第1961堀:砦に到着
砦に到着
Side:ヴィリア
砦に入って聞こえたのは怒号でした。
「敵が思ったよりも強い! 突撃部隊のけが人が運ばれてくるぞ! 扉を開けて運びこんでくるから構えろ!」
どうやら、話に聞いていた突撃部隊に被害が出たようで慌てて戻ってくるようです。
そんな状態なので、門を守っていた衛兵さんにあいさつをして砦の中には入れたものの、これではゆっくり話を聞いて配置を決めている余裕はなさそうです。
さてこの状況でどうするのかと思ってチノクさんに視線を向けると。
「皆さん、ここにいても仕方がありません。抜かれるとは思いませんが、砦の外側の門は二重扉の構造です。そちらで状況を確認しましょう」
ということで、私たちは砦の二階へと上がり、二重扉の中が覗ける位置へと移動します。
どうやらこの砦は桝形の空間をとっており、そこに侵入した敵を一網打尽にできる構造のようです。
そして今回は撤退を支援するということで、二階には弓を持った人や杖を持った人たちが構えています。
魔物も入ってくると考えているのでしょう。
とはいえ、味方へ誤射をしないのか少し心配です。
そんなことを考えていると、外を見ていた人が大声を上げます。
「突撃部隊が戻るぞ! 開門! 開門!」
そう叫び声が上がると、大きな扉が動き出します。
流石にこの扉は仕掛けで動かしているようですね。
まあ、流石に人の手で動かせる程度では、大型の魔物であっという間に開けられてしまいますし、当然のことですか。
と、そう思っていると、多くの兵士が入ってきます。
抱えられている人もいるようで、すぐにさらに奥へと運ばれて行き、残っている人は構えて、敵の追撃にそなえています。
ちゃんと役割を決めているようで、しっかりとした印象を受けます。
そして、魔物を見る前に……。
「全員入った、閉門! 閉門!」
その声が響き、門が閉じられます。
最後まで殿に残った人たちは動きませんでしたが、敵が入ってくる様子はありませんでした。
どうやらうまく撤退出来たようですね。
いざとなれば、出る必要があるかと思っていましたがその必要はなかったようです。
「何とかなったみたいですね」
チノクさんもそう言います。
「いつもこんな感じか?」
「いえ、今回は思いもよらぬ負傷者を抱えた撤退だったようです。普通はある程度敵を混乱させて悠々と戻ってきていますから」
「では、苦戦したということでしょうか?」
「それは間違いないでしょう。普通は突撃部隊は最後の攻撃で、そのまま魔物を全滅させますので。しかし、今は戦闘を継続中です」
そういってチノクさんが視線を壁、つまり魔物がいる側へと向ける。
なんだろうと思って私たちもそちらを向きます。
確かに魔物の気配を相当数感じます。
そして、それを攻撃しているであろう人の気配も。
というか、声が聞こえます。
『門に取りつかせるな! 門近辺の連中は門にとりついたのを優先に攻撃しろ!』
どうやら、門が破られるようなことはなさそうです。
よく気配を調べてみると、数もそこまで多くはないですね。
精々30以上40未満という感じです。
いえ、それだけの数であれば十分脅威ではありますね。
「で、どうするんだ? 最悪の事態にはなっていないようだが」
「……そうですね。戦闘も何とかなる感じですし、この砦の指揮官と面会いたしましょう。元々その予定ですから」
ということで、私たちはこの砦の最高責任者に挨拶に向かうことになります。
普通は雑兵というか、一般兵が顔を合わせるというか、挨拶することはまずありません。
……余程名前が売れていない限りは。
私たちは今回、ドドーナ大司教の弟子ということで、一目置かれていますからね。
そういう意味では有利ですし、ある意味では不利でもあります。
権力者を相手にするというのがですね……。
私たちにとって良い相手であればよいのですが。
そんなことを考えていると、立派な扉の前にたどり着きます。
「チノクです」
そう告げると、扉の前にいた兵士が扉をあけてくれ、中に入ります。
そこは……、良くも悪くも見慣れた執務室でした。
机には書類の山が積まれています。
うん、気が遠くなる状態ですね。
私も、ウィードに戻れば海軍の仕事はもちろん、今回の冒険者に扮しての出張の報告書も書かないといけませんし。
と、そこはいいとして、その書類の山を相手にペンを動かしている人物が顔を上げ、こちらを見ます。
その方はなんと……。
「チノク殿か。よく来られた。冒険者たちの入れ替えには早いが?」
そう答えたのは女性。
しかもおそらく角は生えていることから、牛や鹿と言った亜人なのです。
まさか、中央部であれほど亜人に関するトラブルが起こっているところに、砦の責任者が亜人の女性とは……。
「この者たちをご紹介したく参上いたしました」
そんな私たちの内心の驚きをよそにチノクさんは私たちの紹介を始めます。
「ふむ? その者たちを? 見たところギリギリ冒険者……に見えないこともないが、身綺麗すぎるな。お忍びのどこぞの貴族か? しかし、そんな話は聞いていないし、この砦に来るというのも意味がわからんな」
そんなことを言って、不思議そうに私たちを見つめる責任者らしき亜人の女性。
というか、やっぱり私たちは冒険者として違和感が甚だしい存在だったようです。
一応、それっぽくしていたんですけど。
