第1962堀:砦に受け入れられるには
砦に受け入れられるには
Side:デリーユ
「ほう。牛人族か」
ヴィリアの視界モニター越しに映る、立派な体躯の女性。
イオアの第二王女と名乗るカシアを見てそうつぶやく。
その声が聞こえたのか、隣にいたセラリアが……。
「珍しいわね」
「じゃな」
そう口を開き、妾も同意する。
「そうなのか?」
ユキは不思議そうに妾たちに聞いてくる。
違うな、ジェシカやスタシアも不思議にこちらを見てくる。
この大陸でない者たちにとっては亜人は珍しいからのう。
その能力もそこまで把握しておらんのじゃろう。
ということで、答えてやるかと思っていると、フィオラが代わりに口を開く。
「はい。まあ、新大陸の北部では違うのかもしれませんが、ロガリ大陸において牛人族は基本温厚で確かに力はありますが、戦うことは稀ですね。農耕に力を入れている種族です」
「そういえば、カヤの農業関連では何人か知り合いがいるな。軍ではみたことはないな」
「軍ではなかなか見ませんね。一応セラリアやジェシカの部下に4、5人はいるはずですが……」
そういってフィオラはセラリアやジェシカに視線を向ける。
「そうね。いるわよ。力が強くて体格も良いのが多いわ。とはいえ、性格的には温厚だから、護衛とかそういうのに向いているのよね」
「そうですね。別に戦えないわけではありませんが、体が大きい分、狙われやすいというのもありますので、パーティー単位の戦いなら盾役として大いに役立つのですが」
「数が揃わないから、大軍戦となるとちょっと運用しづらいのよね。まあ、ウィードだと銃器を使うから、そこら辺は全然意味ないけど」
うむ。
基本的に温厚なものが多く戦いに向かぬ。
とはいえ、力はあるので、魔物退治程度ならこなすが、専門ではないからのう。
「おそらくは、ガルツ王と同じように側室にでも牛人族の娘がおったのじゃろう」
「そうね。それなら十分に説明がつくわ。まあ、どちらにしろ、彼女が責任者というのは間違いないでしょう。王国直轄地という理由なら納得だし」
うむ。
当然の話じゃな。
王国直轄地なら王族の一人でおらねば恰好は付かんじゃろう。
そんな感じで、カシア王女のことを話している内に、新しい人がやってきたようで。
『カシア様。お呼びと聞きましたが?』
そう言って入ってくるのは、これまた体格の良い、立派な全身鎧を着こんだ中年の男じゃ。
恐らくは先ほど話していた……。
『忙しい中すまないな。襲撃は何とかなったか?』
『はっ、先ほどの襲撃は突撃部隊が多少負傷した程度で、すぐに引きました。門に取りつこうとしていた魔物も撃退しましたので問題はありません。ただいま、素材の回収に移っています』
そう男は淡々と答える。
確かに、砦の外を映しているドローンには、魔物は全て倒れており、回収するためか兵士や冒険者が出て解体をその場で行っている様子が映っている。
『そうか。ならば、話している余裕はあるな。紹介したい者たちがいる』
『はっ。それはチノク殿が連れている方々でしょうか?』
『そうだ。すまんな。この男は私の砦運営を手伝ってくれている、イオア王国の将軍で、クレントという。クレント、チノク殿たちが連れてきた者たちで、左からキシュア殿、スィーア殿、ニーナ殿、ヴィリア殿という。この者たちはドドーナ大司教の弟子なのだそうだ』
『ドドーナ大司教の!?』
カシアの説明で驚くクレント将軍。
それだけドドーナ大司教の名前は北部では有名なのじゃな。
それがギアダナでくすぶっているのはよくわからんが。
『ドドーナ大司教はギアダナ大森林の守りとして残り、北部の状況を聞いて彼女たちを送ってくれたわけだ』
『なるほど』
あ~、そういえばドドーナ大司教はギアダナの大森林で大物を仕留めたとか言っておったのう。
そこら辺も詳しく調べないといけないのう。
厄介なのがギアダナの大森林にいるのであれば、ほかの国だけでなく、そっちもフォローしなければいけない問題だということじゃ。
『それで問題は彼女たちが若すぎるというところだな。チノク殿の話からは、模擬戦で圧倒されたとのことだ』
『ほう。チノク殿がですか』
『実力は問題ないというわけだが……』
『若いということですな。侮ってくる者たちはいるでしょう。最近の敵の猛攻により、精神的にもすり減っております。援軍として紹介しようものなら、舐めているなどと思われかねません』
確かにのう。
頼もしい援軍とかの前置きで紹介して、いざ姿を見ればキシュアやヴィリアたちとなれば、命を懸けて戦っている兵士や冒険者は怒ってもおかしくはない。
何せ、ぱっと見て子供を戦線に投入するということは、その面倒を見ろということでもある。
味方の為に味方が倒れる。
そんなことを受け入れろというのは、自分たちに死ねと言っているのと変わらぬ。
それだけ、ヴィリアたちの能力はけた違いであり、想像の埒外というわけじゃ。
『ということで、何か解決案は無いだろうか? チノク殿よりも腕が立つというのであれば、無駄にはしたくはない』
『当然の話ですね。有能な力の持ち主は今の状況では喉から手が出るほど欲しい。問題は彼女たちを足手まといという勘違いです。それを払しょくできればよいわけですから……』
