第1965堀:裏の準備と表の準備
裏の準備と表の準備
Side:ユキ
「……既に稼働に持って行ける陸上戦艦は三隻か」
いや、早すぎね?
昨日の今日とまではいわないが、ヴィリアたちが砦を訪問して翌日には投入可能とか。
頭おかしくね?
おちつけ、地球のように重機とか組み立ての機械を使わなくて済む分、色々早いんだ。
実際、地球で家を建てるとどれだけ頑張っても一か月はかかるが、こっちはアイテムボックスや魔力、レベルによる重量物の運搬、工事の簡略化などがあるから、建設が圧倒的に早い。
上の、つまり土地を管理しているウィードの許可を得て、資材が揃っていれば、どこぞの戦国一夜城ばりに建設が可能なわけだ。
まあ、そこまで慌てて建設するのは、戦場での陣構築ぐらいだけどな。
それも今回陸上戦艦の登場で必要なくなったわけだが。
「はぁ、頭が痛いわ。いえ、我がウィードの技術力を喜ぶべきか」
隣ではセラリアもエージルたちからの報告書を見てこめかみに手を当てている。
うんうん、悩むというか、頭痛いよな。
ナールジアさんたち率いるウィード技術部の力。
普通は予定より上手く行かないのことがほとんどで、新しい技術なんて、10年に1度でも起こればよい方なのだが、魔力、魔術技術と科学技術を混ぜ合わせることで、相応にブレイクスルーが起こっているようなんだよな。
あれだ、混ぜるな危険。ってやつだな。
とはいえ、その危険があるからこそ、俺たちもできることが増える。
「まあ、喜んでおこう。とれる手段がなくて見捨てるよりは遥かにましだ。それを管理する方法を俺たちがしっかり考える方がいい」
「……そうね。発見したことを否定しても、ナールジアさんたちは反発するだけだものね」
「危険すぎて封印ならまだしも、否定は反発するだろうな。と、そこは良いとして、今はアンドの砦のことだ」
「そうだったわね。とりあえず、いざという時は陸上戦艦が投入できるっていうのは良いことだわ」
「そういうことだ」
なぜ砦の話から、陸上戦艦の話になったかというと、砦の守りが破られた際に陸上戦艦は投入できるのか、期間はどれぐらいかかるのかって話だったのだが、聞いてみれば即日投入可能ときて、頭を痛めていたってわけだ。
まあ、最低稼働人数が5人とか頭おかしいぐらいだが。
とはいえ、整備とか細々した仕事を考えると125人の予定は本当に最低人数で、500から1000人以上は欲しいところだよな。
つまり、陸上戦艦5隻を完全稼働状態にしたい場合は、5000人もの職業軍人がいるってわけで、ウィードにいる職業軍人は1万もいない。
下手すると5000もいない。
いや、ようやくウィードの総人口は8万を超えたところだしね?
その中から1万人も職業軍人とか、8人に1人が軍人ってことで、国が破綻するレベルだからな?
「数がいるときは魔物たちに頑張ってもらうしかないわね」
「だな。そこら辺の説明もしないといけないのは面倒だが……」
今のところ北部で魔物を味方にして運用しているような話は聞いていない。
砦の中にも今のところ、魔物を使って戦っているような人は確認できていない。
「モンスターテイマーがいないとは思わないけどな」
「まあ、戦場が戦場だからじゃないかしら? 生半可な魔物だとやられちゃうし、かといって強力な個体なら、単独で動くでしょう? 砦の防衛には向かないとか」
「確かにな。国ならワイバーンとかの飛行型の魔物を持っていても不思議じゃないしな」
北部は中央のファイオア王国を中心に物資のやり取りはもちろん、支援などもしている。
つまり、何かしらの素早い連絡手段があってもおかしくはない。
その中で一番可能性が高いのが、空からの連絡方法だ。
つまり、空を飛んで一気に情報を運ぶわけだ。
地球なら飛行機、こちらの世界では空飛ぶ魔物ってわけだな。
まあ、その前に地球は電話とか、そういう通信装置が出来たわけだが。
各国にもその手の魔術での通信方法があっても不思議ではない。
とはいえ、気軽に使えるようなことはないというのは、オーエやギアダナを見てわかっているし、その設備を地方でも置けるというわけでもなさそうだしな。
そんなことを話していると、ヴィリアたちは昨日と同じく再び、執務室へとやってきていて話を始めた。
『昨日はバタバタして悪かった。部屋の居心地はどうだった?』
『ああ、意外と快適だったな。てっきり、床に寝るって感じになるかと思ってたよ』
『ははっ、流石にそれだと何のために砦を作っているかわからないからな。流石に個室は無理でも、4人が一緒になれる部屋で家具は最低限用意させてもらった。ほかの兵や冒険者もほぼ同じだな。まあパーティー単位での運用が多い冒険者には好評だ』
キシュアたちはどうやらカシア王女に部屋の感想を聞かれているようだ。
相応のもてなしをしているみたいだな。
俺もてっきり激戦区の砦なんて、床で寝る方が多いと思っていたがそうでもないようだ。
ちゃんと、住環境を整えており、兵や冒険者の士気は保っているみたいだな。
まあ、そうでもないと、砦の士気が崩壊して、守るもくそもないか。
そういうことをちゃんとしているってことが、普通に指揮官としては優秀なんだろう。
『それで、昨日はあの後私たちの話を聞いてからは、結局クレント将軍が戻らずに解散になったが、あれから報告は来たのか?』