「まずはこの者たちの名前を。キシュア殿、スィーア殿、ニーナ殿、ヴィリア殿と申しまして、ドドーナ大司教の弟子なのだそうです」
「ドドーナ大司教の弟子か!」
私たちがドドーナ大司教と繋がりがあるとわかったとたん、椅子から立ち上がり、驚いた顔をしています。
彼女は身長が高く190近くあり、スタイルもよく、大きな胸が目を引きます。
とはいえ、軍服に身を包んでいるので、勇ましさが前に出ていますね。
身内でいうなら、セラリアお姉さま、ジェシカお姉さま、スタシアお姉さま、フィオラお姉さまといったタイプでしょうか。
「なるほど。私に紹介したかったという意味は分かった。彼女たちは力になるというのだな?」
「はい。全員、私を圧倒するほどの技量の持ち主です。対人戦に関しては見ていないので何とも言えませんが、魔物に関しては圧倒的だというのは分かります」
「そりゃ、あのドドーナ大司教の弟子となれば魔物が専門だろう。なるほど、下手なちょっかいか」
「その通りです。今までギアダナ大森林の方でドドーナ大司教と魔物退治をして過ごしており、あまり人と関わりがなかったようです。所作や礼節に関しては御覧の通り綺麗なものなのですが……」
「一般の人と比べると確かに浮くな」
どうやら、私たちは所作などが綺麗過ぎたようです。
いえ、確かに冒険者たちなんかは動きが雑というのはあります。
あと馬鹿どもは肩を怒らせて歩くという意味の分からない威圧行為を行いますからね。
ああいう風にはならないようにと意識してはいますからね。
というか、ウィードではそういう馬鹿な冒険者の真似をするなと指導していますし。
まあ、地域の違いというやつです。
「まあ、丁寧なのは町の中では問題ないだろう。とはいえ、ここで戦うとなるとというわけだな」
「はい。血の気の多い兵士と冒険者の中ですからね。もめ事になる可能性があります。まあ、この4人であれば、返り討ちにできるでしょうが」
「まあ、チノク殿を圧倒するのであればそうだろうな。私もイーブンだというのに」
「ご謙遜を。体格が小さいので負け越しておりますよ」
「その体躯で私から勝利を取っているという事実がすごいのだ。と、私の名前を言っていなかったな。ドドーナの弟子殿たち」
そういって、チノクさんとの雑談をいったん切り上げ、私たちにしっかりと向き直る。
「私はこのアンドの砦の防衛を任されているイオア王国の第2王女のカシアという。見ての通り、牛の亜人でな。力には自信があるわけだ」
胸を張り大きな胸が突きだされます。
その姿はルルアお姉さまを思いこさせます。
まあ、ルルアお姉さまはおしとやかなタイプなので、ああいうポーズはとりませんが。
身長もあるというタイプはウィードのお姉さまたちとはちょっと違いますね。
ギリギリ、ジェシカお姉さまやスタシアお姉さまが比較的高身長ではありますが、それでもあそこまでは大きくありません。
おっぱいに関してはルルアお姉さまやリュシさんよりも下なんですけど、サマンサお姉さまやジェシカお姉さまぐらいで見劣りはしないです。
と、そこはいいんです。
私はまだ成長する余地もありますし、お兄さまはその手の差を気にしません。
問題は……。
「第二王女様が直々に防衛っておかしくないか?」
キシュアさんがそう言います。
そうです。普通は王女ではなく将軍などを引っ張ってくるのではないでしょうか?
しかも、要ともいえる場所です。
「なはは、素直だな。まあ、こんな小娘よりも、歴戦の将に任せるのが普通だ。とはいえ、その言葉が出るということは、やはり北部の状況を知らないようだな」
そういってカシア王女は席に座りなおして、口を開く。
「まあ、雑談ついでと思って聞いてくれ。このアンドの町は王家直轄だ。そういう意味でも将軍を派遣させられないというのがある。つまり、王家が守るからこそ王家直轄の意味があるという話だな」
「そういうことですか。建前というのもあるのですね」
確かに、王家直轄で国の臣たる将軍が出張ってきているというのは、おかしいと言えばおかしいのですが、ここまで攻勢が厳しいのであれば例外では?
「そういうことだ。それに、戦場はここだけじゃない。一応北部は魔物迎撃でまとまってはいるが、領土争いというのはあるんでな。他国との国境のにらみに軍を置かないわけにはいかない。人が相手となると、真面目に読み合いが大事になる。私もできる。と言いたいが、流石に国を今まで支えてきた将軍たちよりは劣る」
「……どこでも人の争いは絶えない。資源の奪い合いはある」
「そういうことだな。鉄が取れる場所や水源などは争いの種になるし、奪われてしまえば死活問題にもなる」
……正直頷きたくはありませんが、理解はできます。
世の中はどれだけ厳しい状況になろうとも、自分の利益だけを求める馬鹿がいるというのはお兄さまと一緒にいてよく見ています。
「まあ、偉そうに言ったが、流石に小娘とはいわんが、経験の少ない私だけでは無理があるので、補佐として将軍がいるがな。あっはっは」
ほっ、そこはちゃんとしているようで安心しました。
「とはいえ、私が責任者だというのは間違いはない。これからよろしく頼む」
こうして、私たちはカシア王女の下、砦防衛に当たるのでした。
ついに砦に到着し、ヴィリアたちの活躍が始まるのか?
カシア王女の能力は後日わかるとして、種族的にはグランブルーファンタジーのドラフの大きいタイプです。




