第1948堀:調べ物をするには紙の方がいい
調べ物をするには紙の方がいい
Side:ミリー
「うへ~、これを見るわけ?」
そう部屋に入るなりそう言ったのは、グラス冒険者ギルドの長であるキナだ。
まあ、気持ちはわかるわ。
何せ書類の山だから。
「そうよ。まあ、電子データはあるけれど、それでも紙で見た方がいいでしょ?」
「まあね~。どうも見た気がしないんだよね」
一応、キナもパソコンは使えるが、書類とかは紙がいいみたいだし。
それにグラス港町のギルドはパソコンはメインに使わないからね。
紙仕事だから、そういう意味でも慣れないのでしょうね。
と、そんなことを考えている間にキナは文句を言いつつも用意された席に座る。
その姿は様になっている。
「もう、その席が当たり前になっているわよね」
「そりゃね。ウィードのトラブルにも関わっているし、冒険者ギルド所属なのに、ほぼウィード側の人員に近いでしょ? というか、信頼とかそういうのがあるからミリーもここで一緒に仕事をしているんでしょ?」
「そりゃね。ウィードが出来た時から一緒に頑張っているんだし。いえ、付き合いはその前からだったけどね」
「あの時はどっちとも平の受付だったけどね~」
私とキナは冒険者ギルドというか、冒険者時代からの付き合いだ。
尤も同じパーティーってわけではなかったけど、ギルドで顔を合わせては情報交換などをしていた。
お互い斥候で、そういう情報がパーティーの生存に繋がるっていうのは知っていたしね。
とはいえ、お互い不幸ってわけじゃないけど、パーティーが解散して、ほかを探すよりも冒険者ギルドに就職しようってことになったのよね。
「まあ、町が攻め滅ぼされるとは思わなかったけど」
「あの時は終わったと思ったよね~。流石に国と国の戦争に冒険者ギルドは不介入だし」
「よほど大物じゃないとね。とはいえ、ウィードに来れたんだから、良しとしておきましょう」
それは間違いでない。
弟は戦って命を落としたけど、お父さん、お母さん、妹は無事だった。
そして、何よりユキさんに出会って娘も出来た。友人も沢山出来た。
これは幸福だ。
「そうだね~。今更ウィード以外で過ごせって言われると困るよ。グラス港町に行けって時はびっくりしたし。まあ、環境は整えてくれるって言ったし、実際そうだったし」
「流石にウィードの、ユキさんの直轄統治領よ? ウィードと同じよ同じ。流石に領主として居座るのは無理だから代官のシスアとソーナを置いているけどね」
「普通は一段二段生活環境は下がるんだよ。新開拓の土地だし。開拓って普通はそんなもんだよ?」
「まあね~」
キナの言うことは間違っていない。
普通開拓する場所なんてのは発展途上。
徐々に便利になっては来るだろうけど、年単位の話であって、最初なんて家を建て終えるまで野宿だし。
とはいえ、ウィード、ユキさんが関わっているなら別。
ダンジョンマスターの力があれば、完全な状態の家屋をすぐに用意できる。
もちろん、残りの建設も、寸法を決めたモノをドワーフを中心とした建設会社が請け負うので、建設速度は魔術もあり、かなり早い。
なので、発展速度というか、グラス港町の入れ物は既に出来上がっているわけ。
もちろん、シスアやソーナを中心により良い町にしていくために、新しい建物や開拓とかはやっているけどね。
キナが心配しているような不便なことは無いわけ。
「で、雑談はいいとして、何か見つかった?」
「いやいや、今雑談しているわけだよ? 来たばかりだよ? すぐに何かわかるわけないじゃん。しかも色々ジャンルもバラバラだし」
「別に今日だけって話じゃないわよ。トータルで」
「そっちでもないよ。他所の大陸の歴史調査とか、専門じゃないし」
そう、私たちは、現在新大陸のギアダナ王国王都冒険者ギルドが抱えている蔵書を調べている最中なわけ。
ああ、ちなみに本を持ち出したわけじゃない。
サナルギルド長に書庫を見学させてもらったときに、版面を画像データで撮ってきたわけ。
向こうには一応エナが詰めているし、問題は無い。
随時新しいというか、見つけたモノは片っ端から送ってもらっている。
「というかさ、本だけじゃなくてなんで書類まで送ってもらっているわけ? 意味ある?」
「歴史調査には意味はないわね。とはいえ、クリアストリーム教会の動きを知るためにはこういう書類は大事でしょう?」
「あ~、そっちか。私も新大陸の中央部に行けば迫害されるのかな~?」
「ギアダナにいればその可能性は低いと思うわ。今、クリアストリーム教会の動きはかなり制限されているし。とはいえ、ほかの国に行けば保証はないけど」
「うわ~、物騒だね。他所の国に行けばとか。まあ、イフ大陸も変わらないかな?」
「そうね、ホワイトフォレストの近辺以外は、イフ大陸も差別は激しいからね。とはいえ、ウィードを中心としたロガリやハイデン、ズラブル地方の付き合いがあるから、そこらへんは徐々に改善しているって話だけど」
そう、別に新大陸の亜人差別に関しては、珍しい物でもない。
「そりゃ、ほかの大陸は基本殆どが友好に接しているし、重鎮の亜人も多いからね。下手をすれば交渉に支障をきたすどころか、戦争案件だよね~」
「そうよ。下手をすればロガリ、ハイデン、ズラブルが敵に回る。イフ大陸としてはそれは避けたいでしょう」
