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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第181話「渡す相手」

受け取った優しさは、すぐに誰かへ渡さなくてもいい。


自分の中で大切にして、いつか必要な人へ渡せばいい。


優斗は、あの日からずっと受け取ってきたものを思い返しながら、自分なりの答えを探していた。

優斗は、国道を歩いていた。


ロードバイクを押しながら。


靴箱を抱えて。


夕暮れは、少しずつ夜へ変わろうとしていた。


車のライトが、優斗の横を通り過ぎていく。


その一台一台を眺めながら、優斗は考えていた。


――この靴を、誰に渡せばいいんだろう。


紙には書いてあった。


必要としている人へ。


歩くことに迷っている人へ。


でも。


そんな人が、いつ現れるのかなんて分からない。


「……待つしかないのかな」


優斗は小さく呟いた。


すると、スマートフォンが震えた。


灯からだった。


『今、まだ国道?』


「うん」


『やっぱり』


「なんで分かるの?」


『優斗だから』


「それ、答えになってないよ」


灯が電話の向こうで笑った。


『それで?』


「何が?」


『その靴』


優斗は、靴箱を見る。


「……持ってる」


『どうするの?』


「分からない」


少しの沈黙。


『じゃあ、無理に決めなくてもいいんじゃない?』


優斗は足を止めた。


「……え?」


『渡す相手が決まってないなら、決めなくていい』


「でも、紙には……」


『うん』


灯の声が優しくなる。


『必要な人に渡せばいいんでしょう?』


「そう」


『だったら、必要な人が現れるまで持ってればいいじゃん』


優斗は、黙った。


簡単なことだった。


なのに。


自分は、答えを急いでいた。


「あ……」


『どうしたの?』


「俺、また急いでたのかもしれない」


『何を?』


「答え」


灯は何も言わなかった。


優斗は続ける。


「昔の俺だったら、すぐに答えが欲しかったと思う」


『うん』


「どうすればいいのか分からないと、不安だった」


『うん』


「でも……」


優斗は靴箱を見る。


「分からないままでも、いいのかもしれないな」


『それでいいと思う』


電話の向こうで、灯が微笑んでいる気がした。


優斗も笑った。


「ありがとう」


『何が?』


「話してくれて」


『それだけ?』


「それだけで十分」


『そっか』


二人の間に、静かな時間が流れた。


やがて灯が言った。


『じゃあ、その靴』


「うん」


『大切に持ってて』


「分かった」


電話を切った。


優斗は、もう一度歩き出す。


少し進んだところで、前から見覚えのある車が近づいてきた。


優斗は足を止める。


車がゆっくりと停まった。


窓が開く。


「優斗?」


聞き覚えのある声。


「……父さん?」


拓海だった。


「こんなところで何してるんだ?」


「ちょっと歩いてた」


拓海の視線が、優斗の持っている靴箱へ移る。


「それは?」


優斗は少し迷った。


けれど、隠す必要はないと思った。


「靴」


「見れば分かる」


拓海が苦笑する。


「そうじゃなくて……なんで持ってるんだ?」


優斗は、ゆっくり話した。


靴屋で受け取ったこと。


箱の底に紙があったこと。


そこに書かれていた言葉。


そして。


まだ、この靴を誰に渡すのか決めていないこと。


拓海は黙って聞いていた。


最後まで聞くと、しばらく国道の先を見た。


「……そうか」


「うん」


「じゃあ、まだ持ってればいいんじゃないか?」


優斗は父を見る。


「父さんも?」


「俺もそう思う」


拓海は笑った。


「靴なんだから、履く人が必要になるまで待ってればいい」


「……そうだね」


「それに」


拓海は少し間を置いた。


「優斗が誰かに渡すって決めた時、その人が本当に必要としてるかもしれない」


「うん」


「だったら、その時でいい」


優斗は、靴箱を抱え直した。


重さは変わらない。


けれど。


さっきより軽く感じた。


「父さん」


「ん?」


「俺さ」


「うん」


「昔、人生が終わったと思ってた」


拓海は何も言わなかった。


優斗は続ける。


「でも、あの日から色んな人に会った」


国道。


老人。


靴屋。


灯。


そして、父。


黒糖飴を渡してくれた人。


黒糖飴を受け取ってくれた人。


優斗は一人ずつ思い出した。


「みんな、俺に何かをくれたんだと思う」


拓海が静かに頷く。


「でも」


優斗は靴箱を見る。


「もらったものを、そのまま返すんじゃないんだよね」


「……どういうことだ?」


「形を変えて、次の誰かに渡すんだと思う」


拓海は少し驚いた顔をした。


それから。


「優斗」


「うん」


「それなら、もう答えは出てるんじゃないか?」


優斗は父を見る。


「え?」


「その靴を誰に渡すかは、まだ決まってない」


「うん」


「でも、お前がどうしたいかは決まってる」


優斗は黙った。


胸の奥で。


何かが、ゆっくり繋がった気がした。


誰かを救わなければいけない。


誰かを幸せにしなければいけない。


そんな大きなことじゃない。


ただ。


自分が受け取ったものを。


忘れない。


そして。


必要な時が来たら、次の誰かへ渡す。


それだけだった。


「……父さん」


「ん?」


「ありがとう」


「何が?」


「分からないけど」


拓海は笑った。


「なんだ、それ」


優斗も笑った。


国道を、また一台の車が走り抜ける。


その音を聞きながら。


優斗は靴箱を抱えた。


まだ渡さない。


今は、それでいい。


いつか。


この靴を必要とする誰かに出会った時。


その人が、自分の足で歩き出せるように。


その時まで。


大切に持っていよう。


優斗はロードバイクにまたがった。


そして、ゆっくりペダルを踏み込む。


国道の先へ。


今度は、答えを探すためではない。


いつか出会う誰かを待ちながら。


その背中を、夕暮れの光が静かに照らしていた。

第181話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、180話で「まだ決めていない」とした靴について、あえてすぐに渡す相手を登場させませんでした。


優斗が学んだのは、すぐに答えを出すことではなく、「必要な時が来るまで大切に持っている」ということ。


そして、父・拓海との会話を通して、優斗自身が受け取ってきた優しさを、次の誰かへ繋げようとしていることを確認する回にしています。


物語の最初では、自分の人生が終わったと思っていた優斗。


今は、自分の先にいる「まだ見ぬ誰か」を考えられるようになりました。


この変化を、これからの物語に繋げていきます。

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