第1966堀:魔物が迫る
魔物が迫る
Side:ニーナ
「魔物が来たぞ! 弓隊かまえ! 魔術部隊は待機!」
「冒険者の弓使いたちも指定位置で構え! 魔術師たちは待機!」
砦につながる防壁の上でそんな怒号が飛んで、大勢の人が弓を構え、杖を構えている。
ちゃんと防壁の上では狙いやすいように、でっぱりがあり、そこから敵を狙い打ちできるようになっている。
場所も複数あり、死角がないように設計されているのがわかる。
つまり、ちゃんと考えられている砦というわけ。
まあ、そうでもないと簡単に陥落するだろうし、この程度はちゃんとしていてほしい。
と、そんなことを考えていると。
「キシュア殿たちは私について、指示をしたときに魔術攻撃をしてほしい。大丈夫か?」
「ああ、わかった」
「大丈夫です」
「了解」
「わかりました」
カシア王女は私たちを連れまわして、色々援護に回るつもりみたい。
いや、私たちの運用方法としては正しいと言える。
何せ、本気を出せば昨日の襲撃とかたった一人でどうにでもできる。
とはいえ、そんな全力を出す気はないけれど。
そんなことをすれば、便利に使い倒されるのは目に見えている。
なので力の調整をしないといけないので、意外と緊張していたりする。
魔物タフであれと。
と、そんなことを考えていると、目の前に広がる山の森林から魔物がわらわらと出てくる。
全部出てきているわけではないだろうけど、パッと見ても100はくだらないし、後が途切れない。
「落ち着け! 射程範囲に入ってからだ! 今撃っても当たらん!」
指示は的確。
森から出てきているのは確認できるけど、距離にしてはまだ直線で2キロはある。
そこに弓矢は届かないわけではないけど、毛皮や皮膚が硬いのもいるから、致命傷にはなりえない。
ならば確実に当てられて、致命傷になる距離で撃つというのは間違ってはいない。
でも……。
「ど、どんどん出てくる!?」
兵士がそんな言葉をもらしているように、目の前では森から魔物がわらわらと出てくると、焦燥感が出てくる。
今撃たなければと。
というか……。
「多くないか! 今までは200がいいところだったのに!」
「300は超えている!? まだ出てくる!?」
そう、今までの数を超えている。
なんでと思うけど、昨日襲ってきてなかったから、それをまとめてかな?
そうなると、昨日の一度の襲撃がなかったからトータル400ぐらい?
そんなことを思いつつ、敵が途切れるのを待つが……。
「ご、五百はいるぞ! ゆ、油断するな! な、何とかなる!」
指揮官であろう人物の声が震えながらも指示を出す。
まあ、倍からさらに増えているからしかたないか。
私としてはあの戦いぶりなら、問題ないとは思うけど、心情的にはそうもいかないか。
と、そんなことを考えていると、いきなりとなりのカシア王女が大声を上げる。
「うろたえるな! 我々は負けない! 昨日まで見事敵を防ぎ切った! そしてけが人も治っている! 負ける要素などない! 鬨の声を上げろ! 弓を構え! 魔術の準備をしろ! 突撃部隊は合図に備えよ!」
「「「お、おおっ~!」」」
下がっていた士気がカシア王女の言葉で持ち直すのがわかる。
怯えの感情が一気に流され、やる気に満ちている。
とはいえ、カシア王女本人は笑いながらも冷や汗を流している。
「……カシア様。実際はどうでしょうか?」
チノクがその様子を見て声をかける。
下手すると処刑されかねない質問だけど、それでも事実を知るには大事な確認。
カシア王女は特にとがめる様子はなく、視線を魔物たちに向けたまま口を開く。
「今回は裏に回している兵を出せば何とかなる。が、ずっとこのままは保たないな」
ただのこの場しのぎではなく、ちゃんと先を考えているようでなにより。
あの数なら確かに砦を守れる。
だけど、以降が続かない。
なにせ、休み無しで戦い続けるって意味だし、休憩が出来なくなる。
それはつまり砦の防衛が出来なくなるってこと。
「だが、それは最悪の想定だ。まずはこの場をしのいで、援軍を頼むし、原因を調べさせるし、ほかの対策も講じる。まずは、目の前をしのぐことだ。幸い、これ以上の敵は無いようだしな」
カシア王女の言う通り、森から出てくる魔物はいなくなっている。
なら、まずは目の前の問題をかたづけてから、対策するというのは何も間違いじゃない。
「となると、犠牲を最小限に抑えながら砦を守ることが重要だ。キシュア殿たちも様子を見るではなく、全力を出してほしい。いいか?」
「まあ、この状況だしな。いいかみんな?」
キシュアにそう言われて、私たちは頷く。
緊急時には個人の判断で動いていいって言われているし、なにより、この程度の数なら私たちなら一人でどうにでもなる。
ということは、手加減が必要なんだけど……。
「じゃ、私たちはここから魔術を放ち、敵をなるべく削る。それでいいか?」
「それで敵を倒せるのか? ほかと一緒に攻撃をした方がいいのではないか?」
「いや、威力が相応にあるから、近場では巻き込むから撃てないタイプなんだ。そして回数もそんなに撃てない」
なるほど、キシュアは私たちに威力の大きいやつを先に撃ってしまえって方向にするみたい。
