第1963堀:まずは治療を
まずは治療を
Side:ドレッサ
『ええぇぇぇ!?』
「あははは! ヴィリお姉驚いている~」
モニターに映るヴィリアの姿を見てヒイロは笑い転げている。
まあ、傍から見ればヴィリアが大慌ての様子だから、珍しいのだけれど。
「仕方がないわよ。いきなり砦全体の回復魔術とか。普通は選ばないもの」
「でもヴィリお姉は驚きすぎ~。一人一人時間をかけて治すよりも、一遍にやった方が効率がいいし、ヴィリお姉たちの実力を示すことにもなるし~」
「それはその通りね。とはいえ、下手にやりすぎると警戒されたり、囲われたりするのよね~」
実力者というのは得てして国などの権力者が相手だとそういう風に扱われる。
国を治めるモノとしては首輪をつけたいというのは当然だけれど、当人というか、自由を愛する冒険者にとって、私たちウィードにとっては迷惑なのよね。
「そこらへんは考えているよ~。元々ドドーナ大司教の弟子なんだし~」
「そういう設定があったわね。とはいえ、あの規模の回復魔術が使えるのはウィードでもなければいないわよ?」
「だから下手に制限できないよ?」
「それもそうだけど、護衛が付くのよね~」
どうしても重要人物となると、護衛が付く。
監視もかねての。
「まあ、そこらへんは仕方がないと思うよ~。何せ、ここからは色々と話をするのは偉い人でしょ~? そうなるとどうしても護衛とかおかないと色々問題だし~」
「その通りなんだけど、ヒイロはそこら辺嫌がるタイプでしょう? なんで肯定的なわけ?」
なんかヒイロが護衛とかつくことに文句が無いような言い回しに不思議に思って聞いてみる。
「うん、ヒイロはお兄以外に護衛とかいらないし。アスお姉たちとかがいればいいし。でも仕事だしね~。ヒイロだって部下の人がついてくるよ~。それと同じでしょ?」
「ああ、そういう考え方ね。確かにそう考えれば問題は無いか」
「実際、護衛って人たちもこっちからの要望はある程度聞いてくれるんだし、仕事を手伝ってくれる人が増えたって思えばいいんだよ。ヒイロも部下の人に仕事手伝ってもらっているし~」
「ヒイロの場合は丸投げしているところもあるようだけど?」
「それも部下を育てるための方法」
何とでも言えるわね。
まあ、仕事を任せるというのは一概に間違いとは言えないけど。
と、そんなことを話していると、回復魔術の行使が終わったのか光が落ち着き、病室となっている部屋が騒がしくなっている。
『な、んだ? 体が?』
『痛みが引いた?』
『傷が……』
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。
そのあとには……。
『『『治っている!?』』』
そんな声と共に、歓声の声が爆発的に上がる。
当然よね。
治らないというか、人手と薬が足りなくてけが人多数だったのが、一気に全快したんだから。
とはいえ……。
「これじゃ、スィーアがやったってわからないんじゃないかしら?」
「別にそれはそれでいい。回復魔術の実力を全体に見せると面倒だし、奇跡が起こったでもいいよ~。なんか、前もそういうことで誤魔化したことがあるし~」
「あったわね。下手に治すと騒がれるから、神の思し召しってことにしてたわね」
「戦闘の実力は別で見せればいいんだし~。これがさっきも言ったけど、一人一人相手するより手っ取り早い」
確かにそうね。
全員驚いているし、同行というか、案内していたカシア王女、将軍のクレント、そしてチノクも目の前のことに驚いて口を開けたまま固まっている。
それも当然よね。
てっきり一人一人治していくものだと思っていたでしょうし。
こんな広範囲で高威力な回復魔術が使えるなんて思うわけもないわ。
……まあ、ウィードではこれぐらいは出来て当たり前っていうのが500人以上はいるんだけど。
そうでもないと少数の軍で戦線を支える事なんてできないもの。
あ、ちなみに単体の回復魔術については、ほぼ全員が習得しているから、単独での治療はどこでもできるわけ。
うん、ルール違反も良いところよね。
と、そこはいいとして、唖然としているカシア王女たちにスィーアが振り返り。
『回復魔術を発動しました。クレント将軍、患者の状態を確認してから、執務室へ来てくれますか? この場に留まっても騒ぎに巻き込まれるだけですから』
『あ、ああ、その通りですね。カシア様。いちどこの騒ぎを治めてから話の続きをした方が良いかと』
『……そうだな。とりあえず、けが人の詳細をまとめて報告してくれ』
『はっ』
そういって、スィーアたちは執務室へと戻る。
まあ、あの騒ぎの中で話をすることは難しいものね。
『さて、戻ってきたはいいが。確認させてくれ。先ほどの回復魔術は……』
『はい。私が行使いたしました。一人一人では時間がかかりすぎますし、別に回復要因としてきたわけではありませんから』
スィーアは特に隠すこともなくそう告げる。
そう宣言しておくのは大事よね。
戦いに来たのに回復役になんて押し込まれたくはないでしょうし。
とはいえ……。
『あれほどの術を使えるのに、前線希望か……。チノクは知っていたのか?』
『戦うことを希望しているのは知っていましたが、回復魔術があれほどとは思いませんでした。手合わせでは私だけが負傷したので個人での治療しか受けていませんでした。まさか、エリアヒールの上に、あそこまでの回復力とは』
『……普通は思わないな。あとは、どれだけの回復力かだが。まあ、それはクレントに調べさせているからあとでいいか。しかし、正直に言って、キシュア殿たちを前線に出すのはもったいないというのが私の意見だ』
素直ね。
下手な対応をすると逃げられると思ったかしら?