だからこそ、イフ大陸は全力で亜人の対応に関しての教育を進めているわけだ。
何せ、ほかの大国の重鎮の亜人相手に下手な態度を取れば戦争になるのだから。
まあ、上手く行っているのかは……よくわからないけど。
今のところ、種族差別とかでイフ大陸の国々が話題に上がることは無いから、ちゃんとしているのでしょうけど。
そして戦争になるにあたり一番の問題なのが……。
「何より、ウィードが敵に回るしね~」
「それは言わないお約束よ。あくまでもウィードはロガリの一員であり、外交窓口があるってだけだから」
そう、キナの言う通り。
間違いないくウィードが出ていくことになる。
ウィードはユキさんのおかげで各大陸の大国の調停者のような立場になっているのよね。
もちろん、ゲートなどを握っていることもあるけど。
何より、戦争なんて無駄に資源や人命を費やすことは、ユキさんが嫌いだ。
「どこの大国もそうは思っていないけどね~。ああ、小国は実態を把握していないところはウィードに文句を言っているみたいだけど」
「それはあるわね。小国が大国に気に入られたからって。っていう文句は所々聞くわね。とはいえ、ウィードはもともとロシュールのセラリア、エルジュが起こした国だし、そこらへんで文句を言うと、当たり前のことに何を言っているんだって話になるけれど」
「だね」
まあ、この立場にあるウィードに対して文句を言う小国はそれなりにいる。
もちろん、全体図を把握できていないバカなところだから評価を下げられて、所属している大国に怒られるわけだけど。
「しかし、亜人差別か……。いや、ロガリでもあるところにはあるけどさ。ここまで露骨になるってことは余程なんだろうね」
「そうね。キナの言う通りだと思うわ。でも、実態が全く分からないのよね。イフ大陸の聖剣事件なんかがあったわけではなく、ただ単に魔王に連なるモノって言われているだけだし。しかも中央部だけ」
「不思議だよね。亜人を差別というか、排斥するならもっとやりようがあるでしょ?」
「例えば?」
「魔王なんているのかいないのかわからないものよりも、なんかわかりやすい泥棒とか犯罪でもでっち上げて、亜人を悪者にすればいいんじゃない?」
「ああ、なんかそういう話はユキさんたちもしていたわね。もっと人をだますにしても何かあるんじゃないかって」
「でしょ? まあ、私たちのロガリみたいに実際魔王がいて脅威があったっていうならまだわかるけど、それでも協力しているとかしてないとかあるでしょ?」
確かに、亜人すべてが魔王の手先なんていうのは、説得力がなさすぎるのよね。
でも、問題は……。
「キナの言いたいことはわかるのだけれど、中央部ではそれで納得しているのよ。まあ、民衆は上が言うことには右に倣えと言えばその通りなんだけど」
「とれる税金とか戦力を放棄してまでってことだよね?」
「ええ。余程中央部で亜人排斥を叫ぶ連中は、恨みというかそういうのがあるようね」
「それを隠すのは理解できないんだよね~。歴史の彼方のことならなおのことでしょ?」
「まあね」
そんな大昔のことを引きずるほど、国の貴族っていうは、いいや多くの貴族は余裕が無い。
何せ、今を生きるので精一杯だから。
それに……。
「そんなこと言い出したら、まず魔王云々よりも近隣の国を殲滅しないといけないでしょ? 昔の恨みっていうのは人同士の戦いの方が多いんだし」
キナの指摘通り、大昔に魔王に協力した亜人を恨むというのであれば、今も領土争いして血を流している隣国を滅ぼす方が先というわけ。
まあ、そういうところもあって、貴族たちは余裕が無いって話ね。
で、そんなことを話していると、不意に部屋のドアが開き。
「そのお話は私も興味があります。ご一緒に調べてもよろしいでしょうか?」
「そうね。私もお邪魔するわよ」
そういって、入ってきたのはなんとシェーラとラビリス。
いや、二人ともウィードで勤務しているけど、冒険者ギルドに来るっていうのは珍しいわね。
「どうしたの? 何かあった?」
二人ともウィードでは重鎮。
ラビリスはユキさんのダミーとしてのダンジョンマスター。
シェーラはガルツの姫として、ロガリはもちろん、ほかの大陸との外交をまとめるトップでもあるので、かなり多忙なのよね。
それなのに、こちらにくるというのは何かあったのかと思ったわけだけど……。
「そのままですよ。特に緊急のことはありません。むしろようやく仕事が落ち着いたという感じですね」
「そうそう。だから、私たちも新大陸の件を手伝いたいと思ったんだけど、新大陸側に行くわけもないし、ならこっちで新大陸に関わっている仕事となると……」
「なるほど。今やっている調べ物ね」
「え? 陸上戦艦の開発とかは?」
「「「あっちに行ってもね」」」
キナの言葉に全員で速攻で否定する。
まあ、手伝えないわけはないと思うけれど、どう考えてもひどい目にあうっていうのが全員の共通意見だったのは言うまでもない。
というか、キナも理解しているでしょうに。
新大陸の調べ物はあまり順調ではありません。
ミリーが持って帰っているほかにも、ウィードの部隊が調べていますが、ピンと来ていないようです。
そして、シェーラとラビリスが合流。
何かわかるといいのですが。