「なるほど。そういうことなら、問題ない。通達するから待っててくれ。伝令!」
「はっ」
カシア王女の言葉に伝令が現れて、私たちが高威力の攻撃魔術を使う旨が砦の人たちに伝えられる。
これで、変な騒ぎは起きないと思いたい。
で、その伝令が伝わる間に、私たちは顔を突き合わせて……。
「それで、キシュア。私たちはどのレベルの魔術を使うのですか?」
「やろうと思えば、ここから撃って遠隔操作で全滅もできる」
「ですね。あれぐらいの群れなら、バレット系の連射でも十分かと」
ヴィリアの言う通りわざわざ高威力、広範囲で視界を防ぐような魔術でなくても、銃弾を模した属性魔力弾を撃てば500程度、この砦の上からなら、ただの的当てゲームにしかならない。
タフなのもいるだろうけど、足や腰を撃てばまず動けなるし、500発程度なら何も問題ない。
一人で1万発は軽く撃てるし、一人弾幕ができるようにはなっている。
「それは不味いから、ほどほどでかい一発を撃って終わりだ。全滅させるなよ。撃つ場所については、私たちで前面を四等分ってところだ。そして、撃つラインは弓の射程範囲よりも奥だ。残りは魔力切れとかで任せとけばいい」
「なるほど。それなら兵士や冒険者さんたちも活躍の場が残りますね」
キシュアはちゃんと兵士や冒険者たちの立場も考えているようだ。
まあ、下手に全滅なんかさせたら手柄の横取りだと私たちの立場も微妙になるだろうし、それが妥当か。
スィーアも同じことを考えたようで、視線が合いお互いに頷く。
と、そんなことを話していると。
「よし! 合図が来た。キシュア殿たち頼む。出来るだけ敵を削ってくれ」
そう冷静にいうが、期待しているという感じがありありと出ている。
まあ、このままじゃじり貧なのは見えているから仕方がないか。
ということで、早速私たちは、ユキから教わっている、見た目が派手な魔術を使うことにする。
これは見た目の威力が派手とかもあるが、魔法陣とかが展開されるので、見ているだけでもすごいぞーっていうのがわかるもの。
こういう、露骨な演出って意外と大事なのだと言っていた。
まあ、ユキの場合は、それをおとりにして何も発動予兆のない魔術とかぶっこんでくるんだから厄介すぎるんだけど。
ちなみに、私たちが使う魔術に関しては、属性分けをしているのでかぶることは無い。
キシュアが炎、スィーアが水、私が風、ヴィリアが土という感じ。
「じゃ、行くぞ!」
キシュアの声を合図に魔法陣を空中に出現させる。
「おおっ! これが複雑な術なのはわかるぞ!」
カシア王女もユキの細工に見事に引っ掛かっている。
いや、実際魔法陣には私たちが使っている魔術の起動式とか色々描き込んであるけど、半分以上は見栄えを盛るのに関する式だったりする。
ナールジアさんとかザーギスは良い実験だといって、喜んで開発していたけど。
「フレアシャワー!」
「ウォーターインパクト!」
「ウィンドバースト!」
「アーススパイク!」
この魔術の名前もしっかり考えたのを発している。
私たちは無詠唱で魔法陣も無しでいけるけど、こうした演出は敵味方に大事だというのがユキはもちろんコメットさんも同意していた。
まあ、そこはいいとして、ちゃんと魔術は発動し、砦に向かってきている魔物の集団に魔術が発動する。
キシュアのフレアシャワーは、大人一人ぐらいのサイズの火球が雨のように降り注ぎ、魔物に当たらずに地面に着弾した場合は爆発するという仕様。ちなみに当たった場合、そのまま燃やし尽くす。
スィーアのウォーターインパクトは純粋に津波。しかも魔力である程度固めているので、ある種の固くて重い岩塊がぶつかってくるのと変わらない。
4人の中で一番力技と言ってもいいかもしれない。
そして、私のウィンドバーストはウィンドカッターの嵐バージョンで、ズタズタにするタイプ。
まあ、威力がありすぎてスパッと切れてこと切れるから、一番優しいかも。
最後にヴィリアのアーススパイクはそのままで地面から棘が出てきて、敵を串刺しにする。
一番おっかないというか、グロイやり方かもしれない。
あと、棘で進行を阻害できるので、そういう意味では便利な防壁としても利用できる。
ちなみに、同時にこの4つが発動して、あたりには爆音が響き、魔物や砦の兵士や冒険者の声はかき消される。
「「「……」」」
そして、訪れる静寂の時間。
音が全て無くなったかのような静かな時。
というか、私たちの魔術範囲から逃れて、砦に先に接近している魔物たちまで振り返って止まっているって何?
本能でやっているわけじゃない?
これ、指揮官がやっぱりいる感じ?
そんなことを考えていると。
「攻撃を継続しろ! 敵は浮足立っているぞ!」
「「「うおぉぉぉぉ!」」」
カシア王女が正気に戻り、指示をだすと、兵士や冒険者はそれに応え、声を上げ、残っている魔物たちへの攻撃を再開する。
士気は最高になり、ほどんどけが人のいないまま、敵の撃退に成功するのであった。
因みに、私たちへの視線はある程度集まっていたから、有名になるのは避けられないかな?
魔物が増えた理由はなにか。
そして、それを簡単に撃退した影響は。
ヴィリアたちは無事にペトラ清司教と会えるのか?
とりあえず、演出は大事です。




