第1947堀:荒野試験開始
荒野試験開始
Side:ヒイロ
「えーと……なんで?」
思わずヒイロはそんなことをつぶやく。
『なにって、試作の軍艦を動かすのだから、そりゃ軍艦乗りじゃないとダメでしょう?』
「いや、うん。それはヒイロでもわかるけど……」
お兄の要請で荒野に赴いたと思ったら、なぜか陸上戦艦が鎮座していて、それに乗って動かせって言われたら誰だってそうなるよ?
「無茶苦茶だと、ヒイロでも思うんだ」
『……それに関しては否定はできないわね。とはいえ、フィーリアたちならやるっていうのはわかってたでしょ?』
「う~ん。正直もっと時間がかかると思ってた」
流石に予想外が過ぎる。
お兄も沈痛な面持ちだったし、それだけびっくりな予想外だったってこと。
『私もよ。とはいえ、現物があるのだし、ほかの2隻と連携して、素早くデータ取りをして修正をしないといけないわ。話は聞いたでしょう? 北部のイオアの話』
「聞いてる。魔物が思った以上に攻め寄せているって。とはいえ不思議な戦力の逐次投入だけど」
戦力を小出しにして削られるっていうのを教えられたんだけどね~。
実際迎撃は成功しているみたいだし。
とはいえ、問題は敵の戦力がどれぐらいかって話なんだけど。
『そうよね。崩したいのであれば、今まで送り込んできた戦力を全て集めて寄せれば、私たちが確認できる数でも1000は超えているもの。私たち、というかヴィリアたちが到着以前もきていたようだし、それも考えると1万はいたのよね。それを纏めて投入した方がいいとは思うけれど』
「だよね~。と、まあ、そういう大軍が来たらまずいから、こうして陸上戦艦を作ったんだろうけど」
『ええ。正に陸の戦艦。動く砦。味方にいればこれ以上ないでしょう』
うん、ドレお姉の言う通り、この陸上戦艦が正式に運用されれば敵を蹴散らせる。
スペックを確認しただけでもわかる。
「……とはいえ、搭載兵装が未だ製作中なのが不安」
『それは……ね。まあ、ユキたちが抑えてくれると信じましょう。あと私たちも』
「ヒイロはお姉たちを抑えられない」
そこは断言しておく。
あのモノづくり狂いたちを止めることは出来ないよね~。
と、そんなことを考えていると。
『あの~、お話し中失礼します。私がなんで艦長兼操舵なんでしょうか?』
2番艦に詰めているヤユイお姉から連絡がくる。
うん、そう。
なぜか、いや適切なんだけど2番艦はなぜかヤユイお姉に任されているんだよね~。
『ヤユイが一番この手の乗り物は運転上手でしょ? だから限界性能で振りまわしてほしいってことでしょう』
『……本当にやるんですか?』
そう、ヤユイお姉は陸上戦艦を限界に近い全力でぶん回してもらう予定。
もちろん、サポートとか監視のために。
『もちろんです! ヤユイさんの実力ならきっと空も飛べますから!』
『いや、ナールジアさん。これ陸上戦艦ですよね?』
『魔力障壁を利用して、ホバーのような状態ですから、すでに飛んでいるとはいえますが、もっと高くとなるとエンジン出力が足りません。だからそこはヤユイさん次第ですね!』
うん、やっぱいナールお姉を止めることは出来ないね。
この全長200メートルの巨体で空を飛べとか。
着地で壊れるんじゃないかな?
『……とりあえず、試験項目はヤユイの方に送られているから、それをこなすことを優先して頂戴』
『はい。わかりました』
『あと、ナールジアさんは項目にないことは後にしてください。あと安全は第一位ですからね?』
『わかってますよ~。そこら辺も考慮しているに決まっているじゃないですか~』
ドレお姉の言葉に軽く返すナールお姉。
全然信用できない。
いや、本人としては安全面とか試験項目のことは嘘はついていないんだろうけど。
『そちらは賑やかそうね。ま、無理はしないでほしいわ』
「あ、エノラお姉。やっほ~。初めての艦長どう?」
3番艦に乗船しているエノラお姉から連絡が来た。
なんで、その手のエノラお姉が乗艦しているのかというと……。
『別に。といいたいけれど、動かすとなれば緊張するわね。壊せばどうなるか……』
『あはは、気にしなくていいよエノラ。むしろ、ぶつけてほしいぐらいだね。耐久試験にもなるし』
エノラお姉の心配をよそに、一緒に乗艦しているエージルお姉はナールお姉と一緒で楽しそうにそう言う。
実際楽しいんだろうけど。
『まあ、緊張するなって言うのは無理でしょうけど、エノラに関しては素人が操作できるのか。マニュアルが適切なのか。そして、素人艦長が務まるのかっていうのがあるからね。あまり優秀過ぎてもあれよ?』
そう、エノラお姉は素人操舵で動かせるのかっていうのがある。
あと、艦の指揮に関して。
後者はエノラお姉は幹部の一人だから、いざって時は指揮をとることになるから、そういう意味でも試験をするってこと。
『失敗を期待されると、完璧にこなしたくなるのよね』
うん、それはわかる。
失敗しろとか言われると、意地になって失敗しないってなるよね~。
ということで、今回はヒイロのベテラン?とヤユイお姉の天才、そしてエノラお姉の素人でデータ取りを行うわけ。
3人とも実力が違うから同じことをしても違うデータが取れそうだってことで。
とはいえ、こういうのは何百回、何千回も試験して、正確なデータを取るんだけど、その時間はなさそうだからね~。
「それならそれでよいのです。まあ、何回もやるので失敗しないわけがないと思うのですけど~」
そして、二人の艦長にデータ取りのサポートというか、開発者がいるなら当然この戦艦にもいる。
それは……。
『言うじゃないフィーリア。見てなさい』
「見ているのですよ~。大事なデータなのです。エノラ姉様が運転するのを楽しみしているのです」
そう、フィーリアお姉が私の戦艦に乗艦しているんだよね~。
ちなみにドレお姉は今回はグラス港町に待機中。
何があるかわからないからね~。
ということで、ヒイロたちもだけど入れ替わりで、陸上戦艦の運転教習をしつつデータ取りを行うってことになっているんだ~。
「というか、いきなり昨日の昼に分厚い取扱い説明書渡されて覚えろ、明日実戦とか無茶じゃない?」
「大丈夫なのです。そういういきなりで動かせるのか。というのも調査対象なのです」
駄目だ。
これは何を言っても無駄だ。
いや、すべてを糧にしてやるって顔だよね~。
「まあ、でもすでにヤユイお姉は造船所の試験場である程度動かしているので、基礎動作は問題ないのは確認してるのですよ」
「つまり、動かない場合はヒイロたちの問題だということか~」
「その通りなのです。ちなみに、フィーリアたちも運転はしたのです。ハヴィアもナイルア、ワズフィも動かせているのです」
「え? そこまで運転させてるの?」
「一応、開発メンバーなのですよ? だから一通りできるのです。意外にも、いえ、当然というべきかナイルアが一番うまかったです」
あ~、そういえばナイルアお姉は魔道具とかエンチャント系を作るのが得意だっけ?
