第1959堀:足りない人員
足りない人員
Side:ルルア
「……陸上戦艦への医療要員ですか」
私は新たに上がった要求の書類を見てうーんとうなってしまいます。
「おや、どういたしましたか?」
その私の表情を見て、すぐに話しかけてくるのは、ズラブル帝国の大皇望ショーウ。
最近はウィードの病院で医療に関してを学んでいます。
いや、前からなんですが。
と、そこはいいとしてショーウにこの話をしていいものかと少し悩みます。
一応陸上戦艦のことは機密となっています。
まあ、各国の上層部には軍艦を作るというのは伝えていますし、経過の報告というのも別にしても構わないと旦那様やセラリアから許可をもらっています。
まあ、陸上戦艦なんて、普通の人なら信じることは無いですからね。
戯言としか思われないでしょう。
なにせ舟と言えば河川や精々湖沼が主で、魔魚が脅威な海の上に浮かべる船でさえこの世界では稀なのですし。
ならば……。
「ショーウ。今から話すことは新大陸のことなので、ユーピア皇帝以外には他言無用でお願いいたします。新大陸への進出がどう転ぶかわからない状況なので」
「……なるほど。余程な情報のようですね」
私が難しい顔をしている理由を察してすぐに真剣な顔になります。
普段は笑顔の優しいお姉さんという感じなのですが、こう真剣になると、セナルさんを思い起こしますね。
彼女は女神として、色々偏ったかたではありましたが、己の目的の為に、まっすぐ人を救おうとしました。
旦那様は彼女を仕事のできるキャリアウーマンのようだと言っていましたね。
失敗はしてしまいましたが、旦那様の手を取り、子供たちを助けたのは間違いありません。
失うものはありましたが、最後の最後に大事な物は守ったと言えます。
と、そこは良いとして。
「話しても?」
「はい。大丈夫です。そこまで信頼していただけて光栄ですよ」
ショーウは私の問いに対して、そう朗らかに答えます。
なんというか、助けて以降、良き友人なのですよね。
医療については私が上回っていますが、ほかの政治や戦略については彼女が上なので、そういう意味でも良き友人なのでしょう。
そういうことで、新大陸の現状を説明し、その中で軍艦の開発を陸上戦艦に切り替えたところで……。
「ちょっと待ってください」
そう言って、手の平を私に向けてきました。
「なんか、物凄い話が出てきた気がするのですが、りくじょうせんかん?」
ショーウは理解が追い付かないようで、その確認を取ってきます。
気持ちはよくわかります。
何を言っているんだと思うのは当然です。
とはいえ、事実は事実ですので……。
「文字通りです。陸上を往く戦艦を開発しました」
「陸上の……戦艦?」
「そうです。海の軍艦を作っていたのですが、現在の新大陸の状況を考えると、単独で敵を押しとどめ制圧できるような性能が必要だと判断したようで、ならば、陸の軍艦があればいいじゃないかとなったわけです」
もう、そういう説明をするしかないんですよね。
自分で説明しておいて無茶苦茶だとは思うのですが、実際に起こっていることです。
「なる……ほど? え? 船を陸に? どうやって?」
「ああまあ、映像でも見ないと理解できませんよね」
言葉だけでは足りないという意見はもっともなので、実物を見せることにします。
タブレットを取り出して、陸上戦艦の映像を見せます。
「……本当に、存在するんですね。とはいえ、船をひっくり返したような感じなのですね」
「水上でバランスを取るには竜骨が船底に尖る方がいいんですけど、陸上は接地面が多い方が安定しますからね」
「なるほど、確かにその通りです」
流石は天才と言われるショーウ。
私の言葉である程度理解を示します。
私なら、いまだに理解できずに混乱していると思います。
「それで、陸上戦艦の運用上、医療要員がいないというのは問題だという話になっていまして……」
「そういうことですか。またルルアの所から人員をという話なのですね?」
「そういうことです」
「まあ、説明を聞く限り、移動要塞なのですから、医務室があるのは当然。そこで働く医者がいないというのは文字通り意味がありませんからね」
ショーウの言う通りです。
移動要塞である拠点も兼ねる陸上戦艦に治療する場所があるのにもかかわらず、医者がおらずに使えないなんてのは笑い話にもなりません。
なにより……。
「北部は陸上戦艦の投入を予定しているほど激戦なのですよね?」
「はい」
「それで医務室が使えないというのはありえないですね。とはいえ、送れる人材に当ては?」
「……そこが難しいところなんですよね~。新しく責任者を決めて職員を連れていく。つまりは、一つの
病院を任せるのと変わりがありません。確かに、医者としての腕がある人物は相応にいますが、管理なども含めると……」
「ああ、それは確かに、稀有な人材ですね。医療の知識もあり、病院のマネジメント全般もこなさなければいけないと」
「そういうことです」
ただ医療の腕が良いだけでいいのであれば、今のウィード病院に相応にいます。
ですが、部下の指揮をとり、全体で成果を出せる人物となるとなかなかいるものではありません。
「ふむ、私に声をかけてもらった理由は納得しました。これぐらいで無ければ、恩は返せませんからね」
「別に人を助けることを恩にしなくても。友人として相談に乗ってもらえれば」
私は生真面目な友人にそう告げます。
すると、再度驚いたような顔になりこちらを見ます。
「ああ、まあ、ショーウのような立場となると、友人として無料で扱うのは無理があるのは分かります。ちゃんとお礼を……」
友人付き合いとはいえ、無料で彼女の才能を使おうというのはダメですよね。
何かお礼を。
お金でしょうか? どうしたものでしょうか?
