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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第180話「靴箱の底にあった言葉」

受け取ったものには、物以上の意味が込められていることがあります。


黒糖飴。

靴。

そして、言葉。


優斗が受け取ってきたものは、少しずつ形を変えながら、今も続いていました。

優斗は、ロードバイクを押しながら歩いていた。


片手には、古い靴箱。


中には、あの日渡されなかった靴が入っている。


そして――


その底には、まだ見ていない紙が一枚。


「……なんだろう」


国道を走る車の音が、一定のリズムで聞こえていた。


急ぐ理由はない。


優斗は少し歩いたところで、ベンチに腰を下ろした。


靴箱を膝の上に置く。


蓋を開ける。


古い靴が見える。


何度見ても、不思議だった。


あの日。


自分は、この靴を受け取れなかった。


人生が終わったと思っていた自分には、靴さえ重かった。


誰かに助けてもらうことさえ、怖かった。


そんな自分が。


今は、この靴を抱えている。


優斗はゆっくり靴を取り出した。


そして、箱の底を見る。


折り畳まれた紙があった。


指先でつまみ上げる。


紙は古かった。


けれど、文字は読める。


ゆっくり開く。


そこには、短い文章が書かれていた。


『この靴を渡す人へ』


優斗の指が止まった。


「……俺に?」


続きを読む。


『この靴を必要とする人は、きっと今、歩くことに迷っている。』


優斗は黙った。


『だから、無理に歩かせなくていい。』


胸の奥が、少しだけ熱くなる。


『立ち止まる時間も、その人には必要だから。』


優斗は、あの日の自分を思い出した。


国道。


ロードバイク。


疲れ果てた身体。


そして、老人の声。


『おーい。起きてるか?』


あの時。


老人は、自分を無理に起こそうとはしなかった。


怒らなかった。


説教もしなかった。


ただ、何度も声を掛けてきた。


起きるかどうかを、最後は自分に任せていた。


優斗は、紙の続きを読んだ。


『歩けるようになったら、その人自身の足で歩けばいい。』


『その時まで、隣にいてやってほしい。』


そこで文章は終わっていた。


署名はない。


名前もない。


ただ。


紙の一番下に、小さな文字が残っていた。


『そして、いつかその人が誰かの隣に立てたなら、それで十分だ。』


優斗は、しばらく動けなかった。


「……そういうことだったのか」


老人が残した言葉。


店主の父が残した言葉。


自分が受け取った黒糖飴。


そして、この靴。


全部が同じことを言っているような気がした。


無理に誰かを変える必要なんてない。


救ったと思う必要もない。


ただ。


その人が、自分の足で歩き出せるまで。


隣にいる。


それだけでいい。


優斗は紙を折り畳んだ。


靴箱の中へ戻そうとして――


手を止めた。


「……いや」


もう一度、紙を見る。


「これは、俺が持っておこう」


誰かに見せるためではない。


忘れないためだった。


その時。


スマートフォンが震えた。


画面を見る。


灯からだった。


『今、少し話せる?』


優斗は短く返信した。


『うん。』


すぐに電話が掛かってきた。


「もしもし」


『優斗?』


「うん」


灯の声は、いつもより少し静かだった。


『今、どこにいるの?』


「国道」


『やっぱり』


優斗は笑った。


「分かるの?」


『なんとなく』


少しだけ沈黙があった。


『今日ね』


「うん」


『昔のことを思い出してたの』


優斗は黙って聞いた。


『優斗が変わったなって』


「俺が?」


『うん』


灯は少し笑った。


『前は、自分がどうなるかばかり考えてたでしょう?』


優斗は返事をしなかった。


確かにそうだった。


あの日までは。


『でも今は、誰かがどうしたら少し楽になれるか考えてる』


「……そうかな」


『そうだよ』


灯の声が柔らかくなる。


『それって、老人からもらったものなんじゃない?』


優斗は、膝の上の靴箱を見る。


「……たぶん」


『黒糖飴だけじゃなかったんだね』


その言葉に、優斗は少し驚いた。


「うん」


国道を一台の車が通り過ぎる。


風が吹く。


優斗は靴箱を閉じた。


「俺、ずっと黒糖飴が大事なんだと思ってた」


『うん』


「でも違ったのかもしれない」


『何が?』


優斗は少し考えた。


「黒糖飴を大切にすることじゃなくて」


一度、息を吸う。


「黒糖飴をもらった時の気持ちを、忘れないことだったのかもしれない」


電話の向こうで、灯が黙った。


やがて。


『……それ、優斗らしいね』


「そう?」


『うん』


二人とも笑った。


それだけだった。


大きな約束もない。


特別な言葉もない。


けれど。


優斗には、それで十分だった。


電話を切る。


もう一度、靴箱を見る。


この靴をどうするのか。


まだ決めていない。


誰かに渡すのか。


自分で履くのか。


それとも、しばらく持っているのか。


今は分からない。


でも。


一つだけ分かっていた。


この靴は、答えではない。


誰かに歩き出すきっかけを渡すためのものだ。


優斗は立ち上がった。


ロードバイクの横に靴箱を置く。


そして、国道の先を見る。


あの日と同じ道。


けれど。


もう、あの日の自分はいない。


優斗はゆっくり歩き出した。


その時。


ポケットの中で、何かが指に触れた。


黒糖飴。


一粒。


優斗は取り出して、包み紙を見つめる。


そして、小さく笑った。


「……まだ、続いてるんだな」


誰に言うでもなく呟く。


国道の先には、夕暮れが広がっていた。


優斗は歩く。


今度は。


自分のためだけではなく。


いつか、誰かの隣を歩くために。

第180話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、第179話で見つかった「もう一枚の紙」に込められていた意味を描きました。


老人の正体をすべて明かすのではなく、これまで優斗が受け取ってきた「優しさ」の意味を、もう一段深くしました。


黒糖飴も、靴も、言葉も。


大切なのは、それ自体ではなく、誰かから受け取ったものを心に残し、次の誰かへ繋いでいくこと。


そして優斗自身も、少しずつ「助けてもらった人」から「誰かの隣にいられる人」へ変わっていきます。


物語は、まだ終わりません。


「あの日」の意味と、老人との出会いが、これから少しずつ一つに繋がっていきます。

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