第1933堀:歴史をたどる中でのヒント
歴史をたどる中でのヒント
Side:エノラ
「ふむ。中央の亜人の歴史か。今更というと今更ではあるが……」
「北部のことなどを考えると、不思議ですな」
そんなことを言うのはギアダナ王国の王様と宰相。
今日は私はギアダナ王国の王宮へとお邪魔している。
理由は、ギアダナ王国内で色々やっているクリアストリーム教会を潰した報告とか、その関係の処理の為。
まあ、ユキに頼まれて、新大陸の時系列で出てきた疑問を解消するために、こうして話し合いの席を設けているわけだけど。
もちろん、ギアダナ王たちと直接やり取りをしているエナもいる。
『でしょう? 南部では追いやられたという話は1000年も前からという記録があり、かたや北部では今では共闘中。というか、少なくとも50年前からは確実に』
「だな。しかもそれは短くてという話でだ。北の国が存在しているときからとなるともっと前となる」
「少なくとも、北の国を確認しているのは300年前からですからな。その時から亜人とは共闘していたというのは間違いありませんな」
ユキの言葉に王や宰相がそう返す。
確かに、50年前にクリアストリーム教会の元が出来たから、その時から亜人との共闘はあったのだろう。
でも、そこから始まったというわけでないでしょうし、北の国が出来ていた時からと思うのが当然よね。
『エナ。中央部は亜人に対してはどういう扱いなわけだ?』
そこでユキはエナへと質問を投げる。
エナはギアダナ王たちとの交渉役としてギアダナ王国王都に留まりつつ、方々への調査を行っているから。
つまり、客観的な視点が欲しいのでしょうね。
「ギアダナ王国内部に関しては亜人は普通の隣人という感じですね。ですが、ほかの国は亜人を自分たちを脅かす存在だと思っているところもあるようです。半々といったところですね。そこにクリアストリーム教会が入り込んで亜人を集め始めているという感じです」
『そうか。ギアダナ王、そっちの認識も同じような感じでしたよね?』
「ああ、普通に住民として扱っているところもあれば、長命な種族がいる亜人を恐れて迫害や追放するところもある」
「まあ、亜人たちには人にはない力があることが多いですからな」
二人の言うように、亜人である私たちは人に比べて、勝っているところがある。
私で言えば狼のように足が速く、筋力などが高いし、大体の亜人は耳が良い。
エルフは特に魔術に長けて長命というのが上げられる。
とはいえ、無事で健康でいられればという所に尽きるんだけど。
この新大陸では魔物はもちろん、食べることにすら苦労するだろうし、平穏に暮らせる場所はそう多くないでしょう。
『ありがとうございます。というと、北部は亜人と共存、中央は迫害しているところがあり、それで南部に逃げ出して国を作ったという感じですか?』
「む。それを聞かれるとよくわからんな。オーエの話では1000年前に中央から逃げてきたという話だったか?」
『ええ。そこで別れたと言いたいですが、オーエ以外にも南部には国がありますからね』
「そうだ。そこがよくわからん。オーエだけならまだわかる。亜人が逃げ出して国を作った。そこに中央部から来た連中が攻めかけた。そういうなら単純だが……」
「南にはほかの国も存在します。そこでオーエだけに攻めかかったのか、それともほかの国ともやり合ったのか。そういう疑問が生まれますな」
そうなのよねぇ。
中央の連中が追いかけてきたのはわかるけど、ほかの国も同じように亜人が逃げ込んでいても何も不思議じゃない。
なのに、なぜかオーエを追ってきたというのが疑問だ。
『あ~、なるほど。見えてきた』
ユキは何か思い当たることがあったのか、そんなことを言い出す。
私もエナと顔を見合わせ、ギアダナ王も宰相と顔を見合わせている。
「ユキ、何が見えてきたのかしら?」
