第845堀:訓練と敵の狙い
訓練と敵の狙い
Side:ミコス
ミコスちゃんたちハイデン一行は、あの魔物襲撃のあと、当初の予定通りシーサイフォの軍人への魔術指導を行っている。
魔物が襲撃してきた当初は少し焦ったけど、やはりというか、敵は私たちの船に近寄ることすらできず、シーラちゃん相手に全滅してしまい、結局私たちの出番はなかった。
そんな状況で指導の仕事もできないとか報告書だしたら、姫様に締め殺されちゃうから。
で、その実技訓練の成果なんだけど……。
「はい。次」
「はっ。ファイアーボール!!」
そう、気合いの入った掛け声をだし、手を前に突き出したシーサイフォの軍人さんなんですけど……。
シーン……。
沈黙が広がり、辺りには穏やかな波の音だけがしている。
うん。まあ、分かってはいたんだけど、こういうのは辛いモノがあるよね。
ミコスちゃんも流石にこの状況を記事にする気はないよ。
どう考えてもシーサイフォに喧嘩を売る記事にしかならないからね。
と、思っていたら……。
シュボ……。
やおらそんな音を立てて、僅かばかりだけど確かに炎が出てきた。
「「「おおー!!」」」
そんな小さな炎であっても、最高にざわめくシーサイフォの軍人さんたち。
まあ、訓練期間3日目にしてこの成果は凄いと思う。
「今の感覚を忘れないようにしてください。次」
「はっ」
という感じで、私たちはシーサイフォ軍人への実技指導をこなしていく。
そして、気が付けばあっというまに休憩時間になり、受講生たちには休憩を取らせる。
「……ミコス、ソロ、どう思う?」
「どう思うって言われてもねー」
「私はいい感じだと思いますけど?」
私たちはその休憩時間を使って会議をしていた。
指導する立場だから、こういう会議は必要なんだけど、さっきのカグラの質問にはちょっと答えにくかった。
悪いからという意味ではないよ。
シーサイフォの軍人さんは皆必死で頑張っているのは良く分かる。
ソロが言うように、習得度だけなら、いい感じといってもいい。
カグラや私、ソロは教師としての才能があるんだと思ったぐらい。
でもねー……。
と、思っていると、カグラがこっちを見て……。
「ミコス、何が引っかかってるの?」
「あー、うん。まあ、ミコスちゃんもソロと同じようにいい感じに習得していると思うよ。座学2日、実技1日目で既に魔術の発動に成功している人がいるんだから。でもさ、これはまだまだ実戦にはほど遠いでしょう? だから何とも言えない」
「なるほど。確かにそこはミコスの言う通りね」
その私の意見にはカグラも賛同してくれる。
確かに見込みがありそうな人物を選別してこっちに回してくれたみたいだけど、どう見ても実戦には程遠い感じ。
「でも、魔術に関して素人の人たちがたった3日でここまで来たのは凄いことだと思いますけど? 確かに、ミコス先輩の言うように実戦はまだまだ先としても、このまま訓練していけば……」
そう、ソロの言う通り、このまま訓練していけば、いつかそれなりの魔術師になるかもしれない。
だけどねー、ミコスちゃんたちやシーサイフォの目的は……。
「ソロの言うことはわかるけど、あの魔物を倒せるようになるレベルの魔術師となると……」
今現在シーサイフォを脅かしている、というか先ほど襲ってきた魔物を退治できる魔術師が必要なんだよね。
「正直、今あの魔物をどうにかしろっていうなら、銃もどきを使った方がまだまし。というか元々、あの魔物に対応できる魔術師なんてハイデンでもどれだけいるか……」
「それは、そうですけど。銃もどきを使おうにも、魔石の輸入もままならない状態ですよね」
あー、そういえば、ここ最近の魔物の襲撃で魔石の輸入が滞っているってアクアマリン宰相が言ってたね。
遠方から来る交易の船も数が減っているって。
魔物の問題はそういうところでも深刻な影響を及ぼしているみたい。
だから銃もどきを使いたくても、銃弾が補給できないんじゃどうしようもないってこと。
