第1931堀:見落としているところはないのか
見落としているところはないのか
Side:キルエ
「これ、私から見ても、どう考えても組織として成り立っていますってわかりますよ~」
そういうのは、私と同じメイドをしているサーサリの言葉です。
私たちは、今旅館の管理をしつつ、先日新大陸で起こった戦闘の結果と、その理由についての報告書を読んでいました。
「……そうですね。敵の集団攻勢や配置を考えると露骨に組織として動いていますね。それは同意です。とはいえ、狙いが見えませんね」
「まあ、そこはそうですね~。たとえ町を破壊できたとして、ある程度戦力を削っても、言い方は悪いかもしれませんが、たかが町一つですからね。敵の規模にしても、王都にまで行って落とせるかっていうと微妙ですし」
「そうですね。とはいえ、この国の状況がわかりませんから、この町を落とすことで交通網を麻痺させるなどがあれば、ありえなくはないですが……」
「それなら、常駐戦力が少ないってことは無いでしょう。なにせ、そこが崩壊すれば、どこの戦線も落ちるっていうなら、そこの守りは固くするのが当然でしょうし~」
サーサリの言う通り、そんな国の心臓となりえる交通網の要所が簡単に落ちるようなことはあってはいけません。
なので、ありえないと否定したいのですが……。
「今のところは、判断する情報がありません」
「まあ、それもそうですね~。とはいえ、北部も中央部も色々ありますね~」
「それは仕方がありません。新大陸の土地は思いのほか広いのです。というかサーサリも知っているでしょう。あの新大陸は下手をすると私たちの大陸よりも大きい」
「知っていますよ~。とはいえ、その半分以上は未開の地みたいですけど~」
「それは私たちの大陸も同じです。半分も開拓できていれば良いところです。と、そこは良いとして、旦那様はこのデータを私たちに開示したいとはなんでしょう?」
そう、この情報をなぜかウィードで内勤をしている私たちに開示したのです。
まあ、一応旦那様を支える重臣ではあるので、開示されても不思議ではないのですが……。
「ですねぇ。私たちに意見を求めるって言ってましたけど、それならエージル様たちとか専門家が山ほどいますしね~」
サーサリの言う通り、私たちに意見を求めるよりも、もっと頼れる方々がいます。
それにもかかわらず、このデータを渡してきたということは……。
「つまり、そういう視点以外のモノが欲しいということなのですが……」
「私たち独自の視点っていうと、メイドとしてですか~? ヴィリア様たちの冒険者たちと変わりはないと思いますけどね~。あとは、ただの一般人としての視点ですけど~」
「ですね。とはいえ、その場に住んでいない限り、そういう、旦那様が望む情報が出てくるとは思わないのですが、それがわかっていないわけがないのですよね」
「ですよね~。旦那様がそんなことをわかっていないわけないですし~。とりあえず、何かあればってことで渡したってところですかね?」
「その可能性もゼロではありませんね。そして、それだけ難解な状態だというべきでしょう」
そういって、改めて開示された情報をモニターで見るのをやめて、紙の報告書を取り出します。
「どうしました? モニターで見た方が……」
「いえ、ちょっと視覚的にすべてをおさめてみたいのです。モニターだと自分が選んでいるモノだけですからね」
「ああ、なるほど。わかります。便利なんですけど、便利すぎるんですよね~。多くの雑多な情報があるなかからっていうのもありますし」
「そうですね」
サーサリの言う通り、パソコンでのデータ管理はとても楽です。
ですが、それは情報を絞りすぎていると感じる時があります。
紙だと情報を一つ調べるにも本が保管されている場所に赴き、膨大な本の中から探すことで、ほかのジャンル違いの本に目が行き、新しい発見などがあるのです。
そういう機会を奪ってしまうというのは、旦那様も言っていました。
そして、今回の報告書も同じだと感じました。
一つ一つでは気が付けない何かがあると思ったのです。
ということで、私はテーブルの上に新大陸の資料をばらっと、雑多に並べます。
先ほどの北部の情報だけでなく南部の情報もまとめてあるので、流石にテーブルの上には広げておけないというのもあります。
「うわ~、流石に多すぎません? 減らしませんか?」
「……いえ、しばらく待ってください」
雑多、情報量が多すぎるというサーサリの言うことは間違いありません。
とはいえ、なんとなくこちらの方が良いと思ったのです。
そもそも、旦那様は北部の情報に限るとは言っていません。
新大陸全体での情報を欲しているのでしょう。
いえ、それは当然ですか。
今のところ、新大陸の情勢は混迷を極めています。
テーブルの報告書の多さからもそれがありありとわかります。
オーエの召喚誘拐事件から始まり、ギアダナ王国を中心とした連合軍を撃退し、そのあとの食糧難、魔物の撃退に着手し、南部の荒野よりくる魔物の大本を探りつつ、荒野の調査も兼ねる。
それと並行して、連合軍を撃退し、南部の国々と連絡を取り状況の把握を測ります。
ジェヤエス王国との面会の結果、連合軍は南の国々に圧力をかけていたようで、オーエだけが取り残されているというわけではなかったのですが、目的が亜人の確保にあるというのがわかります。
