第1932堀:始まりはどうだったのか?
始まりはどうだったのか?
Side:ユキ
特に何か新しい発見を求めてキルエたちに資料や報告書を渡したわけではないが、ここ最近色々忙しかったこともあって、キルエたちの指摘は鋭いと思うほどには、新しい発見だった。
本人たちは詳しくは俺たちで調べてくれと言って手柄はいらないようだったけど、俺としては十分手柄ともいえることだ。
まあ、この新大陸問題が落ち着いたら、何か褒賞を上げないとな。
いや~、褒賞とかとんでもないとか言いそうだから、ボーナスぐらいにねじ込むとして、今は……。
「あ~、確かにスエナ王女に召喚魔法陣のことを聞いていたわね。あとお付きの宮廷魔術師の人とか」
キルエたちからの進言というか、時系列の話を聞いて、新大陸のことを一から調べてみようと思ったわけだ。
そして、その一番深い、古い部分を知っているのはオーエ王国。
その交渉を任せてきた外交官であるカグラに話を聞こうと思ったわけだ。
「詳しく話を聞いていなかったからな。カグラもあの後色々あったからな」
「ええ、いきなりというわけでもないけど、ジェヤエス王国への使者として送られたし、そのあとも姫様たちへの報告とか、カタログの配布とか……。南部の国の使者との打ち合わせとか……」
うん、カグラにはオーエとの交渉役を任せていたが、思ったより多忙だったか。
「そして、ミヤビさん、長老、任せきりで済まない」
俺はそういって二人に頭を下げる。
そう、今回オーエとの交渉については、エリスの村の長老はもちろん、ハイエルフの国の女王であるミヤビにアドバイザーなどを任せていたのだ。
そこら辺ほったらかしとまでは言わないが、それに近い状態だったからな。
そして、この二人もオーエとは相応に親交を深めており、話を聞くのであれば外せないだろうと思ったわけだ。
「気にするな。ユキとの仲じゃ。それにまったく無駄というわけでもないからのう?」
「そうですね。オーエという国で、エルフが主体で国を保っているというのはなかなか興味深い物でした」
「うむ。あの規模の国をまとめ上げるというのはなかなかできることではないからのう」
確かに、ハイエルフの国をまとめるミヤビ女王としては、国土が大きい国に関しては、学ぶべきところはあるかもな。
とはいえ……。
「まあ、その前に土地がないがな。あと国民も。亜人が逃げているわけでもないし、獣人の国とかほかの国にもまとまっている。いや、平和なのは良いが、拡大のしようがないのう」
そういって笑うミヤビさん。
国土拡大とかは根っから考えていないなアレは。
元々、エルフからも追われて独立した経緯があるし、誰彼構わず迎え入れるというわけではないからな。
俺たちが友誼を持てたのは、ミヤビの旦那さんのおかげだ。
同じ日本人であったから。
それが唯一であり、そして強固なつながりだ。
まあ、アホな日本人がミヤビさんと会えば、それは拒否されるだろうけどな。
旦那さんの趣味嗜好が俺たちと似通っていたと。
と、そこはいいとして、今はオーエの召喚とそれに伴う背景、時系列を知ることだ。
今回の騒動、色々絡み合っているが、どこかに始まりがあるはず。
その一番候補が「魔王」という言葉。
この新大陸にも、魔物を率いて人に被害をもたらすものとして、人たちから認識されているのだ。
とはいえ、その正体はどこを聞いてもよくわからない。
ロガリやイフ大陸のようにはっきりした文献があるわけでもなく、口伝ばかりなのだ。
いや、どこかに探せばあるのかもしれないが、それを集める時間はまだとれていないというのが状況だ。
というか、その魔王が何だったかぐらい、口伝で伝わっていても何もおかしくないのだが、オーエの人たちはもちろん、オーエ王、そしてギアダナ王たちも知らないっていうのはおかしいだろう。
心当たりもないと来たもんだ。
「ミヤビ様、国のお話は良いですが、今はユキ様のご質問にお答えするべきでは?」
ちょっと脱線し始めたミヤビさんにそう長老が窘める。
「おっと、そうじゃったな。とはいえ、まずはカグラ殿の召喚の調査についてを聞くべきじゃな」
うん、ミヤビさんの言う通り。
まずは、カグラの話を聞くべきだろう。
「わかったわ。と言ってもさっき言った通り、私はスエナ王女や宮廷の魔術師から召喚陣についての話を聞いて、召喚陣の解析をしたぐらいよ? 一応報告書にも上げてはいるけど、改めて言うって感じでいいのかしら?」
「ああ、頼む」
俺がそういうと、カグラは一呼吸おいて、話を始める。
「まず、召喚の陣についてだけど、どうやら、歴史からするとおよそ1000年ほど前から存在しているようね」
「オーエ王もなんかそれらしいことは言っていたな。というか、オーエ王も魔王の存在に関してはよくわかっていなかったし」
「そうね。スエナ王女も魔王云々よりも、連合軍を突破、撃退できる強力な個人を呼び出したかったっていうのが大きかったようだし」
「そりゃそうじゃな。魔王を倒したところで、止まるのは魔物だけ。いや、魔物が止まるとも限らぬ。そもそもその魔王の所在も姿もわかっておらぬなら、目の前のわかりやすい連合を蹴散らす方がよほど合理的じゃ」
うん、ミヤビさんの言う通りだ。
姿の見えない、というか存在するかもわからない魔王を討伐するのに戦力を割くよりも、よほど明確に攻撃を仕掛けてくる目前の連合軍を倒す方が優先されるのは当然。
まあ、他所から呼び寄せた人を使おうというのがなければというのが付くが。
と、そこはいいとして、召喚陣の歴史だ。
「1000年前か。確か勇者って単語はなかったよな?」
