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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第182話「小さな違和感」

優しさは、いつも大きな出来事として現れるわけじゃない。


ほんの小さな違和感。

ほんの一瞬の迷い。


そこに、誰かが助けを必要としているサインが隠れていることもある。


優斗は、まだ知らなかった。


この日の出会いが、あの靴の行き先を変えることになるとは。

国道を走る車の音が、遠ざかっていく。


優斗はロードバイクをゆっくり走らせていた。


後ろには、古い靴箱。


中には、あの日から持っている靴が入っている。


「……まだ持ってるな」


当然だった。


自分で持っていくと決めたのだから。


けれど。


優斗には、少しだけ気になることがあった。


靴箱の重さではない。


中に入っている靴のことでもない。


自分が、この靴をどうするのか。


それを考えるたびに、なぜか胸の奥が落ち着かなかった。


「必要な人……か」


180話で父と話したことを思い出す。


必要な人が現れるまで、待てばいい。


その言葉は間違っていないと思う。


だから焦る必要もない。


優斗はそう考えながら、道路脇の小さな店の前を通り過ぎた。


その時だった。


「……ん?」


少し先で、自転車が止まっている。


歩道の端。


一人の少年が、自転車の横に立っていた。


優斗は速度を落とした。


少年は何かを探しているようだった。


道路を見ている。


歩道を見ている。


そして、自分の足元を見る。


「何か探してるのかな」


優斗は自転車を止めた。


少し離れたところから声を掛ける。


「どうした?」


少年が振り向いた。


「……別に」


「そっか」


優斗は、それ以上聞かなかった。


少年はまた道路を見る。


何かを探している。


でも。


言いたくないのかもしれない。


優斗は自転車から降りた。


「落とし物?」


少年は少しだけ迷ってから頷いた。


「……靴」


「靴?」


「片方だけ」


優斗は少年の足元を見る。


片方の足には靴がある。


もう片方は靴下だけだった。


「どこで落としたか分かる?」


「分かんない」


少年は俯いた。


「帰らないと怒られる」


その言葉を聞いて。


優斗は少し黙った。


怒られることが怖い。


靴をなくしたことが怖い。


それ以上に。


帰れないことが怖いのかもしれない。


「一緒に探そうか」


少年が顔を上げた。


「……いいの?」


「うん」


優斗はロードバイクを端に寄せた。


二人で歩道を戻っていく。


道路の脇。


植え込み。


小さな段差。


自転車を止めていた場所。


「ないな……」


少年の声が小さくなる。


「もういい」


「え?」


「怒られるから」


少年は歩き出そうとした。


優斗は、その背中を見た。


昔の自分を思い出したわけではない。


もっと単純だった。


このまま一人で帰らせたくなかった。


「待って」


少年が振り返る。


「もう少し探そう」


「でも……」


「見つからないって決まったわけじゃないから」


少年は黙った。


そして。


小さく頷いた。


二人でもう一度探す。


今度は、さっきよりゆっくり。


優斗は道路脇を確認する。


すると。


少し離れた場所に、何かが見えた。


「……あれ?」


優斗が近づく。


植え込みの奥。


そこに、小さな靴が落ちていた。


「これ?」


少年の顔が明るくなった。


「それ!」


少年が駆け寄る。


靴を拾い上げる。


泥がついている。


けれど、壊れてはいなかった。


「よかった……」


少年は靴を抱えた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


少年は靴を履こうとした。


しかし。


少し動きを止めた。


「……どうした?」


「痛い」


「痛い?」


少年は靴を脱いだ。


中を見る。


「なんか入ってる」


優斗が覗く。


小さな石が一つ入っていた。


「これだ」


優斗が取り出す。


少年はもう一度靴を履く。


今度は大丈夫だった。


「痛くない」


「よかった」


少年が笑った。


その笑顔を見て。


優斗も笑った。


「じゃあ、帰れるな」


「うん!」


少年は走り出した。


少し進んでから振り返る。


「お兄ちゃん!」


「ん?」


「ありがとう!」


優斗は手を上げた。


少年は、そのまま走っていった。


姿が見えなくなるまで。


優斗はその場に立っていた。


そして。


ふと、後ろを振り返る。


ロードバイクに取り付けた荷台。


その上に、靴箱がある。


「……」


優斗は靴箱を見つめた。


今日も。


この靴は、誰にも渡していない。


それなのに。


なぜか少しだけ。


意味が分かったような気がした。


必要な人に靴を渡す。


それだけが、優しさじゃない。


靴を探すのを手伝うことも。


靴の中の小さな石を取り除くことも。


痛くないようにしてあげることも。


それも。


誰かが歩くための手助けになる。


優斗は、静かに笑った。


「……そういうことか」


まだ、この靴を渡す相手は現れていない。


でも。


焦らなくていい。


必要な人が現れた時。


その時に渡せばいい。


それまでは。


自分ができることをすればいい。


優斗はロードバイクにまたがった。


ペダルに足を乗せる。


そして。


国道を走り出した。


少し進んだところで。


ポケットの中に手を入れる。


指先に、黒糖飴が触れた。


優斗はそれを取り出した。


包み紙を見つめる。


「……また一つ、分かった気がする」


飴を口に入れる。


甘さが広がる。


その甘さは。


あの日と同じだった。


けれど。


あの日とは違う。


優斗は前を向いた。


国道の先には、まだ知らない道が続いている。


そして。


まだ出会っていない誰かがいる。


そのことを思うと。


なぜか少しだけ、楽しみだった。


優斗はペダルを踏み込んだ。


夕暮れの国道を。


ゆっくりと。


前へ進んでいった。

第182話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、181話で考えていた「必要な人」という言葉を、少し違う角度から描きました。


誰かに何かを渡すことだけが優しさではない。


探すのを手伝う。

痛みの原因を取り除く。

その人が自分の足で歩けるようにする。


そんな小さな行動も、誰かの人生の一部になる。


そして、優斗が持っている靴は、まだ渡していません。


焦って渡すのではなく、「本当に必要な人」と出会った時まで持っている。


その出会いが、いつ訪れるのか。


優斗自身も、まだ知りません。

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