まあ、この手の問題に関しては簡単な解決方法が存在するんじゃよな。
『まあ、多少乱暴ですが、これ以上ない方法がございます。カシア様も考え付いたのではないかと』
『やっぱりそっちか。私はそういう荒っぽいのはどうかと思うのだが』
『何をおっしゃいますか。王族の中では一番その手のことが好きではないですか』
『否定はしないが、それでも好んでいるとは違うぞ? 競い合うのは好きだが。と、まあ、私の好みは良いとして、物理的に、実力を見せればいいというわけだな』
『その通りでございます。こちらが見繕った兵や冒険者と手合わせをしてもらいましょう。実力が分かれば、怒るどころか歓迎するでしょう』
うむ。
こういう戦いが中心の場所では腕っぷしを見せるというのが一番早いんじゃよな。
妾も旅をしていた時はよくあったもんじゃ。
『というわけだが、キシュア殿たちはそれで構わないか?』
『それが一番話が早いよな。と、そこはいいんだが、別にやってみたいことがあるんだけどいいか?』
『なんだ? ほかに方法があるのであれば是非聞きたい』
『いえ、戦いではないのですが、先ほどけが人が出たと話がありましたし、撤退してくるのを見ていまして、私たちは相応に回復魔術も使えるので、まずは治療をできればと』
スィーアがそう申し出る。
確かに、腕っぷしも大事じゃが、けが人を復帰させる回復魔術の腕を見せることも十分有用じゃな。
まあ、戦力を回復させたいというのもあるじゃろうが。
『回復魔術? キシュア殿たちが全員使えるのか?』
『ん? ああ、スィーアが一番上手いけどな。そうでもないと、森での魔物退治なんて4人でやってられないからな』
設定じゃな。
まあ、元々聖剣使いのメンバーはほぼ単独行動じゃったから、自分で治療する術は持っていたしのう。
ヴィリアに関しては、女神様たちからの加護も山ほどあり、ユキやルルアの指導で医学知識もあるので、元から回復魔術については普通の術師を遥かに上回る。
『ほう、それが事実であればありがたい。先ほどのけが人も砦にいる回復魔術師に治療してもらっていますが、戦いが激しくなり、治療が追い付かなくなってきていますから』
『だな。最初は回復薬でなんとかなったが、戦闘中にも使うし、重傷者には効きが悪い』
『ですね。少しでも回復魔術が使えるのであればそれだけで認められるでしょう。ともかく、一度試してもらいましょう』
『そうだな。この目で回復魔術の実力を見ておきたい』
それはそうじゃろうな。
どれほど回復魔術が使えるのかで、今後の戦い方にも関係するじゃろう。
とはいえ……。
「なぁ、ヴィリアはもちろん、スィーアを筆頭にキシュアたちも回復魔術は相応に使えるよな?」
ユキがそう聞いてくる。
「うむ。死んでいない限りは回復できるぐらいには鍛えておると聞いておる」
「当然よ。ヴィリアたちが痛い目にあって治療できないとかありえないわよ」
妾の言葉にセラリアが同意する。
まあ、それは妾も同じ意見じゃ。
ケガでのたうち回るよりも、治療できた方が良いのは決まっている。
じゃが、あの場では……。
「下手すると後方要員に固定されないか?」
「「「あ」」」
ユキの言う通り、妾たちの中では、ヴィリアたち以上の回復魔術師は山ほどいるし、手際も圧倒的に違う。
じゃが、言い方は悪いが、あちらはその手の医療技術が進んでいるとは全然思えん。
なにせ、実際回復魔術師が不足しているのじゃからな。
「まあ、キシュアたちが上手くやるか見てみるか。手を入れるのは結果を見てからだな」
「そうね。そういう交渉も得意でしょう」
じゃといいがな。
場所によってはスィーアは聖女とも呼ばれたんじゃし、そこら辺でトラブルにならないと良いが。
と、そんな話をしているうちに、ヴィリアたちはけが人たちが集められている砦の病棟にたどり着いたようじゃが……。
『ここだ』
そういってカシア王女は言うが、その顔に笑顔はない。
何せ、ベッドの横になっているけが人が多く、というか、床に寝かされている者もいる。
いや、座り込んでいる者もいる。
『これはかなりひどいな』
『一応回復魔術師と薬師がいるからこの場に集めてはいる。後方に移そうという話もあったのだが……』
『移送にも人手がいりますし、町にけが人が多く運び込まれれば、それだけ町の不安につながりますからな』
確かにのう。
簡単に移動もできん。
そうなれば、ここでどうにか治療するしかないか。
さて、キシュアたちはどうするのか……。
『ま、ここはさっさとすっきりした方がいいだろう。な、ニーナ?』
『面倒はさっさと減らすべき。スィーアやって』
『はぁ、まあ私としても見過ごせませんからね。良いでしょう』
『え? どういうことでしょうか?』
ヴィリアだけはわかっていないようじゃが、キシュアたちはこの手の問題はさっさと片付ける方にしたようじゃな。
『エリアヒール』
スィーアがそういうと、砦全体が淡い緑色の光に包まれるのであった。
いや、威力と範囲かなり高めにはなったな!?
こういう時は支援に回るとか、戦うとか極端な方法の方が受け入れられやすいってわけだ。
インパクトがある方法ですね~。
まあ、どういう人が多いかによりますが。