「最悪、ユキの方、ウィードからの輸入も検討するように、シーサイフォに進言するしかないわね。ユキの方にもそう言っておかないと」
「いやー、それって大丈夫かな? ウィードからの輸入自体には納得だよ。だけど、製造がナールジアさんの仕切るウィード国営工房でしょう? 威力とかとんでもないものになっちゃうんじゃ?」
「そ、それは流石に、まずいんじゃないでしょうか?」
ナールジアさんが作る武具のでたらめさは本当にあれだし。
下手に使うと、自分どころか艦隊を巻き込んで消し飛ぶよ。
「そこら辺はちゃんと調整するわよ。そこまであの人は非常識じゃないし、ユキがまずそんなこと許さないわ」
「カグラが大丈夫だって言うなら問題ないと思うけど」
「私もいいと思います」
そのカグラの提案には納得するけど、気になっているところは実はまだあって……。
「そこはいいけどさ、結局の所、そもそも魔術を教える意味がないって話だよね?」
「短期間での魔術師の教育という点ではそのとおりね。長期的にというならわからないことはないけど、特に海の中の魔物に有効的な魔術が使える魔術師となると……本当に厳しいわよ。ここに来る前のあの訓練でどれだけ私たちが血を見たかは、よく覚えているでしょう?」
「……ボロボロになりましたよね。というか、体のあちこち食いちぎられましたし……」
ソロ、それは言わないで。本当にあれはきつかった。
体をあちこちついばまれるとかいう経験は初めてしたけど、もう想像を絶するね。
自分のケガの具合を見て、もうお嫁に行けなくなると思ったし。
まあ、ミコスちゃんはユキ先生が相手だけどね!
と、そこはいいとして、ここまで話していてある疑問が浮かぶ。
「ねえ、カグラ。今更なんだけど、なんでシーサイフォは新規の魔術師の育成に乗り出したんだろうね?」
「え? それは新人を育てたいってことじゃないかしら?」
「うーん、そういわれるとそうなんだけど、この状況だと普通は魔物に有効な魔術の開発ってところじゃない? 少なからず、シーサイフォ王国にだって魔術師部隊はいるんだしさ。なんか順番がおかしくない?」
「でも、先輩。女王陛下が言うには、有効で速い魔術習得方法があればって話でしたよね? 多分、今回の戦いで多くの人員を損失したんじゃないでしょうか?」
そう、ミコスちゃんがおかしいと思ったのはそこだ。
まあ、カグラやソロの言うように、新人を効率よく育てたいってだけの話ならまあ、一見納得できそうなんだけど……。
「なんか引っかかるんだよね。こっちもこっちで魔術師の教育機関はあるんでしょう? ほら、ハイデンの魔術学院にもシーサイフォからの留学生は普通にいたし」
「確かに、そういえばそうよね。ハイデンの教育方法を知らないはずがないわね」
「うーん、そしてシーサイフォにもちゃんと魔術の教育機関があるってことですよね。そう言われると確かに、変な気がしますね……」
と、私たちがそんな話をしていると、不意に……。
「教官殿。失礼いたします」
「「「うひゃっ!?」」」
いきなり声を掛けられて、驚いてしまった。
「あ、失礼しました。何でしょうか?」
「驚かしてしまったようで申し訳ないですが、教官たちの話声が風に乗って聞こえてきてしまいまして……」
うげ、やばいっ。
シーサイフォ王国の決定に不満があるって受け取られかねない。
すると、咄嗟にカグラが口を開いて……。
「これは失礼いたしました。決して、シーサイフォの決定に異があるというわけではないのです。純粋に疑問に思いまして」
「いえ。こちらも説明不足でありました。というか、陛下やレイク将軍からは、今のところはっきりしたことではないということで口止めをされていたのですが」
「……どういうことでしょうか?」
その口ぶりだと、何か私たちに隠していたことがあるってことだよね。
「まだ、はっきりしたということではないので、ここだけのお話とさせていただいていいでしょうか?」
「はい。貴方の進退にも関わることでしょうから、ここだけの話にとどめさせていただきます」
