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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第206話:答えを持ち帰るために

知りたい答えがあるとき、人は知らないうちに、自分が納得できる答えを期待してしまうのかもしれません。


けれど、誰かの思いは、その人自身のものです。


自分の想像と違っていたとしても、まずは言葉を聞く。


優斗は、老人に会う日を思いながら、もう一つの大切なことに向き合います。

夕食のあと、優斗はテーブルに残っていた湯飲みを片づけた。


 拓海は新聞を畳み、椅子の背もたれに身体を預けていた。


「父さん、ちょっといい?」


「どうした?」


 優斗は向かいの椅子に座った。


 話したいことはあった。


 けれど、いざ口にしようとすると、何から話せばいいのか分からなくなる。


「靴屋の店主さんに、約束したんだ」


「約束?」


「おじいさんに会えて、何か分かったら、店主さんにも伝えるって」


 拓海は黙って頷いた。


「店主さんのお父さんが、どうしてあの写真を残したのか。僕も知りたいけど、店主さんも知りたいんだと思う」


「そうだろうな」


「だから、僕が聞いたことは、ちゃんと伝えたいんだ」


 優斗はそこで言葉を切った。


 伝える。


 簡単なことのように思っていた。


 老人に会って、話を聞く。


 その内容を店主に伝える。


 ただ、それだけだ。


 けれど、聞いたことを伝えるというのは、思っていたより難しいことなのかもしれない。


「もしさ」


 優斗は、もう一度口を開いた。


「僕が思っていた答えと、全然違うことを言われたら、どうしたらいいんだろう」


 拓海はすぐには答えなかった。


 優斗の言葉を、急いで結論に変えないようにしているようだった。


「違うことって?」


「例えば、僕が考えていた理由と、おじいさんが声をかけてくれた理由が違ったり。写真のことも、僕が思っている意味とは違ったり」


 写真の裏に残された二つの言葉。


 何度読み返しても、その理由までは分からなかった。


 だからこそ、本人に会って聞きたいと思っている。


 それでも、人は自分が知りたい答えを、知らないうちに期待してしまうのかもしれない。


 優斗にも、そういうところがあるのだろう。


「そのときは、そのまま聞いたことを伝えればいいんじゃないか」


 拓海が言った。


「そのまま?」


「ああ。お前が納得できる答えかどうかと、その人が本当にそう考えていたかどうかは、別の話だろ」


 優斗は顔を上げた。


「自分が納得できないからって、相手の言葉を変えるわけにはいかない。逆に、自分が納得できたからって、それがすべての答えだとも限らない」


 拓海は、テーブルの上に置いた湯飲みを手に取った。


「聞いたことと、お前がどう感じたか。それを分けて伝えればいいんじゃないか」


 優斗は、しばらく考えていた。


 自分が聞きたいのは、老人があの日に何を思っていたのかということだ。


 その答えが、自分の期待と違っていても。


 思っていたより単純な理由だったとしても。


 あるいは、老人自身にも、うまく言葉にできないことだったとしても。


 それを勝手に別の意味に変えてしまいたくはなかった。


「……うん」


 優斗は小さく頷いた。


「僕が聞いたことを、そのまま伝えるよ」


「それでいいと思うぞ」


 拓海は笑った。


「それに、相手の話を聞く前から、答えを決めておく必要もないだろ」


「そうだね」


 優斗も笑った。


 老人に会えたら、聞きたいことがある。


 それは変わらない。


 けれど、答えを受け取る前に、自分の中で答えを完成させる必要はないのだ。


     *


 部屋に戻ると、優斗はスマートフォンを手に取った。


 画面には、靴屋で撮影させてもらった二枚の写真が残っている。


 一枚目には、若い頃の老人。


 二枚目には、写真の裏に書かれた言葉。


 優斗は、二枚を順番に見た。


 この写真を見せれば、何かが分かるかもしれない。


 そう思っていた。


 けれど、写真が答えを教えてくれるわけではない。


 そこに写っているのは、過ぎた時間の一部だ。


 その時間を生きた人が何を考えていたのかは、本人の言葉を聞かなければ分からない。


 そして、本人の言葉を聞いたとしても、その人の人生のすべてを知ることはできないだろう。


 それでもいい。


 すべてを知ることと、その人を知ろうとすることは、同じではないのだから。


 優斗はスマートフォンを伏せた。


 写真を見て考え続ける時間は、もう十分にあった。


 これから必要なのは、写真の中に答えを探し続けることではない。


 いつか会えたとき、目の前にいる人の言葉を聞くこと。


 そして、その言葉を、自分だけのものにしないこと。


 優斗は、店主との約束を思い出した。


 もし老人に会えたら、聞いたことを伝える。


 その約束は、老人に会う前から始まっている。


 相手の思いを、自分の都合で決めつけない。


 分からないことを、分かったふりで埋めない。


 それは、あの日に声をかけてもらった理由を知るためだけではなく、これから誰かと向き合うときにも、忘れたくないことだった。


     *


 翌朝、優斗は玄関で靴紐を結んだ。


 いつもと同じ動作だった。


 けれど、靴を履いて立ち上がったとき、ふと店主の顔が浮かんだ。


 父親が残した写真。


 そこに書かれていた言葉。


 そして、父親に直接聞くことのできない問い。


 店主にも、店主にしか分からない時間がある。


 優斗が老人に会いたいと思うように、店主もまた、知りたいことを抱えている。


 だからといって、優斗がその答えを見つけられるとは限らない。


 老人が何を語るのかも分からない。


 それでも、いつか聞くことができたなら、できるだけそのままの形で伝えよう。


 答えだけではなく、そこにあった言葉も。


 自分が感じたことは、相手の思いと混同せずに。


「行ってきます」


 優斗が声をかけると、家の奥から拓海の返事が聞こえた。


「行ってらっしゃい」


 扉を開ける。


 外には、いつもの朝があった。


 国道から聞こえてくる車の音。


 通りを歩く人たち。


 それぞれの場所へ向かっていく人たち。


 優斗は自転車を押しながら、ゆっくり歩き始めた。


 老人には、まだ会えていない。


 写真の意味も、まだ分からない。


 それでも、次に会えたとき、自分が何を大切にしたいのかは、少しだけはっきりしていた。


 答えを手に入れることだけが、目的ではない。


 誰かが生きてきた時間に、きちんと耳を傾けること。


 そして、受け取ったものを、必要としている人へ繋いでいくこと。


 優斗はペダルに足をかけた。


 今日も、自分にできることをしながら歩いていく。


 いつか訪れるかもしれない再会を、ただ待つためではなく。


 そのときに、誰かの言葉をきちんと受け取れる自分でいるために。

第7章では、優斗が老人に会いたいと思う理由を見つめ直し、写真に残された言葉だけで答えを決めないことを選びました。


新しい章では、その思いを次の一歩へ繋げていきます。


優斗には、店主へ伝えるという約束があります。


だからこそ、聞いたことと、自分が感じたことを混同せず、相手の言葉をそのまま受け止めようとしています。


再会がいつ訪れるのかは、まだ分かりません。


それでも、誰かの思いを受け取り、別の誰かへ繋いでいく準備は、もう始まっているのだと思います。

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