……安易に頼りすぎました、ショーウへのお礼となるモノが分かりませんね。
そんな感じで、ちょっと考えているとショーウが口を開き。
「あはは、確かに私たちの立場を考えるとお互い無料にというのはあれでしょうが、今回に限っては気にしなくてよいですよ。陸上戦艦のことを先に知れたので十分と言ってよいでしょう」
「それだけで良いのですか?」
「良いもなにも、既存の兵器を超えるモノを教えてもらったというのはかなり有利に働くものです」
「そういうものですか? 実際に手に入れられるわけではないのですが?」
陸上戦艦の情報だけです。
それでその価値があるのかと言われるとちょっと首をかしげます。
「ルルアはそこらへんはあまり得意ではありませんね。兵器の情報というのは、確かに手に入れられるものではありませんが、知るだけでもかなり価値のあることなのです。対策が出来ますからね」
「そういうものですか?」
「そういうものです。とはいえ、ユキ様たちと敵対することはないので、基本的には運用方法を考え、ウィードと同じように、編成を考えておくぐらいでしょうが。ユキ様ならおそらく私たちにも貸与してくれるでしょうから」
「貸す? ですか?」
「ええ。新大陸の状況をみるに、単体で相応の戦力があることが好ましいですからね。もちろん生産拠点を作ることも大事ですが、南部の荒野は話を聞く限り、切り取り放題。まあ、各国との折衝は必要でしょうが、その際に防衛にもなり拠点にもなる移動要塞があればかなり便利です。そういうのもユキ様は予測しているでしょう」
「なるほど」
確かに、他国に貸し出すことのメリットはあります。
そういう意味でもショーウは、陸上戦艦の情報が十分なお礼となるというわけですね。
先んじて用意ができるのですから。
「それで、悩みのことなのですが」
「何か解決方法がありますか?」
「まあ、この方法はルルアも思いついているかもしれませんが、見どころのあるモノたちに任せるというやつですね」
「ああ、なるほど」
その手の方法は前にも考えて実行しました。
グラス港町の方に病院を建てるときに使った手ですね。
「グラス港町で使った手段です」
「おや、やはりすでに思いついていましたか。それで結果は?」
「今のところは上手く行っています。とはいえ、そこまで大きな怪我がないということもあるのですが。グラス港町では冒険者の治療が一番多いそうです」
「それは、海にある街ですからね。近隣の魔物のレベルが高いからこそでしょう。と、それでこの方法を試す方が良いと思うのですが?」
「そうですね。それしかないですか」
「候補が少ないのですか? あるいは頼りないと?」
ショーウが心配そうに聞いてくる。
「いえ、私たちが過保護になっているだけだと思います。優秀な子たちは沢山います。いずれ多くの人々を病や怪我から救うのだと研鑽を積んでいます。病院の運営術についての指導もやっています」
「あはは、そこまでは普通しないのですが、そこまでしているのであれば、確かに過保護ですね。それに陸上戦艦の医療室ならば、運営はそこまで問題ないでしょう。物資の管理ぐらいで、金銭の授受はしないのでしょう?」
「確かにそうですね。有事の際の活動ですから、医療行為で金銭の受け渡しは基本ありません。あるとしても、それは上のモノたちがやるべきことですね」
ショーウの言う通りです。
別に本格的な病院を運営するわけではなく、軍能要請に応じて医者と看護師を配置して医療を行うわけで、町や村で病院を開くわけではありません。
「その通りです。その手合いの交渉はおそらくはユキ様たちが行うでしょう。と、そこで気になるのですが、軍の方での医療班はいないのですか?」
「もちろん、軍属の医者は存在します。ですが、今回はその手が回らないという話なのです。なにせ、拡大に次ぐ拡大ですからね。新大陸のオーエの北と南砦にも配置をしていますし、ウィードに残っている軍の医療チーム、グラスの医療チームと本当に分散しています」
「……そうでしたね。元来ウィードは有事の際にウィードから軍を派遣する形ですからね。すでに4カ所へ散っているとなると、負担も相当なものですね」
「そういうことです」
だから、軍属ではないウィード病院から人を派遣してほしいという話になったわけですが……。
「ちょっと待ってください。普通の医者が戦場での医療というか、そういう日常に耐えられるのですか?」
「そこも問題なんですよね~」
「……本気で難しい話ですね。一応候補の書類を見せていただいても? 私もウィードで勉強しているのですから、大体の医者とは顔見知りですし」
「わかりました。よろしくお願いします」
ということで、陸上戦艦に乗り込めそうな人材の発掘を始めるのでした。
世の中常に人手不足。
持っているカードで勝負していくしかないわけですね。
ルルアもショーウも今ある人材の中からどんな人たちを選ぶのか。