『いや、細かいところはさっぱりだが、亜人を追い出しておいて、追跡して攻めるとなると、相応の理由があったんだろうさ。ほかの南部の国を無視するほどの』
「ああ、そういうことか。つまりだ、オーエを作った人々を追うに値する理由があったわけか」
「なるほど。それならオーエを狙い撃つ理由は分かりますし、それが余程な物であり、今日の中央の亜人排斥に繋がっているというと、大げさではありますが、可能性はゼロではありますまい。とはいえ、それが何かはさっぱりわかって……」
そこで今度は宰相が口を閉じます。
何か気が付いたようね。
「おい。何か思いついたのか?」
「まあ、ユキ様と同じで細かいこと、絶対というのはありえませんが、その理由を中央の亜人排斥を行っているクリアストリーム教会が知っているのでは?」
『「「……」」』
あり得る。
それなら、偏執的に亜人を追い詰めようと、そして……。
「つまり、亜人の血を使って魔石を集めているというのも何か関係がありそうね」
「ああ、エノラ殿の言う通り、無関係というにはつながりすぎるな。そういえば魔石の流れだが……」
『あ、輸送先はつかめましたか?』
「実にわかりやすかったですよ。一応ギアダナ王国内の最大のクリアストリーム教会はこの王都でしてな。物資の管理や輸送は中央の大聖堂から、各国にある最大の教会に運び込まれるのです。つまり……」
『物資が集まるのは大聖堂ってことですね』
「そういうことです」
分かりやすすぎるわね。
とはいえ、当然ともいえるわ。
なにせ……。
「まあ、あんなことをやっているんだ。下手に輸送経路を複数用意していれば、ことが露見しかねん。流石にまずいと理解しているからこそ、絞っているのだろうな」
ギアダナ王の言う通り、流石に亜人を拷問して血を魔石に魔力を集めているとか、普通に考えても頭おかしい所業だもの。
そこらへんは相手も理解しているということでしょうね。
つまりは……。
「後ろ暗いことをしている自覚はあるってことよね。となると、その目的も……」
『だな。ろくなことじゃないっていうのはわかる。なら、やることは決まったな』
「かしこまりました。大聖堂への潜入調査ですね」
『ああ、とはいえ。ギアダナ王国としてはどうなっていますか? 国内のクリアストリーム教会を押さえているわけですし?』
ユキが気にしているのは、ギアダナ王国の立場よね。
今、露骨にギアダナ王国はクリアストリーム教会に喧嘩を売っている状態。
まあ、やっていることを考えると当然なんだけど、それでもクリアストリーム教会は各国の支持を得ている状態。
確かに、やっていることは悪いんだけど、各国が素直にこちらの言い分を聞くかっていうのが疑問なのよね。
あと、さっき話したオーエが何かを知っていて、クリアストリーム教会に協力している可能性もある。
そうなると、真剣に厄介であり、オーエの何かがそれをそうさせていると思うのは、間違いないでしょう。
何せ、ここまでの騒動になっているということは、中央の国々を脅かす何かをオーエが持っているということになるから。
「うむ。今のところ抗議をするだけで済んでいる。この前もいったが文句を言いに来た中央の教会の連中に対して、ドドーナ大司教がでてペトラ清司教を出せと言ったからな」
「流石に、クリアストリーム教会を名乗っている以上、ペトラ清司教と友誼があるドドーナ大司教の言葉を無視するわけにはいかないようで、ちょっとまてと言ってそれっきりですな。おそらく、色々手だてを考えていると思うべきですが」
当然ね。
待ったをかけたからには、何かしら準備をしているのでしょう。
とはいえ……。
『それを普通に待つ理由もないですね』
ユキはいやらしい顔をしてそう言う。
そして、ギアダナ王も同じように笑顔になっている。
「ああ、こちらから清司教を呼び出せばいいだけだ。それで正当性は崩せる。ちょうど、ユキ殿たちの手の者が動いているからな」