なら、この手の乗り物も魔道具?に分類されるのかは知らないけど、得意でも不思議じゃない。
「さて、色々お話はしたですけど、さっさとヒイロが運転しないと何も終わらないのですよ?」
「わかってるよ。じゃ、一番艦の試験を開始しまーす」
ということで、ヒイロは真面目に仕事をすることにする。
とはいえ、この陸上戦艦の動かし方は基本的に、海の軍艦と変わらないんだよね。
違う点は、全部一人で操作が可能ってところ。
操舵と攻撃システムは分かれているというか、当然そうしないと、精度ががくんと落ちる。
ヤユイお姉ぐらいの化け物じゃないと、全システムを上手く使えない。
ああ、でもヤユイお姉並みの人なんていないから、普通にわけて操作するけどね。
今回は操舵のみ。
「エンジン始動。各員状況報告」
「エンジン問題なく稼働。正常値です」
「船底、装甲、内部ともに異常なしです」
うん、エンジンはもちろん、戦艦の各箇所に問題がないかを確認する人員がいて、今報告が行われる。
少しの不備も見逃さないようにしている。
初めて使う兵器だし、見逃したところからどんなトラブルが起こるか分かったもんじゃない。
さて、一段階目を超えたし。
「エンジン、稼働領域まで出力上昇」
「はっ、出力上昇! 稼働領域まで3、2、1、0! 問題なく上昇完了しました!」
「各員、移動衝撃備え。これより一番艦は移動を開始する」
ヒイロがそういうと、オペレーターから連絡が飛ぶ。
「各員、艦より通達。これより移動を開始! 各員移動衝撃備え!」
この移動衝撃というのは、車が発進する時は座っていなさいって感じ。
兵器整備とか、ほかのお仕事をしている中で、いきなり動いたら危険だからね~。
「各部署、備え完了しました」
よし、問題なくショック体制が取れたようだね。
「速力10、最大50まで加速する。発進」
ここで速度の報告を行い、これもオペレーターに伝えてもらう。
「速力10、最大50。発進、全員備え!」
そうオペレーターが復唱したのを確認して、アクセルのレバーを前に倒す。
車のように足元に置いていない、急発進、急加速はこの巨体だと正直むり。
それに、有事の際には誰にでも止められるようにしているってフィーリアお姉たちが言っていた。
確かに、足元だと、損壊とか、人が倒れてたりすると、邪魔だしね。
上にあるのは止めやすいと思う。
と、そんなことを考えている間に、徐々に陸上戦艦が動き出す。
「速度10到達。さらに加速中15……20……」
速度も乗ってきている。
陸上戦艦内は魔力障壁による下部クッションシステムのおかげで振動は無い。
馬車なんかとは比べ物にならない。
ああ、もちろんこの戦艦の中には宿泊施設っていうと違うけど、一応人が寝泊まりできる。
軍人さんが何日も過ごすからね。
有事の際には民間人の収容とかも行うし、そこら辺の場所も確保している。
「最大速度50に到達!」
おっと、気が付けば予定をこなしたみたい。
「速度50を30分維持。各計測を厳に」
「了解」
これで50での走行時のデータを取る。
ちなみにコースに関しては決めていない。
何せ荒野だしね。
コースを作っているわけがないし、荒野でのデータが欲しいから舗装された道は意味がない。
因みに、大岩とかは魔力障壁を利用したもので、勝手にコースを変えるようにしているらしい。
台地ほど大きいとぶつかるけど。
「ヒイロ。台地に突っ込んでみるのです」
「嫌だ」
流石に陸上戦艦でもぶっ壊れるって聞いている。
「大丈夫。乗員は生きているのです。大破状況を見たいのです」
「それ、無人でやって」
本当にヒイロたちを抜きでやって、そういう耐久試験は。
作る側はピーキーなデータを欲しがることが多いです。
まあ、無難な安全圏よりも、ギリギリのほうがデータとしてはありがたいんだけどね。