『ああ、私に報告はあった。とはいえ、予想以上の回復力に驚いていた。いや、私も驚いた。エリアヒールは相応の範囲を回復するとは聞いていたが、治療できる怪我は軽傷ぐらいだと聞いていた。しかし、重傷者もほぼ完治しているようだ』
そりゃ、一応エナーリアの初代聖女ともいわれるスィーアの範囲回復魔術だ。
そのあとウィードでレベルはもちろん、医学知識まで詰め込んでいるから、回復力はかなり増している。
エリアヒールでも重傷程度なら治るだろう。
いや、外傷による怪我ならほとんど治る。
『ほとんど? けが人が残っているってことですね? どんな人が残っているのですか?』
スィーアはすかさず、完治していない患者の様子を伺う。
いや、そうするぐらいなら昨日残って治療してろよって思うが、混乱が広がりかねないから引いたってところか。
『ん? ああ、血が足りないとか、病気にかかっているとかだな。外傷については完治しているようだ。まあ、元々回復魔術というのは怪我を治すものだからな。病気に関しては寝て治すか、薬を飲むしかない』
なるほど。
けが人は治っていて、風邪とかを引いていたり、血が物理的に足りない人たちがいまだに寝ているってことか。
まあ、それは仕方がない。
風邪に関しては、回復魔術ではかなり難しい。
風邪の原因であるウィルスや病原菌の排除だからな。
『そう、風邪や血が足りないですか。それに関しては、時間をかけて回復するしかありませんね』
風邪薬とかを処方することは出来るが、そうなるとスィーアは完全に医者って扱いになるだろうし、即時に死ぬようなことではないので、そこまで治療をする気は無いようだな。
『ああ、そうだ。幸い、今回の治療でベッドが空いたからな。ゆっくり病人たちは休めている。あと、報告が遅れた理由だが、あの続きで紹介をすると、混乱を招きそうだったからな。キシュア殿たちもそれは望んでいないだろう?』
『そりゃな。大騒ぎになれば、全員私たちを後方に置こうとするだろ?』
『当然だな。あれだけ優秀な回復魔術が使えるとわかったなら、後方にいてもらうだけで、安心感が違う。全員後ろにいてもらいたいと思うだろう。ということで、時間を置いて、あの回復魔術のこととは関係ないとするようにしたわけだ』
まあ、それが良いだろうな。
勘のいい人は気が付くだろうが、それでも時間を置けば興奮も冷めるだろうし。
『そういえば、回復魔術師を出してくれって話はないのか?』
『いや、あの回復は道具を使ったモノだと言ってある。知られるとそれはそれで護衛や注意で面倒だからな。王家が所有する希少な道具を使ったとな』
『なるほど。そりゃ助かる。そっちも人員を割かなくていいしな』
確かに、下手にそんな技量の回復魔術師がいるとばれると、所属に関して色々もめることになるしな。
ここは隠しておく方がイオア王国にとっても良いことだろう。
有能な人材の存在を自分たちだけが知っているってことだからな。
『それで、腕試しの件は本日行うということでいいか?』
『ああ、頼む。あと、ペトラ清司教のことだが』
『そこも任せておけ。ちゃんと所在を調べさせる。私たちもペトラ清司教とは連絡を取りたいからな』
どうやら、クリアストリーム教会との連絡も考えているようだな。
しかし、不思議に思ったんだが。
『だが、今更だが気になったのだが、クリアストリーム教会の方にはいかなかったのか? ドドーナ大司教の紹介なら冒険者よりも、そちらの方がペトラ清司教を探すにも近道のような気もするが?』
だよな。
そういう疑問をカシア王女は思っていたようだ。
まあ、クリアストリーム教会の体制が怪しいから俺たちというか、ヴィリアたちは接触していなかったんだが、傍から見れば変な行動をとっているとしか見えないよな。
『ああ、それは昨日も言ったけど、現地を見て回れって話があったからな』
『ええ。そういう現場のことを知ることも大事だと。それに本当に役立つかはこれからですから』
『そうそう。いきなり大物の所に行って足手まといでしたってのは悲しい』
『確かにな。しかし、先日も言ったがギアダナの冒険者ギルドにも感謝しないとな。ここを紹介してくれたおかげでけが人が減ったからな』
キシュアたちの説明にカシア王女は納得したようだ。
別に変な話でもないしな。
一応、キシュアたちはドドーナ大司教に鍛えられた世間知らずの若者ってわけだからな。
『さて、色々話したが、昨日の騒ぎが落ちついたので、今日の防衛に参加してもらいたいということだ』
『手合わせはどうなったんだ?』
『手合わせもするが、まずは防衛が先というだけだ。幸い、昨日はあれ以降攻撃はなかったが、普通ならもう一度はあったはずなんだ。それがなかったということは……』
そういえば、あの後、魔物の襲撃は無かったな。
リズムが違う。
ただの偶然だというのは簡単だが……。
『カンカンカンカン……』
そんな鉄を叩く甲高い音が当たりに響いている。
『来たな。さあ、着いてきてくれ。さっそく腕前を見せてもらおう』
ということで、ヴィリアたちはさっそく砦防衛戦に参加することになったのだった。
裏の陸上戦艦の準備は意外と早く、表の砦防衛戦もヴィリアたちの初陣。
とりあえず、すぐに崩壊して全滅っていうのは避けられそう。
ん? 早すぎるって? いや、間に合うことは良いことだよ?