「おお、それは奇遇ですな。偶然がかさなったようです」
宰相もわざとらしくそんな偶然がと言う。
そういってお互いに笑い出す。
酷い茶番もあったものよね。
でも、実際に偶然も重なっている。
『まあ、元々イオア王国という北部に国でクリアストリーム教会や冒険者ギルドの立ち位置を確認するために赴いていたのですから、何も間違っていないでしょう』
そう、ニーナやヴィリアたちが北の王国に向かっているのよね。
建前も完璧だし、目的もある意味逸れていないというか、本命でもある。
「だな。とはいえ、いささか時間がかかるな。間に合うか?」
「そこは対応次第でしょう。ドドーナ大司教に話を通して、ペトラ清司教と接触を試みていると伝えれば、相手方の動きに対して、けん制をしてくれるのでは? あるいは、話し合いに応じるといって時間を作るのも悪くありません。お互い勢力が大きく簡単に動かせるものではございませんし、話し合いの席を設けるだけのことでも相応に時間がかかるでしょう」
ああ、常套手段というか、当然の対応ね。
偉い人と偉い人が顔を合わせるのは本当に大変なのよ。
「ぶははは! 私とユキ殿はこうも簡単に会えてこうした話はもちろん、雑談もしているというのにな!」
思わず、ギアダナ王はそう笑いだす。
ほんとね。
通信魔術というのは、こちらにも水鏡や鏡を使ったモノがあるのだけれど、それでも頻繁に簡単にできることではないのよね。
魔力的に。
だから、こうしてモニターを通じてだらだらと話せる技術はありえないのだ。
というか、小型化して執務室にとか私室に持ち込んでするとか便利が良すぎるのよね。
「向こうはどうやって各地の有力者やほかの何も知らない教会の者たちにどう伝えるか、手紙を何度も書き直していることでしょうな」
最初のその言葉に、一度沈黙した後さらに大笑いする男たち。
はぁ、いえ楽しいと言えば間違いなく楽しいのだけれど。
「ユキ、ギアダナ王、宰相殿、痛快なのわかるけれど……」
『ああ、ごめんごめん。ということで、こちらは北部の調査でペトラ清司教との接触を図ります。エナはギアダナ王と連携して情報を集めてくれ』
「はい。かしこまりました」
「私は、教会連中から亜人の回収ね?」
『まあ、亜人がいたらな。今は落ち着いているんだし、南部での医療行為を頼む。ギアダナ王たちも避難した人たちのことは気になるだろうし』
「ああ、エノラ殿が必要な時になればエナ殿を通じて連絡させてもらう。だからわが国民をよろしく頼む」
「はい。ご苦労をおかけして大変申し訳ない」
三人は素直に今からの行動のまとめに入る。
この切り替え速度は見事なものだけれど……。
「わかりました。でも、その手のお酒を手放してから行ってくださいね? 医者としても飲酒はちょっとしか認められませんよ? それに一番の問題はいまだに仕事中ということです」
そう、ユキはお酒はほとんど飲まないのだが、この二人飲酒しながら仕事の話をしているのだ。
とはいえ、まあなくはないのよね。
ちょっと飲酒をして気分を良くして仕事をするっていうのは。
ウィードのように法律で止められているわけでもないし、でも、一応向こうでもお酒を飲みながらの仕事は顔をしかめられることが多いのよね。
「いや~、貰い物を飲まないのは失礼だしな。なぁ?」
「ええ、ええ。こんなに美味しいワインを飲んで感想を述べないとは失礼極まりない」
『いや、気に入っていただけて何より。またエナにほかのワインを持たせましょう』
「「おおっ」」
駄目だ。
この蟒蛇たち。
いえ、ユキも狙っている感じはあるけれど、医者たる私にはため息しかでないわ。
別に原因が確定したわけではないのですが、怪しいと思われるのを見つけたという感じです。
1000年前に何があったのか?
中央部のクリアストリーム教会は何を知っているのか?
北部はどう関係しているのか?