その理由が不可解だったのですが、ギアダナ王国へと戻ったシアナ男爵たち派遣軍を通じて、ギアダナ王国で幅を利かせているクリアストリーム教会が主導して動かしたことが判明しています。
いえ、捕虜を取った時点でクリアストリーム教会が怪しいというのはわかっていたのですが、それが確定したというわけですね。
そこから、ギアダナ王や宰相と渡りをつけて、向こうもクリアストリーム教会のやり方に不満があったというのが判明して、手を組むことになりました。
そのおかげで、伝手を得てクリア教会のドドーナ大司教の協力を得て北部に部隊を派遣。
いえ、たった一つのパーティーだけですから部隊というのはあれですね。
ともかく、そのおかげで北部の動きが多少なりとも把握できるようになってきました。
そこで、たった一度の遭遇戦ではありますが魔物の群れと遭遇し、町を一つ壊滅できる規模だったということと、その個体が通常よりもはるかに強いことが確認できたと。
明らかに、指揮官、統率者がいるということが、敵の群れの編成、動きから把握できたというのが今までの経緯ですが……。
「あ~、これ時系列に並べてみます?」
私が何かをひらめく前に、サーサリの方が先に何かを思いついたようですね。
「時系列ですか。わかりました」
否定する理由もないので、提案通りに時系列順に並べてみます。
ちなみに細かい報告書は除外して、大雑把に並べています。
そうでもないと、テーブルの上に乗り切りませんからね。
「どうですか? 何か気になることでもありましたか?」
「ちょっと待ってください。なにか……なにか」
さっきとは逆になりましたね。
私が雑多に置いた資料を見たいと言ったのですが、今度はサーサリがこれを見たいと言っています。
私も少し落ち着いて見てみましょう。
……うーん、別に時系列には問題はありません。
各問題の対処についても、見る限り最善を行っているように見えます。
私は雑多に並べて、違和感となるモノを探していましたが、特に引っ掛かるモノもありません。
そう思っていると……。
「キルエ先輩。これ、別の時系列で並べましょう」
「別の時系列ですか? よく意味が……」
間違いなく、この報告書の並びは、ウィードが関わってからの時系列で間違いありません。
別の時系列というと……。
「あ~、何と言えばいいのか……。そうだ、別にこの報告書の時系列というわけではなく、新大陸の時系列です。不意に気になったというか、そこら辺の考察は聞いていないな~って」
「なるほど。確かに、そこは考えたことはありませんでしたね」
私たちが来てからの時系列はよく見ていましたが、新大陸の時系列についてはよく考えてはいませんでした。
「とはいえ、そこら辺の時系列の情報に関しては、各報告書に色々ある話をまとめないといけないので、ちょっと時間がかかるんですけど~」
「そこは、おいおいまとめるというか、旦那様に報告してまとめるとして、私たちが今すぐできる、記憶している限りの時系列をまとめる方が良いでしょう」
流石に細かく報告書を精査して、時系列をまとめるのは時間がかかりすぎます。
「確かに、じゃあ、私とキルエ先輩が覚えている限りでパパっと並べてみますか」
「ええ。では、最初の新大陸の時系列としては……」
「あれじゃないですか? オーエがロガリ大陸から人を召喚していたという話」
「確かに、あれは最古と言っていいでしょう。しかも勇者ではなく、英雄、自国の救済をという話です」
「規模が小さいですよね~。まあ、魔王という話も出ていましたし、というか、なんで召喚で人を呼びつけていたのかっていう疑問がありますけど」
「そうですね。今まで忙しくて流していましたが、オーエの召喚の元を調べていませんでしたね。確か、カグラ様が中心に調べていたはずですが……」
「そこら辺の詳しい話は聞いていませんね~。これはメモがいりますね」
ということで、私たちはさっそく調べる価値があると思ったことを書き留めていく。
ふむ。このやり方はよさそうですね。
その手ごたえはサーサリも感じたようで、気合が入り。
「よ~し、ガンガンやっていきましょう」
「ええ。これで旦那様たちの問題が少しでも解決できれば幸いです」
ということで、私たちは新大陸の時系列を新たに洗うことで、新しい疑問点を発見していくことになります。
具体的に怪しいと思ったのは。
・オーエが初めて召喚を行った理由と状況
・魔王という存在がいついたのか
・北と南での魔物の襲撃が激化した詳しい時期
・クリアストリーム教会が中央部に進出した時期
・北部や中央部での魔王の話
・クリアストリーム教会が亜人を集め出した時期
・荒野へ出たと言われる人たちの痕跡
・北部の戦いはいつからなのか
とまあ、意外と多くが書き出しで生まれました。
細かいこととなると他にもあるのですが。そこはユキ様に託すことにしましょう。
何せ私たちは……。
「おっと、キルエ先輩。そろそろ洗濯物が終わる時間ですよ~」
「そうですね。まずはメイドの仕事をこなさなければいけませんね」
そう、私たちはメイドなのです。
家を守らなくていけないのです。
意外と、いや、よくあることではあると思います。
思わぬところからの発見というのは、よく聞くと思います。
まあ、とはいえ、珍しいからこそ目立つかもしれませんが、それでも侮れないのも間違いありません。
行き詰ったときは、意外と距離を置いて遠回りすると解決策が見えてくるかも?