「ええ。呼ばれた者たちは英雄と呼ばれていたわ。まあ、向こうは使い捨てとまではいわずとも、特別な個ではあってもオンリーワンではないから。英雄はいくらいても良いモノでしょう? 勇者は世界というとあれだけど、大陸に一人いればよいのだし」
「その認識がないってことは、日本人とかが呼び出された可能性は低いわけだな」
「それはそうじゃろうな。勇者という言葉が特別な意味を持つのは日本人のみじゃ。つまり、あの新大陸には日本人あるいは地球の人物は呼び出されていないというわけじゃ」
「それは幸運というべきなのですかね?」
長老は地球人、そして日本人が呼ばれていないことをどう判断してよいのか難しいという感じだ。
俺たちにとっては確かに幸運だ。
何せ、地球で行方不明になる人が減ったのだ。
つまり、親類が涙を流すことがないということ。
だが、その代わりに……。
「……ユキを召喚したことがある私が言うのはあれだけれど、結局召喚をしたのだから、誰かを泣かせたのは間違いないわ。そこに良い悪いは無いと思う。等しく罪よ」
「そうじゃな。まあ、幸いわらわの夫は、わらわがいたから満足したとはっきり言っておったしな」
ミヤビさんの旦那さんは勇者としての余生は逃亡とかはあったものの、ミヤビさんと国を作って穏やかに過ごせたのは幸いというべきだろう。
恨みや後悔に満ちていればこうはならなかっただろうしな。
とはいえ、今はそこが主題ではない。
「カグラ、気にするなっていうのは無理かもしれないが、今はそこが問題じゃないぞ」
「……そうね。当のユキがそういうならそうしましょう。というか、今だからこそわかるけど、あの呼び出された時は面倒事が一つ増えたぐらいに思ってたでしょう?」
「そりゃな」
異世界に呼び出されて、また別の場所に出張させられただけぐらいだ。
もちろん、帰れるかという心配はあったが、それもすぐに解消されたからな。
「はぁ、いえ私がしたとことは間違いなく悪だわ。で、召喚陣の話だけど、調べた結果、寒村の一帯に焦点を合わせたモノだったのが分かったわ」
「ふむ。つまり1000年前もそこから召喚したということかのう?」
「はい。どうやら文献を調べた結果、1000年前に召喚した人物がそこに住んでいたようで、詳しく聞いて、さらに召喚陣の精度を上げたようね。旧召喚術式、陣の記録もあったわ。それを調べてわかったの」
その報告は聞いている。
ピンポイントにあの寒村付近を狙い撃つように座標が指定されていて、以前にその場所から優れた英雄を呼び出せたということで、そこを狙うために改良したと。
まあ、間違ってはいないが、寒村の人たちにとっては迷惑でしかなかったよな。
「なんとも、効率的というべきかもっと他にやることがあったじゃろうというべきか……」
「ほかのことも模索していたと思いたいですね」
本当にな。
召喚だけを頼りにしていたとは思いたくはない。
だが、これは知っていた内容だ。
ここから踏み込む。
「それで、その1000年前は何があって英雄を呼び出したんだ?」
大事なのは、その1000年前に召喚を行うようなことが起きたというわけだ。
魔王とは結び付かないが、それでも英雄を呼んだという事実は残っている。
何かが起こったからこそ呼び出したと思いたいのだが……。
「それに関しては、オーエ王国がまだ小さい頃に同じようなことが起こったらしいのよ」
「同じというと、人と魔物の挟み撃ち?」
「挟み撃ちとは違うようだけれど、この地に移住してきたオーエの祖先たちは魔物の対処はもちろん、迫害している人たちを追い払うために英雄を召喚したらしいわ」
「迫害している人を追い払う?」
迫害した連中が追いかけてきたのか?
俺に疑問が分かったのか、カグラは憮然とした表情になり口を開く。
「簡単よ。売るとお金になるのよ」
「ああ、そっちか」
「はっ、不愉快な事じゃな」
「ええ」
ミヤビさんや長老もこれには素直に同意見のようだ。
迫害しつつも、金にするっていうのは矛盾しているというか、有効活用というか、人らしいと言えばそうだな。
「それで、召喚した人物なんだけど、どうやらエルフだったらしいのよ」
「なるほど。それでホーリーやヴィリア、村の人たちを召喚してがっくりしたわけだ」
「うむ。どうやらオーエをエルフが治めているのはそこが関係しているらしくてな」
「はい。どうやら、その召喚をしたのもエルフだったようで、そこから英雄となり、関係を結び血縁もあるとのこと」
あ~、そういうことか。
エルフが召喚したエルフがオーエの人たちを救って今になったと。
「なるほどな。そこがオーエの始まりって感じか。でも、迫害は南だけで起こったのか? 北部では仲良くしているようだが?」
そう、今聞いてなお不思議に思う。
南と北では扱いが違うのだ。
それは昔からということか?
「北部の話をオーエ王たちに聞いたことは無いわね」
「うむ。北部のことすら知らないようじゃしな。とはいえ、こうして情報が集まってくると不可解でしかないな」
「南と北で亜人への扱いがこうまで違うとは。何かしら中央では色々あったのではないかと考えてしまいますね」
「そうだな。よし、今度はそこら辺を調べてみる。みんなありがとう」
こうして、新大陸の時系列を追うというのは、思ったよりも当を得ているような気がしているのであった。
攫溜めて振り返るとおかしい北と南の亜人の扱いの差。
元から、1000年前から南では迫害され、北部ではどうだったのか?
改めて振り返ると怪しいところが浮いてきますね。




