、イオアだけでなく、北部全体が危険という可能性が出てきた。
まあ、ウィードのメンバーは生き残れるが、北の国々はほぼ無理だ。
そうなった場合、中央部は大混乱になるだろうし、煽りをくって南部と戦争になってもおかしくはない。
だからこそ、情報を集めるために、ナイトマンを送り出して、各地を保たせるというわけだな。
もう政治体制とかの前に、敵の目的も調べる。
最悪、北部の国々を無視して、元凶を潰す必要性もでてくるだろう。
いちいち北部の国と歩調を合わせている暇はないかもしれないからな。
というか、中央部の国々ともつながりがほぼない状態で、北部で話をつけるなんてことは数年単位になる。
敵というか、魔物の攻勢がその間保つかなんてのはわからないしな。
「妾たちが前線に赴いて魔物を間引きつつ、原因を調べるという感じか?」
「それが好ましいな。とはいえ、わかっていると思うが、今までの話から万単位の魔物を使い捨てにできるぐらいの余裕はある相手だ。しかも相応にレベルの高い個体をだ」
「油断はせん。とはいえ、不思議じゃな。ユキだったとして、毎日100単位でも送りこめるか?」
「今の収入なら問題は無い。ゴブリンやオークじゃなくて、オーガぐらいまでなら問題なく送り込めるな」
「そうじゃな。ウィードという莫大なリソースがあれば問題なかろう。ということは、敵も同じだけリソースがあるとみてよいか?」
「その通りではあるんだが、北部の地図は覚えているか? ルナが宇宙に行って撮ってきたやつ」
俺はそう言いつつ、データをモニターに映す。
「それは覚えておる。とはいえ、何も映ってはおらん。人が住む都市は存在しておらん」
「そうなんだよ」
デリーユの言う通り、写真には人が住んでいるような国、町や村は見えない。
いや、もちろん、距離がありすぎて表示できていないというのならそれまでなのだが、それらしい場所を発見できないというのもおかしな話だ。
「具体的には平地が見つからないんだよな。距離がありすぎて、人が作る町なんて映らないっていうならいいが、人が住める場所ぐらいはわかるからな」
まあ、これも感覚的なものだからな。
地球の写真を見ても、町なんてわからない。
だから、どこに町があるのかというのは土地を知って照らし合わせているからだ。
それをやっていれば人が住んでいる場所はおのずとわかるんだが、今回はそれがないってことなんだよな。
「あれじゃな。リリアーナのラストのように、森に囲まれているとか、山岳だとかになるとわかりにくいじゃろう?」
「そうだとは思うが、それだと、あれだけの魔物を出すようなリソースが確保できるかって感じにもなるんだよな」
「不思議じゃな。とはいえ、ウィードも大半は地下に人がおる。同じ規模と思えば当然ではないか?」
「ウィードと同じなら、本拠地はそうだが、ウィードは一国でなりたっているわけじゃない。隣国が存在するからな。その様子もないんだよな。もっとも、北部の山岳にそんな国家群があれば、北部の国々と交流が合っても不思議じゃないが」
「なるほどな。ふむ。やはり現場に踏み込むしかないか」
そういいつつ、俺たちはモニターに映す北部の山岳部分を見つめるのであった。
北部の山岳に手を出さないのは、敵というか敵の国家が見つからないからです。
魔王にしろ、人の国家にしろ、集団がみえないので、ユキも手を伸ばさず静観して情報を集めていたのですが、そこまでのんびりしていると、すごく面倒なことになりそうなので動き出したわけですね。