カグラはそう言いつつも目つきが鋭い。
ま、当然だよね。何か隠していたことがあるってことなんだから、それはきっと私たちの命にかかわることだと思っている。
ミコスちゃんもそう思う。
で、その肝心の説明不足の内容というのは……。
「陛下や、レイク将軍たちが、ハイデンの皆さまに魔術の教導、教育を頼んだのにはそれ相応の理由があります」
「それはそうでしょう。お遊びや冗談でハイデンから魔術を教えられる人物を招くというのはあり得ないことですから」
そう、それは本当にあり得ないこと。
そもそも、ハイデンに来たレイク将軍は断られるかもということで、復興支援の物資などの大量の支援体制を整えてきたのだ。
それだけ、他国に技術を教えてほしいというのは、なかなか通る内容ではないんだよね。
まあ、それを言うと、ウィードはどうなのってことだけど、元々の技術格差があまりにひどいから、ある程度同じになってもらわないと話にならないっていうのがあるんだよねー。
と、ウィードの事はいいとして、シーサイフォが隠していた理由というのは……。
「はい。その通りです。お遊びや冗談などでお呼びしたわけではありません。実は、シーサイフォの実戦配備魔術師は、ほぼ全員が海域防衛に投入された結果、魔術を教えられる人物がほとんど残っていないのです」
「は? と、失礼いたしました。ちょっと言っている意味が分からないのですが?」
「文字通りなのです。今回の海の魔物の事は元々、魔法銃では対応できなかったために、それ以上の火力を誇る魔術師での迎撃をしておりました。そしてそれは一定の効果を上げていたのです」
まあ、普通の話だね。
銃もどきでは効かなくても、魔物の防御を上回る攻撃をすれば通るって話。
「そして、その成果を確認したシーサイフォは、一気に制海権を取り戻そうと、高火力の魔術師たちを集めて第2艦隊が出撃したのです」
うん。これも理解できる。
一定の成果があったのなら、その成果を出せる集団を集めて、問題にあたらせる。
だけど、この話をしている軍人さんの顔色は良くない。
「しかしその結果、第2艦隊の半数が壊滅。魔術師たちが乗っていた艦に生き残りはいなかったのです」
「……それはどういうことでしょうか?」
その言葉にカグラの顔が険しくなる。
「……魔術師は全員食われたのです。魔物に」
「「「……」」」
あのシーラちゃんもどきに食われればそりゃ、生き残れないだろうと思ったけど、すぐにあることに気が付く。
「すみません。それは魔物が優先的に魔術師を狙ったということですか?」
「……はい。私たちはそう思っております。その結果、魔物を相手どれる魔術師がいなくなり、さらには教育にも事欠くこととなったわけです」
「「「……」」」
なるほど。今ハイデンに魔術の教育をしてほしいというのは、ハイデンの技術を取り入れたいのではなく、使える魔術師が全滅したから、ミコスちゃんたちに要請をしたわけか。
「敵は、自分たちに被害を与えられる魔術師という脅威を認識して、優先的に襲い掛かったということですか……。話は分かりました。正直に話してくださってありがとうございます。もちろん、貴方たちの立場や身の安全は保障いたします。ですが、ちょっと急用ができましたので、この後の訓練は中止にいたします。よろしいですか?」
「はっ。構いません。私の情報が役に立ったのなら、うれしい限りです。そして、若い命を散らせないでください」
「ありがとう。ミコス、ソロ、ユキの所に行くわよ」
「おっけー」
「はい」
これは大事な情報だね。
敵は、魔術師を脅威と認め優先的に狙ってくる。
シーサイフォとしては確証はないみたいだけど、ユキ先生たちなら、この話で何かを掴むはずだから。
ということで、ミコスちゃんたちは急いでユキ先生のところに向かうのであった。
ここで新たな情報が出る。
やはり敵の狙いは魔力なのか?
そして、この事実を隠していた理由は何か?
本当の敵は一体なんなのか?
こうしてカグラたちも解体現場へと向かう。