『それはわかる。あの状況を見ればな。回復要員はそこまで多くはないってことだよな?』
『ああ、先ほども言ったが、けが人に追いついていないな。薬も人も。だからこそ治療ができる人員は貴重だ。言い方は悪いが戦うことは代わりがいるからな』
事実ね。
戦うことはほかの誰かで代用できるけど、回復魔術を使える人物は簡単に補充できない。
それはウィードでも事実。
だから、後方に置いて兵士の回復に努める方が、戦力を維持することにはなる。
指揮を執る者としては当然の判断ね。
とはいえ、それじゃ私たちとしては目的を達成できないのよね。
『まあ、私たちを危険にさらすとリスクがでかいっていうのは分かった。とはいえ、実力を知らないっていうのも困るだろう?』
『それはそうだな。だが、魔物の集団の前に出すわけには……』
『そこまでしろとは言わないさ。そっちの気持ちもよくわかるし。だから、城壁の上から魔術の攻撃とかを見せるっていうのはどうだ? 実力を見せるための手合わせで動きは見れるだろうし』
『ああ、なるほど。確かに動きの実力は手合わせを見ればわかるな。しかし、矢では無く攻撃魔術か。回復魔術だけでなく攻撃魔術も使えるのか?』
『そっちのスィーアは回復が得意なだけで、私たちは攻撃の方が得意だな』
そうね。
嘘は言っていないわ。
確かに回復よりは攻撃の方が得意よね~。
回復魔術もほかの人よりは圧倒しているだろうけど、スィーアよりは劣るってね……。
『ふむ。正直言葉だけでは信じられないぐらいの多才だな。武器や動きなどはチノク殿を上回り、回復魔術も使え、その上に攻撃魔術もか。いや、上位の冒険者や、将軍とまで上り詰める人物はそういう多才はあるというが、それでも珍しいのだがな』
それはそうよね。
基本的にどれか一つをある程度極めるのが精一杯だもの。
多才になろうとしても器用貧乏になることが多いわ。
それだけウィードが異常ってこと。
まあ、ユキがその手の搦め手が大好きだし、軍事訓練でも使い方を学ぶものね。
取れる手段が多いというのはそれだけ有利ってことなんだけど、普通だと習熟が上手く行かないから一本に絞るのが普通ね。
『ま、そこはドドーナの爺さんのおかげってことで』
『ああ、そういわれると納得だな。ドドーナ大司教だからこそキシュア殿たちを見いだせたということか。そういえば、ドドーナ大司教からも北に行けと言われたんだったな。ほかに何か聞いてはいないのか?』
おっと、そこを聞いてくるわけね。
いえ、当然のことではあるけど。
今までは、キシュアたちの実力を測ろうってことばかりだったものね。
『ほかにっていうと、クリアストリーム教会のペトラ清司教に会えってことぐらいだな。会えば適切な場所に行けるだろうって』
『なるほどな。ペトラ清司教であれば、北部の戦線のことは把握しているだろう。とはいえ、イオアに来ることになったのはなぜだ? 直接ペトラ清司教の所に行け場良いのではなかったか?』
当然の指摘ではあるわよね。
中央があんなことになっていなければって付くけれど。
北部のクリアストリーム教会がどうなっているかわからないし、下手に連絡を取れないのよね~。
『そこは修行ってことで、ペトラ清司教は自力で探せって言われたな』
『ああ、なるほど。確かに良い修行だろうな。私たちのような者たちの対応もあるだろうしな。しかし、それならばなぜイオアに来た? ほかにも候補はあっただろう?』
『ギアダナの冒険者ギルドに勧められたな。そういう戦いが多くて、名前を上げるにはって。冒険者の応援もあったしちょうどいいだろうって』
『そういうことか。確かに冒険者ギルドに冒険者の増援を頼んだな。それで中央からキシュア殿たちが来たというのは僥倖だったな』
『まだ、私たちが使えるかどうかは分からないぞ?』
『はは、すでに回復魔術だけでも有用なのだ。これで使えないなどと指揮官としては失格だな』
その通りね。
回復魔術師というだけで有用なのはわかるわ。
使えるのはわかっている。
というか、これで前線で戦う実力がないとわかれば、堂々と後方におけるしいいことよね。
『よし、とりあえず話はまとまったな。クレントの報告が終わるまではしばらくかかる。その間に、部屋を案内しよう』
『え、カシア王女が?』
『なに、ついでというやつだ。先ほどの戦闘での被害もこの目で確認しておきたい。ああ、けが人はクレントに任せているが、砦や壁の方だな』
『なるほど』
自分の目で損傷を見るのは大事よね。
別に部下を信用していないというわけではないのでしょうけど、こういうのは時間があるなら、現場を見ておいた方がいいのよね。
人の見方によって、損傷度合いも変わってくるしね。
ということで、ヴィリアたちは自分の部屋へと案内されていくのであった。
「さて、そこはいいとして、私と一緒にモニターを見ているのはいいけど、仕事はどうなっているのかしら?」
「そこはもちろんやってるよ~」
私の質問に即座に報告書を渡してくるヒイロ。
まったく、こういう時はしっかり仕事をするんだから。
「ヴィリアの前で手を抜くのはやめておきなさい」
「いいの~。ヴィリお姉はヒイロのだらしなさを見て安心しているところもあるんだし~」
「はぁ、それはわかるけど、加減はしなさい。ヴィリアが過労で倒れても困るんだから」
「大丈夫。ヒイロはそこら辺は完璧」
なんともまあ、これはこれで信頼の証なんでしょうね。
ヒイロはヴィリアが見ていないとしっかり仕事をしているタイプ。
まあ、そういう関係性だと思ってください。
ドレッサはその事実をしっていて、ヴィリアが気の毒だと思っている。
そして、ヴィリアたちはこれからどうなるのか。




