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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第205話:声をかける前に

誰かを助けたいと思ったとき、すぐに手を差し伸べることだけが正解とは限りません。


相手が何を望んでいるのか、何に困っているのか。


分からないからこそ、まず声をかけ、相手の言葉を聞く。


優斗は、何気ない出会いの中で、人と関わることの意味を少しずつ考えていきます。

昼過ぎ、優斗は自転車を押しながら、商店街の通りを歩いていた。


 急ぐ用事があったわけではない。


 いつもなら自転車で通り過ぎる場所も、歩いてみると少し違って見える。


 店先で品物を並べる人。

 買い物袋を抱えて歩く人。

 誰かを待っているのか、時計を気にしながら立っている人。


 それぞれに用事があり、それぞれに向かう場所がある。


 そんな当たり前のことを、優斗は以前より意識するようになっていた。


 国道で倒れていたあの日、自分にも向かう場所があったのだろうか。


 あの頃は、先のことを考える余裕さえなかった。


 ただ、もう終わりだと思っていた。


 そんな自分に、老人は声をかけてくれた。


 どうしてだったのか。


 その答えは、まだ知らない。


 優斗は自転車のハンドルを握り直した。


     *


 通りの先に、小さな案内板があった。


 その前で、一人の女性が立ち止まっていた。


 案内板を見上げては、手元の紙を確かめている。


 何かを探しているようにも見えた。


 優斗は少し足を緩めた。


 声をかけた方がいいだろうか。


 けれど、困っているように見えるからといって、本当に助けを必要としているとは限らない。


 自分が勝手に決めつけて、余計なお世話になることだってある。


 優斗は、ほんの少し考えてから、女性の邪魔にならない距離で声をかけた。


「すみません。何かお困りですか?」


 女性が振り返った。


「あ……いえ、ちょっと場所が分からなくて」


「どこをお探しなんですか?」


 女性が紙を見せてくれた。


 そこには、近くにある施設の名前が書かれていた。


「この先の道をまっすぐ行って、二つ目の角を右に曲がるとありますよ」


「そうなんですね。ありがとうございます。初めて来た場所なので、少し迷ってしまって」


「分かりにくいですよね。僕も最初は迷いました」


 優斗がそう答えると、女性はほっとしたように笑った。


「助かりました」


「いえ。気をつけて」


 女性が歩き出すのを見送ってから、優斗も自転車を押して歩き始めた。


 ほんの短いやり取りだった。


 何か特別なことをしたわけではない。


 それでも、声をかける前に少し迷った自分のことが、心に残った。


     *


 自分が困っているとき、誰かが声をかけてくれる。


 それは、ありがたいことだ。


 けれど、誰かが困っているように見えたとき、どうすればいいのだろう。


 すぐに手を差し伸べることが、いつも正しいとは限らない。


 相手にも事情がある。


 一人で解決したいことだってあるかもしれない。


 だからといって、何もせずに通り過ぎればいいとも思わなかった。


 優斗は、あの日の老人を思い出した。


 老人は、国道で横になっていた自分に声をかけてくれた。


 そのとき、老人が何を考えていたのかは分からない。


 ただ、声をかけてくれたという事実がある。


 あの一言がなければ、今の自分はどうなっていただろう。


 そう考えることはあっても、老人の思いを勝手に決めることはできない。


 優しさは、する側の気持ちだけで決まるものではないのかもしれない。


 受け取る側の気持ちもある。


 だからこそ、相手の様子を見て、言葉を交わして、それから考える。


 そんな関わり方もあるのだと思った。


     *


 帰宅すると、拓海が台所で夕食の支度をしていた。


「ただいま」


「おかえり。今日はゆっくりだったな」


「うん。ちょっと歩いてきた」


「何かあったのか?」


 優斗は、商店街で道を尋ねられたことを話した。


 拓海は手を動かしながら聞いていた。


「そうか。ちゃんと案内できたんだな」


「うん。でも、声をかける前にちょっと考えちゃった」


「何を?」


「困ってるように見えても、本当に困ってるかどうかは分からないじゃない? だから、どう声をかけたらいいのかなって」


 拓海は、火を弱めてから優斗を見た。


「相手のことを考えたんだろ」


「そうなのかな」


「少なくとも、相手の気持ちを考えずに決めつけるよりはいいんじゃないか」


 優斗は少し考えた。


「そっか……」


「助けることだけが大事なんじゃない。相手が何を望んでいるのか、ちゃんと聞くことも大事なんだろうな」


 拓海はそう言って、再び鍋に向き直った。


 優斗は、その言葉を胸の中で繰り返した。


 聞くこと。


 決めつけないこと。


 自分の考えだけで、相手の気持ちを埋めないこと。


 老人に会えたら、聞きたいことがある。


 どうして、あの日の自分に声をかけてくれたのか。


 その答えを聞くときも、きっと同じなのだろう。


 自分が想像していた答えと違っていたとしても、まずは老人の言葉を聞きたい。


 あの人には、あの人の時間があったはずだから。


「父さん」


「ん?」


「ありがとう」


「だから、何がだよ」


 拓海が苦笑した。


 優斗も笑った。


「ううん。ちょっと分かった気がしただけ」


     *


 夜、優斗は自分の部屋で、今日のことを思い返していた。


 道に迷っていた女性。


 声をかける前に迷った自分。


 そして、最後に返ってきた、ほっとした笑顔。


 あの短い時間に、何か大きな出来事があったわけではない。


 女性は目的地へ向かい、優斗は家へ帰った。


 それぞれの日常に戻っただけだ。


 それでも、誰かと関わるというのは、そういうことなのかもしれない。


 人生を変えるような出会いばかりではない。


 名前を知らないまま、二度と会わない人もいる。


 それでも、交わした言葉が、その人の一日を少しだけ変えることはある。


 優斗は窓の外を見た。


 遠くから、車の走る音が聞こえてくる。


 国道の向こうには、今も知らない誰かの生活が続いている。


 あの日、老人が声をかけてくれた理由は、まだ分からない。


 その答えを知る日は、いつになるのだろう。


 けれど、今は答えを急がなくてもいい。


 会えたときには、きちんと聞こう。


 そして、目の前で誰かが困っていたら、相手の気持ちを考えながら声をかけてみよう。


 自分が受け取ったものを、同じ形で返せるとは限らない。


 それでも、自分にできることはある。


 優斗は明かりを消した。


 明日もまた、誰かとすれ違うだろう。


 その中の一人に、ほんの少しでも優しい言葉を渡せたら。


 そんなことを考えながら、優斗は静かに目を閉じた。

今回は、優斗が道に迷っていた女性に声をかける、何気ない出来事を描きました。


優斗は、あの日に老人から受け取った優しさを、同じ形で返そうとしているわけではありません。


相手の気持ちを考え、必要なことを尋ね、自分にできることをする。


そんな小さな関わり方も、優斗がこれから誰かと出会っていくうえで、大切なものになっていくはずです。


老人に聞きたいことは、まだ残っています。


その答えを急がず、優斗は今日も、自分の人生を歩いていきます。

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